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イマージョン教育とは
今後の世界はますます国際化が進むことが予想されます。これから大人になる子どもたちにとって、国際的に活躍できる人になることは重要です。
そのためには、外国語、特に英語を使いこなせる能力が必要不可欠です。しかし、多くの家庭や教育現場では、従来の学習方法に限界を感じる場面も少なくありません。そこで注目されるのが、イマージョン教育という学習アプローチです。
イマージョン教育とはどのようなものなのでしょうか? まずは、その概要や日本での導入事例を見ていきましょう。
習得を目指す言語で授業を行う学習方法
イマージョン教育は、教科を外国語で学びながら、その言語を身に付ける教育方法です。例えば算数や理科の授業を英語で行うような教育方法を指します。
通常、外国語を学ぶときは「英語」「フランス語」など、その言語を学ぶために日本語で学習を進めますが、イマージョン教育の場合、その教科と外国語の両方を学ぶことを目指します。
イマージョン教育は、多文化を理解し、将来グローバルに活躍する力を伸ばせる方法として注目されています。
日本での導入状況や事例
イマージョン教育は、もともと1960年代にカナダで始まったバイリンガル教育法です。
日本で本格的なイマージョン教育が始まったのは1992年、静岡県の加藤学園暁秀初等学校です。同校では1日の授業の50〜60%を英語で行い、残りを日本語で指導するパーシャルイマージョン方式を採用しています。
全国的な普及率はまだ低いものの、近年では公立学校でも導入が進んでいます。
注目すべき事例として、愛知県豊橋市立八町小学校が2020年度から国内公立小学校として初めてイマージョン教育を開始し、各学年20人の定員で実施しています。同校では国語と道徳以外の教科を主に英語で学び、入学希望者が定員を大幅に上回るため抽選が行われています。
また、大阪府泉大津市では独自の取り組みを展開しており、市内の小中学校全体にALTを配置するだけでなく、モデル校として選定された小学校には専属のイマージョン教育ALTを配置し、体育などの教科を英語で指導する実践的な教育を行っています。
このように、私立学校での先駆的な取り組みから始まった日本のイマージョン教育は、現在では公立学校にも広がりを見せており、教科内容と英語力の両方を効果的に習得できる教育方法として注目を集めています。
出典:加藤学園暁秀初等学校 – 沼津市
:八町小学校イマージョン教育コース在籍人数/豊橋市
:令和6年度 外国語指導助手及び英語イマージョン教育指導助手(ALT)プロポーザル/泉大津市
イマージョン教育の主な種類
イマージョン教育にはいくつかの形があり、言語の使い方や授業の進め方によって異なります。それぞれの種類を理解することで、どの方法が子どもたちに合っているかを見つけやすくなります。
ここでは、言語の使い方や教育の手法に基づく分類を説明します。
言語の使用割合による分類
イマージョン教育は、授業で使用する言語の割合に応じて「完全イマージョン」と「部分イマージョン」に分けられます。
完全イマージョンでは、全ての授業が目標言語で進められます。例えば、英語を学ぶ場合、国語以外の教科全てを英語で教えるような形式です。この方法は、言語に慣れるスピードが速く、学習効果が高いとされています。
一方、部分イマージョンでは、算数や理科だけを英語で行うといった特定の科目だけを目標言語で学ぶスタイルです。
この形式は、子どもたちが徐々に新しい言語に慣れることができ、負担が少ないのが特徴です。小学校低学年から部分イマージョンを始め、高学年で完全イマージョンに移行するケースもあります。
教育の手法による分類
イマージョン教育は、その進め方により「一方向性イマージョン教育」と「双方向性イマージョン教育」に分類されます。
一方向性イマージョン教育では、全員が同じ言語を学ぶのが特徴です。例えば、日本の生徒が全員で英語を学ぶ場合がこれに当たります。この方法では、教室全体が一つの言語環境にひたるため、子ども同士で支え合いながら学ぶことができます。
一方、双方向性イマージョン教育では、二つの言語を話す子どもたちが同じ教室で一緒に学びます。例えば、英語を話す子どもとスペイン語を話す子どもが同じ割合でクラスに在籍し、英語とスペイン語の両方を使って授業が進められる形式です。
この方法では、異なる言語を話す子ども同士が協力しながら、お互いの言語を自然に学ぶ環境をつくり出します。
どちらの方法にも、それぞれのメリットや課題がありますが、どの形式でも目標言語を効果的に習得できる環境を提供できるのがイマージョン教育の大きな魅力です。子どもの年齢や目的に応じて適切な形式を選ぶことが成功への鍵となるでしょう。
イマージョン教育を受けるメリット
イマージョン教育には、言語習得だけでなく、学習者の成長を多方面から支える数多くのメリットがあります。ここでは、特に注目される三つの利点について詳しく見ていきます。
自然な形で言語を習得できる
イマージョン教育の最大の魅力は、言語を自然な形で習得できる点です。目標言語を使って算数や理科などの教科を学ぶことで、実際の生活や文脈に即した形で言語に触れることができます。この方法では、単に言葉を覚えるだけでなく、実践的な会話力が身に付きます。
例えば、授業中に友達と目標言語で話したり、教員に質問したりする中で、学びがより深まります。さらに、テストのために言語を学ぶのではなく、日常の中で使う必要性が生まれるため、より効果的に言語を吸収できます。
多様な文化を受け入れる下地ができる
イマージョン教育を通じて、子どもたちは目標言語を使う国や地域の文化にも触れることができます。英語を学ぶ場合、その背景にある文化や価値観、歴史を理解する習慣が自然と育まれます。
異文化を理解する力は、将来的に国際社会で活躍する上で大きな強みとなります。多様性を当たり前のものとして受け入れられる感覚を身に付けることで、グローバルな視点を持つ人材へと成長できるでしょう。
認知能力の高まりが期待できる
イマージョン教育には、認知能力を高める効果も期待されています。異なる言語環境で学ぶことで、複数の情報を同時に処理するスキルや、柔軟な考え方が自然と養われます。
さらに、言語を学びながら物事を考えるプロセスそのものが脳を刺激し、創造的な発想力を引き出します。このようなスキルは、学校の授業だけでなく、日常生活や将来のキャリアにおいても大きな助けとなるでしょう。
イマージョン教育により起こり得るデメリット
イマージョン教育には多くのメリットがありますが、一方でいくつかの課題や注意点も存在します。導入や運営におけるデメリットを理解しておくことで、より効果的な教育環境をつくりやすくなります。ここでは、代表的なデメリットについて解説します。
費用やサポートが必要になる
イマージョン教育を導入するには、通常の授業とは異なる特別な準備が求められます。目標言語で授業を行うための教材や、優れた言語スキルを持つ教員の確保が必要です。こうした準備には高いコストがかかるため、通常の教育よりも予算が必要となります。
さらに、子どもが授業についていけるように家庭でのサポートも欠かせません。母語の本を読み聞かせたり、家庭で母語を使う時間を確保することが重要です。
また、イマージョン教育では通常の学習よりも子どもたちの負担が大きくなるため、心身のケアを十分に行うことも求められます。
状況によっては弊害が出る可能性も
イマージョン教育は効果的な言語習得の手法ですが、全ての子どもに適しているわけではありません。特に言語習得の初期段階では、授業内容を十分に理解できず、母国語と学習言語のどちらも中途半端な状態になってしまう可能性があります。
この教育方法は幼稚園から始めるケースも多く、早い時期から取り組むほど言語習得はしやすいとされています。しかし、日本語と他言語を同時に学ぶことで、どちらの言語も不完全なまま成長してしまうリスクも指摘されています。
また、子どもの適性やタイミングによっては、学習そのものがストレスとなり、どちらの言語も習得が進まない場合もあります。
イマージョン教育を実施する際には、子どもの発達段階や個々の適性を十分に考慮し、適切な時期と方法で取り組むことが重要です。
日本の現状と英語教育に関する課題
イマージョン教育の導入が注目される背景には、日本における英語教育の現状とさまざまな課題があります。改革が進む中で見えてきた成果や問題点について考えてみましょう。
英語教育の改革は進んでいる
日本では近年、英語教育の改革が進み、小中学校での英語教育からの学習にいっそう力を入れていこうという動きが進んでいます。しかし、英語以外の多言語の学習や、英語に関しても実用面で見ると課題が多いのも事実です。
特に、音声学習の機会が少ないため、リスニング力やスピーキング力の向上が十分に図られていません。発音指導が不十分なことから、片仮名英語のまま学習が進み、ネイティブスピーカーとのコミュニケーションが困難なケースも発生しています。
英語学習が受験対策に偏っていることも問題です。入試の多くが読み書き中心のため、授業は文法や解答テクニックの指導に終始し、英語をコミュニケーションツールとして捉える視点が欠けているという意見もあります。
こうした現状では、世界で活躍できる人材を育てるのは難しく、英語教育のさらなる改善が求められています。
出典:今後の英語教育の改善・充実方策について 報告:文部科学省
人材の確保に懸念点がある
イマージョン教育の拡大や質の高い英語教育を実現するには、高度な専門知識とスキルを持つ教員の存在が不可欠です。
特に、英語イマージョン教育を行う教員には、教員免許に加え、ネイティブレベルの英語力と日本語力が求められます。授業を全て英語で行うため、単なる語学力では対応できず、学問的知識や教育スキルの両方を備えた人材が必要です。
また、教員がイマージョン教育に必要な能力を習得するための研修や実践的なトレーニングの機会が限られていることも課題です。イマージョン教育を成功させるには、教員に対する長期的な支援と充実した教育資源が不可欠ですが、現状では十分とはいえません。
このような人材不足の課題を解決しなければ、イマージョン教育の質の向上や普及は難しいでしょう。教育の現場では、育成と支援を含めた包括的な取り組みが求められています。
[まとめ]イマージョン教育は他言語を効率良く学べる手法
イマージョン教育は、目標言語を自然に身に付けながら異文化理解も深められる効率的な学習方法です。日本ではまだ普及率が低いものの、導入のメリットが注目され、今後の拡大が期待されています。
ただし、導入にはコストや人材確保の課題が伴い、地域や学校ごとに対応状況が異なることもあります。これらの課題を克服するためには、教育現場だけでなく、家庭や地域全体で支え合う仕組みが重要です。
イマージョン教育を広げるためには、質の高い教員の育成、サポート体制の整備が必要です。これらを実現することで、より多くの子どもたちがこの優れた教育手法を受けられるようになるでしょう。
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構成・文/HugKum編集部