決して子どもを怒りたいわけではないのに、気がつくとずっと叱ってばかりで、怒りすぎた自分に自己嫌悪、なんていうこと、ママならきっと心当たりがありますよね。
でも、「怒ること」と正しい向き合い方ができれば、子どもの力に気づいたり、子どもの力を伸ばしたりするきっかけにできるのです。怒りのメカニズムがわかれば、怒らないママになれます。『そのイライラは手放せます! 怒らないですむ子育て』の著者でもあり、対人関係療法の第一人者・精神科医の水島広子さんにお聞きしました。
ママの心のざわつき要因
「足りないところ」さがしの「心配の子育て」を手放す
足りないところばかりを気にして不安になるのは「心配の子育て」ともいえます。何をするにも、「何か足りないところがあるのではないか」「そのために後で取り返しがつかないことになるのではないか」ということを考えてしまうのです。
こういう姿勢は、子育てにおいては必要なものだと思う人もいるかもしれません。親とは子どもを守るべき存在。つねに危険に目を光らせることこそ親の仕事、と思うのでしょう。
その考え方そのものは、決しておかしくはありませんし、親の責任感を反映したものだといえますが、そこには問題もあるのです。
子供の「現在」を見てあげよう
もちろん一つは、自分自身にとって大きなストレスになって、子どもに対する怒りも量産されてしまうということ。
でもそれ以上に問題なのは、子どもの「現在」を見ることができなくなることです。じつは、子育てのカギは「現在にいること」なのです。自分を責めてしまうとき、目の前の子どもとのつながりが断たれると前述しました。「何か足りないところがあるのではないか」「そのために後で取り返しがつかないことになるのではないか」ということばかり考えてしまうときも、それと同じです。
私たちの目は未来の心配ばかりに向いてしまい、目の前にいる子どもを見ていません。あるいは「未来の心配」というフィルターを通してしか、子どもを見ることができなくなってしまうのです。
つまり、子どもの気持ちや一つひとつの言動を、「未来にとってどういう意味があるか」というふうにしか見られなくなってしまうのです。
「現在」を見ないと子どもの努力には気づけない
どんな子どもも、その子なりに努力しています。現在の子どもに注目してあげると、努力しているところが必ず見つかるものです。
しかし、この「努力」というのは、大人から見て必ずしも好ましい形で見えるわけではありません。じつは、ママが怒ってしまうようなときは、子どもが努力しているときでもあるのです。親の期待と違うことをするから、親は怒ってしまうのですが、子どもが親の期待どおりにロボットみたいに動くとしたら、あるいは本当に余計なことを何もしないとしたら、それこそ心配になりませんか?
子どもは子どもなりに一生懸命生きている
子どもなりにいろいろと試行錯誤しながら一生懸命生きているから、「つい怒ってしまう」ようなポイントが生じるのです。ただふざけてまわりを困らせているようなときですら、そうなのです。子どもとはエネルギーのかたまりで、いろいろな遊びを通して自分がもっている能力を伸ばしていきます。そうやってのびのびと育ちながら、同時に、その社会的な意味づけも学び、「こういうところで騒ぎすぎると困る人がいるんだな」ということを学んでいきます。最初から世の中を破壊しようとして騒いでいるのでもなければ、親を困らせようとして駄々をこねているわけでもないのです。
「子どもは一生懸命生きているんだな」という感覚は、「現在」の子どもを見ていない限り得られないものです。なぜなら、「何か足りないところがあるのではないか」「そのために後で取り返しがつかないことになるのではないか」というフィルターは、「足りなそうなところ」「取り返しがつかないことになりそうなところ」ばかりを誇張して見せてくるものだからです。
「こうあるべき」をやめることで「信頼の子育て」に近づきます
「あなたはこうあるべき」と子どもを変えようとするのをやめると、子どもの「現在」が見えてきます。そこにいる子どもは、その子なりに現在を一生懸命生きている存在なのです。
「足りないところさがし」を基本姿勢にする「心配の子育て」の対極にあるのは「信頼の子育て」です。
「足りないところがあるのではないか」「後で取り返しがつかないことになるのではないか」というフィルターを手放して子どもの「現在」を見ると、子どもががんばっているところに気づいたり、「子どもにできること」を伸ばしたりすることもできるのです。
これらは基本的に、子どもは一生懸命生きている存在で、様々な力をもっているということを信頼したもの。綱引きをやめるということは、「信頼の子育て」につながるのです。そしてそれこそが、親が子どもに与えられる「無条件の愛」といえるものです。
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ついつい怒ってしまうけれど、子どもは本来親を癒やす存在。怒りとのつきあい方を学ぶことで変わることができます。読めば子どもが愛しくなる、母親としての原点に帰ることのできる1冊。
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著者・水島広子(みずしまひろこ) 精神科医。日本における対人関係療法の第一人者。2000年から二期5年間、衆議院議員を務め、児童虐待防止法の抜本的改正などを実現。現在は、対人関係療法専門クリニック院長。二児の母。著者HP
写真/石川厚志 再構成/HugKum編集部