「山笑う」ってどういう意味? 知っておきたい使い方と語源をチェック

俳句や小説などの文学作品のなかで、「山笑う」という表現を目にすることがあります。山が笑うとは一体どのような状況なのか、不思議に思う人もいるでしょう。「山笑う」が表す意味や具体的な使い方、よく似た言葉を紹介します。

「山笑う」の意味とは?語源もあわせて紹介

「山笑う」は、春に見られる光景からきた言葉です。春の光景を山が笑うと表現するのは、なぜでしょうか。語源もあわせてみていきましょう。

春の山の明るい様子を表した言葉

「山笑う」は、山が春の花や新芽によって全体的に明るく色づく様子を表す言葉です。「笑う」といっても大声で笑うことではなく、控えめな笑顔をイメージするとしっくりくるかもしれません。

冬の間に落葉していた山の樹々は、春になると一斉に新芽を出して花を咲かせます。地面では山菜が土の中から顔を出し、草花も生き生きとした様子を見せてくれます。

樹々や草花の間には、鳥や小動物などの喜ぶ姿もあるでしょう。その光景は遠くから見ると、さびしげだった山がうれしそうに微笑んでいるようにも思えるのではないでしょうか。

中国の画家による著書の一節が語源とされる

「山笑う」の語源ははっきりしていませんが、北宋時代に活躍した中国の画家「郭煕(かくき)」が著した書物の一節とする説が一般的です。

郭煕は著書の中で、春の山を「春山淡冶(たんや)にして笑うが如く」と表現しました。「淡冶」とは、うっすらと艶めく様子を指す言葉です。

なお、郭煕が表現したのは春だけではありません。文章はさらに「夏山蒼翠(そうすい)にして滴るが如し。秋山明浄にして粧うが如く、冬山惨淡(さんたん)として眠るが如し」と続きます。

ここから、それぞれの季節の山を表現する言葉として、「山滴る(夏)」「山粧う(秋)」「山眠る(冬)」が生まれたともいわれています。

「山笑う」の使い方もチェック

「山笑う」は、いつどのようなシーンで使われているのでしょうか。主な使い方や例文を紹介します。

春を示す俳句の季語として使われる

「山笑う」は主に、春の訪れを表す季語として使われています。「山笑う」を使った俳句としては、正岡子規(まさおか しき)の「故郷や どちらを見ても 山笑う」が有名です。子規が故郷の愛媛県松山を想って詠んだ句で、明るい山々に囲まれた春の風景が目に浮かびます。

また、江戸時代中期の俳人・大島蓼太(おおしま りょうた)は、「筆とりて むかへば山の 笑ひけり(山が笑っていることだ)」と詠んでいます。

昭和時代には、長野出身の俳人・青柳志解樹(あおやぎ しげき)が「みちのくの 山笑ひをり 昼の酒」という句を残しました。

時候の挨拶として使うことも

「山笑う」は、時候の挨拶にも適した言葉です。実際に、春本番の少し前の3月中旬頃に、手紙や日常会話で用いられています。

例えば、手紙の書き出しでは次のように使います。ビジネスでもプライベートでも使えるので、覚えておくとよいでしょう。

●山笑う季節となりましたが、いかがお過ごしでしょうか
●山笑う候、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます

「山笑う、今年も新緑の季節が到来した」「山笑う風景に感動した」のように、エッセイや日記・小説などで使うこともあります。

他にもある!春を示す季語を知ろう

春を示す季語は他にもたくさんあります。「山笑う」と似た時期に使える季語を、三つ見ていきましょう。

風光る

「風光る」は、春の風が暖かな陽光に照らされ、きらめくように吹く様子を示す季語です。実際に風が光っているわけではなく、そのように見えるという感覚を表現しています。

「風光る」を季語に使った俳句には、次のような作品があります。

●装束を つけて端居(はしい)や 風光る(高浜虚子)
●風光る 誰彼となく 水辺かな(中村汀女)

「風光る」は4月の時候の挨拶にも使える言葉です。「風光る4月となりました」「風光る清明の頃」のように書くとよいでしょう。

春宵

「春宵(しゅんしょう)」は、寒くも暑くもなく過ごしやすい、春の「宵(よい)」を指す言葉です。宵とは日没から間もない、まだ夜が更けていない時間帯のことです。春の場合は18~21時頃と考えてよいでしょう。

「春宵」は、北宋時代の中国で作られた漢詩の一節「春宵一刻値千金(しゅんしょういっこくあたいせんきん)」から来ているといいます。「春の夜は、ひとときが千金にも値するほど素晴らしい」という意味で、穏やかな春の日に満開の夜桜を見たときなどは、まさにそのような気持ちになるかもしれません。

なお、「春宵」を使った俳句としては、久保田万太郎の「春宵や 蕗(ふき)の一葉が つくる闇」が知られています。

春日和

「春日和(はるびより)」は、穏やかに晴れた春の天気を示す言葉です。主に春の彼岸を過ぎた頃から使われます。冷たい北風がおさまって気温が上がり、桜の開花が間近に迫っているような陽気をイメージするとよいでしょう。

「春日和」を時候の挨拶に使うなら、3月下旬から4月中旬が適しています。使い方の例は以下のとおりです。

●春日和の候、皆様におかれましてはますますご健勝のこととお慶び申し上げます
●うららかな春日和が続く季節ですが、いかがお過ごしでしょうか

なお、春日和と間違えやすい言葉に「小春日和」があります。小春日和は、晩秋から初冬にかけて見られる「春のように晴れて暖かい天気」を指す言葉で、春の言葉ではないため間違えないようにしましょう。

春の美しさを言葉と自然から楽しもう

「山笑う」という言葉を初めて見聞きしたとき、思わずとまどってしまったかもしれません。しかし、意味や語源を知れば、春の訪れを喜ぶ気持ちが込められた美しい言葉であることがよく分かります。

日本には他にも、季節の移ろいや自然の美をたたえる言葉がたくさんあります。「山笑う」をきっかけに、お気に入りの季語や時候の挨拶を探してみるとよいでしょう。

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構成・文/HugKum編集部

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