「運動神経」に良し悪しはない? 筋肉へ司令を届ける伝達係のひみつに迫る【親子で人体を学ぶ】

「運動神経」と聞くと、良し悪しを考えてしまいがちですが、そもそも運動神経は末梢神経のひとつです。この記事では、運動神経とはなんなのか、その働きについて解説していきます。また、私たちの日常での運動神経の役割についても説明します。

運動神経の基本情報

まずは、「運動神経」の基本的な情報を見ていきましょう。

運動神経とは?

そもそも「運動神経」とは、末梢神経系に属する神経のひとつです。脳から体や内臓の筋肉を動かすための情報を全身に送って、随意運動を起こさせます。運動神経が支配する骨格を動かす筋肉を「骨格筋」といい、これは筋肉の40%を占めています。

よく「運動神経がいい」「運動神経が悪い」というように、「運動神経」という言葉を使うことがあります。このときの「運動神経」は「運動能力」のことを指しています。ですから体にある神経の運動神経とは、意味が異なるので注意しましょう。

「運動神経」に良し悪しはなく、本来は運動を伝えるための末梢神経のひとつの意味

中枢神経と末梢神経ってなに?

ここでおさえておきたいのが、中枢神経と末梢神経です。

中枢神経とは、脳と脊髄のことです。

一方の末梢神経は、体の近くや運動をつかさどる神経の「体性神経」と、内臓や血管の機能を調整する神経の「自律神経」に分かれます。体性神経には「運動神経」「感覚神経」があります。自律神経には「交感神経」「副交感神経」があります。

運動神経は、末梢神経の体性神経に属している神経です。この末梢神経と中枢神経が協力し合うことで、体を動かすことができます。

運動神経と自律神経の違いは?

運動神経と自律神経の大きな違いは、自分の意思で動かせるかどうかです。運動神経は自分の意思で動かすことができますが、自律神経は自分の意志では動かせません。

運動神経の主な働き

運動神経にはどのような働きがあるのか、解説していきます。

筋肉へ司令を伝える伝達係

運動神経のおもな働きは、中枢神経系からの指令を伝えて全身の筋肉を動かすことです。いわば、脳からの司令を筋肉へ伝える伝達係といえます。

どのようにして司令を筋肉に伝えるの?

では、ヒトはどのようにして筋肉を動かしているのでしょうか。体の中での流れを説明していきます。

【1】運動の司令は、大脳にある大脳皮質の運動野から発せられます。
【2】その司令が延髄、脊髄を通ります。脊髄にある前角という部分で運動神経の運動神経細胞に伝達されます。
【3】その後、筋肉へと伝えられ、司令どおりに筋肉を動かします。

脳から中枢神経、末梢神経を経て筋肉へと命令が伝えられるイメージの概略図 By DataBase Center for Life Science (DBCLS) , Wikimedia Commons

私たちの日常での運動神経

私たちの日常で、運動神経はどのように使われているのでしょうか。また運動神経の鍛え方についても解説します。

スポーツでの運動神経の動き

ここではスポーツ時の神経の動きの例として、サッカーでボールをけるときの情報が脳に伝達され、筋肉が動くまでの流れを見ていきましょう。

【1】相手からパスされたボールを見る。目から入ってきた情報が末梢神経を通って、中枢神経の脳に伝わる。
【2】脳は伝わってきた情報を整理、処理し、「ボールをけって相手に返す」という司令を出す。
【3】運動神経が筋肉に「動け」と命令し、相手にボールをける。

学習と運動神経に関係性はある?

運動神経は、運動に限ったことだけに使われる神経ではありません。筋肉を動かすことを伝達する神経ですから、学習するときに鉛筆を持ったり、黒板を見てノートに文字を書いたりするときにも使われます。

勉強のときにも運動神経が使われている

運動神経を鍛えることはできるの?

運動神経をピンポイントに鍛えるということはできません。また、運動神経自体に個人差もありません。

しかし運動神経は脳からの司令を筋肉に伝える役割をしていることから、運動能力をアップさせるには、自分が思ったとおりに瞬時に体を動かすことができればよいわけです。それを鍛えることは可能です。

●子どもの場合

子どもの場合は、運動神経をふくむ神経が発達段階にある状況です。一般的に2〜4歳ごろに運動神経のネットワークが形成され、5〜8歳ごろに発達、9〜12歳ごろに完成します。

なかでも3〜8歳ごろの時期は「プレゴールデンエイジ」と呼ばれ、神経の発達が著しくなります。この時期にさまざまな運動体験をしておくと、運動が好きになり能力がアップするきっかけになるでしょう。

●大人の場合

大人の場合は、運動神経がすでに発達しています。脳には「一度覚えた動きを新たに正しい動きに修正するのを妨げる」というやっかいな機能があるため、運動能力を急激にアップさせることはやや困難です。

しかし次の3つのトレーニングを行って、脳のやっかいな機能を抑制することができれば、運動能力のアップにつながる可能性があります。なお、これらのトレーニングは子どもが行っても運動能力アップにつながります。

  1. イメージトレーニング
    前述したとおり、脳には一度覚えた動きを新たに正しい動きに修正するのを妨げる機能があります。これを妨げないようにすれば、運動能力アップにつながります。妨げないようにするためには、成功イメージやよいイメージを頭の中で思い描く「イメージトレーニング」を行うとよいでしょう。
  2. 反復練習
    正しい動きを何度も反復して練習することも、運動能力アップに有効です。反復練習をして、体に正しい動きを覚え込ませましょう。
  3. コーディネーショントレーニング
    コーディネーショントレーニングとは、目や耳といった感覚器から入ってきた情報を中枢神経系に素早く伝達し、脳で処理して、筋肉を動かすプロセスを素早く正確に行なうトレーニングです。コーディネーション能力には、リズム能力、バランス能力、変換能力、反応能力、連結能力、定位能力、識別能力の7つの分類がありますが、普段の運動に少し手を加える程度で鍛えることができます。

具体的には以下のようなことをやってみましょう。

・一定のリズムで歩く
・テニスボールでサッカーのマネごとをする
・自分の定めた運動目標が達成できたら難易度を上げる

運動神経の障害と最新の医学研究

ここでは、病気や未来の医学研究について解説していきます。

運動神経の障害とその影響

運動神経がある末梢神経にまつわる代表的な病気に「麻痺」があります。

運動麻痺は運動神経に問題が起き、筋肉を動かすことが困難になる状態を指します。一方で、感覚麻痺は感覚神経の障害により、痛みや感覚を感じにくくなる状態を指します。運動麻痺は筋肉の動きに関連し、感覚麻痺は体の感覚に関連します。

原因は大きく2つあり、末梢神経に原因がある場合と、脳卒中や脳出血、脊髄損傷といった中枢神経に問題がある場合があります。

症状は、損傷を受けた場所によって異なります。運動麻痺の場合は、筋肉が弛緩するタイプと、緊張が増すタイプがあります。両者とも、体が思い通りに動かせなくなります。

「麻痺」にはさまざまな症状と原因がある

未来の医学と運動神経の研究

昨今、損傷した末梢神経の再生治療にiPS細胞を用いた研究が進められています。

iPS細胞は、細胞を培養して人工的に作られた多能性幹細胞のことです。2006年に京都大学の山中伸弥教授らが世界で初めて作製に成功。その功績をたたえ、2012年にはノーベル医学・生理学賞を受賞しました。

このiPS細胞は、再生医療や薬の研究に役立つ可能性が高いと考えられており、神経医学にも役立つ未来が期待できます。

脳からの司令を筋肉に伝える「運動神経」

運動神経は、脳からの司令を筋肉に伝える大切な役割をしています。運動神経があるからこそ、私たちは体を動かすことができているのです。

運動神経自体をピンポイントに鍛えることはできませんが、ご紹介したトレーニングで運動能力をアップさせることは可能です。ぜひ、親子でやってみてくださいね。

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