授乳とは、赤ちゃんが成長するのに欠かせない母乳やミルクをあたえる行為です。そんな大事な行為だからこそ、「授乳はいつまで?」「授乳時間やタイミングは?」「量はどのくらい?」といった疑問や悩みはつきないのではないでしょうか。そこでこの記事では、授乳にまつわる基礎知識を解説。乳首のくえさせ方のコツ、授乳時に痛いときの改善法、授乳中の食べ物・飲み物や薬について、授乳に役立つアイテムもご紹介します。
目次
赤ちゃんの授乳はいつまで?
授乳はいつまで続けるのか、また、3時間おきの授乳はいつまでなのかを解説していきます。
おっぱいやミルクは、平均1歳半〜2歳頃まで
おっぱいをやめる「卒乳」や「断乳」は、一般的には1歳半〜2歳頃までに行うといわれています。ただし、ママの母乳の量が少なかったり、病気などでやむを得ない場合は、0歳代での卒乳もあります。
なお、WHO(世界保健機関)は2歳かそれ以上までの母乳育児を続けることを推奨しています。ですが、いつまで授乳を続けなければいけない、という明確な期間はありませんので、ママのタイミングで授乳をやめてかまいません。
3 時間おきに授乳するのは生後3ヶ月頃まで
赤ちゃんが生まれてからしばらくの間は、授乳を3時間おきに行いますが、赤ちゃんが成長するにつれ、1回に飲める量も増えていき、授乳間隔も開いていきます。この3時間おきの授乳は、3ヶ月頃まで続くのが一般的です。
3ヶ月以降は、母乳なら欲しがるときに、ミルクなら3〜5時間おきを目安に授乳を行います。個人差があるため、赤ちゃんの様子を観察して授乳しましょう。
ミルクや母乳をあげる時間やタイミング、量
授乳のタイミングはどうしたらよいのか、量はどのくらいか、解説しましょう。
授乳時間などはミルクと母乳で違うの?
ミルクを飲む時間と母乳を与える授乳時間に違いはありません。どちらの場合も慣れてくると15分程度が目安といわれています。
ただし、ミルクと母乳では、授乳間隔に若干の違いがあります。母乳の場合は欲しがるとき、ミルクの場合は3時間以上おいてからというのが基本です。これは、ミルクは母乳にくらべて消化吸収に時間がかかるため。あまり時間をあけずに与えると、吐き戻したり消化不良となったりする可能性もあるので注意してください。
ミルクや母乳はいつあげる?
ミルクや母乳はいつあげるのがよいのか、目安を月齢別にご紹介します。
生後すぐ〜1ヶ月頃
ほしがるタイミングであげる(ミルクの場合は3時間ほど間隔をあける)
2ヶ月〜3ヶ月頃
母乳が欲しがるときに、ミルクは3時間おきにあげる(母乳の場合1日8〜10回、ミルクの場合1日6回程度)
4ヶ月〜5ヶ月頃
母乳は欲しがるときに、ミルクは3〜4時間おきにあげる(母乳の場合1日5〜7回、ミルクの場合1日5回程度)
母乳の場合の量
母乳の量の一般的な目安は次のとおりです。
生後0日〜生後7日まで
生後日数×10ml(+10ml)で計算します。たとえば、生後1日目なら10〜20ml、生後5日目なら50〜60mlです。
生後8日以降
赤ちゃんの体重1kgあたり、約20mlで計算します。たとえば、体重が3kgなら、1回60mlとなります。
ミルクの場合の量
ミルクの量の一般的な目安は次のとおりです。
生後0日〜生後7日まで
0日目は10ml、それ以降はこれに10mlずつ追加していきます。
生後8日~生後半月まで
1回80ml、1日に7回程度(1日の総量:560ml)
生後半月~生後1ヶ月
1回80~120mlを1日に7回程度(1日の総量560~840ml)
ミルクの場合、温度は?
ミルクの温度は、37℃くらいの人肌が適温です。目安としては、腕の内側にミルクを落とし、やや温かくく感じる程度にしてください。温度計を使うと安心です。
授乳時の新生児、乳首のくわえさせ方のコツ
授乳するときにはちょっとしたコツで、赤ちゃんに上手に乳首をくわえさせてあげましょう。ママの負担も軽くなりますよ。
赤ちゃんとママの体を密着させる
赤ちゃんの吸い付き方が浅いと、痛みを感じやすくなります。それを解消するには、赤ちゃんとママの体をしっかり密着させることが大切です。乳首が吸われているときに、赤ちゃんの下顎がおっぱいにくっつくくらい引き寄せるようにしましょう。
赤ちゃんの頭を動かしてくわえさせる
乳首をくわえさせるときに、ママのおっぱいを赤ちゃんの口にもっていくのではなく、赤ちゃんを引き寄せるように赤ちゃんの頭を乳首に近づけると、うまくくわえさせることができます。
乳首の向きは上向きに
乳首を深くくわえさせるには、乳首の向きを上向き気味にして入れてみください。そうすると、赤ちゃんが舌で首の根元の乳輪辺りを刺激しやすくなります。「チュッチュッチュ」という音がする場合は、うまくくわえられていないサイン。一度乳首から赤ちゃんをはなして、改めてくわえさせなおしてみてください。
授乳時に痛いとき、どうする?
授乳の際に痛みが生じる場合の原因、セルフケアの方法、気になる乳腺炎について説明します。
痛みの原因やセルフケア法
授乳時に痛みを感じる原因は主に3つあります。
おっぱいが授乳に慣れていない
1つ目は、おっぱいが授乳に慣れていないことが原因。これは、産後すぐのママに起こりがちなことです。というのも、産後すぐのママの乳首の皮膚は繊細で、毎日何度もおっぱいを吸われることに慣れておらず、痛みを感じてしまいます。徐々に乳首の皮膚がしっかりしてくると痛みは感じにくくなります。
乳腺の発達・拡張
2つ目の原因は、乳房への血流やリンパ液が増え、細かった乳腺が発達・拡張するためです。その刺激により、乳房が熱をもち、腫れたり、痛むことがあります。この痛みは産後2〜3日くらいたつと落ち着いてくるので、少し辛抱しましょう。
また、授乳を始めた頃にキューンとした痛みを感じるのは、哺乳の刺激を受け、母乳を一気に作ろうとすることが原因で起こります。
乳腺炎
3つ目は乳腺炎の可能性です。乳腺炎については、次の項目で解説します。
痛みを緩和するセルフケア
痛みを緩和するセルフケアには、次のような方法があります。
乳首が乾燥している場合
専用クリームなどで保湿するようにしましょう。そうすることで、乳首が乾燥して切れるということが少なくなるはずです。
胸が張って痛い
授乳回数を増やす、また搾乳するなどで痛みが和らぐことがあります。また、保冷剤や冷たいタオルを使って、胸を冷やすのもよいでしょう。
授乳時の痛みの原因やケア方法について、下記の記事でまとめています。参考にしてみてくださいね。
その痛み、もしかして乳腺炎?
胸の痛みは、もしかしたら乳腺炎かもしれません。乳腺炎とは、その名の通り、乳腺に炎症が起きることです。症状としては、胸の痛み、腫れ、熱を帯びることがあります。
原因
乳腺炎の原因は、母乳の通り道である乳管がつまること。赤ちゃんが飲む量よりも多く母乳が出ている場合、母乳が溜まり、しこりになり、乳管のつまりにつながってしまいます。
予防
乳腺炎を予防するには、
・授乳間隔をあけすぎないようにする
・授乳前に温かいタオルやシャワーでおっぱいを温め、しっかりおっぱいが出るようにする
・赤ちゃんの抱き方を調整し、しっかり飲めるようにする
のが効果的です。乳腺炎の詳しい情報は、下記の記事をご参考になさってください。
授乳中のママの食べ物・飲み物、これって大丈夫?
授乳中は、食べ物や飲み物などに気をつけなければならないのでしょうか。ここでは、カフェイン、はちみつ、お酒について、授乳中に口にしてもよいのかどうかをお教えします。
カフェインは摂取量に注意
ママがカフェインを摂取すると、母乳によって赤ちゃんにカフェインが移行する量は1%程度といわれています。この量はとても少ないものですが、カフェインの摂取量が多ければ多いほど移行する量も増えてしまうので、注意が必要です。
厚生労働省の「食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A ~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~」によれば、授乳中のカフェインの摂取量は1日300mgまでを上限にすることを推奨しています。ですので、コーヒーであれば、250mlのカップで2杯程度。紅茶であれば、250mlのカップで4杯程度、煎茶であれば250mlのカップで6杯程度を目安としてください。
また、カフェインの入った飲み物を飲むなら、授乳後がおすすめです。
下記の記事で、授乳中のカフェインが赤ちゃんへ与える影響や、授乳中のコーヒー、紅茶、緑茶の飲み方を解説しています。詳しく知りたい方はそちらをどうぞ。
ママのはちみつはOK
赤ちゃんにはちみつを食べさせてはいけない、というのはよくいわれています。その理由は、乳児ボツリヌス症を引き起こす可能性があるためです。では、授乳中のママははちみつを食べてもよいのでしょうか。
答えは、問題ありません。大人は消化器官が発達しているため、授乳中のママがはちみつを食べても、母乳を通して赤ちゃんにはちみつが移行することはないからです。
お酒はNG
お酒をママが飲むと、アルコールは母乳に移行してしまいます。ですので、授乳中のお酒は控えたほうがよいでしょう。
また、お酒は母乳の量や授乳期間にも影響を及ぼすともいわれています。これは、お酒を飲むことで母乳分泌に関与するホルモンである「プロラクチン」の分泌が妨げられるためです。このことも含め、授乳中のお酒は摂取するべきではありません。
でも、ちょっと息抜きをしたいのであれば、飲むことは可能です。授乳してお酒を飲むと、母乳中のアルコール濃度が30-90分で最高となります。その時間の授乳を避けたり、その時間に溜まった母乳を搾乳して捨てて、新しく溜まった母乳を与えるのだと問題ありません。
授乳中のこんなとき、どうすればいい?
授乳中に起こる疑問や悩みについて、よくあるケース別にお答えします。
授乳中に妊娠したら?
授乳中に妊娠が判明した場合、授乳を継続してもいいのか、中止したほうがいいのか迷いが生じることでしょう。判断に迷うようなら、かかりつけの産婦人科医に相談してみてください。医師によって見解が異なることがあります。
授乳中に花粉症にかかったら?
授乳中にも、薬による花粉症の治療は可能です。授乳中でも飲める薬には眠くなりにくく、母乳に移行する薬の量が少ない「アレグラ」や「クラリチン」(いずれも成分名:抗ヒスタミン剤)があります。また、点鼻薬、点眼薬は母乳にもほとんど移行しないので、使うことができます。
耳鼻科にかかるときには、医師に授乳中であることを伝え、治療してもらうようにしましょう。市販薬を購入する場合は、薬剤師に相談してください。
授乳中に風邪を引いたら?
ママが風邪をひいたとしても、ママの体調に無理がないようなら、授乳してもかまいません。これは、日頃の授乳によって、赤ちゃんがママと同じ病気になるリスクを低下させる抗体が、6ヶ月頃まで赤ちゃん自身に備わっているためです。ですので、母乳を通じて赤ちゃんが風邪をひくという可能性はほとんどないと考えられています。
ただし、ママのくしゃみやせきによって赤ちゃんに風邪をうつすということはあります。風邪をひいているときには、手洗いやマスクなどをして、赤ちゃんに風邪をうつさないようにしてくださいね。
授乳中の薬との付き合い方
授乳中には薬を服用してもよいのか悩むことがあるかもしれません。ここでは授乳中の薬との付き合い方について解説していきましょう。
授乳中に薬は使っていいの?
ママが薬を服用すると、母乳から赤ちゃんに移行します。ですが、抗がん剤や放射性ヨウ素、抗不整脈薬、抗てんかん薬、抗うつ薬、抗不安薬、医療用麻薬などの一部の薬を除き、赤ちゃんに及ぼす影響は少ないと考えられています。
風邪薬の飲み方
授乳中でも飲める風邪薬はあります。ですが、必ず医師、薬剤師に相談の上、処方してもらうようにしてください。葛根湯などの漢方薬も、服用してもよいか相談するようにしましょう。
母乳中の薬の濃度が濃くなるのは、薬にもよりますが薬の服用後2〜3時間後。ですので、授乳するタイミングとしては、薬の服用直前か直後がよいでしょう。
ロキソニンなどの鎮痛剤の飲み方
授乳中にも、鎮痛剤を飲んで痛みを和らげたいときがあるかもしれません。授乳中に安全に使用できると考えられている鎮痛薬には、
・カロナール(成分名:アセトアミノフェン)
・ロキソニン(成分名:ロキソプロフェン)
・ブルフェン(成分名:イブプロフェン)
などがあります。ただし、安全に使用できるといわれてはいますが、医師や薬剤師に相談の上、服用するようにしてください。
※参照:国立成育医療研究センター
風邪薬同様、薬の服用後2〜3時間後に母乳中の薬の濃度が濃くなるので、薬の服用直前か直後に授乳するとよいでしょう。
湿布の貼り方
湿布は、飲み薬に比べて母乳移行する薬の量はほんのわずかですので、基本的に用法、容量を守っていれば、湿布を使うことは可能です。
ただし、湿布薬のなかには医師や薬剤師に相談が必要なものもあるので、かかりつけの医師や薬剤師に相談の上、使用するようにしてください。
授乳アイテムのおすすめ
授乳アイテムには、授乳ケープ、授乳クッション、授乳服、授乳ブラなどがあります。使うと楽に授乳できるのでおすすめです。
授乳ケープ
外出先での授乳に役立つのが「授乳ケープ」です。ケープをつければ、どこでもさっと授乳できます。ポンチョ型やケープ型、ワイヤーの有無など、さまざまなタイプがあるのでママが使いやすいものを選ぶとよいでしょう。
どんな授乳ケープがあるのか知りたいというママに、下記の記事では、ママたちのアンケートの結果で使ってよかった授乳ケープをご紹介しています。ぜひ、チェックしてみてください。
授乳クッション
「授乳クッション」は、授乳の際にママのおっぱいとクッションの間に赤ちゃんを寝かせ、首や体を支えて授乳させるものです。ママの体に負担がかかるのを軽減してくれます。形にはU字型や抱き枕タイプなどさまざまあるので、卒乳してからも使えますよ。
授乳クッションを検討しているママに、下記の記事では選び方やおすすめの商品を紹介しています。
授乳服
授乳中の洋服は、意外と困りもの。そんなときには授乳服も検討してみてください。今や授乳服にはおしゃれなデザインがたくさんあり、パッと見では授乳服とはわからないものも。また、授乳口がついていたり、生地が重なったスリットを開くスラッシュなど機能性にも優れています。
授乳中の服装選びのお悩みやおすすめなどを下記記事でご紹介しています。
授乳ブラ
「授乳ブラ」は、授乳のときに胸をさっと出せる便利アイテムです。授乳が楽になるのはもちろん、補正してくれる効果もあります。
「授乳ブラ」には、ワイヤータイプ、ノンワイヤータイプ、バスト全体が出せる「フロントオープン」、ワンタッチでサッと胸を出せる「ストラップオープン」など、デザインもいろいろあります。ママ自身が授乳しやすいブラを選ぶとよいでしょう。
下記の記事では、マタニティーブラの使用期間、選び方やサイズと測り方をおすすめのマタニティブラをご紹介しています。参考になさってください。
授乳は、赤ちゃんとママの大切な時間
授乳にまつわる基礎知識をご紹介しました。授乳量や授乳間隔、授乳回数には、個人差があります。この記事でご紹介した数値はあくまでも目安です。赤ちゃんの体重が順調に増えていれば、目安の量や授乳間隔が多少違っても問題ありません。
授乳は、なかなかうまくいかないこともあるかもしれませんが、この記事を参考に、赤ちゃんとの大切な授乳タイムを過ごしてくださいね。
記事監修
河井恵美
看護師・助産師の免許取得後、大学病院、市民病院、個人病院等に勤務。様々な診療科を経験し、看護師教育や思春期教育にも関わる。青年海外協力隊として海外に赴任後、国際保健を学ぶために兵庫県立大学看護学研究科修士課程に進学・修了。現在はシンガポールの産婦人科に勤務、日本人の妊産婦をサポートをしている。また、助産師25年以上の経験を活かし、オンラインサービス「エミリオット助産院」を開設、様々な相談を受け付けている。
文・構成/HugKum編集部