遺伝子が同じ「クローン」って何? 歴史・生産プロセス・問題点を解説【親子で考えるサイエンス】

コピーしたように元の生き物と同じような個体を作り出す「クローン」。そもそもクローンとはどんなことで、クローン動物はどうやってできるのでしょうか? クローンが生まれるまでのプロセスと遺伝工学、クローンがある未来はどうなるのかを解説します。
<上画像:クローン技術によって生まれた羊「ドリー」の剥製>

クローンって何?

まず「クローン」とは何なのか、その確認からはじめましょう。

クローンの基本的な定義

私たち人間は、父親と母親それぞれから何万もの遺伝子を受けついで生まれてきます。しかし、どの遺伝子を受け継ぐかは偶然によって決まるため、同じ両親から生まれた子どもであっても遺伝子の特徴は異なり、親子でも遺伝的は違うことになります。

クローンとは、遺伝的に同一である個体や細胞の集合体のことです。元となった生物や動物と、遺伝子がまったく同じ生物や動物になります。例えばクローンヒツジといったら、元となったヒツジとまったく同じ遺伝子組成を持ったヒツジを意味します。

ちなみに「クローン」という言葉の語源は、ギリシャ語で「小枝」を意味する「Klone」です。コンピューターの世界では、元のソフトウェアやハードウェアと同じ機能をもつ製品を「クローン」と呼びます。

自然界のクローン – 双子もクローン?

一卵性双生児は、同じ受精卵から生まれていて同じ遺伝子を持っています。そのため、一卵性双生児はクローンになります。

ただ一卵性双生児でもまったく同じ見た目の人物ではなく、体質、体格などに、微妙な違いがあります。これはふだんの食事、生活などに違いがあることから、遺伝子情報はまったく同じであっても、生まれた後に少しずつ見た目が変化していくことが理由と考えられます。

クローンの歴史~最初の成功から現在まで

クローンヒツジ・ドリーの剥製[国立スコットランド博物館] Photo by TimVickers,Wikimedia Commons(PD)

では、クローンはどのように生まれたのでしょうか。クローンに関するこれまでの歴史を振り返ってみましょう。

世界で最初のクローン動物

世界で初めてクローン動物が生まれたのは、1996年7月に誕生したクローンヒツジです。「ドリー」と名付けられたこのヒツジが生まれたことは、大きなニュースとなり世界中で報道され注目を集めました。

クローン技術はすでに40年以上にわたって研究されていますが、クローンの動物が生まれたことは、クローン技術の歴史の中でもひとつのターニングポイントとなりました。

ちなみにドリーはその後妊娠して、子どもの「ボニー」を出産しました。このことから、クローンヒツジも一般的なヒツジと同じように、生殖能力を持つことが証明されています。

クローン技術の進化

クローン技術の研究が進みクローンヒツジが誕生してから、今ではその技術を人に応用することの可能性も出てきました。つまり「クローン人間」を人工的に作るということです。

これについては技術面だけでなく倫理面でもさまざまに議論されていますが、それだけクローン技術は発達して、その応用の可能性は広がっているのです。

クローンが生まれるプロセス

クローンはどのように生み出されるのでしょうか?

体細胞核移植とは?

クローンを作り出す方法にはいくつかありますが、体細胞核移植という技術がポイントとなります。

動物の卵巣から未受精卵(受精していない卵のこと)を採取して、良い状態の未受精卵子を選別します。体細胞核移植とは、その未受精卵子に体細胞核を移植することを指します。

クローンの作成ステップ

クローンを作るステップを簡単に説明すると次のようになります。

まずクローンを作りたい動物(個体)から、細胞を採取しておきます。この細胞を核を取り除いた未受精卵子の中に入れて、電気的な刺激によって融合させます。こうして生まれたのがクローン胚で、これを細胞分裂させ、親となる動物の子宮に移植して出産させるのです。

イタリア語によるクローン技術の説明図。右の個体の体細胞の核を、未受精卵の核とすり替えて(クローン胚)、左の個体の子宮に移植して産ませると、右の個体のクローンが誕生する。Illustrated by kekko89 (it.wiki) , Wikimedia Commons(PD)

クローン技術の利用と倫理的な問題

世界で初めてのクローンヒツジが誕生したときは大きな話題となり、その技術の進歩に注目が集まりました。しかしクローンの利用については、技術面とは別の問題もあります。

クローン技術の利点とは?

クローンを人間が作りだせることがわかった今、クローン動物を人工的に作ることでどんなメリットがあるのでしょうか?

それは、優れた個体のコピーを大量に作れることです。例えばおいしい肉質を持つウシがいたら、そのクローンを作り、効率的に良質の牛肉を作り出すことができます。おいしいミルクをたくさん作れるウシがいれば、そのクローンを作って、牛乳をより効率的に生産することも可能になるでしょう。

また多くの動物が絶滅の危機に瀕していますが、そんな動物たちを救うことにつながる可能性もあります。

さらに、医療への応用でも利点が考えられます。後天的に損傷した組織や臓器をクローン技術によって修復・移植する再生医療についても可能性が模索されています。

クローンをめぐる議論

すばらしい可能性を秘めているクローン技術ですが、一方で問題になっているのが倫理面でのことです。とくにクローン人間を作ることについては、人の尊厳にかかわる問題であると議論されています。

クローンヒツジのドリーが誕生して以来、これまでにウシ、ヤギ、ネコなどのクローンが作られてきました。技術的には、人間に応用する可能性も出てきたといわれています。しかしクローン人間は、人工的に行う生殖活動の域を超えているともされており、技術が発展したからといってそのまま応用できることでもない、倫理的な問題をはらんでいるのです。

またクローン技術で生まれる動物や生物の安全性についても、これまでのところさまざまな角度で検証されていますが、将来的に安全かどうか確立できていないのが現状です。

クローンと遺伝子工学

次に、クローンと遺伝子工学の違いについて見ていきましょう。

クローンと遺伝子変更の違い

遺伝子工学とは、遺伝子を人工的に合成、変更させる技術のことです。遺伝子工学では遺伝子を直接操作しますが、クローンでは細胞や核レベルで操作を行うところに違いがあります。

遺伝子工学が可能にすること

害虫に強い植物を作り出すことや、インスリンを生産する菌を作り出して糖尿病の薬の開発をするなど、私たちはすでに遺伝子工学によって多くのメリットを受けています。

遺伝子組み換え作物も、遺伝子工学を活用して生まれたものです。

クローンの未来と私たちの生活

クローンという技術は、私たちにどんなことをもたらしてくれるのでしょうか?

クローン技術の未来的な使い方

まだ多くのことを議論し、使い方についても考えていかなければなりません。しかしクローン技術は、絶滅動物を救ったり、農業や医療などの面で活用したりできる可能性があります。

クローン技術がもたらす社会への影響

現在は、クローン技術に関する規制が各国で進められています。これはクローンヒツジのドリーの誕生がきっかけとなり、クローン技術をどこまで認めるべきか、法律として整備していく必要が生じたからです。

現在のところ、日本ではクローン技術の人への適用は禁止されています。

クローンの可能性はスゴイ

ヒツジをはじめ、さまざまな動物で生まれているクローン。まったく同じ遺伝子を持つ生物を作り出すことで、医療や農業など、さまざまな分野でその技術が使われて広まっていくことが考えられます。安全性や倫理面での問題とあわせて考えながら、クローン技術が私たちの未来にどんな変化をもたらすのか、親子で話し合ってみてはいかがでしょうか。

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文・構成/HugKum編集部

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