親権とは?
親権という言葉は知っていても、詳しい内容は分からないという人は多いのではないでしょうか? 親権には、共同親権と単独親権があります。親権の意味や日本における親権制度の仕組みを解説します。
未成年の子どもに対する親の権利・義務
親権とは、「未成年の子どもに対する親の権利・義務」です。具体的には、子どもの利益のために監護や財産の管理などを行います。
日本では2022年4月1日に施行された改正民法により、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。「未成年の子ども」とは17歳以下を指します。
親権には「共同親権」と「単独親権」があります。両親の婚姻中と離婚後では、親権が以下のように変わるのが原則です。
●婚姻中(共同親権):父親と母親の両方が親権を持つ
●離婚後(単独親権):父親か母親のいずれかが親権を持つ
離婚届には親権者の記入欄があり、親権者を決定しなければ離婚届は受理されません。
海外は共同親権が一般的
法務省民事局の資料によると、G20を含む海外24カ国のうち、離婚後の単独親権が義務付けられているのは、日本・インド・トルコです。その他の国は、共同親権と単独親権の両方が認められています。
共同親権と単独親権のどちらがよいかは一概にはいえませんが、単独親権では子どもの奪い合いが生じやすいのが実情です。無断で子どもを連れ去って別居し、片方の親の親権を侵害する事例も珍しくありません。
連れ去り別居や子どもの奪い合いは、親権を失って子どもと会えなくなるのではないかという、単独親権ならではの不安が関係しているという意見もみられます。
親権を構成する2つの権利
親権は、「財産管理権」と「身上監護権(しんじょうかんごけん)」の二つで構成されています。それぞれの内容を詳しく見ていきましょう。
財産管理権
財産管理権は、「子どもの財産を管理する権利」と「財産に関する法律行為について子どもを代表する権利」で構成されています(民法第824条)。
子どもの財産の管理には、財産の保全・利用・改良・処分が含まれます。ただし、営業の許可を受けた子が管理する「営業財産」は例外です。
「財産に関する法律行為について子どもを代表する権利」とは、親権者が法定代理人になることを意味します。未成年者は、契約をはじめとする法律行為を単独で行えません。子どもの財産の売却や贈与、借金などについては、親権者に子どもを代理する権限があります。
身上監護権
身上監護権とは、子どもを監護する権利です。未成年者は社会人としては未成熟なため、親権者が日常の世話や教育をする必要があります。身上監護権は親の権利であり、義務であるといえるでしょう。具体的には、以下のような内容が含まれます。
●身分行為の代理権:身分行為を行う上での同意および代理権
●居所指定権:子どもの生活拠点を決める権利
●懲戒権:子どもを厳しく指導する権利
●職業許可権:子どもの職業を許可する権利
「身分行為」とは、婚姻・離婚・離縁・養子縁組など、身分上の変化が生ずる法律行為を指します。
離婚後の親権に関するQ&A
親権者の決定は、どのように行われるのでしょうか? 身上監護権と監護権の違いや親権者変更の方法など、離婚後の親権に関するQ&Aをまとめました。
親権者は父親と母親のどちらになる?
親権者は父母の協議で決定するのが基本です。今後の生活や子どもの利益を考え、どちらが親権を持つべきかをしっかりと話し合わなければなりません。
協議が合意に至らない場合は、「離婚調停」を行います。離婚調停とは、双方が家庭裁判所に行き、協議によって自主解決を目指す方法です。調停委員が仲介者となるため、冷静な話し合いができる可能性があるでしょう。
離婚調停が不成立に終わった場合は、家庭裁判所に「離婚訴訟(裁判)」を申し立てます。離婚訴訟とは、裁判で離婚の成立を目指す手続きで、親権や養育費の支払いについても判決が下されます。
なお、家庭内の争いには「調停前置主義」が適用されるため、調停をせずに訴訟は起こせません。
親権者の決定に子どもの意思は反映される?
協議や調停で親権者が決まらない場合は、離婚訴訟へと進みます。親としては、子どもの意思が判決にどれだけ影響するのかが気になるものです。
子どもの年齢が15歳以上の場合、裁判所は子どもの意思を聴取しなければなりません(家事事件手続法第169条)。実際のところ、10歳前後の子どもであれば、意見を尊重されるケースが多いようです。裁判所が親権を判断する基準は以下の通りです。
●監護の継続性維持の原則
●乳幼児期における母性優先の原則
●子の意思尊重の原則
●兄弟姉妹不分離の原則
子どもの意思だけで親権者が決定されるわけではないことを覚えておきましょう。
出典:家事事件手続法 第2章 第169条| e-Gov法令検索
身上監護権と監護権の違いは?
身上監護権と監護権は同じ意味です。親権から身上監護権を切り離した場合、「監護権」という呼び方に変わります。法律上は、親権と監護権を別々の親に定めることが認められているものの、同一であることが望ましいとされています。
例えば父母が親権を主張する場合、父親に親権(監護権なし)を譲り、母親が監護者になる方法を提案するケースがあります。この場合、親権者は子どもの財産管理のみ、監護権者は子どもの監護のみを担います。
実際に子どもを引き取るのは、監護権を持つ母親です。父親は子どもと一緒に暮らさずに、財産管理や財産に関する法律行為の代理などを行うことになるでしょう。
親権者変更は可能?
離婚後の親権者を変更する際は、家庭裁判所に親権者変更調停事件を申し立て、「調停手続き」を行います。調停が合意に至らなければ、自動的に「審判手続き」が開始される流れです。親権者が行方不明の場合は、親権者変更の審判を申し立てられます。
親権者変更調停事件を申し立てても、親の都合による理由は認められません。親権者の変更を容易に認めれば、子どもの安定した生活が損なわれてしまいます。変更が認められる可能性が高いのは、以下のようなケースです。
●親権者が行方不明
●親権者が死亡、または重篤な病気を患っている
●親権者が虐待や育児放棄をしている
●15歳以上の子どもが親権者の変更を望んでいる
国会では共同親権の導入を審議中
2024年3月8日、離婚後の共同親権を導入する民法の改正案が閣議決定され、同27日、衆院法務委員会で審議入りし議論が本格化しました。国会で成立すれば、公布から2年以内に施行される見通しです。共同親権には、どのようなメリットや問題点が考えられるでしょうか?
共同親権のメリット
共同親権が認められれば、父母の親権争いの激化が回避できるという意見があります。同居親は子育ての負担が軽減される上、養育費を受け取りやすくなるケースもあるでしょう。
単独親権の場合、非親権者は親権者の了承を得なければ、子どもと交流ができません。共同親権となれば、別居親にも子どもと関わる権利があるため、面会や交流がより円滑になります。
子どもは父親と母親の両方から愛情を受ける機会も増え、父親または母親としかできない体験が得られるというメリットも考えられます。
共同親権の問題点
共同親権を選択すれば、同居親は別居親に対する面会拒否ができなくなります。相手から家庭内暴力(DV)やモラハラを受けていた人は、関係性が断ち切れなくなるでしょう。そのような親から共同親権を主張された場合には子どもに危害が及ぶ恐れもあり、慎重な措置が必要です。
さらに共同親権が成立した後は、子どもは父母の家を行き来する二重生活となるケースもあるため、体力的・精神的に負担がかかる可能性があるでしょう。父母の家が離れていれば、交通費もかさみます。
親権と家族のあり方を考えよう
現時点において(2024年4月1日)、日本では離婚後の共同親権は認められていません。国会では親権についての議論がなされており、今後は単独親権と共同親権のいずれかを選択できるようになるかもしれません。
単独親権には、子の連れ去りや奪い合いが起きやすいという指摘があり、多くの先進国では共同親権を採用しています。しかし共同親権にもメリットとデメリットの両方が存在するため、一概にどちらがよいとはいえません。この機会に、親権と家族のあり方を考えてみてはいかがでしょうか?
※この記事は2024年4月10日、共同親権のメリット・問題点について一部加筆・修正して再公開しております。
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構成・文/HugKum編集部