ファイナンシャルプランナーが子育て中のパパママに必須な「お金」の話を、絵本を例にとりながらわかりやすく解説していくリレー連載。第5回は「しょうじき50円ぶん」という絵本を通して、「お金」と「信用」の関係について考えます。子どもと一緒に絵本を読むことで、お金の原点を学ぶことができます。
道徳教材にも使われている絵本『しょうじき50円ぶん』
こんにちは、キッズ・マネー・ステーション認定講師、ファイナンシャルプランナーの串宮由紀子です。今回紹介する絵本は、小学校の道徳教材にも使われている『しょうじき50円ぶん』です。
あつしとおにいちゃんは、野球の練習の帰りにお店でジュースを買ったところ、お釣りが50円少なかったので、文句を言いに行き、返金してもらいました。
ところが次の日、屋台でたこ焼きを買ったところ、今度はお釣りが50円多かったのです。
少なかったときは文句を言い、多かったときは…2人はどんな行動を取るのでしょうか。
正直に言うことで得たものは大きな信用
兄弟の心の葛藤を読み手も味わい、成長できるストーリー
この絵本で伝えたいことの1つは「自分に正直に生きることの大切さ」です。
お釣りが多かったと正直に伝えることは勇気のいることです。「黙っていればわからないかも」「あとから言ったことを怒られるのではないか」など子どもにはさまざまな葛藤があると思います。
絵本の中ではあつしとおにいちゃんは迷った末に多かったお釣りの50円をたこ焼き屋のおっちゃんに返しに行きます。するとおっちゃんは、「多かったと返しにきたのは君ら兄弟がはじめてや」と、まじめな顔でハチマキをとると、頭を下げて両手で50円玉を受け取ってくれます。
「言わなければ、ばれないのではないか」という悪魔のささやきを振りほどき、自分の良心に従い、正直に生きることにより得たもの。それは、この子たちは正直者であるというたこ焼き屋のおっちゃんからの大きな信用でした。
経験から学ぶ、お金は「ありがとう」との交換
私達の生活は仕事をすることによって、お金をいただき成り立っています。会社員だったら、会社に貢献してくれて「ありがとう」の気持ちを込めて、会社から毎月お給料が支払われます。
そして、あつしとおにいちゃんのように、ジュースやたこ焼きなど欲しいものに対して代金を支払い、お店屋さんが買ってくれて「ありがとう」の気持ちとの交換というケースもあります。返金された50円を受け取った後、たこ焼き屋のおっちゃんが、
「これはふたりの『しょうじき50円ぶん』にたいする、おっちゃんの涙がでるくらいうれしい気持ちや」
と割りばしにたこ焼きを3個ずつさして渡してくれました。これもおっちゃんの返金してくれたことに対する「ありがとう」の気持ち。「ありがとう」との交換ですね。ふたりはそれを食べながら、すがすがしい気持ちで、
「正直に50円を返してよかったなぁ」「もちろんや!」
と言い合いました。
正直に生きることは素晴らしいことなんだ!ということをこの経験から学ぶことができるでしょう。
お金もまた信用で成り立っている
一万円札に一万円の価値があると信じているからお金は成り立つ
あつしとおにいちゃんはたこ焼き屋のおっちゃんから正直者であるという信用を得ましたが、お金もまた信用で成り立っています。親子マネー講座のなかで、本物の1万円札とおもちゃの1万円札を、「どっちが本物?」と子ども達に見せると、みな一斉に本物の1万円札を指さして「こっち~」と教えてくれます。2つとも紙でできていることには変わりはありません。なぜ本物の1万円札は1万円の価値があるのでしょうか。
それはみんながこの1万円札に1万円の価値があると信じているからです。このように紙幣もコインもそのお金分の価値があるとみんなが信じているから成り立っているのです。
仮想通貨も信用の上に成り立っている
仮想通貨がそのいい例ではないでしょうか。仮想通貨の種類は実に2,000種類以上もあるのです。(2019年2月現在)驚きですよね。代表的なビットコインなどみんなに価値があると認められたものには高値がつきますが、世の中には知られていない仮想通貨もたくさんあります。信用されず価値がなければ、おもちゃのお金と同じになってしまいますね。
キャッシュレスでは味わえない人対人の繋がりを大切に
お金の信用を心から理解するには現金での体験がおすすめ
今はキャッシュレス化が進んでいますが、お子さんがお金に興味を持ったら、この絵本のように、まずは現金を扱わせてあげることを私はお勧めしています。
中にはお金を落としたり、なくしたりすることを心配して、最初から子どもに電子マネーでお買い物をさせる方もいらっしゃるようですが、お金の価値を理解するためには現金を実際に使って、お買い物をしてみることが一番です。
◆自分の持っているお金で買えるものかどうかを考える。
◆レジで言われた金額をお財布の中から探して支払う。
◆お釣りをもらったら、合っているか確かめる。
そして最後に「ありがとう」の気持ちを伝えられるといいですね。
機械だったらお釣りを間違えるなんてことはありません。
この体験は人対人だからこそ、できることです。
お金の価値を理解し始める時期の子どもにとって、この体験はとても大事なことです。
正直でなければお金の価値や信頼は崩れてしまう
このように人とお金、人と人の間には信じることで成り立っていることがあります。また、お金を扱う上では常に正直でなければすべての価値が崩れてしまうのです。
信頼関係を築くためにも、この兄弟のように自分の心に正直に生きていくことが大切ですね。子どもたちがお金を使う体験を通して、心の葛藤をしたり、時には失敗してしまうこともあるかもしれません。そんな時には、叱るよりこの絵本『しょうじき50円ぶん』を一緒に読むことで、お金に対して正直でいることの大切さが伝わるのではないかと思います。
串宮由紀子(くしみや・ゆきこ)
マネーサロンなないろ主宰
ファイナンシャルプランナー(AFP)
キッズ・マネー・ステーション認定講師
2013年、ママ達が気軽にお金について話す場を設けたく、マネーサロンなないろを立ち上げる。子育て中のママという立場から、ママと子ども達へお金についてわかりやすく伝授している。現在自分も2人の娘(中1、小4)にマネー教育を実践。
記事監修
「見えないお金」が増えている現代社会の子供たち。物やお金の大切さを知り「自立する力」を持つようにという想いで設立。全国に約160名在籍する認定講師が自治体や学校などを中心に、お金教育・キャリア教育の授業や講演を行う。2018年までに1100件以上の講座実績を持つ。