子どもの読解力を伸ばすために、いくつになっても「読み聞かせ」や、役割分担をして一緒に音読する「ごっこ読み」は大いに役立つものですが、もちろん「一人読み」も大切です。
いずれはスピーディーな黙読能力が求められるようになるのは言うまでもありません。ですが、文字が読めるようになったからといってすぐに突き放して「一人読み」に任せてしまうのはとても危険です。
絵本や漫画を一人で黙々と読んでいる本好きな我が子の姿を見て安心していると、小学校の高学年になったあたりで、もしかすると大きなつまずきを経験することになりかねません。
本を読むのは好きなのに、国語の成績が上がらない。もしそのような事態が生じているとすれば、それは実は「読んでも読めていない」からなのです。そして本人も親もそのことに気づかないまま時がすぎ、たとえば中学受験をする段になってはじめて事の重大さに青ざめる、ということもあります。
「読んでも読めていない」子ども
絵本や漫画さえ与えておけば何時間でも静かにしていてくれるお子さんは、親にとってありがたいものです。ですが、一人で読めるようになったからといって、すぐにお子さんだけに任せてしまうのは危険です。
たとえば、想像力のたくましいお子さんであれば、絵だけを繋ぎ合わせて、自分なりのストーリーを頭の中で作り上げているかもしれません。それでは、想像力は鍛えられても、読解力は伸びません。また、意味のわからない語句は飛ばして読んでいるかもしれません。というよりその可能性は非常に高いものです。大人でも、多少意味のわからない部分は飛ばし読みしてすませてしまうのではないでしょうか。
ですが、子どものうちはまだまだボキャブラリーを増やす必要があります。語彙力を抜きにした読解力はありえません。それなのに、読み飛ばしてもなんとなくわかった気になってしまうことが習慣化してしまうと、いくらたくさん読んでも読解力はそれ以上伸びないのです。
読書量と読解力は比例する――私も教師になってはじめの頃はそう思っていました。たしかに多くの場合はその通りなのですが、この法則があてはまらない生徒が一定数いることに気づきました。
以前の記事もお伝えしましたが、高校時代に1000冊の本を読んだという大学受験生が、入試の現代文で非常に低い点数しかとれなかったという例もあります。
一方、中学三年間の国語で薄い文庫本一冊だけをとことん読み込む授業を通じて、灘中高を東大合格者数日本一に育てた、故橋本武先生の例もあります。「読解力を育む」という点で大事なのは、多読より精読だということです。
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では、お子さんがほんとうに読んでいるものを理解しているか、確認するためにはどうすればいいでしょうか。もちろん、普段からたくさん本を読んでいるお子さんなら、あまり心配する必要はないかもしれません。ただ、ほんとうに読めているのか、一度チェックしてみても損はないと思います。
まずは、音読してもらい、それをきちんと聞いてあげるようにしましょう。それにより、次のいくつかの段階の理解度チェックができます。
もう黙読の段階に入っているお子さんだと音読するのを嫌がるかもしれませんが、「読みなさい」というのではなく「聞かせてもらいたい」という姿勢で接してあげてください。興味をもって耳を傾け、なにか問題があってもその都度厳しく指摘するというより、より上手に読めるためにどうすればいいかを一緒に考えるようにしてください。
「音読」でわかる危険と対処法
音読させておけば100%安心ということはありません。ですが、お子さんが読むのをきちんと聞いてあげれば、抱えている問題は明らかになります。
1)文字や語句の理解
兆候:つっかえる。
音読していれば、わからない字や語句を読み飛ばすことはできません。まずここで一つめの理解度チェックができます。読み間違いをしている場合も、おそらく聞いているだけで気づくでしょう。
そういうときには、字の読み方を教えてあげ、意味については前後の文脈を見ながら一緒に考えることができます。辞書を引くことのできる年齢であれば、もちろん自分で調べるようにしてもいいでしょう。
あるいは、あまりにつっかえる箇所が多ければ、それはまだお子さんにとって一人で読むのは難しすぎる本なのかもしれません。その場合は、「読み聞かせ」や「ごっこ読み」が向いているでしょう。
▼「ごっこ読み」についてはこちら
2)意味の理解
兆候:行を飛ばして読む。同じ行を二度読む。
文字を覚えたての頃にしばしば起こることですが、1行飛ばして読んだり、同じ行を二回読んだりしていても本人が気づかない、ということがあります。
これは、文字を音声化することに気をとられてしまい、文章の意味の理解がおろそかになってしまっているという証拠です。どんなに立派に音読できても、意味が本人の頭の中に残っていないようでは、たんなる音読ソフトになっているだけで、読解力は向上しません。
こういう場合は、読むスピードをぐっと落とし、内容をよく考えながら読むよう促してください。文字を音にすることと、意味を理解することが同時に頭の中で起きるようにすることが肝心です。
3)文脈の理解
兆候:おかしなイントネーションで読む。
単語レベルのイントネーションの話ではなく、文章の中で強く読むべき箇所を間違える、ということです。
たとえば「当店には、辛すぎないカレーもあります」という文章を「当店には/辛すぎない/カレーも/あります」と四つに区切るとしたとき、一番強く読むべき箇所はどこでしょうか。
おそらくは「辛すぎない」が妥当でしょう。
もし「当店には」を強く読むとすれば、それは直前に辛すぎるカレーしかない他店の話が出ていた場合でしょうし、「カレーも」を強調するなら、そのお店はきっと麻婆豆腐もトムヤムクンも辛くないことで有名なのでしょう(そんな品ぞろえの店があるかはわかりませんが)。
大学生でも授業で朗読する際、あるいはテレビのコマーシャルやニュースでさえも、しばしば強調の置き場所を間違えた読み方をしていることがあります。ことばの表面に注意がとられ、書いた人の意図にまで意識が及んでいないからです。
それで、ほんとうに意味を理解しているかチェックするために、少し大げさに抑揚をつけて読むように促してみてください。
4)感情の理解
兆候:機械的に平板に読む。
これは、物語を読むときの話です。
朗読には、あえて抑えて読むというやりかたもあるのですが、お子さんにはぜひ、過剰なまでに感情をこめて読んでもらうようにしてください。
「ごっこ読み」のときにもそうでしたが、声色を変えるのは有効です。誰がしゃべっているのかだけでなく、どういう気持ちでしゃべっているのかもわかるように読めていれば、内容もしっかり理解していると言えるでしょう。
聞いてあげることで、読む力が上がる
年齢的なこともあると思いますが、文字をおぼえ、ようやく一人で読みはじめる頃であれば、間違いなく親がそばにいて自分の音読を聞いてくれることを喜ぶでしょう。そのとき、良き聞き手となってあげてください。
表情で反応し、邪魔にならない程度に相槌を打ったり質問したりすることで、お子さんの読み方は上達することでしょう。それはとりもなおさず、文章に対する理解が深まったということでもあるのです。