インテリアショップ「イデー」所属後、独立。雑貨やインテリアのデザイナーとして、親子に大ヒットした「fun pun clock(ふんぷんくろっく)」のデザインも手がけた土橋陽子さん。インテリアにまつわる記事を執筆したり、ライフスタイルのコンサルティングも行ったりと、多方面で活躍中です。
モンテッソーリ教育を勉強中の土橋さんがつくるインテリアには、いつも「家族の笑顔」が中心にあります。私たちがかんたんに取り入れられる「家族のためのインテリア」のヒント、今回は最終回です。
目次
子育てで、自分が「望むこと」に立ち返ってみましょう
子どもが自分で「選ぶ」機会をたくさんつくる
親も子どもたちも家にこもる毎日が続きますが、そんな日々を少しでも有意義に、楽しく過ごそうとパパやママも知恵をこらしているのではないかとお察しします。
私も先日、ふと思い立ってわが家の「防災バッグ」の中身を点検したのです。食料品などは定期的に確認するのですが、中身をすべて出して見直したのは、実に数年ぶりのこと。その中には、子どもたちがまだ小さい頃大切にしていた洋服などが出てきて、思わず懐かしさで胸がいっぱいになりました。「大切にしているものを、ここにいれておきなさい」と子どもに伝えて、子どもたちがそれぞれ考えて自分でいれたのです。
小さなころから自分で「選ぶ」機会を与えることは、私が勉強しているモンテッソーリ教育の中でもとても大切に考えられています。親は、つい手を貸したり、決めてしまったりしがちですが、「自分で考えて」「自分で決める」経験をたくさん積むことが、子どもの将来にも大きく影響してくるでしょう。
幸せな大人=自立できていること
子育てにおいて、どの親も自分の子どもには「幸せな大人」になってほしいと願っていると思います。その思いを叶えるべく、日々奮闘しているのではないでしょうか。そして、幸せな大人とは……まず「自立できていること」がいちばんだと思うのです。親の意見を鵜呑みにするのではなく、自分で行動を考え、選択して、動く。一見「当たり前」のことのように見えますが、自分の子どもも「当たり前」ができるようになるために、親は子育てをがんばっているのです。
ただ、忙しく、思い通りになかなか運ばない日常の中では、子育ての根底にある親の「思い」を忘れてしまいがちです。いつもとはちがう状況の今、もう一度自分の子育てに「なにを望むか」というところに立ち返り、見つめ直してほしいと感じます。
私の子どもたちは、もう中学生と高校生です。もうすっかり、手はかかりません。自分で料理を作ったり、家族に作ってくれることもあります。自分で部屋を掃除したり、靴を磨いたり、音楽を聴いて本を読んだり……自分で行動を考え、選択して動けるようになりました。毎日いっしょに過ごしているので、じっくり見つめたことがありませんでしたが、よく考えるとこれはすごい成長だな!と感じます。そして、ちょっと安心します。
「鏡」ひとつで、子どもの自立心は大きく育ちます
全身鏡は、子どもの自立に大いに役立ちます
きっと、どこのご家庭にもある「鏡」。中でも全身が映る鏡は、子どもの自立への一歩を大いに応援してくれるものです。子どもは、鏡が大好きですよね。のぞきこんだり、話しかけたり……。
私の娘は、年長のある時期のほぼ毎日を、同じワンピースで通っていました。そのワンピースは、彼女が自分で選んだもの。着てみて、鏡を見て、納得してから毎日出かけていました。たまに「そのかっこうに長靴!?」とつっこみをいれたくなる日もありましたが、そこはグッと我慢。ふんわりと厚みのあるベロア素材が、毎日着ていたので最後のほうはコットンのように薄くなっていました。でも、なにより、鏡を見ることで子どもが「表現を考える」のは素晴らしいこと。自分をどう見せたいか、そのためにはなにを着ようか……子どもだってちゃんと意志があるのだと感じました。
モンテッソーリ教育の幼稚園には、教室に子ども専用のかわいいサイズの鏡台が置いてあります。たとえば「鼻水が出てるよ」とだれかに教えてもらったら、その子は自分で鏡台に向い、鏡を見て、そばに置いてあるティッシュを手前に敷かれた同サイズのフェルトにのせ、ガイドラインのステッチ通りにきちんと折って、鼻をふいたりかんだり……と自分でケアを行います。自分の顔を見て「きれいになったな」と確認したら、ティッシュをごみ箱に捨てて、友達のもとへ戻っていきます。鏡には、自立を助ける力があるのです。
「今日はこの洋服にしなさい」と用意したものをただ着せるより、鏡の前で着こなしを子どもに選ばせてみる。「ほら、鼻水が出てるわよ」と拭いてあげるのではなく、鏡の前に立って「あ、鼻水が出てるね」と子どもの顔を映してみる。そこから、子どもはきっと自分で動くようになるでしょう。
鏡は、親子を笑顔にします
子育ては、目に見える「結果」が出にくいものです。なにより、親も子どもの年齢が「親歴」。試行錯誤の毎日だからだから疲れるし、イライラすることもあります。
そんなとき、おすすめしたいのが子どもといっしょに鏡を磨くことです。ほんの1分でピカピカになるし、気分もスッキリ。「鏡に向かってニッコリしてみようか」「おもしろい顔してみよう」など、親子でのぞきこんでみるのも楽しいですよ。鏡越しに見える子どもの顔も、とてもかわいいものです。
「手」を動かすほど、子どもの心と脳は育ちます
子どもが自分の「なりたいもの」に近づくために
モンテッソーリ教育でよく使われるキーワードに「幼児の秘密」があります。子どもは、親にも本人にもわからない「秘密」をもっているということ。その秘密とは、その子どもが将来「やりたいこと」や「なりたいもの」を指します。それがどんなものなのか、子どもが自分で気づけるように、大人は刺激してあげることが必要なのです。
それは、子どものさまざまな筋肉を動かさせてあげること。筋肉を動かすことで、脳もどんどん育ちます。その積み重ねがあれば、ある程度子どもが成長して、自分のやりたいことや目ざしたいものがわかったときに、スムーズに動くことができるのです。
親子で家の中を磨きましょう
幼児期の手は、まさに「働き盛り」。働きたくて仕方がない手なのです。モンテッソーリの幼稚園では「銀磨き」を行います。子どもたちが銀器を磨くのですが、細かく施された細工の部分まで、どれも驚くほどピカピカに光っています。子どもたちにとって、銀の曇りやキズを見つけることは、とても楽しく感じられるもの。広い公園でBB弾を山のように集めるように、銀器の小さな曇りやキズを見つけられるのは、子どもの目ならではの見方なのです。
そこで、せっかく家にいる時間が長い今、親子で家の中をきれいにしてみませんか。掃除の中でも、子どもが行いやすいのがほうきで「掃く」作業や雑巾で「磨く」作業です。とくに、磨く作業は親子でいっしょに行えます。鏡やテーブル、椅子などの家具、お父さんの靴でもいいでしょう。「どこが汚れているかな」「どれくらい力をいれればいいかな」とさまざまなことを考えながら、手のさまざまな筋肉を使います。
そのとき、子ども用の雑巾をぜひ用意しましょう。幼児なら、大きさは二つ折りにしたときに子どもの手のひらサイズくらいがおすすめです。雑巾がけの「抑えて、拭く」動作は、意外と難しいもの。手に合った大きさの雑巾があれば子どもも使いやすいし、大喜びであちこちきれいにしてくれます。まだ雑巾づかいが難しいようなら、小さな袋状の雑巾にして、ミトンのように3本の指が入るように作ってあげるといいですね。広げた新聞紙の上にパパの靴を置いたら、きっとピカピカに磨き上げてくれますよ。家のあちこちを自分できれいにする心地よさや達成感を、たくさん体験させてあげたいものです。
「家」とは、家族が育ち、育て合う場所。家で過ごす時間を見直したり、インテリアを工夫することで、もっと快適に、もっと楽しくすることができるもの。またいつかお話ができるように、もっとアイデアを集めておきます。今まで読んでくださり、本当にありがとうございました!
お話をうかがったのは…
インテリアショップ「イデー」に所属後、独立。デザインや記事の執筆など、インテリアに特化した活動に加え、ライフスタイルのコンサルティングなども行う。 家族の時間に笑顔を増やすアナログ時計「funpunclock」シリーズデザイナー。仕事と並行して、モンテッソーリ教師の資格取得を目ざして、モンテッソーリ教育理論を学び直し中。