「生」や「死」と隣り合わせの田舎暮らし。写真家・繁延あづささん【子どもの暮らしを紡ぐ人を訪ねて】後編

東京・町田にある「小さな村」をテーマにした、町田の認可保育園。
「しぜんの国保育園smallvillage」。こどもたちの「今日は何をしよう?」から生まれる保育を大切にしています。園長である齋藤美和さんが、子どもとの暮らしにつながるものづくりをしているお母さんたちを訪ねる連載。第4回目は、雑誌や広告などで写真家として活動し、また、「出産写真」をライフワークとしている、繁延あづささん。今回は、特別に美和先生の働く「しぜんの国保育園 small village」に来ていただき、その風景も撮影していただくことに!繁延さんの視点でとらえた「しぜんの国保育園」の風景と共にお楽しみください。

「出産写真」をライフワークに。 写真家・繁延あづささん【子どもの暮らしを紡ぐ人を訪ねて】前編
東京・町田にある「小さな村」をテーマにした、町田の認可保育園 「しぜんの国保育園smallvillage」。こどもたちの「今日は何をしよう...

猟師とも仲良くなる長崎での暮らし

−繁延さんは今、長崎に住んでいらして、3人のお子さんとご主人と暮らしていると聞きました。長崎の暮らしは、どんな時間の流れなのですか?

「長崎の斜面地に暮らしています。道も狭くて、車を横付けできないから共同駐車場に停めてから家に向かう、そんな場所です。共同駐車場や細い坂道では近所の人と毎日のように顔を合わすので、土地にはスッと馴染んでいけました。近所の猟師さんと仲良くなって、長崎来てからずっと猪もらってます。」

—イノシシ・・・・どうするんですか?

「食べますよ!」

—誰が、どうやって食べるようにするんですか?

「おじさんが捌いてくれた肉をもらって料理します。脚一本貰ったら、そこからは自分で捌きます。筋切って、関節外して、って」

—へえー!!!すごい。

「数年前から、猟にも同行しています。いつも家族で食べている肉のこと知りたくて。おいしいですよ」

—そういえば、息子さんも鶏を飼われているというのを別の記事で読みました。飼うという言い方でいいかわからないのですが。

「そうなんです。中学生の長男が養鶏をしています。最初から、ペットじゃなくて家畜だと言い張ってました。去年、飼っていた6羽中の3羽が死んだのですが、そのうちの1羽は苦しませないための判断で、長男みずから首を切りました。本人にとっては、重い経験になったと思います」

—生き物というのは、いつも傍に死がありますね。私自身も、いつも「死」の匂いっていうのは近くに感じています。もしかしたら、お寺に嫁いでいるというのもあるかもしれませんが。

「なるほど。お寺さんは常に死を身近に感じておられますよね。私も出産撮影していますが、一方で「老い」と「死」というものを見ている自分もいるなと思います。」

無事に生きていてね、と思う気持ち

ー私も生きていることが不思議に思う時があります。

「阪神淡路大震災の時に、私は地元の兵庫にいたのですが、友人や友人の家族が亡くなったことも大きかったなと思います。人って、突然死ぬんだなと思って。その時、17歳の自分が「生きたい」と思ったことは強く覚えていますね。

なので、子どもたちにも、毎日無事でいることが叶わないかもしれない、いつも無事で生きていてね、と思っています」

—だから、やっぱり保育園に預けている間は離れていて、でもまた会えた時にすごくうれしくなるというのは、そういう気持ちもあるかもしれないですね。

 

子どもたちが何も危険なものに寄り付かないのは、もっと危ない

「そうかもしれませんね。だからと言って、子どもたちが何も危険なものに寄り付かないのは、より危ないと思うんです。山とか、海とか、岩場とか、そういうものに触れて、「これは危ないかも?”“ここは大丈夫”という感覚を身につけていくほうが生きていく力がついてくるんじゃないかなと思います。」

—無菌、無傷では、子どもは育たないですもんね。それこそ、状況に力をもらうのは、子どもも大人も一緒なのかもしれません。だから、もう親も自分の手だけでは育てられない、と思っていいんじゃないかと思います。そういうこと、柔らかく伝えていきたいと私も思っています。

「そうですね。うちは、日々の子育て自体が保育園や周囲の人に関わってもらっている状況なので、自分たちだけで子育てしている実感もないですが。子育てであまり悩まずいられるのは、そのあたりのお陰かなと思ったりもします。子育てって、母親としてわが子に直接関わる部分と、社会の一部として子どもに関わる部分と、両方でいいんじゃないかと思うんですよ。美和さんのように保育者だったら、仕事でも直接よそのお子さんと関わりますが、例えばコンビニの店員さんだったら、店でよそのお子さんと関わるのが後者。直接子どもと関わらない仕事でも、お子さんのいる同僚と子どもの話をすることも後者。相手の家庭に影響与えますから。私には、それがマスコミでの写真の仕事だったり、ある家族の撮影だったり。そうした両方で子育てだな、と勝手に思ってます」

ー園でも、保育士と子どもたちの関わりだけで終わらせないように意識しています。積極的にどんどん街に繰り出すんです。この間も、町田の丸井までタピオカを飲みにいきました(笑)そうすると、10代の若い女の子から声を掛けられたりして。園の中だけでは紡げない関係性も生まれておもしろいです。また平日は毎日誰でも遊びに来れるスペースをオープンしています。そこで、地域のお母さんと世間話したりして。私たちも、社会という場に出ていきますし、皆さんもいつでも遊びにきてね!というスタンスでいます。境界線を緩やかにしたいなと思っていますね。またこの連載も同じ気持ちです。保育者や大学の研究者だけではなくて、子育て中のお母さんやお父さんにも保育と接面を持ってもらえたらと思っています。

「これは予想外の子どもとの関わりなんですが、この春から使われる中学2年の道徳の教科書(光村図書)に、拙著『うまれるものがたり』が入ることになったんです。この本は、出産にまつわる6つの物語で構成されているんですが、その中に差し込んだエッセイが抜粋されることになりました。一家族のために撮った写真が書籍になり、その書籍から学校教科書になるという展開に驚きでしたが、学校の教科書を通してよそのお子さんと関われるのは、緊張しつつも嬉しく思っています。絵本作家の五味太郎さんやヨシタケシンスケさん、歌手のスガシカオさんなどが登場するユニークさで、ちょうどこの春中2になる長男が楽しげに読んでました」

取材を終えて

繁延さんとお会いして強く思ったのは、出産は、私が子どもを「うんだ日」じゃなくて、子ども自身が「うまれた日」なんだなということです。実は、私自身は出産直後に、出血多量で生死をさまよい大きな手術をしたという思い出(?)があります。今では、笑って話せますが、当時は映画やドラマの出産シーンを見たり、出産にまつわる書物を読むことも心が大きく揺れていました。正直にいうと、避けていた部分があったと思います。息子が10歳になった今、繁延さんの御本を読ませていただき、とても素直な気持ちで向き合うことが出来ました。それは、もしかしたら、時が解決してくれたことと同時に、状況が力を貸してくれたのかもしれません。そして、繁延さんの写真は、私のその目を背けたいと思った気持ちを、優しく溶かしてくれたのだと思います。繁延さんの『うまれる物語』が、教科書に掲載されるというニュース、とても素敵だなと思います。私もこんな教科書に出会いたかった。中学生の子たちがどんな風に感じているのか、私ものぞいてみたいです。

繁延あづさ(しげのぶ・あづさ)

写真家。兵庫県姫路市うまれ。桑沢デザイン研究所卒。雑誌や広告での撮影のほか、出産撮影や子どもの撮影、また農・猟に関わる撮影も。近著に『うまれるものがたり』『長崎と天草の教会を旅して』(共にマイナビ出版)などがある。『母の友』(福音館書店)、『kodomoe』(白泉社)、長崎新聞などで連載中。現在、5冊目となる書籍の執筆中。夫と3人の子どもと長崎で暮らしている。

 

齋藤美和(さいとうみわ)
しぜんの国保育園smallvillage園長。書籍や雑誌の編集、執筆の仕事を経て、2005年より「しぜんの国保育園」で働きはじめる。主に子育て支援を担当し、地域の親子のためのプログラムを企画運営する。2017年当園の副園長となる。また保育実践を重ねていくと共に『保育の友』『遊育』『edu』などで「こども」をテーマにした執筆やインタビューを行う。2015年には初の翻訳絵本『自然のとびら』(アノニマスタジオ)が第5回「街の本屋さんが選んだ絵本大賞」第2位、第7回ようちえん絵本大賞を受賞。山崎小学校スクールボード理事。
齋藤美和 Instagram 「しぜんの国保育園

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