お子さんの習い事はどうやって決めていますか? 水泳・サッカー・ピアノなど定番の習い事と違って、ちょっとなじみの薄い習い事も世の中にはありますよね。例えばバレエはその代表例ではないでしょうか。
存在はよく耳にしますし子どもの教育にも良さそうだけれど、敷居の高さとミステリアスな部分があってちょっと実態が分かりづらい習い事のはず。そこで今回はバレエ教室とはどのような世界なのか、富山県にある人気の教室・和田朝子舞踊研究所へお邪魔して教えてもらいました。
和田朝子舞踊研究所はどんな場所?
北陸以外で暮らす人には聞き慣れない名前だと思いますが、そもそも和田朝子舞踊研究所とは50年以上の歴史を誇るスクールで、劇団四季や宝塚歌劇団、谷桃子バレエ団、東京バレエ団などへ続々と教え子を送り込む人気の舞踊教室です。
今回話を聞いた和田伊通子さんのお母さん・和田朝子さんが県内の幼稚園新築を機に園長協力の下で生徒3人から始めた舞踊教室に端を発するそう。
教室が大きくなる過程でクラシックバレエの要素も取り入れ、今では国内外に優秀なダンサーを数多く輩出する、あるいは国内外のコンクールで入賞を繰り返す人気の教室となりました。
旧銀行の建物をリノベーションしたという富山スタジオへ今回はお邪魔し、上述の和田伊通子さん、さらに同研究所の教師・松理沙さんにバレエの習い事に関する素朴な疑問を聞いてきました。
併せて幼児クラスのレッスン風景も見学させてもらったのでその様子をレポートします。
思ったとおりに体を動かす技術
最初の質問はバレエの向き不向きについて。バレエをわが子に習わせるとなると、うちの子は向いているのか・向いていないのか、気にする保護者が多いのではないでしょうか。
例えばサッカーやプールはそれほど難しく考えずに始めさせられても、バレエは競技人口の少なさ・敷居の高さがあるので、習わせる側もちょっと構えてしまうのですよね。
その点を和田伊通子さんに聞くと「バレエは一生のお友達であり、生涯を華やかにしてくれる趣味にもなってくれます。プロになれるかなれないか、向き・不向きなどはそれほど気にする必要もないと思います」との回答がありました。
ご自身も和田朝子舞踊研究所の出身で、同研究所においてクラシックバレエを教える松理沙さんも「仮に幼児の段階でバレエを始めても、5つの基本ポジションやバーを使った練習など、皆さんが想像するバレエの練習は体の成長が十分ではないのでできません」との話。
特に幼児向けのレッスンでは、バーにつかまり脚を上げるだとか、トウシューズを履いてクルクルと回るなどの練習をいきなり始めるのではないと言います。むしろ体の柔軟性や、思ったとおりに体を動かす技術の習得が学びの中心となります。
「バレエを始めるメリットの1つとして、他のスポーツの上達が挙げられます。一流のアスリートがダンスを習えばすぐに上達できるのと同じ理屈で、思ったとおりに体を動かす技術をバレエで身につけられれば、他の競技を始める際にも役立つと思います。その意味でぜひ男の子にも習ってもらいたいと思います」と松理沙先生は教えてくれました。
似たような話として、小さい男の子は同年齢の女の子に比べてスキップができない子も多いと和田伊通子さんは言います。体が自由に動かせない状態でサッカーや野球など何か特定の競技を始めさせるよりも、バレエのように体を動かす技術を学ぶ習い事を一度挟んでから始めさせたほうが、上達は早いと言います。
もちろん本当にプロを目指す上では、バレエに向く骨格・脚の長さなども現実問題としてあるみたいですが、子どもの場合は成長期で体もがらっと変わる可能性が(良くも悪くも)あります。
あまり難しく考えないで、体を動かす技術・踊る楽しさ・一生の「お友達」(ダンス)との出合いをわが子に与えるべく、気軽に始めさせてもいいみたいですね。
バレエを習うと賢くなる!?
小学校に進学してバレエの基礎練習が始まると、体を動かす技術の習得がさらに進んでいきます。
そもそもクラシックバレエには伝統的な型(フォーム)があり、基本の動きを安定して美しく再現するための練習メソッド(方法)も確立されているみたいです。
鏡の前に立ちながら自分の頭で考えて、フォームに修正と改善(できた・できない)を繰り返す日々を通じて、論理的にゴールへ向かう思考力も身につくと言います。
「その意味で、バレエを習うと賢くなるとも思いますよ」とは松理沙さん。
ずっと続けてきたクラシックバレエが、本当の意味で楽しくなってきた時期は、松先生ご自身も小学校4年生くらいだったと言います。
それまでは幼少期のころからの延長で習っていただけだったと言います。鏡を見て自分の工夫が体の動きに反映される達成感を覚え始めると、いよいよバレエにのめり込んでいったみたいですね。
情操教育として幼児期にわが子にバレエを始めさせ、小学校の入学を機にやめさせる保護者も目立つと言います。しかし体と頭がぐっと育ってくる小学生の時期からが、本当の意味でバレエの始まりなので、そのあたりも含めて習わせる時期と期間を考えると良さそうですね。
発表会(費用)は親の価値観で判断すればいい
バレエをわが子に習わせるメリットをここまで教えてもらました。しかしバレエの習い事と言われると、ひとつ不安な点が多くのパパ・ママにあるのではないでしょうか。ずばりお金の問題ですね。特に参加料を徴収される発表会の負担を心配する人も少なくないはず。
この聞きにくい問題をあえて単刀直入に質問すると、発表会については親の価値観で判断すればいいと和田伊通子さんは教えてくれました。
一般的なバレエ教室の場合、通常のレッスンに加えて成果をお披露目する発表会が催されます。ピアノの発表会と同じイメージですね。
この発表会参加に際しては通常の月謝に加えて参加費を徴収されるケースが一般的です。しかしそもそもの話として、バレエ教室によって発表会のある・なしの違いが存在すると和田伊通子さんは言います。
また発表会のある教室であっても参加義務の有無には各教室によって違いがあり、さらに言えば発表会のクオリティについても違いがあるのだとか。例えば保護者の手づくりでコストをかけずに発表会を開催する教室もあれば、一流のプロにお願いして本格的な舞台を用意する教室もあるのですね。
例えば和田朝子舞踊研究所の場合は2年に1回のペースで発表会が開催され、参加は自由だと言います。しかし舞台のクオリティに関しては一流の照明・音響・美術のスタッフを招へいし、本格的な世界観をつくり込むそう。
プロのスタッフのギャラも当然発生するため、それなりに経費も膨らみます。その総経費を参加者全員で割る中で、出演時間の長い・短い(出演曲数)、ソロ・群舞、また配役によって子ども(の保護者)の負担も変わってくるのだとか。いわば和田朝子舞踊研究所の場合は、役回りによって少なくない参加費が必要になるケースですね。
どうしてそこまでして本格的な舞台を用意するのかと聞けば、
「やはり子どものころに一流のプロのつくった舞台に立つ経験は、かけがえのない財産になると思うからです」
と和田伊通子さんは言います。だからといってプロのつくり込んだ舞台がすべてではなく、保護者のつくるアットホームな発表会を否定しているわけでもないようです。
習わせる保護者が子どもに何を体験してもらいたいかがすべてで、その基準に沿って発表会の有無・参加強制の有無・発表会のクオリティを事前に調べ、バレエ教室を決めればいいのですね。
「レッスンに必要なタイツもレオタードもシューズも、随分と手ごろな値段の商品が今は増えてきました。例えばトウシューズも普通のスニーカーと同じくらいの値段で購入できるのもあります」と松理沙さんも補足してくれました。
「お金が高そうだから」と二の足を踏むパパ・ママには、予算に見合うバレエ教室を選んでわが子を通わせる選択肢もあると分かりました。
送迎以外の協力が必要な「母の会」とは?
バレエ教室と言えば、お金の問題だけでなく、保護者の熱心な参加・協力が求められる印象もあります。この点を最後に聞いてみると、和田朝子舞踊研究所の場合は「母の会もなくしました」と回答がありました。
母の会とはバレエ教室の運営をサポートする保護者組織で、送迎以上の役割が従来のバレエ教室の保護者には割り当てられると言います。
母の会は全国のバレエ教室にも共通する制度だと言います。しかし一方で和田朝子舞踊研究所のように母の会が存在しないケースもあるそう。
発表会のスタンスに加えて「母の会」の有無についても教室選びの段階で確かめておくと、教室側と保護者双方に残念な食い違いが生まれなくなりそうですね。
以上が和田朝子舞踊研究所の富山スタジオで学んだバレエ教室の世界でした。
取材中に特に印象的だった点は、和田伊通子さんと松理沙さんの姿勢と身のこなしでした。インタビュー中も背筋が常に伸びていて、声が大きく、表情が生命力にあふれていました。バレエ教室の呼び鈴を玄関で誰かが押すと、弾かれたように椅子から立ち上がり玄関へ飛んでいく姿も目にしました。
「一生のお友達」であるバレエやモダンダンスを習う子どもたちは、こんな感じですてきな大人になるのかなと思いました。併せてお子さんの習い事選びの参考にしてくださいね。
文・写真/坂本正敬
【取材協力】和田朝子舞踊研究所
・富山スタジオ・事務所:富山県富山市中野新町2丁目1-1
TEL: 076-425-3391
・小杉スタジオ:富山県射水市戸破1332-1
TEL: 0766-56-3391
公式ホームページ:https://www.asakowada-dance.com/index.html
月謝:月謝(幼児クラス)は週1回4,950円。週2回以上のコースもあり。