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「プチ・プリ」に込められた自身の経験と知識と探求心
幼少期から多文化な環境で育ったことで心得た「モノの見方」
アイスランドで生まれ育ち、後にレバノンにも住んでいたことがあるライアン。イギリスの大学院在学中、東京とNYへの短期留学を経て、現在ロンドンを拠点に「プチ・プリ」を運営。ポルトガルにある生産工場をはじめ各国の現地をまわって、長く着続けてもらえるサステナブルな服の研究開発に励んでいます。
いろいろな国や都市に住んだ経験と、両親も家族も異なる文化を持つ家庭で育った影響もあり、「(文化・社会的要素によって、)ひとつの問題に対してさまざまな考え方があるということを知り、モノに対して多角的に見ることができるようになった」というライアン。
ライアン:「小さかった頃の僕は、物静かな時期もあったけど、そんな時も常に自分の周りの世界を観察していた」
幼少期は、探求心が強く好奇心旺盛な子どもだったそう。Imperial College Londonの大学院では興味があった航空エンジニアリングを専攻し、F1のレッドブル・レーシングでのインターンシップの経験もある多才な経歴の持ち主。大学院卒業後、さらにRoyal College of Artでイノベーションデザインエンジニアリングを学び、その時に世界の環境を良くしたいという一心でスタートアップとして立ち上げたのが「プチ・プリ」でした。
エンジニアであり、デザイナーであり、起業家。蓄積してきた経験すべてをブランドに注ぎ込む
子ども服の概念を変え、環境問題を消費者と一体になって解決していくことを目指して誕生した「プチ・プリ」。世界にインパクトを生み出すには、エンジニアとデザイナーであるだけではなく、起業家としてひとつのゴールに向かって突き進む必要性を感じたそうです。
ライアン:「問題を把握してどのように解決するか。モノを異なる角度から見ることで、まだだれも思いついていない解決策が見つかるのではないか。世の中にあるたくさんの知識を並べると、ひとつの解決策を見出すことができるかもしれない――」
ライアンが育った多文化な環境から得た経験と、学びで得た知識、そして常に自分が好きなことを探求してきた結果すべてが「プチ・プリ」の原点となり繋がっているようです。
関心のあることを繋ぎ合わせてできた「プチ・プリ」
「サステナビリティ」:環境問題に向き合うきっかけとなった甥っ子の誕生
ライアン:「『プチ・プリ』のひとつの原点ともいえるのが、甥っ子のビゴーの誕生だった。生まれてすぐにプレゼントとして買ってあげていた服がビゴーの手元に届いたときには、すでに洋服が入らないぐらい成長していたんだ。せっかく買ってあげたのに…なんてもったいないんだ!って本当に悔しかったよ」
この出来事を機に、サイズが合わなくなってしまった子ども服が大量に捨てられている現実を知り、アパレル産業が抱える衣料大量破棄問題について関心を抱くようになったそうです。自分と同じ経験と悔しい思いをしている人は世の中にたくさんいるはず…。
ライアン:「変わりゆく環境を目の当たりにするようになり、今の子どもたちの未来にある世界はどうなってしまうのか、今僕たちの世代ができる最も責任ある正しい選択とは何なんだろう」
2年で7サイズ成長する乳幼児期。どうしたら衣料の大量破棄と無駄を減らすことができるのか。成長が早い子どもたちが、ひとつの服を長く着続けてもらうにはどうしたらいいのか…。
「エンジニア」:航空エンジニアリングの技術をヒントに
そこで思いついたのが、航空エンジニアリングの技術を服に応用してみることでした。
大学院では、折りたたんでコンパクトに収納できる展開可能な衛星パネルに関する研究をしていたライアン。衛星パネルの収納で使われていた「ミウラ折り」の技術で、畳んだり広げたりすることができる点に着目したそうです。服の生地に同じように特殊なプリーツ加工や折り目を施すことで、子どもの成長に合わせて伸縮する服がつくれるのではないかとひらめいたそう!

ライアン:「エンジニアを基盤として、素材や生地、デザインを研究開発する僕たちは、世界で一番アドバンスな子ども服を作っていると思う」
長く着続けてもらうには、伸縮性だけでなく、ユーザーが求めるすべての機能性を兼ね備えることが必須でした。耐久性、通気性、防水性、扱いやすさ、肌触り、デザイン…といったすべての問題に応えるために、機械エンジニア、ファッションデザイナー、プロダクトデザイナー、神経科学者、心理学者、社会学者といったさまざまな分野の専門知識をもつチームで開発。さまざまな視点から分析し、最適なテクノロジーを駆使して作り上げてきたそうです。
また、すべての機能性を確保するには、生地からの開発が必要でした。すべての条件が合った生地を作り出すまでに、これまで5000回を超えるマテリアルテストを繰り返し実施。「プチ・プリ」を代表する、一年中使える「Versatile」シリーズで使用されているリップストップ生地は、特許取得済みの独自開発した生地だそうです。
「ファッション」:日本文化と原宿から刺激をうけたファッションの概念
アートスクールに在学中、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科への交換留学経験もあり、日本の伝統工芸技術からたくさんのインスピレーションをもらったそうです。また、イギリスとは全く違う日本の文化と、その中で自由におしゃれを楽しむ原宿ファッションにも衝撃を受けたそう。
日本での留学時のプロジェクト作品として完成したのが、折り畳み展開できるスカーフ。スカーフに細いワイヤーが仕込まれており、電気を通すと、折り紙の技術で作られた襟の部分が花のように大きく開くようなっています。
遠くから原宿に通うファッショニスタたちが人目が気になる電車内ではスカーフを折り畳み(下写真左)、原宿に着くと自分で飾り付けたスカーフを広げて独自のファッションを自由に楽しめる(下写真右)といった仕組みに。個性的なファッションを表現しづらい社会と自由におしゃれを楽しめるコミュニティが存在する原宿との狭間をスカーフで表現したそうです。

これは原宿のファッショニスタから情報を集めて完成したプロジェクト作品でした。自分を表現する個性的なファッションを身に纏い、原宿に着くまでは周りからの視線が気になっていたファッショニスタたちが、自分たちが帰属する原宿のコミュニティに入った瞬間に、自信に満ち溢れ、観光客と会話を楽しみ写真を一緒にとるなど行動にも変化がみられるのに気が付いたそう。
ライアン:「原宿のファッショニスタから、ファッションは単なる衣服ではなく、人に自信をつけさせ、心理的にポジティブに動かしてくれる原動力であることに気づかされたよ。服は世界に良い影響を与えることができる、着る服によって人の行動をよりサステナブルな方向に変化させることも可能であると確信したんだ」
ファッションを楽しみながら、サステナビリティを叶える
起業家として環境問題に挑む
エンジニアとファッションの知識を使って世界規模の課題である環境問題に立ち向かうには、起業家として世界にインパクトを生み出す必要性を感じたライアンは、2017年にサステナブルファッションブランド「プチ・プリ」を立ち上げることに。
子どもと一緒に「成長する服」は、子どもの成長とともに服を買い替えるのが当たり前とされていた子ども服の概念を書き換えるかのように、世の中に広く知れわたるまでに成長。そのイノベーティブなデザインとアイデアが多岐にわたる分野で高く評価され、ブランド立ち上げから現在に至るまで、デザイン、サステナブルファッション、イノベーション分野における著名な賞をおよそ20個獲得。ひとつの服を長く使ってもらうことで、二酸化炭素の排出と水の使用量の削減を叶え、衣料の大量破棄の削減にもつなげています。
サステナビリティ実現に向けて進化し続ける「プチ・プリ」
マタニティウェアに込められた大人が着る一生モノの服
子ども服の「成長する服」の開発から始めた「プチ・プリ」でしたが、現在は子ども服だけでなく、体型が変化する産前産後のママたちがはくことができるボトムスも販売するように。
きっかけは、プレママたちから届いた声でした。普段着ていた服のサイズが合わなくなってしまったため、自分のファッションを妥協して仕方なくマタニティウェアを買っているママが多かったそうです。そして、おなかが目立つようになる妊娠後期にマタニティウェアを買っているママがほとんどで、実質3ヶ月しかその服を着ていないことがわかりました。
マタニティウェアも子ども服と同じように、サイズがすぐに合わなくなてしまうと廃棄されていることに気が付き、子ども服の「成長する服」と同じコンセプトで大人が着る一生モノの服の開発をすることに。
「プチ・プリ」のマタニティウェアは、カジュアルからオフィスシーンまでシチュエーションを選ばずに着られるようにデザイン設計。マタニティ期間だけでなく、人の暮らしや身体の変化に合わせて服が適応してくれるサステナブルなマタニティウェアを生み出しました。
ライアン:「プチ・プリの服は、服が身体とライフスタイルに沿って変化してくれる。だから僕たちの本当のゴールは、消費者がマタニティウェアとして一時的に着る服を買うのではなく、人生においてもし妊娠することがあった場合や、体型が変化することがあったとしても、ワードローブの服を買い替えなくていいようにすることなんだ」
また、「プチ・プリ」は、シーズンごとの流行をベースにしてデザインされてないそうです。その理由は、トレンドに左右されることなく、ワードローブで一生モノの服になれることを目指しているからだそう。長く使ってもらえるような耐久性と消費者のニーズに沿ったそれぞれの機能性にこだわり抜いて作っているので、カラーバリエーションは豊富でもスタイルは限定的となっています。
服の寿命を延ばしてくれるアイテムも販売
そのほか、子ども服や大人の服に加えて、サステナブルファッションにつながるアイテムも販売しています。
例えば、汚れたらすぐに捨てられてしまわれがちなTシャツの寿命を延ばしてくれるアイロンで貼り付けられるパッチ「Garment Guardian Kit」(現在日本未発売)。シミがついたTシャツを捨ててしまうのではなく、かわいいパッチで修復してもっと長く使ってほしいという思いから誕生したそうです。
割れてしまった焼き物を漆や金粉で修復し、それを芸術として嗜む日本の「金継ぎ」から発想を得ているそう!
「好きなことを探求し、小さな発見と好奇心を大切にして」
最後に、Hugkum読者のお子さんに向けてメッセージをいただきました!
ライアン:「子どもでいる時の利点は、好奇心があるということ。好奇心は、大人になるにつれて失ってしまうものでもあるから。だからこそ今ある好奇心を大切にしてほしい」
好きだった航空エンジニアとファッションを融合し、蓄積した経験と学びをひとつずつ重ねてできたのが「プチ・プリ」でした。自分が「好きなこと」「興味があること」のすべてを集結した「プチ・プリ」が誕生したとき、すべてのパズルが一致したような感覚だったそうです。
ライアン:「興味があることをひたすら追いかけていくことで、究極にやりがいがあって自分にとって特別と思えるなにかにきっと繋げてくれると僕は信じているよ。僕の場合がそうだったからね!」
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取材・文・構成/ s. Frey