学童保育を普段から利用していますか? 市町村によっては、放課後児童クラブとか学童保育クラブとか呼ばれている事業で、単に「学童」と略される場合も多いです。
そんな学童保育の世界で、大変ユニークな試みが富山県で始まりました。子どもを通わせる保護者の負担を実質無料(一部自己負担)にした上で、自治体からの補助金にも頼らず、同じ施設に入居するカフェやコワーキングスペースの収益、子どもたちの成長を応援する個人・企業会員からの会費でまかなおうというプロジェクトです。
保護者の利用料も自治体からの支援もゼロに
富山県の舟橋村という場所をご存じでしょうか。「日本一小さい村」として知られていますが、子育て世代の移住がこのところずっと目立っています。村の人口は3,000人ちょっとで、その人口の半分くらいが子育て中の新住民で「奇跡の村」とも形容されるユニークな土地です。
県庁所在地の富山市からも電車で20分くらいの距離にあるこの自治体に、2023年6月の正式オープンに向け、2022年7月にプレオープンした放課後児童クラブ『fork toyama』が、今回の話題です。
地域の地主が暮らしていた駅近くの屋敷をリノベーションして「学童」にするこのプロジェクトは、運営方法も大変ユニークです。
冒頭でも紹介したように、子どもを通わせる保護者の利用料を無料(保険やおやつ代などは利用者の自己負担)にして、自治体からの補助金にも頼らない運営スタイルです。
一方で「学童」の入る施設に出店するカフェやコワーキングスペースの収益、さらには『fork toyama』の活動に共感し応援してくれる個人・企業会員からの会費を共同運営の費用に充てます。
要するに、子育て世代の負担を地域の「みんな」で分かち合う、いわば「みん営」の学童事業なのですね。
正式オープンまでに、建物のリノベーション工事が進んでいく予定ですが、プレオープンを果たした今は、リノベーション前の建物をそのまま利用して、子どもの受け入れを始めています。
『fork toyama』の共同運営を手掛けるメンバーの代表・舟橋村在住の岡山史興さんに聞くと、1年生を中心とした低学年の小学生十数名がすでに利用を始めているようで、現在は『fork toyama』のカルチャーを学童支援員と共につくり上げようとしている段階なのだとか。
大人たちが自分たちで創意工夫する姿を見せる
『fork toyama』を共同運営する岡山さんらメンバーは、どうしてこのような施設を立ち上げようと思ったのでしょう。
背景には、舟橋村にある既存の放課後児童クラブが、2021年に村営から民営に移行した出来事が関係しているそう。
そのタイミングで、子どもたちの放課後の居場所を誰かに任せてばかりではなく、自分たちでもつくれないかという声が、舟橋村へ引っ越した新住民の保護者たちから上がりました。
その盛り上がりを引き受ける形で、岡山史興さんら複数の法人・個人が施設の立ち上げと経営を担当します。
さらに、富山市内で学童保育施設を運営するNPO法人が、子どもたちの保育面で運営に参画する形で担当し、最低でも2名の学童支援員が常駐できる体制が実現しました。
「現在、就学前のお子さんをお持ちの住人からも『来年から通わせるのを楽しみにしている』などの声をいただいています。近隣の小学校からも説明会の日程についての問い合わせをいただいています。
舟橋村に昔から住んでいる方々からも応援の声をいただいていて、子どもたちのためなら団結できると感じています。
『こうやりたいからこうする』と大人たちが楽しそうに率先して行動していれば、子どもたちも『なんだか楽しそう』と感じてくれるはずで、その気持ちがいちばんの教育なのかなと思います」(岡山さん)
もちろん、理想の放課後児童クラブを行政に頼らず自分たちでつくるためには現実的な課題もあって、リノベーションのための費用の一部をクラウドファンディングで募っています。
しかし、700万円という高額な目標額に対して、執筆時点ですでに目標を達成し、残りの時間でネクストゴールを目指しているようです。応援コメントを見ても、温かい前向きな言葉がいっぱい。
富山で始まった「みんな」で支える「みん営」の学童保育。さらなる興味がある方は、クラウドファンディングのページも併せてチェックしてみてくださいね。
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取材・文・写真/坂本正敬