8歳までに「多様な動き」を体得すると運動神経がよくなる!子どものメンタルも整う「スポトレ」メソッドが全国へ広がってほしい

神奈川県藤沢市で、スポーツトレーナーの伊藤彰浩さんが主宰している「スポトレ」。未就学の5歳くらいから小学校6年生くらいまでの子どもたちが自由に集まり、体を動かす地域活動です。学校崩壊が起こっている地域でこのスポトレを始めたところ、子どもたちの意欲や自己肯定感が高まり、親子ともども健康に楽しくなっていき、しかも運動神経がよくなっていきました。そのスポトレの中身を、「全国で広めてほしい」と願う伊藤彰浩さんが、どう運営したらいいかを教えてくれます。学校の放課後レクや子ども会のイベントなどにも活用できるといいですね!

スポーツは「気晴らし、楽しみ、遊び」。勝ち負けは考えない

――「スポトレ」は、学校崩壊で体育の時間も奪われて、体を動かす機会を失った子たちのためにスタートしたのですね。

はい。子どもたちに身体を動かす楽しさを感じてもらい、心身の成長を促すようなことができないかと考え、地域の中で子どもたちが自由に集まって1時間ほど身体を動かす機会を作りました。

異年齢の子たちをだれでも受け入れるため、動きは難しくなく、助け合いながら競わずにできる運動や遊びばかりです。競わないから子どもたちの気持ちは安定し、自分より運動能力の低い子のこともそのまま受け入れます。「失敗したね」と言うのでなく「ナイスチャレンジ」と言ってあげれば、自己肯定感も上がる。運動の仕方だけでなく、このスポーツマインドも伝えて行きたいと思いました。

そもそも、「スポーツとは何か」を考えてみましょう。スポーツというと野球やサッカーのような勝ち負けを競う「競技スポーツ」を思い浮かべますが、スポーツの語源は「気晴らし、楽しみ、遊び」。勝ち負けではありません。スポーツの本質である遊びや体を動かす楽しみの気持ち、ワクワクする気持ちを大切にするといいですね。

 

「体験したことのない動作」をたくさん体験することで運動神経UP

――では、どんなふうに身体を動かせばいいでしょうか。

競技の専門的なスキル、技術を上げるのは中学生からでいいんです。小学生のときは「多様な動き」を経験させることに重点を置きます。動作の経験値を上げるのです。走ったりジャンプしたりする中でも、たとえば後ろ向きにスキップするとか、走りながら飛ぶとか、やったことのない動きをたくさん体験しておくんですね。子どもの頃の多様な運動体験によって、子どもの運動能力は伸ばすことができます。

つま先を交互にさわりながらのスキップ
つま先を交互にさわりながらのスキップ

よく例に出される「スキャモンの発達曲線」を見ても、運動神経の発育は10歳で頭打ちです。運動の「プレゴールデンエイジ」と呼ばれる運動神経の発達がもっとも著しい58歳の間に、どんな運動経験をしたかによって、9歳以降の「ゴールデンエイジ」の運動能力に大きな差がつきます。 

4つのメニューは36の基礎動作を組み合わせて

――では、実際に「スポトレ」を実践するときには、どういうメニューにしたらいいでしょうか。

「スポトレ」はだいたい以下のようなメニューを1時間程度で行います。

1.ウォーミングアップ

2.走る

3.走る×ジャンプ

4.子どもたちが考えた遊び

これらの遊びの中で、できるだけ多くの動作を組み合わせて実践できるよう意識するといいでしょう。以下の「36の基礎動作」を意識してみてください。

36の基本動作

国立青少年教育振興機構「幼児期の遊びを中心とした運動プログラム開発・普及委員会

特に、1のウォーミングアップでは、まずストレッチなどで身体をのばしたあとに、いろいろな動きをします。前向きのスキップのあとに後ろ向きのバックスキップ、横向きのサイドステップ、つま先をさわりながらのスキップなど、同じスキップでも違う身体の動かし方をするスキップをどんどん経験していきます。 

2の「走る」は、すべての運動の基礎になるので、必ず取り入れたいですね。氷鬼やしっぽ取り鬼ごっこなど、ゲーム性のある鬼ごっこが子どもたちに人気の遊びです。それとは別に、反射神経を育てるためには、いろいろな姿勢から走り始めるのもよいでしょう。たとえば、すわった状態で床に手をつけないで素早く立ち上がって走る、あおむけから走る、という走り方を体験するのもいいでしょう。スタートするときの姿勢を変えることで、敏捷性や瞬発力を高めることができます。

 

3の「走る×ジャンプ」は、36の基礎動作の中の「走る」と「跳ぶ」を組み合わせた動きです。たとえば、助走をつけて伸縮性の高いロープを飛び越します。ロープは足をひっかけても十分に伸びてケガをしないものを使います。このとき、だれでも飛べる低い高さから、4段階に上げていき、自分の成長とチャレンジ精神につなげます。飛べる能力は人それぞれなので、高いロープは飛べなくてもかまいません。でも、チャレンジする気持ちは育てましょう。

伸縮性の高いロープを飛び越える遊び
伸縮性の高いロープを飛び越える遊び

4の「子どもたちが考えた遊び」では、あらかじめ子どもに遊びを考えてもらい、当日説明をしてもらって全員でトライします。危険性がないか、運動能力に差があっても楽しめるかなどは子どもたちにもしっかり考えてもらい、大人もしっかりと見守り、当日問題があればみんなで話し合ってルールを変更してもよいでしょう。

理由を添えて静かに注意すれば子どもも理解できる

――伊藤さんが主宰する「スポトレ」では、子どもたちが本当に楽しそうに生き生きとしています。ただ身体を動かすだけでなく、心も動いている感じです。

「スポトレ」では、身体を動かすだけでなく、コミュニケーションを取る中で、子どもたちに自主性や自己肯定感、相手を尊重する気持ちを育てていきたいと思っています。

まず、最初と最後は挨拶をきちんとします。「よろしくお願いします」「ありがとうございました」など、声に出してちゃんと頭を下げて挨拶をすることで、感謝の気持ちが生まれ、仲間の尊重につながります。

かといって、統制する感じにならないようにします。自由で楽しい雰囲気をつくりたいですね。子どもを頭ごなしに叱ったり、大きな声を出すのはやめましょう。注意するときは静かにわかるように説明して注意します。

「助走をつけて飛ぶからちょっと下がってあげて」

「食べながら運動すると喉に詰まったりするから、食べ物は置いてきて」

など。理由も添えてわかりやすく短めに伝えると、理解しやすいです。

子どもたちのマインドをほめ、自分から話すのを待つ

――声かけのしかたは大切ですね。

 そうですね。ひとりひとりをよく見て、その上で声をかけます。うまくできたら「やったね!」。できなくてちょっとがっかりしているときは「ナイスチャレンジ」。挑戦する気持ちをほめてあげましょう。人はだれでも承認欲求があります。ポジティブな声かけをすると、子どもたちはもっと身体を動かすことが好きになり、自分もほかの子に対して「ナイスチャレンジ」が言えるようになります。

 

それから、子どもに質問をするときは、あまり漠然とした問いでないほうがいいです。たとえば、振り返りのときの質問では、

「今日のスポトレ、どうだった?」より、

「今日は何が楽しかった?」

のほうが答えやすい。少し答えの範囲を狭めてあげます。

 

また、本人が考えている間は待ちます。「どうなの?」などとせかしたり、「あれが楽しかったんでしょ?」などと大人が答えを言わないようにします。一方的にならず、子どもを一人の人として尊重し、その子たちが何を考え、望んでいるのかを理解してあげることが、子どもとのグッド・コミュニケーションにつながります。

 

その信頼感の土台の上に、身体を動かす楽しみをのせて、子どもが子どもらしく、おもいっきり楽しめる1時間をつくってあげたいと、いつも思っています。

 

地域の学級崩壊がきっかけで始まった「スポトレ」の話、前半はこちら

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地域の公園を使って自由に集まり運動をする「スポトレ」 藤沢市のある公園には三々五々、子どもたちが集まってきています。未就学の5歳くらいから...

お話を伺ったのは

伊藤彰浩さん|理学療法士

株式会社MEDI-TRAIN代表取締役。福岡県北九州市出身。久留米大学卒業後、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナーの資格を取得したのち、北九州リハビリテーション学院にて理学療法士免許を取得。JIN整形外科スポーツクリニックでトップアスリートから子ども、高齢者まで幅広い年代に向けたリハビリテーションを経験。東京広尾の女性専用パーソナルトレーニングスタジオにてダイエット指導や産前産後のコンディショニングを経験。現在は医療、フィットネス、教育分野などで幅広く活動中。一般社団法人日本ウォーキングスペシャリスト協会理事。スポトレ

 取材・文/三輪 泉

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