「ユネスコ」とはどんな機関? ユニセフとの違いや世界遺産との関連も

ユネスコといえば「世界遺産の登録」を思い浮かべる人は多いでしょう。実はユネスコは国連の専門機関として、他にも教育・科学・文化に関する活動を行っています。ユネスコ設立の経緯や日本国内での活動を知り、私たちにできることを考えてみましょう。
<上画像:パリのユネスコ本部庁舎>

ユネスコの基礎知識

ユネスコ(UNESCO)の名前は見聞きしていても、どのような組織かを知らない人は多いのではないでしょうか? 設立の目的や活動内容、ユニセフとの違いについて理解を深めましょう。

正式名称は「国際連合教育科学文化機関」

ユネスコは国際連合(以下、国連)の専門機関で、正式名称は「国際連合教育科学文化機関」です。ユネスコ(UNESCO)の名称は、United Nations(国際連合)Educational(教育)Scientific(科学)and Cultural(文化)Organization(機関)の頭文字から名付けられました。

国連が設立される以前は、「国際連盟」と呼ばれる平和維持機構がありましたが、第2次世界大戦の勃発を未然に防げず、世界は戦争の道を進みます。国際連盟の教訓を踏まえて設立されたのが国連で、ユネスコは教育・科学・文化などを通じて、争いの原因を取り除くことを活動目的としています。

ユネスコのロゴマーク Wikimedia Commons(PD)

活動内容

ユネスコは教育・科学・文化を通じて、人々の心に「平和のとりで」を築くような取り組みを行っています。具体的な活動内容は以下の通りです。

●教育の普及
●科学の振興
●文化遺産の保護と活用
●情報流通の促進のためのガイドラインの策定
●共同研究
●会議・セミナーの開催

ユニセフとの違い

ユニセフとユネスコはどちらも国連の機関ですが、設立の目的や活動内容が異なります。

ユニセフ(UNICEF)の正式名称は、「国際連合児童基金」です。世界中の子どもの権利と命、健康を守るため、開発途上国をはじめとする190以上の国・地域で、以下のような支援活動を展開しています。

●水と食料の支援
●感染症の予防
●乳幼児のケア
●子どもの保護
●教育機会の提供

活動内容は異なるものの、どちらも国連の機関として平和で豊かな世界を目指している点では共通しています。

ユネスコの組織とネットワーク

国連の本部はアメリカのニューヨークですが、ユネスコの本部はフランスのパリにあります。加盟国数は194カ国(2024年4月時点)で、日本の加盟は1951年です。

本部の配下には53の地域事務所があり、日本は「ユネスコ北京事務所」の管轄です。文部科学省内には「日本ユネスコ国内委員会」と呼ばれる国内協力団体が設置されており、日本のユネスコ活動をけん引しています。

国内のユネスコ活動は、多くの民間団体に支えられているのが現状です。各民間団体はユネスコや日本ユネスコ国内委員会と連携を取りながら、独自に活動を展開しています。

日本ユネスコ国内委員会が設置されている中央合同庁舎第7号館(奥の高層ビル群:東京都千代田区霞が関)

ユネスコに関連する条約

ユネスコの最高意思決定機関は、加盟国が参加する「ユネスコ総会」です。総会では活動方針の決定のほか、条約の採択も行われます。ユネスコ総会で採択された代表的な条約として、「世界遺産条約」と「無形文化遺産条約」を紹介します。

世界遺産条約

世界遺産条約(世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約)とは、世界にある文化や自然を世界遺産として保護していくことを定めた条約です。締約国は195カ国(2024年4月時点)で、日本は1992年に条約を締結しました。

「世界遺産」には、以下の3種類があります。

文化遺産:建造物や遺跡など、人の手で生み出されたもの
自然遺産:豊かな生態系や優れた景観を有する自然地域など
複合遺産:文化と自然の両方の要素を持つもの

「世界遺産一覧表」に掲載された遺産については、自国の力による保護が困難な場合に、世界遺産基金による国際的援助を申請できます。

世界遺産に登録されるには?

世界遺産に登録されるためには、複数の委員国で構成される「世界遺産委員会」の審査をクリアしなければなりません。「登録基準を満たした物件であること」「締約国の国内法で適切な保護管理がなされていること」などが前提です。

世界遺産条約の締約国は、該当する物件を「暫定リスト」としてユネスコへ提出した上で、世界遺産委員会に推薦書を提出します。

個人や団体からの推薦は受け付けておらず、締約国の政府を介する必要があります。2024年4月時点において、日本の世界遺産は25件です。

出典:日本の世界遺産一覧 | 文化庁

無形文化遺産条約

無形文化遺産条約とは無形文化遺産を保護する条約で、2003年10月に採択されました。締約国は182カ国(2024年4月時点)で、日本は2004年6月に条約を締結しています。

「無形文化遺産」とは、口承による伝統や社会的慣習、工芸といった形のない文化遺産のことです。条約には、保有国による該当遺産の保護や国際的援助に関する事項などが定められています。

日本の無形文化遺産の登録数は22件(2024年4月時点)で、能楽・人形浄瑠璃・歌舞伎・アイヌ古代舞踊・結城紬・和食・和紙などが認定されています。

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ユネスコの活動を推進する民間団体

国内におけるユネスコの活動は、民間団体が中心です。代表的な団体には、「公益社団法人日本ユネスコ協会連盟」や「公益財団法人ユネスコ・アジア文化センター」があります。各団体の特徴や活動内容を見ていきましょう。

公益社団法人日本ユネスコ協会連盟

公益社団法人日本ユネスコ協会連盟は、仙台でスタートした民間ユネスコ活動をきっかけに、1948年に設立されました。全国にはユネスコ協会をはじめとする組織が300ほどあり、それぞれが民間ユネスコ運動を推進しています。

同協会が力を入れている活動の一つが、「世界寺子屋運動」です。年齢・宗教・性別に関係なく、全ての人が学べる場をつくる活動で、非識字者や貧困層の多いアジアを中心に展開しています。

そのほか、国境を越えて世界遺産を保護する「世界遺産活動」や「SDGs達成に向けた次世代育成」など、幅広い分野で活動を行っています。

プロジェクト未来遺産2023によって登録された「伝統芸能石見神楽を未来に継承サポートプロジェクト」(画像提供:PR TIMES)

出典:公益社団法人日本ユネスコ協会連盟

公益財団法人ユネスコ・アジア文化センター

公益財団法人ユネスコ・アジア文化センター(ACCU)は、アジア太平洋地域のユネスコ加盟国と連携しながら活動をしている団体です。「アジア太平洋地域で文化の相互交流を促進してほしい」というユネスコの要望を受け、日本政府と出版界を中心とした民間の協力で設立されました。

教育・文化の振興や相互理解に力を入れており、教職員の国際交流や学生によるイベント、ESDの推進などの実績があります。

「ESD(Education for Sustainable Development)」は、「持続可能な開発のための教育」と呼ばれる教育・学習活動です。主な目的は「持続可能な社会の創り手」の育成で、日本の学校教育でも取り入れられています。

出典:公益財団法人ユネスコ・アジア文化センター

ユネスコの活動を支えるためにできること

パリのユネスコ本部庁舎と、イサム・ノグチによる平和の庭 Photo by Michel Ravassard – This file has been provided by UNESCO (unesco.org) as part of a GLAM-Wiki partnership.

ユネスコの取り組みはスケールが大きく、活動分野も多岐にわたります。ユネスコが活動を持続していくためには、一般人の協力が欠かせません。私たちに何ができるのかを考えてみましょう。

寄付で支援する

ユネスコに関連する民間団体は、常時「寄付」を募っています。集められた寄付金は、民間団体の活動資金や事業資金に充てられるため、ユネスコの活動を間接的に支えられるでしょう。

寄付は必ずしもお金である必要はなく、書き損じはがき・未使用切手・商品券・図書券などを提供しても構いません。例えば、書き損じた通常はがきは5~10円の交換手数料を払うことで新品と交換できるので、ゴミとして捨てるのではなく、それを寄付することも可能です。

また、自宅に眠っているブランド品や貴金属などを「買い取りサービス」に出し、買取金を寄付するのもよいでしょう。

危機遺産の現状を知る・伝える

「危機遺産」の現状を知り、周囲に伝えることも支援につながります。危機遺産とは環境破壊や戦争、密漁などにより、普遍的価値を失うような重大な危機にさらされている遺産です。

どれほど優れた世界遺産でも、人々が意識して保護しなければ消滅の危機に陥る可能性があります。今ある世界遺産を守り、危機遺産を救うには、現状を知って人に伝えることが重要です。

カンボジアのアンコール遺跡は、クメール王朝の栄華を伝える重要な遺跡群ですが、内戦による破壊や略奪で荒廃が進みました。しかし各国の修復支援により、2004年に危機遺産から解除されています。

ユネスコの取り組みを知って応援しよう

ユネスコの主な目的は、教育・科学・文化などを通じて世界を平和にすることです。日本における活動は日本ユネスコ国内委員会や民間団体が中心となっており、私たちは寄付やイベントへの参加を通じて、ユネスコの取り組みを応援できます。

日本には現在、25件の世界遺産と22件の無形文化遺産があります。日本に住む私たちは、それらが危機遺産にならないように守っていく必要があるでしょう。この機会にユネスコの活動について考え、自分たちに何ができるのかを子どもと話し合ってみてはいかがでしょうか?

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構成・文/HugKum編集部

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