過保護とは
“過保護”と聞くとどんなイメージを持ちますか?簡単に言うと、過剰に心配し、子どもが困らないように親が先回りして行動したり、子どもの言うことをすべて受け入れたりする状態です。
「あなた過保護だね」と言われると、思わずドキッとしてしまいますが、子どもを心配するのは親としては当たり前の感情ですよね。では、“心配”と“過保護”の違いはどこにあるのでしょうか。
過保護の意味
[名・形動]子供などに必要以上の保護を与えること。また、そのようにされること。また、そのさま。
『デジタル大辞泉』(小学館)によると、“過保護”にはこのような意味があるようです。「必要以上の保護」とは、どういうことでしょうか。例として、このような行動が挙げられます。
●子どもができることもすべてやってあげる
●子どもが失敗しないように先回りして手伝ってあげる
●わがままに思えることでも、親がなんでも言うことを聞いてしまう
“心配”との線引きが難しいですが、子どもの心身において必要以上の行動をとってしまうのは、“過保護”かもしれません。近年、「ヘリコプターペアレント」という言葉を聞くようになりました。
まるで上空を旋回するヘリコプターのように子どもの行動を監視し、少しでも困っている様子や失敗しそうな姿を見たら、すかさず助ける親のことや、子どもを管理・干渉する親のことを言います。
「子どものため」という心情からくる過保護は、一見すると愛情深い行動のように見えますが、子どもが成長する機会を奪いかねません。子どもと真剣に向き合っているからこその行動であっても、「本当に子どものためになっているの?」と自問自答することも必要です。
過干渉との違い
“過保護”に似て非なるものに、“過干渉”があります。どちらも必要以上の行動であることには変わりないですが、過干渉は親主体の状態だと考えられます。
親の中で、理想とする姿や目標、筋道が明確に立てられており、子どもがそのレールから外れないように徹底的に管理します。子どもが自分の意志を持つと干渉し、親の思う通りにコントロールするのが、“過干渉”です。
過保護が過度な心配から生じる行動に対し、過干渉は親のエゴから生じている行動と言えるでしょう。そこには子どもの意志が存在しません。この状態は大変危険で、子どもの心身に大きく影響します。
自分の好きなことがわからなくなったり、選択ができなかったり、いざ社会に出た時に自分の力で立ち上がれなくなってしまいます。
“過保護”も“過干渉”も親の気持ちが先走った状態。冷静に子どもを見てあげられているか、一度立ち止まって考えられると良いですね。
過保護な親の特徴・行動例
俗に言う、「過保護な親」にはどんな特徴があるのでしょうか。実際の行動例とともに、ご紹介します。
なんでもかんでもやってあげる
乳幼児期は身の回りのことをイチからやってあげる必要がありますが、ある程度の年齢になれば自分のことは自分でできるようになります。着替えや登園・登校の準備などもそのひとつです。
例えば年少の最初の時期は、まだお手伝いが必要な部分もありますが、徐々に1人でできることも増えていきます。園生活では「自分のことは自分でやる」という目標が立つこともあるでしょう。
まだ思うよう手が動かせず、子ども自身がイライラすることや、泣き出すこともあります。そうならないように先回りして親がやっていませんか?
できないことに苦労しながら取り組む姿に「かわいそう」と思うことがあっても、始めからなんでもやってあげるのは、場合によっては「過保護な行動」になりかねません。子どもが成長する過程と考え見守ってあげましょう。
始めからやってあげるのではなく、「今日はズボンだけ自分で履いてみよう」というように、ステップアップ形式で手伝ってあげると親も子も負担なく、自立が進みやすいですよ。
小学生以降は、できることは率先して自分でやるだけでなく、お手伝いもお願いしてみましょう。親にとってはいつまでも幼く見えますが、子どもはどんどん成長しています。
ある程度の年齢になったら、親は自立を促してあげるサポート役に回りましょう!
必要以上に甘やかす
スーパーやおもちゃ屋さんで、欲しい物があると買ってもらえるまで駄々をこねられた……なんて経験はありませんか?
子どもは自分の願望に正直!思い通りにいかないと、「ママ、きらい!」など悲しくなるような言葉が出てくることもあるでしょう。
泣いて手をつけられなくて途方にくれることもありますが、そうならないように子どもの言うことをすべて受け入れ甘やかしすぎるのも”過保護”の一種です。
子育ては忍耐と言いますが、時には対話をもって「できないことはできない」と子どもに伝えることも必要です。
泣いたりかんしゃくを起こしたりするたびに、おもちゃやお菓子を買ってあげると「泣いたら買ってくれる」と勘違いが起こります。
例え少額のものでも「買わない時は買わない」「できない時はできない」と伝えましょう。とはいえ、特に頑固な時期の子どもと向き合うのはママ・パパにとって大変です。
親子ともに無理のないように、対応していけると良いですね。
行動や友達関係について気にしすぎる
特に小学生以降は、学年が上がるにつれ子どもの社会ができあがっています。幼稚園や保育園までは、ある程度子どもの交友関係は把握できますが、小学生からはそうはいきません。
子どもを取り囲む状況が見えないと、とてつもなく不安に感じることもあるでしょう。しかし、いずれは親元を離れ自分の世界を築き上げていかなくてはいけません。
小学校の6年間は自分の社会を作り上げるために、大人の目が届きながらも自立の練習ができる重要な期間です。
「あの子とは仲良くしない方がいいよ」「どこに遊びに行くの?心配だから一緒に行くよ」と交友関係や行動に対し、必要以上に関わりすぎるのは“過保護”かもしれません。
アメリカインディアンの子育て4訓にもあるように、少年期は「手を離せ、目を離すな」という時期。
口を出したくなることがあっても、失敗や困難から学ぶこともあります。しっかりと見守りながら、背中を押してあげましょう。
家庭を安全基地と感じられるように、親はドシンと構えて、いざという時はすべて受け入れてあげられるような心構えが必要です。
ママパパの体験談
今回のアンケート結果では、実際にママ・パパが感じた「これは過保護じゃない?」と思う親の行動例が集まりました。
回答を読んでドキッとすることがあるかも!? 過保護がすべて悪いわけではありませんが、親子関係を振り返る良い機会になりますね。
過保護が子どもに及ぼす影響
親の過保護は、愛情の裏返し? そう捉えることもできますが、度を越えた過保護な行動は子どもに悪影響がある場合も。
ここでは、具体的にどんな影響が及ぶのかご紹介します。
自立できずに大人になってから困る
身の回りのことなど、親がなんでもやってあげることが日常化すると、それが当たり前になってしまいます。
しかし、園や学校では、自分でやらなくてはいけないことばかり。常に親がそばにいるわけではないので、結果的に子どもが困ってしまいます。
また、大人になってからも“自立心”が芽生えにくくなるでしょう。「いざという時は親がなんとかしてくれる」という気持ちが抜けずに、年老いた親のスネをいつまでもかじり続けるなんてことも…。
過保護に育った子どもが結婚して家庭を築いた時、初めて自分の困難に気づくことがあります。「やってもらって当たり前」の精神は、パートナーとの関係に亀裂を生みかねません。
将来を見据えても、過保護な行動は慎んだほうが良さそうですね。
自分をコントロールできなくなる
甘やかしすぎる過保護な行動が続くと、子どもの“自制心”が弱まってしまう可能性があります。子どもの願いを叶えてあげたいのが親心ですが、それも度が過ぎると逆効果になることも。
願望や欲求は、時にはわがままや自分勝手な行動につながります。しかし、そのすべてを受け入れてばかりでは、子どものなかで健全な欲求とわがままの違いがわからなくなります。
自分の社会ができあがると、自分以外の相手という存在が現れます。それまでは、ママ・パパと自分だけだったところから、お友達や先生を始めさまざまな相手が登場しますよね。
そうすると、自分の思い通りにいかないことに直面することもあるでしょう。もし自制心が鍛えられていれば、そういう場面でもセルフコントロールができるようになります。
しかし、過保護な環境に育つと思い通りにいかないことを受け入れられず、感情が爆発して自制が難しくなります。
“自制心”は自分を守る力のひとつ。甘やかしたほうがラクな時もありますが、適切な対応を心がけたいですね。
回復力が身につかない
「レジリエンス」という言葉をご存知ですか?日本語で、“回復力”や”しなやかさ”といった意味があります。
近年、回復力の重要性について問われることが増えています。さまざまなストレスが多い現代において、困難な状況を迎えてもしっかりと立ち直る力が必要です。
しかし、過保護な環境にいると困難や失敗を迎える前に親が助けてくれるため、回復力が身につきません。
親元にいる間は困難を感じずに過ごせていても、社会には多くの困難や失敗が待ち受けています。大人になってから初めて挫折を味わった時のショックは計り知れません。
幼いうちから、小さな失敗を繰り返していれば自然と回復力が身につきますが、いきなり大きな困難に直面するとうまく対応できず、場合によっては心身のバランスを崩してしまうことことも。
「かわいい子には旅をさせよ」という言葉の通り、心が傷んでも失敗や困難を経験することは、結果的に子どもの底力につながるはずです。
適度な距離感で子育てするために
ここまで、過保護な親の特徴や行動例、子どもに及ぼす影響について説明しました。それでは“過保護でない”育児をするためには、どうしたらよいのでしょうか?
過保護になってしまうのはなぜ?
そもそも過保護になってしまうのは、なぜでしょうか。そこにはさまざまな理由が隠れていると思います。
例えば、親自身が過保護に育ったことから、過保護な育児しか知らないことです。子育てをしていく上で、無意識のうちに自身が育ってきた環境をお手本にし、そういった連鎖が起きることがあります。
また、自分自身や子育てに自信が持てないことから、過保護になるケースも。「子どもが泣きやまず、かんしゃくを起こしたら困る」という思いから、必要以上に買い与えたり要求を通したり、子どもの言いなりになる場合もあります。
たとえ「だめよ」と言った時に「いや!」と言われても、本当に嫌われてしまうわけではありません。毅然とした姿を見せることも大切です。
心配しすぎ?と思ったら一呼吸
子どもは親が思っている以上に自立していて、常に挑戦しようという気持ちを持っています。しかし、親が心配しすぎて過保護な行動を取ってしまうと、その芽を摘みかねません。
もし、心配や不安から心がザワザワとした状態で子どもに接していたり、入り込みすぎていたら、一旦深呼吸してみましょう。
一度落ち着いてから、俯瞰して自分の状態を見られると良いのですが、なかなか難しい場合も。一呼吸置いて、「これは子どものためになるのかな?」と自問自答する時間を作り、子どもにとって過剰だと感じれば少し距離を取りましょう。
親子といえど、一対一の人間同士。自分と子どもを一心同体に考えすぎず、適度な境界を引くことが重要です。
周囲に目を向けてみる
もし、自身が過保護な環境に育ってきたことで、適切な親子関係がわからない場合は、ロールモデルになるような存在が見つかると良いですね。
子育ては十人十色、さまざまな形があります。正解はありませんが、周囲に目を向けてみて多様な親子関係を知ると発見があるかもしれません。
また、自分の子育てに自信が持てなくなったら、先生や友人、子育て支援員など信頼できる人に話をしてみるのもひとつです。
「少し離れたところから見守っても、子どもは大丈夫」と思えるように、心の負荷を軽くしていきましょう。
親自身の楽しみを見つける
過保護な子育てになる原因のひとつに、親がエネルギーのすべてを子どもに向けていることが考えられます。
子育てに真剣に取り組むことは素晴らしいですが、がんじがらめになってしまうと親子ともに苦しくなってしまいます。
親として、子育て以外にも自分自身の人生を生きることで、子どもとフラットに向き合えるようになるはずです。適度な息抜きの時間を作り、好きなことや楽しみを見つけて、自分の欲求にも目を向けてみると良いかもしれません。
“自分の子ども”という目線だけでなく、“1人の人間”として子どもを見てあげることが自立につながります。自立が促されていくと、親自身もだんだんとラクになりますよ。
自立した親子関係を築くことが家族の幸せにつながる
子を想うがあまり、過保護な行動を取ってしまうケースは少なくありません。しかし、場合によっては子どもが苦しむことにつながります。
親子間であっても、適度な距離感が大切です。もちろん年齢に応じて、全面的に守ってあげなくてはいけない時期もありますが、社会に出る準備期間は遠くから見守る忍耐力が必要です。
反対に、自身の子育てが「過保護すぎるかも……」と神経質になるのも、ママ・パパの心にとって健全ではありません。心配な時は、一呼吸置いて子どものためになるのか自問自答。
愛情のある親が過保護になってしまうのは無理もありません。子どもに「心配しすぎ!」と鬱陶しく思われることもあるでしょう。試行錯誤しながら、子どもの成長を見守っていけると良いですね。
お互いが心地よい、自立した関係を築けるように心がけていきましょう。
構成・文/秋音ゆう