捨てるとき「これって本当にごみ?」と考えられる名前に
――亀岡市では、令和4年度に「燃やすごみ」を「燃やすしかないごみ」と名称を変えましたが、市民の方はどんな反応でしたか?
名称変更についての告知は大々的にはしていないんです。環境に配慮する取り組みの中で、ごみの収集日や分別のルールを変更したときは、100箇所以上で説明会を行いましたが、ごみの名称変更はその取り組みの延長線上で行われたことなのです。ごみ袋は日々目に触れるものなので、少しずつ名前も浸透していくものなのかなと思っています。
この取り組みの開始後、ごみの全体の量は減っていまして、翌年は生活系のごみが約1000トン減少しました。全体の6%ほどが減った計算になります。名称を変えただけでなく、一部のプラスチックを分別したり、紙の分別も始めた時期でしたので、ネーミングだけの効果は測れていませんが、ごみを出さない生活について、市民の方が考えてくれた結果だと思っています。
実際にごみが減ることは成果のひとつですが、市としては、それよりも「意識の変化」があることが重要だと思っています。「ごみを減らそう」「リユースしよう」「ごみを出さないようにしよう」と思ってもらえるかどうかを優先しており、それを体現しているのが「燃やすしかないごみ」という名前です。
この名前を見ると、自分の捨てるものが「燃えてしまうものなんだ」とわかりますし、さらに「しかない」とつくと、これって本当にごみなの? と考えるきっかけになるんじゃないかと考えています。
――子どもが捨てるときにも、いったん躊躇しそうなネーミングですよね。
名称の変更は、大人よりも子どものほうが素直に受け取ってくれるのではと期待しています。子どもたちが環境について意識するようになれば、大人になってからもそれが続いていきます。先の長い話ではありますが、未来のためにいまから意識づけしていくことが大事なのではと思います。どれぐらい効果があるかは分かりませんが、やれることはやろうという考えで進めています。
日本初!プラレジ袋の禁止に挑戦
――亀岡市では、2020年に、全国初となる「亀岡市プラスチック製レジ袋の提供禁止に関する条例」を制定されましたね。商店等の反応はいかがでしたか?
「やらないといけないこと」という意識を持ってくださる方が多く、やること自体は賛成していただきましたが、やるにあたってどうするかという話し合いはたくさん行いました。レジ袋を持っていない人が来たらどうしたらいいか、チェーン店は店舗システム自体を変えないといけないけれどどうしたらいいか、ひとつひとつ話し合って解決しました。どこもやっていないことをやるのですから、そこは丁寧に話し合いましたね。
ただ、お店側は無料配布していた袋のコストがなくなり、亀岡市としてはごみが減少、そしてまちもきれいになる三方良しの話。始まってしまえばそれが当たり前になっていきます。
――レジ袋の配布禁止は、お客さんの側にもすぐ浸透したのですか?
もちろん、お客さんがレジ袋を忘れてしまう場合もありますから、紙袋など生分解性のものならOKということにしました。ただし、これも無料では配らないというルールにすることで、お客さんにも工夫してもらえるようになりました。
実効性のある条例にしようということで、条例を破った方は氏名を公表するというルールもあります。ただ、見せしめをしたいわけではなく、あくまでも意識を変えていくという目的です。
条例スタート後のアンケートでは、大きくトラブルもなくスムーズにスタートしたという回答が8割を占めました。まちにとって関心が高いことでもあったのだと思います。もちろん私たちのいない場で、反対の議論があったかもしれませんが、それこそプラスチックごみについて考えていただくきっかけになると思います。
当たり前になっていくと、市外に出かけた子どもが、お店でレジ袋が出てくることに違和感を感じたり、お散歩ついでにごみ拾いをする活動が自然に広がったり、市民の環境意識は高まってきたと思います。市内の学校のカリキュラムでも、環境教育には積極的に取り組んでいますね。
川や海のごみは、まちが増やしていると気づいた
――そもそも、亀岡市はどうして環境問題に力を入れるようになったのですか?
亀岡市には観光名所の保津川があり、渓谷をめぐるトロッコ列車や川下りなどが有名です。ところが、訪れた外国人などに「保津川はごみだらけじゃないか」という声があり、川下りの船頭さんがごみ掃除を始めたのがきっかけです。それが市民活動としても広がりました。ところが、いっときはきれいになった川は、雨が降るとまた元通りのごみだらけになってしまうのです。
その後、2012年に「第10回海ごみサミット2012亀岡保津川会議」の会場となったことが大きな転機となり、環境への取り組みが加速しました。海ごみサミットと言いながら、亀岡市には海がありません。けれど、保津川から発信機を流して調査したところ、約80km離れた大阪湾までたった1日でごみが流れていることがわかりました。
内陸部のまちから減らしていかないと、川や海のごみはなくならないと認識したんです。川を掃除してもごみがなくならないという違和感から、「わたしたちのまちからごみをなくしていくんだ」という意識へと変わりました。そして、2018年には「かめおかプラスチックごみゼロ宣言」を行いました。現在の桂川市長は、職員時代から亀岡市が環境先進都市となるよう力を入れており、政策の「見える化」を推進しています。
アップサイクルの商品づくりや、散歩しながらのゴミ拾い活動も
――環境問題を取り組むことを楽しめるようなアイデアはありますか?
亀岡市の芸術家さんのアイデアにより、HOZUBAG(ホズバッグ)という商品が生まれました。これは使用済のパラグライダーの生地をアップサイクルしてつくられたバッグ。行政でエコバッグを調達して配布してもあまり持つ気になってもらえませんが、アップサイクルのおしゃれなカバンだったらどうだろう、それも一過性のワークショップで終わらせずにきちんと商品にして販売をしよう、という流れになりました。
ここまでくると行政の手からは離れていきますが、カバンが売れると収益につながり、新たな雇用も生まれます。アートの視点を取り入れることで、環境と経済がうまくマッチするのだなと知りました。
他にも、亀岡市が募集する「エコウォーカー」に登録して、お散歩中についでに(義務でなく)ごみ拾いするというような活動をしている方もいます。
環境問題に関する取り組みは、どうしても「これはやめましょう」という内容が多くて、あまり楽しくないですよね。しかし、ご家族で楽しめる活動に組み込むことができれば、良い形で継続できるのではと思っています。
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画像提供:亀岡市
取材・文/日下淳子 構成/HugKum編集部