子どもウケ抜群!『牛ほめ』で笑いつつ、当時の意外な風俗を学ぶ【教養としての古典落語】

落語『牛ほめ』は、日頃から馬鹿にされている主人公が、父親の指示通りに伯父の新築祝いに行くお話。タイトルにある「牛」は最後のオチで登場しますが、主人公は牛に関してある提案をします…。間抜けな主人公と伯父のやり取りが滑稽で、シンプルに楽しめる落語です。

落語『牛ほめ』はどんなお話?

普段から落語に親しみのない方にとっては、『牛ほめ』というタイトルは聞きなれないものかもしれませんね。しかし、『牛ほめ』はシンプルで初心者でもわかりやすいストーリーなので、実は落語入門にはおすすめの演目。

『牛ほめ』は古典落語の演目の一つで、上方では「池田の牛ほめ」とも呼ばれており、十代目桂文治が得意としたお話だったようです。

物語の主人公は、古典落語では頻繁に出てくる「与太郎」。古典落語において「与太郎」とは、どこか間抜けで役に立たないキャラクターのことを指します。今回紹介する『牛ほめ』はそんな与太郎が主人公ですが、ここの与太郎は意外と計算高い一面も…。

さっそく『牛ほめ』のストーリー概要と見どころを紹介していきましょう。

『牛ほめ』の登場人物

まずは『牛ほめ』に出てくる登場人物を紹介します。

与太郎

間抜けでマイペースな性格で、周囲の人から馬鹿にされている若者。意外と計算高い。

父親

頼りない息子を心配している父親。子どもの顔をたてるためにあれこれ気を揉んでいる。漢語の誉め言葉に詳しい。

左兵衛

与太郎の伯父。大きな商家の主人で、間抜けな与太郎を気にかけている。

『牛ほめ』のあらすじ

間抜けな性格の与太郎を息子に持つ父親は、このままでは将来が心配と悩んでたある日、いいことを思いつきました。

江戸時代には商店が新年の神様をもてなすために、家のどこかを新築し、その家に客が訪問してほめる習慣がありました。父親は与太郎をその行事に参加させようと考えたのです。

与太郎の伯父で商家の主人である左兵衛が家を新築したので、完璧にお礼の仕方を仕込んでおけば、日頃馬鹿にされている与太郎に花を持たせることができるだろう。そう考えた父親は、さっそく与太郎と挨拶の練習をすることになりました。

挨拶の練習を始めたものの…

父親が、まず例を見せ「たいそう結構なご普請(ふしん)でございます。家は総体ひのき造り、天井は薩摩のうずら木目、左右の壁は砂ずり、畳は備後の五分縁(ごぶべり)、庭は総体御影石造りでございます」といいました。

与太郎はふざけているのか、「天井はサツマイモとうずら豆、畳は貧乏でボロボロ、左兵衛のカカア(妻)はひきずり(だらしないこと)で、庭は見かけ倒し」ととんでもない間違いを繰り返す与太郎。やる気がないので、なかなか正しいほめ方を覚えることができません。

事前に一度左兵衛宅に訪問し、台所の柱に節穴があるのことを知っていた父親は、与太郎の顔をたてるためあるアイデアを教えます。台所の柱に穴を見つけたら、「この穴に秋葉様のお札を貼ってみてください。穴が隠れて火の用心にもなりますよ」と伝えるよう指示したのです。

それでもやる気がない与太郎に対し、父親は「うまくいけば左兵衛からお小遣いがもらえるかもしれない」というと、たちまち与太郎はやる気満々になりました。

「お小遣いがもらえるなら他にも教えて」という与太郎。父親はあきれましたが、左兵衛の飼っている牛をほめることを教えてやりました。「この牛は、天角地眼(てんかくちがん)、一黒鹿頭(いちこくろくとう)、耳小歯違(じしょうはちごう)ですね」という牛に対する最高のほめ言葉を教えたのです。父親は、これで何とかなるだろうと、与太郎を左兵衛の家へ送り出しました。

いざ左兵衛宅へ

与太郎は新居につくと、隠し持ったメモ帳を読みながらではありますが、何とか挨拶をすることに成功。次のお題は台所の柱です。

与太郎は穴を見つけると、「この穴には秋葉様のお札を貼るのがいいでしょう。穴が隠れてさらに火の用心にもなりますよ」と、さも自分のアイデアのような口ぶりで的確なアドバイスをしました。これに感心した左兵衛は、与太郎にお小遣いを渡し、「馬鹿だと思ってたけどやるなあ」と与太郎を見直したのです。

最終ミッションの牛小屋で…

最後の牛小屋で、与太郎は父親に教わった通りこっそりメモを見ながら「この牛は〜」とほめ始めると、牛が目の前で糞をボタボタ。左兵衛は慌てて「与太郎すまないな。こいつは動物だから、ほめてくれている人の前でも関係なく糞をするんだ」と謝りました。

与太郎は、さっき柱の穴の件が成功したことを思い出し、再び的確なアドバイスをしてさらにお小遣いをもらおうと考えたのでしょう。牛のお尻を指差しながら「牛のお尻の穴に、火の用心のお札を貼ってはどうでしょう? 穴が隠れて、屁の用心になりますよ」と得意げにアドバイスしました。

『牛ほめ』の見どころ

『牛ほめ』の見どころは、伯父である左兵衛と与太郎の滑稽な掛け合い。特にオチのセリフ中の「柱の節穴と牛のお尻の穴」「火の用心と屁の用心」をかけた表現がハイライトといえるでしょう。

『牛ほめ』は学校寄席などの子ども相手の場合、「深く考えずシンプルに楽しんでくれる」演目としてチョイスされることが多いようです。ところどころに、子どもにウケそうなやりとりがちりばめられており、笑いどころも多いので子どもも飽きずに最後まで楽しめるでしょう。

現代では家畜として扱われている牛ですが、当時は牛は仏教において仏を乗せる「貴い動物」とされていました。権力者や土地の有力者が飼育しているケースがほとんどで、牛の優劣を競う習慣があったようです。

このように、落語に触れることは当時の暮らしぶりや価値観を知ることにも繋がります。ストーリーを楽しみながら歴史を学べるのが、落語の魅力ですね。

『牛ほめ』を読むならこちら

演じてみよう!!親子で楽しむ落語の時間 単行本 成美堂出版

こちらはCD付きの名作古典落語集。お話を読むのはもちろん、イラストや写真で詳しく演じ方のポイントが説明されているので、落語家目線でも楽しめます。
お話ごとの豆知識も記載されているので、当時の習慣も学ぶことができる一冊です。

えほん寄席 滋養強壮の巻 大型本 ‎ 小学館

こちらは「松竹梅」「堪忍袋」「本膳」「牛ほめ」「権兵衛狸」のNHK収録放送音源を基にしたCD付です。
可愛らしいほっこりしたイラストが楽しめます。

当時の暮らしを感じながら楽しんで

『牛ほめ』というタイトルなので、てっきり牛がメインのお話かと思われたかもしれませんが、実は牛は最後のオチのシーンのみの登場でした。新年の家の新築や、その家をほめる習慣、牛が飼われていたことの意味など、落語から当時の暮らしや習慣が学べるのも楽しいですね。もっともっと親子で落語の世界をのぞいてみてください。

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構成・文/吉川沙織(京都メディアライン)

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