日本における基地問題とは?
新聞やニュースで「基地問題」が取り上げられることがあります。基地とは何を指し、どのような問題が生じているのでしょうか? まずは、国内における基地の現状を把握しましょう。
在日米軍基地を巡る諸問題のこと
基地問題とは一般的に、米軍が所有する日本国内の軍事施設「在日米軍基地」に関する諸問題を指します。北海道から沖縄まで、日本には130カ所以上の米軍基地があり、そのうちの81カ所が米軍専用です。
代表的な米軍基地は以下の通りです。
●三沢基地(青森県)
●横田基地(東京都)
●横須賀基地(神奈川県)
●岩国基地(山口県)
●佐世保基地(長崎県)
●普天間基地(沖縄県)
基地の多くは、人々の生活エリアに近い場所にあるため、騒音や軍用機の墜落事故といった問題が報告されています。
米軍専用施設面積の約70%を沖縄が占める
米軍基地が最も集中しているのは沖縄です。米軍専用施設の数は31カ所で、総面積は1万8,483haに及びます。国土面積の約0.6%に当たる沖縄に、全国の米軍専用施設面積の約70%が集中しているのです(2021年3月31日現在)。
沖縄には、アメリカの占領地だった歴史があります。太平洋戦争の末期、沖縄では米軍と日本軍との間で激しい戦闘が繰り広げられました。米軍は沖縄を本土攻略の拠点とし、次々と軍事施設を建設します。
日本の降伏後は、アジア地域で朝鮮戦争やベトナム戦争が勃発し、米軍は沖縄を「太平洋の要石 (Key Stone of the Pacific)」と称して基地の建設を拡大しました。
出典:沖縄から伝えたい。米軍基地の話。Q&A Book 令和5年版|沖縄県公式ホームページ
米軍基地に起因するといわれる問題
米軍基地に起因するといわれる問題は、一つだけではありません。騒音や軍用機の墜落事故のほか、生活環境への影響も懸念されています。代表的な基地問題をピックアップして解説します。
軍用機の騒音や墜落事故
米軍基地では、軍用機の離着陸訓練や実弾射撃訓練などが日常的に行われており、近くに住む住人は航空機騒音や爆発音、射撃音などに悩まされています。
沖縄のキャンプ・シュワブでは、80dB(デシベル)以上の騒音が1日で100回以上確認されたという報告があります。80dBは、走行中の電車内や救急車のサイレン音と同程度の音量です。
また、沖縄では軍用機や軍用ヘリコプターの墜落事故が相次いでおり、地域住民は大きな不安を抱えているのが実情です。
アメリカ国内では、軍機の離着陸の安全確保のために「クリアゾーン」を設け、域内での居住・経済活動を全面的に禁止していますが、普天間基地では十分なクリアゾーンが確保されていなかったとする意見が上がっています。
自然や生活環境への影響
沖縄では、米軍基地内で使用している航空機燃料やディーゼルオイルが流出する事故が報告されています。燃料が河川や海域に流れ込んだ場合、自然環境や生活環境への悪影響が懸念されるでしょう。
また、辺野古新基地(へのこしんきち)が建設されれば、さらに自然環境の破壊が進むかもしれません。辺野古一帯は、生物多様性に富んだ海域で、絶滅危惧種を含む5,300種類以上の海洋生物が確認されています。
基地を建設するには、土砂を投入して海を埋め立てなければならず、希少な動植物の生存が脅かされる可能性があるでしょう。
在日米軍駐留経費の負担
日本が負担する在日米軍駐留経費は「同盟強靱化予算(どうめいきょうじんかよさん)」といいます。本来、米国側が支払うべき経費の一部を日本が自主的に負担していることから、通称「思いやり予算」と呼ばれています。
予算は5年に1回見直されるルールで、2022年1月には、2022年度から2026年度までの特別協定が締結されました。日本側は、在日米軍駐留に関わる労務費・光熱水料等・訓練資機材調達費・訓練移転費を負担します。
防衛省のデータによると、2023年度の同盟強靱化予算は、歳出ベースで2,112億円です。
出典:
在日米軍駐留経費負担(「同盟強靱化予算」)に係る特別協定の署名|外務省
防衛省・自衛隊:同盟強靱化予算(在日米軍駐留経費負担)
国内法の不適用
在日米軍が日本国内で円滑に活動できるように、日本とアメリカの間では「日米地位協定」が定められています。協定に基づき、米軍基地と基地内に駐留している米軍人には、日本の法令が原則適用されません。
例えば、米軍人が公務中に刑事事件を起こしても、日本の警察に捜査権限はなく、米軍が身柄の引き渡しを認めない限り、逮捕や起訴ができないのです。
なお、国内法が適用されないのは、公務執行中の米軍人であり、公務執行中でない米軍人やその家族には、特段の定めがない限り日本の法令が適用されます。
日本に米軍基地がある理由は?
「なぜ日本に米軍基地があるのか」「日本が経費を負担して、米軍を駐留させるのはなぜか」と疑問を持った人も多いのではないでしょうか? その理由を知るためには、日米安全保障条約と日米安全保障体制を理解する必要があります。
日米安全保障体制を守るため
日本とアメリカは、1960年に「日米安全保障条約」を締結しました。この条約を基軸とした日米の同盟関係は、「日米安全保障体制」と呼ばれます。
条約の中で、アメリカは日本を守る義務を負っており、日本が他国に武力攻撃された際は、日米両国が協力して対抗しなければなりません。
同条約第6条では、日本の安全および極東における平和と安全の維持に寄与する目的で、米軍が日本にある基地を使用することを認めています。日米安全保障体制は、他国の侵略の抑止力であるとする見方もあります。
出典:
外務省: 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約
日米安保体制Q&A
米軍の地位は「日米地位協定」が定める
日米地位協定は、1960年に日本とアメリカとの間で締結された全28条の協定です。1952年調印の「日米行政協定」を改定したもので、日米安全保障条約第6条における米軍施設・区域の使用や日本での米軍の地位を定めています。
国内にある米軍基地は、日米地位協定に基づいて日本がアメリカに設置を許可しているものであり、日本の同意なしに、アメリカが自由に建設しているわけではない点に留意しましょう。
日米地位協定は、1960年に締結されて以来、一度も改定されていません。ドイツもアメリカと地位協定を結んでいますが、過去に3回の改定を実現させています。
国内の基地問題に目を向けてみよう
日本に米軍が駐留しているのは、日米安全保障体制を維持するためであり、国内の米軍基地も日本側の同意の下で設置されています。一方で、米軍基地に起因するさまざまな問題が報告されているのも事実です。
特に沖縄では、基地に伴う騒音問題や環境問題、軍用機の墜落事故などが起こっており、地域住民の多くは不安を抱えながら生活しています。これからの日本の在り方を考えるためにも、基地問題に目を向ける必要があるでしょう。
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構成・文/HugKum編集部