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「敵に塩を送る」とは?
読み方と意味
まずは読み方と意味を確認しておきましょう。この言葉は『敵に塩を送る』と書いて「てきにしおをおくる」と読みます。苦境にある敵の弱みにつけこまず、助けることを意味する言葉です。
「敵に塩を送る」の由来・語源
戦国時代、越後(現在の新潟県)の武将上杉謙信が、塩がなくて困っているライバルの武田信玄に塩を送った、という逸話が広まり、苦境にある敵を助けることを『敵に塩を送る』と言うようになりました。
現在でも長野県松本市には、塩を運んできた牛をつないでいたとされる「牛つなぎ石」が道祖神として祀られ、新春の伝統行事である「松本あめ市」が、謙信から塩が届いたとされる1月11日に行われています。

実は「敵に塩を送ってあげた」という事実はない?
『敵に塩を送る』という言葉は江戸時代、頼山陽(らいさんよう)という人が書いた『日本外史』に初めて登場したと言われています。
『日本外史』は戦国時代から250年も後に書かれた歴史書です。そのため真偽は不明ですが、『敵に塩を送る』の由来として有名な部分をご紹介しましょう。
『日本外史』に見るエピソード
当時武田信玄が治めていた甲斐・信濃(現在の山梨県・長野県)は海に面していないため、他の国に塩の供給を頼っていました。しかしある時、近隣の北条氏や今川氏に、塩を売る商人が信玄の領地に入れないよう「塩止め」されてしまいます。
冷蔵庫のない戦国時代では、食物の保存や疲労回復に欠かせない塩は貴重なもの。海のない国にとって「塩止め」は死活問題です。
信玄とその領民たちが困っている、と伝え聞いた上杉謙信は信玄にこのような手紙を送り、自身が治める越後から適正な価格で塩を購入するよう伝えました。
「我與レ公爭フ、所レハ爭フ在二リ弓箭一ニ。不レ在二ラ米鹽一ニ。」※1
(私はあなたと争っているが、争っているのは弓矢(=武力)においてであり、米や塩ではない。)
上杉謙信と武田信玄と言えば、有名な川中島の戦いをはじめ、10年以上も睨み合っていたライバルです。しかし謙信は相手の弱みに付け込まず、正々堂々と戦おうとしたことがうかがえます。
※1『日本外史』(頼久太郎(頼山陽)著 巻之十一 武田 上杉氏 二十八)

謙信の「塩送り」エピソードは他にもあって
実は謙信が「敵に塩を送った」という逸話は他にもあります。それは当時松本(現在の長野県松本市)を治めていた小笠原氏。信玄に攻め込まれて輸送を断たれた際、気の毒に思った謙信が塩を送った、という説です。※2
これらの逸話はいずれも「敵に塩を送る」という言葉の由来ではあるものの、実際は無償で塩を送ったということではないようです。
いずれにせよ上杉謙信はひきょうなことを嫌い、武力にも優れた名君として、現在に至るまで人々の心を掴んでいることがわかります。
※2『故事名言・由来・ことわざ総解説』(三浦一郎他著 自由国民社 1992)p143~p144
使い方を例文でチェック!
では、『敵に塩を送る』の使い方を例文でチェックしていきましょう。
1:満足に練習ができない被災地の学校に、ライバル校が『敵に塩を送る』かのごとく、練習環境の無償提供を申し出た。
天災のせいで練習もできない相手に勝利しても公平とは言えません。この場合は『敵に塩を送る』が使えそうです。
2:同じ大学を目指す友人が風邪をひいて欠席したので『敵に塩を送る』気持ちで、ノートを貸した。
同じ条件で目標を目指す友人。敵ではありませんが受験生同士でライバルという意味では『敵に塩を送る』状況と言えそうです。
3:ライバル会社が火災で操業不能に陥った際、同業他社が『敵に塩を送る』精神で自社での生産を引き受けた。
普段はシェアを取り合うライバル社でも、困った時には手を差し伸べ、社員や顧客を守ることは『敵に塩を送る』と言えそうです。
類語や言い換え表現は?
では、『敵に塩を送る』を別の言葉で言い換えたい場合、どのような表現を使うことができるのでしょう。『敵に塩を送る』に似た表現を探してみました。
1:呉越同舟(ごえつどうしゅう)
敵味方が同じ場所に居合わせることや、敵対していながら、同じ目的や利害のために協力し合うことを表す「呉越同舟」。『敵に塩を送る』に似た状況です。
2:正正堂堂(せいせいどうどう)
態度や手段が正しくりっぱなさまである「正正堂堂(正々堂々)」。『敵に塩を送る』と同じく、ひきょうなことをしない、正しい態度を表す言葉です。
3:フェアプレー
主にスポーツの試合などで正々堂々とした試合態度を指すフェアプレーという言葉。公明正大な態度や行動という意味もあり、『敵に塩を送る』と同じく、困っている相手を助ける際にも使われます。
4:相手を利する(あいてをりする)
競争の相手方を有利にさせ、場合によっては自分にもうまく用いるときにも使う「相手を利する」。『敵に塩を送る』と同じく、競争相手に有利にさせる状態の言葉です。
対義語は?
『敵に塩を送る』の反対の意味を表す言葉にはどんなものがあるのか考えてみました。
1:傷口に塩をぬる(きずぐちにしおをぬる)
弱っているところに重ねて打撃を与え、さらに厳しい状態に追いやるという意味の「傷口に塩をぬる」。同じ塩を使った慣用句ですが、『敵に塩を送る』とは逆の意味と言えます。
2:人の不幸は蜜の味(ひとのふこうはみつのあじ)
快く思っていない相手の不幸を見て胸がすっとする様子を表す「人の不幸は蜜の味」。『敵に塩を送る』人とは反対の性格と言えそうです。
3:足元を見る(あしもとをみる)
相手の弱点や苦手なところを利用し、自分が有利になるように運ぶことを表す「足元を見る」。『敵に塩を送る』とは反対のやり方ですね。
4:不意打ち(ふいうち)
相手の準備ができていないのに攻撃をしかけたり、予告なしに物事を行ったりすることを表す「不意打ち」。こちらも『敵に塩を送る』とは反対の状況と言えそうです。
英語表現は?
では、『敵に塩を送る』は英語ではどのように言い表すことができるのでしょうか。最後に『敵に塩を送る』と言えそうな英語表現をご紹介します。
1:To show humanity even to one’s enemy.
「たとえ敵であろうと親切にする」という表現で、『敵に塩を送る』の英語表現としてよく使われるフレーズです。
2:Help an enemy in difficulty.
「窮地の敵を助ける」という意味の表現です。『敵に塩を送る』の英語表現と言えそうです。
3:Make a gesture of respect to the enemy.
直訳すると「敵に敬意を表する」。敵であっても尊敬するという表現で、『敵に塩を送る』と似た意味と言えそうです。
「敵に塩を送る」の意味と由来を知って、正しく使ってみましょう。
ビジネスの場でも使われる、『敵に塩を送る』。上杉謙信のような気持ちを持ちたいものですね。
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構成・文/kidamaiko