カリスマ数学教師・井本陽久先生が手がける究極の授業とは?みんなの学び場「いもいも」に潜入!教育は「教える」から「引き出す」へ 

 

教育と訳される“education”エデュケーションの語源は“educe”エデュース。「能力や可能性を引き出す」という本来の意味を知る福沢諭吉はeducatisionを「教育」ではなく「発育」とすべきと主張したそう。教える側ではなく学ぶ側が主役の「発育」はこれからの教育のコンセプトにもなっています。この連載では、そんな最先端の教育事情を紹介していきます。

カリスマ数学教師・井本陽久先生が手がける究極の授業とは?

子どもがもともと持っている力を認め、自分の頭で考える楽しさを伝える独特な学びの場「いもいも」。井本先生が「ジャングルのよう」と表現するその授業に、多くの大人が興味津々です。

ある日のいもいも

授業中、子どもたちは同時多発的に発言し、自由に席を立つ。課題に没頭している間も、とにかく笑顔が絶えないのが印象的。

数秒間の沈黙からスタート

授業の1時間以上前に来て自主的にホームルームを過ごしているという子どもたち。授業開始に向け、精神統一。

最初の課題は「見破れ!」

プリントを配ると解説や声かけもなく自然発生的に議論がスタート。「見破れ」の言葉をどうとるかも重要なポイント。

ロジックゲームに挑戦

4人一組で、1枚のロジックゲームに取り組む。時間は決められておらず、できたチームから次の課題へ進む。

A4の紙を折って立方体をつくる

A4の紙を折るだけで立方体をつくる。折り紙の風船を折る、水に溶かした紙をろ過して圧縮(!)など、さまざまな手法を用いた立方体が完成。

生徒による自由テーマ発表

美術館巡りが好きという男子生徒がテーマにあげたのは、ダリの『記憶の固執』。絵のタイトルや構図から、作者が何を描きたかったのかみんなで意見を出し合う。

破いた紙から正六角形をつくるには?

破った変形紙を折る手法だけで正六角形にする。最後まで答え合わせや解説はなく、クラスは21:00に終了。多くの生徒が、時間を過ぎても課題に取り組んでいる。

自分の頭で考える楽しさを学ぶ

「いもいも」とは、栄光学園の数学教師・井本陽久先生が特別に開講する、中学1~3年生を対象にした学びの場。「メシが食える大人、魅力的な人に育てる」をコンセプトに幼児教室を展開する「花まる学習会」が主催で、月に数回、1回2時間の教室を開講しています。学習塾の形式で行われていますが、進学塾と最も異なる点は、学校の成績アップを目的としていないこと。学力は一切問われませんが、「失敗をとことん楽しむ」ことと「諦めない」ことが参加条件です。

通うのは、学校も成績も個性も異なる中学生。複式学級のため「平方根」など知識の必要な問題を教材に使用することはなく、「論理的思考力」を養うことを目的にしています。この授業には、「子どもを通わせたい」という保護者や、見学希望の教育関係者が後を絶ちません。子どもも大人も惹きつける井本先生の授業の魅力とは? 次のページのインタビューで井本先生にお聞きします。

『今、考えているか 考えていないか』に注目

——「どんなに疲れていてもいもいもだけは行く」「大人は信用できないけどいもいもの先生たちなら信用できる」と中学生にいわしめる井本先生。保護者も「学校の成績が上がるかはわからない(笑)」と言いながらも、通わせ続けることを選んでいます。井本先生の授業づくりへの思いを伺っていきます。

——今のような授業スタイルができたきっかけは?

「論理的思考を扱いたいと思ったのは、例題主義、類題主義への疑問からです。あるとき、担当する学校の生徒が、解答用紙を持ってきたので『どこがわからないの?』と聞いたら、『わからないのではなく、このやり方で合っているかを聞きにきた』と言うんです。地頭のいい子は、自分なりの根拠を持たずに例題を使って問題を解くことをスムーズに行います。そういう子どもたちが東大に入っていくのを見て、まずいと思い始めたんです。そこで、次の年の授業を担当するにあたり、『理解しているか否か』ではなく、『できているかいないか』でもなく、『今、自分で考えているかどうか』に注目しようと思いました。間違っていても没頭していたら、よし。周りにもそう宣言しました。それ以降、学校でも「いもいも」でも、この方針で授業デザインをしています。

——どうして考えることが大切なのでしょうか?

「自分の頭で考えるということは試行錯誤をするということ。自分がこれでいいだろうと思っ

ていたことが間違っていたとき、『なんで違うんだろう?』『他に何があるかな?』『何か見落としたかな?』など、今まで自分が意識していなかったことに目を向けるようになります。それによって新しい視点が増えます。失敗をしないと、人は今までに見えなかったものを見ようとしないのです。例題主義で人から借りてきたやり方を当てはめて問題を解いていると、失敗しても何が間違っているかに関心を持てず、次の選択肢を選ぶだけになってしまいます。

両者は長い目で見ると大きく差が出てきます。試行錯誤をさせるためには“自分のやり方で失敗する”というのが重要です。それがどんなにトンチンカンな考えだったとしても、大人が介入せずに、たくさん失敗できる環境を保証してあげることが大切です。そうやって子どもたちが問題に没頭しているときというのは、何かしらモヤモヤした違和感を持っています。それがあるからこそ、できたときに達成感を味わえます。そのとき、「失敗をとことん楽しむ」「諦めない」という決まりごとが役立ってきます。それでも諦めそうになったときは、『お前のこういう考えいいよね』と伝えたり、『もっといける!』と声かけすることで、モチベーションが途切れない工夫をしています。

——家庭教育にも生かすことができそうです。

「そうですね。でもそのとき大人がしてはいけないことがあります。それは『試行錯誤をしなくちゃいけないよ』『失敗はたくさんしたほうがいい』などと、言って聞かせることです。言われたからやるのではなく、自分自身がやりとげたという体感が大切。大人がやるべきなのは、安心して没頭できる環境をつくってあげることです。子どもを伸ばすという感覚ではなく、君が自由にやっていいよと承認してあげること。それによって彼らは勝手に伸びるのです」

井本先生のお話を直接聞ける!対談イベントが開催されます

栄光学園中学・高校の数学でも独特の授業を行い、生徒に大人気だった井本先生。そんな彼の教え子のひとりに、HugKum読者にもおなじみの思考センス育成アプリ「シンクシンク」開発者の川島 慶さんもいらっしゃいます。川島さんは100万ユーザーを突破した人気アプリを開発し、算数オリンピックの問題制作も担当してきた、株式会社花まるラボの代表。

シンクシンクの開発者、川島 慶さんも、栄光学園時代に井本先生に数学を教わった。

おふたりの教育理念には「今、この瞬間、子どもが考えることを楽しんでいるか、わくわくしているか」という共通点があり、子どもが自ら考えることを楽しみ、意欲を持って学んでいるか、ということが何よりも大切だと考えます。

そんな子どもに育てるために親ができることはなんなのか?親は子どもとどう関わっていくべきなのか?対談では今、子育て中の親御さんが知りたいエッセンスが満載です。

オンライン対談【井本陽久(イモニイ)× 川島慶】子どもがどんどん自分で考えるようになる秘訣とは?

【イベント詳細】

日時:2020年3月7日(土)13:00-14:30
会費:
web参加 1000円(会議システム「zoom」を利用します。講演前日までにURLをお送りします)
対象:10歳までのお子さまを持つ保護者さまを想定した講演となります。

タイムスケジュール:
13:00- 13:20 講演①(井本 陽久)
13:20- 13:40 講演②(川島 慶)
13:40 -14:30 対談&質疑応答

詳細&お申し込みはこちら

プロフィール

井本  陽久 先生

「いもいも」講師、栄光学園中学高等学校非常勤講師。栄光学園にて数学教師を27年間勤めたのち、2019年度より非常勤講師となり「いもいも」に注力する。http://imoimojuku.net/

 

記事監修

雑誌『小学一年生』|1925年の創刊の国民的児童学習誌

1925年の創刊以来、豊かな世の中の実現を目指し、子どもの健やかな成長をサポートしてきた児童学習雑誌『小学一年生』。コンセプトは「未来をつくる“好き”を育む」。毎号、各界の第一線で活躍する有識者・クリエイターに関わっていただき、子ども達各々が自身の無限の可能性に気づき、各々の才能を伸ばすきっかけとなる誌面作りを心掛けています。時代に即した上質な知育学習記事・付録を掲載しています。


『小学一年生』2019年5月号 別冊『HugKum』 写真/中村力也 構成・文/山本章子

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