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知識の詰め込みから、探究の時代に
宝槻先生「皆さんは、大学入試で評価されるポイントが変わってきていることをご存じですか? 知識や技能が問われていたこれまでの受験から、主体性や多様性、協働性が重視されるようになっています。
また、大学入試改革だけでなく、高校教育も変わっています。今、高校の科目には【古典探究】【地理探究】【日本史探究】など【探究】と名の付く科目が増えています。与えられた課題を解決する“勉強”ではなく、自ら課題を見つけて解決する“探究”が、重視されるようになってきました」
宝槻先生「2000年頃に、入学者の7割がペーパーテストの一般入試、3割が推薦だった大学入試も、今では一般入試、推薦入試が半々に変化してきました。推薦入試では“これまでにどんな探究をしてきたか”が、問われるようになっています。詰め込み型の勉強が苦手でも、ある分野に興味を持って探究してきた子どもが評価されるようになってきたわけです。
親御さんは、偏差値や知名度の高い大学や学部に引かれがちですよね。でも、それって子どもたちの自由な生き方につながるんだっけ? というところを考える時期に来ているのです」
探究力を引き出す「自発型の熱中タイム」!
宝槻先生「では、子どもに探究力を身に付けさせるにはどうすればよいでしょうか。これは、親御さんの伴走力にかかっています。お子さんの興味のあることをとことんやらせて、熱中タイムを応援することがとても重要です。
今、子ども達の周りにはYouTubeやゲームといったあらがいようのない力を持つものがあります。しかし、これらがもたらすのは“依存型の熱中タイム”。この体験だけでは将来、消費者にしかなれません。一方、工作、スポーツ、昆虫など、自分で試行錯誤する“自発型の熱中タイム”を通してクリエーティブな体験をしてきた子は、サービス提供者側に回ることができると考えています。親の力でどうにかしてYouTubeやゲームから引きはがし、“自発型の熱中タイム”を作ってあげましょう!」
親に求められる提案力とは
宝槻先生「“この図鑑を読んでみたい”、“この実験をやってみたい”と、子どもから言ってきてくれたらうれしいですよね。ただ、これができるのは、既に自ら探究する力が身に付いているお子さんです。彼らは、どうすれば自分の好奇心が満たせるかを知っています。しかし、できないのが当たり前。親はきっかけづくりをしてあげましょう。
例えば親から誘って外へ連れ出したり、面白そうなものを買ってみたり、話しかけてあげたり。子どもにフィットする提案を次々にしてあげるのです。ただし提案には、YouTubeやゲームに勝る魅力が必要です。親御さんはこの提案力を磨いていく必要があります」
宝槻先生「私が子どもの頃、父は大量の本を家に用意していました。食事中に何か話すと“それならこの図鑑に詳しく載っているぞ!”とすかさず差し出してくるのです。常に、子どもの興味を引きそうな内容の本やDVDを用意しておき、タイミングを見計らって提案してくれる父親でした。
子どもの性格、子どもの個性に向き合いながら、日常の中で提案のタイミングを逃さないことが大切です。子どもが興味を持ったタイミングで手渡してあげることは、探求する心を引き出すためにとても重要。私もわが子に対して実践しています」
宝槻先生「マンガも立派な教材になります。父からは本やマンガを1ページ読むごとに1円もらえると言われ、『日本の歴史』『世界の歴史』『竜馬がゆく』などを全巻読みました(笑)
ご褒美には賛否あると思いますが、子どもにとって、“マンガ教材を読むことは楽しい”という内発的動機を引き出すのは難しいこと。ご褒美という外発的動機があったとしても、読む楽しさに気づかせてあげることが大事だと考えています」
新聞の書き写しで国語力を磨く
宝槻先生「先ほど紹介した歴史マンガのように、事実に基づくストーリーを楽しく学ぶことは人生の栄養になります。ノンフィクション映画やドキュメンタリー番組も同じ類です。父からは、新聞の書き写しもさせられました。これも、当時はご褒美に釣られていたわけですが、書き写しは日本語の文章のリズムを身体的に体得することができるため、国語力を磨く方法として最適です。実際、私の生徒で、新聞記事の書き写しを続けた結果、国語の偏差値を5から70に上げた子がいました。その子は、400字詰めの作文用紙にして、通算2,000枚書いていました。
私達は言葉を使って物事を考えます。つまり国語力を磨くことは思考力を高めることにつながります。国語力を磨くサポートは積極的にしていただくと良いと思います」
「心の引き出しに体験を詰めてあげて」
参加者の方からも質問をいただきました。その一つをご紹介します。
Q.自分から課題を見つけられる子やいろいろなことに興味が持てる子もいれば、何をすればよいか分からない子もいます。違いは何でしょうか?
宝槻先生「自分からやりたいことが見つかる子は“種がまかれている子”。幼少期にワクワクするような体験をしており、その体験の中から選んでいます。
やりたいことが見つからない子も焦らずに、親御さんから“あれはどう?”、“これはどう?”と提案をしてあげてください。心の引き出しの中にいろいろな体験を詰めてあげることで、いずれ自分で引き出しの中から選べるようになりますよ」
子どもの個性を愛し、肯定して
宝槻先生「まずわが子の個性を好きになってあげてください。子どもの個性に対しての不安を手放し、同時にできるだけ愛してあげることが、親自身の安心感にもつながります。私は仕事柄、多くの親御さんにお会いしますが、素敵だなと思うお母さんやお父さんの共通点は、子どもへの肯定感があるというところです。学校の勉強ができないと不安になるのは自然なことですが、理科や社会が好き、アートが好きという個性は、国語や算数ができることと同じように愛してあげて欲しいと思っています」
新聞でお子さんの可能性を引き出す手助けを
宝槻先生のセミナーの様子をご紹介しました。お子さんの個性を尊重し、親の提案によって、その子が夢中になれるものを見つけられたらよいですよね!
思考するための基盤となる国語力は、どんな道を選んでも必要となる力。先生からご紹介のあった新聞の書き写しは、磨き抜かれた文章に触れられるうえ、科学や歴史文学など、興味の入り口となる情報に接する良いきっかけとなりそうです。
子ども向けの新聞もおすすめ。マンガやイラストで四字熟語やことわざを学べるコーナーもありますよ。気になった方は是非、試してみてはいかがでしょうか。
お話ししてくれたのは
文・構成/寒河江尚子