絵本作家の方はどのように絵本と出会い、楽しんでいるのでしょうか。あたたかなクレヨン画で注目を浴びる加藤休ミさんにうかがいました。
不思議すぎて何度も読んだ絵本
幼いながらも謎を解こうとしていた…生涯忘れられない絵本
私が子供の頃、両親は喫茶店を営んでいて忙しく、祖母が私と弟の世話をしてくれました。とはいえ一緒に遊んでくれるわけではなく、保育園に通っている頃からよくひとりで絵本を読んでいましたね。中でも好きだったのが『てぶくろ』です。雪の中に落ちていた手袋にネズミが住み込むんですが、そこにカエルやウサギ、キツネが「自分も入れてくれー」と押しかけてきてぎゅうぎゅう詰めに。その絵を見るたびに「こんなことありえない!」と思っていました。最後には元の手袋になっているのも不思議でたまらなくて。絵を見続けていれば謎が解けるに違いないと、繰り返し読んでいました(笑)。
もう一冊、生涯忘れられないほど衝撃を受けたのが『とうもろこしおばあさん』です。アメリカ・インディアンの民話で、ある村に、おばあさんがひと晩泊めてほしいとやって来て、親切な若者が泊めてあげるんです。そのお礼に、おばあさんはものすごくおいしいパンを焼いてくれるのですが、「一体これは何?」とたずねても「とうもろこし」と答えるだけ。不思議に思った若者がある日、テントを覗くと、おばあさんが着物の裾を上げて太ももをかき出すと、トウモロコシの粒が落ちてきたという……。
その後の顛末、絵のインパクトもすごくて、何度も読みました。最近、弟も実はこの絵本にハマっていたと初めて知ったんです。強烈ですが、オススメです!
不思議と人の線がつながる
きっかけはいたずら描き!
子供の頃から体育よりも絵が好きでしたね。高校では美術部に所属していましたが、仕事になるとは思わず、卒業と同時に北海道から上京したのは、芝居をやりたかったからです。といっても経験もツテもなく、約2年で挫折。
そんなある日、勤め先の人が私のいたずら描きを見て、「イラストレータという仕事があるよ」と教えてくれたんです。「絵を描いてご飯が食べられるのか!」と知って、出版社に持ち込みを始めたら、不思議と人の縁が繋がったんです。役者を目指していた時とはちがったので、「自分は絵を続けてもいいのかも」と思うようになりました。その後、第11回「ピンポイント絵本コンペ」の優秀賞に入りました。編集者の方が「絵本にしましょう」と言ってくださったことから生まれたのがデビュー作の『ともだちやま』です。緑の山を滑り降りられたら気持ちがいいだろうなあ、とか子どもの頃に憧れていたことをもとにお話を考えました。
絵本は教科書じゃない
当たり前の日常や自由な展開を繰り広げる作品
絵本は教科書じゃないですよね。だから、教訓が入っていなくてもいいと思うんです。それを改めて感じさせてくれたのが『くらす』でした。小さな港町で、お父さんは市場で仕事をし、お姉さんはお嫁に行き……と、ささやかであたたかな暮らしを淡々と描いている。大好きな西村繁男さんの『おふろやさん』もそうで、当たり前の日常をていねいに描いているのが素晴らしいなと思うんです。それから、おくはらゆめさんの『やきいもするぞ』は焼き芋をしておならを出しまくる、というぶっ飛んだ展開に絵本の自由さを感じた作品。絵本を読んでいて「プー」と初めて音が聴こえました(笑)。
「これだ!」と感じるものを題材に
国や文化を超えて楽しんでもらえる絵本を作りたい
私はクレヨンとクレパスで絵を描いていますが、そもそもは画材として安いことと、やっている人が少なかったから選んだんです。でも今は、クレヨン画でどこまで表現できるかにすごく興味があります。食べ物もそのひとつで、もともとは雑誌の仕事でサンマの定食を描いた時に「おいしそう」とほめられてから描くようになりました。食ベ物は必ず自分で味わってから描きます。そうでないと本当のおいしさが表現できないんです。白いごはんをおいしそうに描くのが、今のテーマですね。いつか国や文化を超えて楽しんでもらえる、おいしいものの画集や絵本を作りたいです。
自分が興味あるものを描いていく中で、好きな落語をもとにした『ながしまのまんげつ』、相撲を題材にした『りきしのほし』が生まれました。これからも引きつけられるものを見つけてどんどん描く、というスタンスでいきたいです。
加藤休ミさんのおすすめ絵本
『とうもろこしおばあさん』
秋野亥左牟(画)、秋野和子(再話)福音館書店 本体800円+税
一夜の宿を借りにきたおばあさん。村の若者が泊めてあげるとおいしいパンを作ってくれました。ところがその作り方を知ってびっくり仰天! トウモロコシの起源を紹介した民話。
『てぶくろ』
ウクライナ民話、エウゲーニー・M・ラチョフ(絵)、内田莉莎子(訳) 福音館書店 本体1000円+税
雪の中に落ちていた片方の手袋にネズミが住み込むと、次々に動物たちがやって来て、最後にはクマも! 1965年初版のロングセラー。
『おふろやさん』
西村繁男(作) 福音館書店 本体900円+税
立派な屋根と煙突のあるおふろやさんに家族で出かけたあっちゃん。懐かしくて賑やかなおふろやさんの様子を生き生きと描いた名作。
『やきいもするぞ』
おくはら ゆめ(作) ゴブリン書房 本体1400円+税
森の動物たちは焼き芋が大好き! お腹いっぱい食べた後は「おなら大会」のはじまりです。そこへおいものかみさまも現れて……。親子で大爆笑必至。
『くらす 五感のえほん5』
森崎和江(作)、太田大八(絵) 復刊ドットコム 本体2200円+税
海辺の町を舞台に描かれる日本の暮らしの情景。ノンフィクション作家の森崎和江が綴り、太田大八があたたかな絵でまとめた伝説的作品。
加藤休ミさんの絵本
『きょうのごはん』
加藤休ミ(作)偕成社 本体1200円+税
猫が町中を夕飯パトロール。焼きさんまにオムライス、お寿司、どれもおいしそう! 家族の笑顔と幸せにあふれた、読めば食欲をそそられる絵本。
『ながしまのまんげつ』
林家彦いち(原作)、加藤休ミ(文・絵) 小学館 本体1500円+税
林家彦いちの自伝的創作落語を絵本化。豊かな自然とかけがえのないものに満ちた離島での暮らしが、目の前に広がる。
加藤休ミ
1976年北海道生まれ。クレヨンとクレパスを用い、ノスタルジックな風景画やリアルな食べ物の絵を描く。2010年、第11回「ピンポイント絵本コンペ」優秀賞受賞作をもとに初の自作絵本『ともだちやま』(ビリケン出版)を出版。その他の絵本に『りきしのほし』(イースト・プレス)、『おさかないちば』(講談社)、『かんなじじおどり』(BL出版)、『いっすんこじろう』(内田麟太郎/文、WAVE出版)など。加藤休ミのクレヨン画室(katoyasumi.exblog.jp)
提供元 「おひさま」2016年12/1月号