『笠地蔵』とは?
『笠地蔵』とは、お爺さんがお地蔵さまに笠を被せてあげるシーンが有名な、昔話の一つ。今でも、小学校の国語の授業で採用されているところも多く、大人も子どももなじみ深いお話といえるでしょう。
『笠地蔵』は、貧しい暮らしでも相手を思いやる心を忘れなかったお爺さんが、最終的に幸せになるハッピーエンドのお話です。このように、周りに親切にした人が幸せになるお話は、昔話ではよくみられたケース。古来の日本では、「大晦日の夜に神様が訪ねてくる」と信じられていたようで、『笠地蔵』も、この信仰がベースではないかと言われています。
このような、「神様が訪ねてくる」ことをテーマにした昔話は、日本のみならず形を変えて、ヨーロッパや東アジアなどでも存在するようです。「親切にした人が幸せになるべき」という考え方は、世界共通なのかもしれませんね。
『笠地蔵』のざっくりストーリー
お話の舞台は、雪降る大晦日の日。貧乏なお爺さんが、正月の餅を買うため、町に笠を売りに出かけました。しかし、笠は全然売れません。諦めて帰る途中、6体のお地蔵さまが寒そうなのを見て、不憫に思ったお爺さん。売れなかった笠5つと、足りない分は自分の笠をお地蔵さまにかぶせて帰宅しました。
翌朝、目を覚ますとお爺さんの家の外から、何やら声が聞こえてきます。その正体は、お爺さんにお礼を持ってきたお地蔵さまたちでした。宝物や食べ物をたくさん頂いたおかげで、お爺さんとお婆さんは無事正月を迎え、幸せになったというお話です。
『笠地蔵』から学べること
子どもの頃は、『笠地蔵』といえば「お地蔵さまに大切な笠をかぶせてあげる、心優しいお爺さん」のイメージが強かったのではないでしょうか? 確かに、お爺さんは優しい人です。しかし、大人になってあらためて読み返してみると、お爺さんの決断を受け入れたお婆さんも、相当心が広い人であることが分かります。
普通なら、笠が売れなくても、次回町に行く機会に売りに行くこともできますよね。お人好しのお爺さんを責めてもよさそうなものですが、お爺さんの行動を受け入れ、ねぎらいの言葉をかけたお婆さん。そんな心優しい夫婦だからこそ、幸せが訪れたのかもしれませんね。
『笠地蔵』から学べることは、主に以下の3点。
・情けは人の為ならず(人のためにしたことは、いずれ自分に帰ってくる)
・慈悲の心
・相手の選択を尊重すること
『笠地蔵』を通じて、大人も子どもも「自分以外の者を尊重し、思いやる大切さ」を学ぶことができるお話といえるでしょう。
『笠地蔵』のあらすじ
本によって、お爺さんの売り物が違うこともありますが、大晦日のお話ということは共通しているようです。ここでは、一般的に知られているストーリーのあらすじを紹介します。
* * *
ある雪国の山奥で、心優しいお爺さんとお婆さんが2人で暮らしていました。笠を作っては町に売りに行っておりましたが、貧しい生活を送っていたようです。ある年、大晦日がやってきたので、お爺さんはお正月のお餅を買うために、町に笠を売りに行くことに。笠は全部で5つ、お婆さんは「火を焚いて待ってるからね」とお爺さんを送り出しました。
お爺さんが町につき「傘はいらぬかー」と声をかけても、年の瀬に売れるのは米や餅、魚ばかり。誰もお爺さんの笠には見向きもしません。笠は全く売れませんでした。だんだん日も暮れてきて、雪まで降ってきたので、お爺さんは仕方なく、笠を背負って帰りました。
吹雪の中たたずむお地蔵さま
途中、広い野原に差し掛かったころにはついに吹雪に。野原には、6体のお地蔵さまが立っているだけですが、顔からつららをたらして、とても寒そうなことに気がついたお爺さん。「なんとむごい。はだかで雪をかぶるなんて寒いなあ」と、売りものの笠をお地蔵さまにかぶせてあげたのです。
しかし、笠は5つしかありません。お爺さんは、自分の笠を取って最後の1体にかぶせてあげると、吹雪の中そのまま家に帰りました。
家では、お餅を期待してお爺さんの帰りを待っていたお婆さん。お爺さんは、雪で真っ白になり帰宅すると「傘が売れなかったので、お地蔵さまにかぶせてきた」と話しました。
お婆さんは、お爺さんを責めることもなく「それは良いことをしたね。笠があっても今夜の足しにはならないからね。今日は漬け物でも食べて年を越そうか」とお爺さんの行動をねぎらったのです。夫婦はおかずなしの夜ごはんを食べて、早々と寝ました。
外から何やら物音が…
元旦の朝、明け方を過ぎたころ、遠くからなにやら音が。「よういさ、よういさ、よういさな」とどこからかソリを引いているかけ声がしたのです。
お爺さんとお婆さんは、「元旦の朝からソリひきとは珍しいことだな」と、不思議に思いましたが、しばらく様子を伺っていました。すると、かけ声はだんだん家の方に近づいてくるではありませんか。
「よういさ、よういさ、6体の地蔵だが、笠をかぶせてくれたお爺さんの家はどこだ。お婆さんの家はどこだ」と聞こえてきたので、お爺さんは、思わず「おお、ここだ」と返事をして扉を開けました。
お地蔵さまの恩返し
お爺さんが扉を開けると、そこらじゅうが輝き、笠をかぶった6人の人たちが「よういさ、どっこいしょ」と俵を玄関前に置いて帰っていったのです。
お爺さんとお婆さんが早速その俵を開けてみると、お正月に家に飾る宝物やお餅、魚などのごちそうがどっさり数え切れないほど積まれていました。6体の笠をかぶった人たちは、お爺さんにお礼を持ってきた、昨夜出会ったお地蔵さまたちだったのです。
こうして、お爺さんとお婆さんは無事にお正月を迎えることができ、二人はその後幸せに暮らしました。
『笠地蔵』の登場人物
『笠地蔵』には悪い人たちは登場しません。ここでは『笠地蔵』の登場人物を紹介します。
お爺さん
雪国で貧しい暮らしを営むお爺さん。帰宅途中、雪にさらされたお地蔵さまに笠をかぶせてあげた優しい人。
お婆さん
お爺さんと同様、心の優しい人物。大切な売り物の笠をお地蔵さまにあげたお爺さんに、「それはよかった」と答えた寛大な人。
お地蔵さま
お爺さんの家と町の間にたたずむ6体のお地蔵さま。雪よけの笠をかぶせてくれたお爺さんたちに、餅や魚、宝や金を届けてくれた。
おすすめの『笠地蔵』の絵本を紹介
メジャーなお話である『笠地蔵』は、絵本の種類も豊富です。ここでは、親子で楽しめそうな『笠地蔵』の絵本を紹介します。
かさじぞう 福音館書店
味わい深いイラストが、雪深い季節の物語をさらに温かみのあるものにしてくれる一冊。昔ながらの語り口調で描かれているので、読み聞かせのムードを高めてくれそうです。
かさじぞう(はじめての世界名作えほん) ポプラ社
こちらは、アニメーション会社のイラストを採用した絵が目を引く一冊。漢字にはふりがなつきなので、読み聞かせだけでなく、子どもだけの読書の一冊としても使用できます。
身近なお地蔵さまに感謝の気持ちを
普段なんとなく見かける地域のお地蔵さまですが、私たちの暮らしを見守ってくれている大切な存在です。もし、お地蔵さまをみかけたら、日頃の感謝を込めて、拝んでみてはいかがでしょうか? きっと温かい気持ちなれると思いますよ。
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構成・文/吉川沙織(京都メディアライン)