「帰納的学習」が中高生の探究力を育むポイント!探究学舎講師・星川賢吾さんに聞く今の子どもたちとの向き合い方

今、教育分野において最もホットなキーワードが「探究」。変化の激しい予測困難な世の中、子どもたちが自らの手で幸せな未来を切り拓いていくために必要な力であると、小中高、全ての学習指導要領において重要視されています。

学校教育や受験に沿った勉強を教えない探究学習に特化した塾「探究学舎」の個性的な講師の方々に、今なお実態が見えず難しく考えがちな「探究」についてお聞きしました。

第3回目は、ほっしーこと、星川賢吾さんです。

―授業に臨む子どもたちの様子を見ていて、印象に残っていることはありますか。

探究学舎の授業づくりの極意を学び、生徒たち自身がオリジナルの授業をつくって発表するという機会があったのですが、その時の生徒たちの試行錯誤の様子、壁にぶつかっている様子が印象に残っています。中にはテーマ決めや進捗管理に苦戦し、授業が完成しなさそうな子もいました。
でも僕らは、子どもたちがぶつかりそうな壁を、先回りして取り除くようなことはあえてしませんでした。その結果、授業を完成させられなかった子も実際にいました。

つまずいている子に僕らから手を差し伸べ、体良くまとめさせることは簡単です。でも僕は、中高生にそれをするのは違うのではないかと。最後まで自分の責任のもとでやってみて、ダメならコケてもいいんじゃないかと思っています。

探究学舎の授業づくりのポイントの一つに「帰納的学習」があります。一方的に教えられるのではなく、実験やワークを通じて自ら気づく体験が大事だよねという考え方です。自分で見つけたお宝とか、掘り出した化石って、愛着が湧くし、記憶にも残るじゃないですか。そんな、宝探しのような学習体験を大事にしています。

先ほどの、生徒オリジナルの授業作りにおいても同じことが言えると思っていて、僕らが「こうしたらいいよ」と教えるのは、帰納的ではない。子どもたちには、成果物を出せたかどうかだけでなく、そこまでのプロセスや、向き合った課題、発表時のお客さんのリアクションなど、探究する過程で体験したこと全てを自分で振り返ることが大切だと伝えました。自分の意志で歩いて、転んで、立ち上がるからこそ掴み取れる学びがあると思っています。

サッカー一筋14年。様々な経験から、人生の本質を学んだ

―星川さんは、小学生から大学生まで、ずっとサッカーを続けてこられたそうですね。

3から始めて、大学4年までやっていました。特に大学時代は、サッカーにしか打ち込んでいないと言ってもいいくらいサッカー漬けの毎日でした。僕が通っていた大学のサッカー部には、クラブユースのキャプテンやU18の日本代表、高校サッカー選手権大会で準決勝、決勝まで行った学校のキャプテンなどがいたりして、最初は場違いなところに来ちゃったなと思いました。何度も挫折を経験したのですが、転んで立ち上がる過程で得た学びはかけがえのないもので、今は良い経験だったと思えています。

大学時代の星川さん

―サッカーはどういうきっかけで始めたのですか。

父親のすすめです。父は今でもプレーを続けているくらいサッカーが好きで、息子にサッカーをやらせたい思いもあったようです。3兄弟の長男の僕は、父の期待を一身に浴びていたのですが、実は、小学生の頃の僕は、それが重荷となっていました。

練習を見に来ては、帰りの自転車でその日のプレーについて父にフィードバックされていました。その他にも、お風呂に入りながら厳しく指導されたり、空き時間があれば、公園に練習に連れ出される日々……。当時の僕にとって父親は恐い存在であり、自分の意志ではなく、サッカーをやらされている感覚もどこかにありました。

僕自身が本当の意味でサッカーにハマったのは、父親がサッカーを観に来なくなった中学生になってから。父親の目から離れた時に初めて、自分の足でボールを蹴った感覚、自分の意志でプレーできた感覚を持てました。もちろん、今となっては厳しく親身に指導してくれた父親に感謝の気持ちがあります。その上で、自分の意志で取り組み、試行錯誤するからこそ楽しめるし、上達することも同時に実感しています。こうした経験が、今の生徒たちに対する接し方にも繋がっています。

―葛藤を乗り越え、サッカーを本当に好きになれたから、大学まで続けられたのですね。

サッカーを楽しめるようになってからは、練習や試合のプレーを振り返り、サッカーノートに書き記すなど、自ら進んで探究するようになりました。どうすればより上達できるのか、答えのない問いに日々向き合っていました。

1つのことに打ち込んでいくと、必ず壁にぶち当たります。それでも、好きで、目指すところがあったから、乗り超えられました。

今、僕は、仕事をはじめ、あらゆることをサッカーに置き換えて考えています
何事も、突き詰めていくと本質は同じ。サッカーを通じて得た学びが、人生に応用できると思っています。そんな、僕にとってのサッカーみたいなものを、多くの人に見つけてもらいたい

僕が今、探究学舎にいるのは、そういう理由からです。

世の中のあらゆるものを面白がれる人が、探究者

―星川さんが、中高生向けの探究の授業を通じて、目指していることとは。

最終的には、面白く編集した僕らの授業を通してだけでなく、身の周りのことから自分で面白みを見つけて、勝手に探究できるようになってくれたら良いなとは思っています。世の中のあらゆることを面白がれたら人生が豊かになるし、それこそまさに探究だなと思うのです。一方で、そういう習慣がどうやって育まれるのかということは、僕の中の問いとしてずっと持っています。

1つ言えるのは、答えのない問いにぶつかり続けることではないかと。
例えば僕が向き合い続けたのは、どうしたらサッカーが上達できるのかという問いでした。そうした問いに自分なりの解を出す経験を積むことが、探究する習慣が育まれる一つのきっかけになると思います。中高生向けの授業には、そうした視点でのアプローチを取り入れています。

  • 土壌をふかふかに耕せば、探究の芽は自然に伸びる

―自ら探究できる子にするために、親や大人にできることとはどんなことでしょうか。

①のびのび探究している子は、親御さん自身が子どもを差し置いて勝手に探究している

ように思います。子どもに何かをやらせるというよりも、親御さんがむしろ楽しんでしまっているんです。

親が子どもそっちのけで何かに没頭したり、そのことについてキラキラした目で語ったりするのは、子どもにいい影響を与えるのではないでしょうか。
「楽しい」というのは探究の大きなきっかけの一つですので、そう思ったり感じたりできる環境をいかに子どもの周りにつくれるか、それを、最も小さい集団である家庭の中にどうつくれるかは、すごく大事なことなのではないかと思います。

また、

②その子らしさを承認することも大事

だと思います。
先ほどお伝えした生徒オリジナルの授業作りの際、自身の不登校をテーマに発表した子がいました。自分がなぜ不登校になったのか、どんなことをしてほしかったのか、不登校の子に対して世の中はどう接したらいいのかなどについて、全く悲観的にならず、明るく堂々と語っていました。その子の中のピュアな思いが結晶化した授業になっていて、本当に感動しました。

③子どもが自分の思いを発露させるためには、自分らしくあっていい、ありのままでいいという前提が必要

です。
学校に馴染めない不登校の子が、探究学舎でめちゃくちゃイキイキしていられるのは、ここに、その人らしさを尊重する風土があるから。安心感や、居心地の良さを感じられる場所だからなのではないかと思います。

④探究学舎では、子どものどんな発言も否定しません

突拍子もない答えでも、その子らしい発言だとうれしいし、大人の想像を超えるわくわくビックリな答えが出てくるのを、僕らはすごく楽しみにしています。自分の主張、思っていることを発露して、それを否定されずに受け入れられる環境は、すごく大事。そういう中でこそ、探究心は育まれるのだと思います。

大事なのは土壌。ふかふかで、十分な栄養がないと、種を撒いても育ちません。

僕らはこれからも、子どもたちの探究の芽がすくすくと育つよう、ふかふかの土壌づくりに励んでいきたいと思います。

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お話を伺ったのは

星川賢吾さん|探究学舎講師
埼玉県生まれ。中央大学文学部卒業 小学校から大学までサッカーに打ち込む。大学在学中に、大学のサッカー部と地域の小学校をつなぎ、スポーツ教育、学習支援を行う活動にも取り組む。卒業後はIT企業の人材部門に入社。営業、イベントの企画・運営などを行う。並行して小学校のサッカーチームのコーチとしても活動。2019年に探究学舎に入社。

取材・文/鈴木友紀

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