僕が「AI先生キュビナ」を作ったわけ【神野元基の「未来を生き抜く力の育み方」vol.1】

教育のあり方のアップデートを目指すエドテック(Education×Technology)業界において、ひときわ注目を集める企業があります。人工知能(AI)を使ったタブレット教材「キュビナ」の開発と次世代型学習塾「キュビナ・アカデミー」を運営するコンパス社(東京)です。

同社はシリコンバレーで起業経験のある神野元基氏が2012年に設立。「キュビナ」リリース後はその学習効率の良さが瞬く間に教育業界で噂となり、現在では河合塾などの大手塾が次々と導入。国も期待を寄せるエドテック業界のメインプレイヤーとなっています。

そんな同社が掲げるスローガンは「未来の君に会いにいく」。神野氏の目線の先には常に子たち達の未来があります。

本連載では神野元基氏に「学校教育のあり方」と「未来を生き抜く力」について大いに語っていただきます。

 

神野元基

株式会社COMPASS 代表取締役CEO

幼少期を北海道網走市で過ごし、2005年に慶應義塾大学総合政策学部に入学。在学中より起業家として活動。

2010年にアメリカのシリコンバレーでIT企業を起業した際に、現地での人工知能技術の盛り上がりと、2045年に訪れるとされている「シンギュラリティ(技術的特異点)」という概念に出会い、教育の道に進む。

 

テクノロジーの進歩により今後大きく変化する未来に向けて、子どもたちに「未来を生き抜く力」を身につけて欲しいと、2012年東京の八王子に学習塾COMPASSを開校。

しかし教育の現場で、多くの子どもたちは忙しすぎるという課題に直面し、2014年より人工知能型教材「Qubena」の開発をはじめ、現在1万7千人が利用する。人工知能型教材の開発の他、本来の目的であった「未来を生き抜く力」を育てるための「未来教育」も提供している。

 

未来の授業がはじまった

 

20XX年、都内の某公立中学校―――。

数学の授業がはじまると、生徒たちは一斉に自分専用のタブレットを起動します。

画面に現れるのは「AI先生」です。

「AI先生」は単に解答結果を見るだけではなく、計算のプロセスや解答にかかった時間などをチェックしながら生徒ひとりひとりの得手・不得手を把握し、最適な問題をリアルタイムで出してくれます。そのため圧倒的に学習効率がよく、座学の授業と比べて7倍の早さでカリキュラムが終わります。

それによって生まれた時間は、ロボットやドローンなどの最先端技術を用いながら数学の知識を応用していくSTEAM教育のために使われます。

生徒たちはテクノロジーに親しみつつ、自分で手を動かすことの楽しさを学びつつ、「学問を役に立てるとはどういうことか」を体験できるのです。

まるで遠い未来の話のように思われるかもしれませんが、実はこのような授業が先月から東京都千代田区立麹町中学校(工藤勇一校長)で試験導入されています。経済産業省がすすめる『「未来の教室」実証事業』の一環です。

 

ひとことで説明すれば「アダプティブラーニングで時間を生み出し、その時間を使ってSTEAM教育を行う授業」ということになります。

 

AIを使った授業がどれくらい効率的かというと、2018年9月から2019年2月末までの6ヶ月(2学期と3学期)で、中1の生徒は中2までの数学をすべて、中2の生徒は中3までの数学をすべて学び終える予定です。そして隔週で(従来の数学の授業時間を使って)STEAM教育の授業を行います。

そのお手伝いをさせていただくのが僕たちコンパス社です。数学の授業では当社が開発した人工知能型タブレット教材「キュビナ」が使われ、テクノロジー教育と数学の応用を組み合わせたSTEAMの授業では、僕たちが運営する塾「キュビナ・アカデミー」で培ってきたノウハウを投入していきます。

学校教育でAI型教材を普及させたいという思いは僕が「キュビナ」の着想に至った2013年ごろからずっと思い描いていたことです。キュビナ・アカデミーではもちろん、提携先の塾でもすでに導入されていて、着実に成果を上げています。その実績が国の目にとまり、公立学校での実証実験がはじまった、というのが今の状況です。

 

ちなみに麹町中学の工藤校長は、「教育業界で同校長を知らない人はモグリ」と言われるほど有名な改革派で、「宿題の廃止」や「担任制の廃止」、「企業とのコラボレーション」、「PDCA教育」など、従来の公立学校では考えられない学校改革を次々と推し進めている方です。今回の試験導入についても、「かなりの前のめり」で快諾いただけました。

 

こうした授業を一日も早く全国レベルで広めるためには、今回の実証事業で圧倒的なエビデンス(証拠)を残すしかありません。麹町中学の先生を含むプロジェクトメンバー全員、とても気合いを入れています。

7倍……コンパス社調べ

「未来の教室」実証事業……平成29年度補正学びと社会の連携促進事業(「未来の教室」学びの場創出事業)。本事業はそのうちの「就学前/初等/中等教育を対象とし、目指すべき未来の教室を実現するためのサービス/プログラムの実証を行うことを目的とした実証事業」の一環として行われる

アダプティブラーニング……生徒ひとりひとりの理解度や習熟度に最適化された学習方法のこと

STEAM教育……サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、芸術、数学のこと

 

目的は「未来を生き抜く力」を教えること

さて、こうしたニュースが流れると、世間で人工知能という言葉がバズっていることも相まって、どうしても「AI先生による授業」ばかり注目されます。

 

しかし、「目的と手段」で言えば、AIというものは人間にとって「手段」でしかありません。つまり、AIで学習効率を上げることは「手段」であって、僕の「目的」はもうひとつの授業のほう。僕なりの言葉で表せば「未来を生き抜く力」を子どもたちに身につけてもらうことです。

 

もっと具体的に言えば、「自分なりに解決策を考える癖」を身につけること。そして、やりたいことをみつけてそこに突き進んでいく「圧倒的能動思考」を身につけてもらうこと。この2つです。

 

なぜならそれさえ身につければ、社会が今後どう変わろうと、子どもたちは変化に柔軟に対応しながら、地に足がついた生き方ができるからです。

 

大激動の時代へ

人類はいま大激動の時代に突入しようとしています。

 

2045年には人工知能が人間の脳を凌駕する「シンギュラリティ」が訪れ、現存する職業の大半がその名と形を変えると言われています。

 

例えば、いまお花屋さんになることを夢見ている少女が大人になるころには、花の生産から販売、ブーケの製作、流通まですべて自動化した巨大企業が市場を独占し、価格勝負に勝てない街中のお花屋さんは、よほどの付加価値をつけない限り、商売が成り立たなくなっている可能性があります。

 

もちろん、具体的な未来予測は簡単にはできません。でも少なくとも方向性は見えています。

 

今の子どもたちが社会に出るころには、人間は人工知能(やその身体としてのロボット)を空気のような存在として活用しながら暮らす社会になっていることは確実で、昨今の「人口減少」や「生産性」「超高齢化社会」の議論がなんだったんだというくらい国の生産力は上がっていることでしょう。

 

そのとき、今の大人世代がもつ常識の多くが覆されていることは間違いありません。

 

技術の進化によって社会のあり方や産業構造が変わっていくことは人類にとって良いことです。その都度、常識が変わること(パラダイムシフトが起きること)も、人類が繰り返しおこなってきたことです。

ただし、そこで辛い思いをするのが変化の過渡期を生きる世代です。

 

英国で産業革命がおきたとき、慣れ親しんだ農家を離れて都市に移住し、渋々工場で働かないといけなかった世代がいたように、それまでの慣習を捨てて新しい社会に適応していくことは苦痛を伴います。なかにはそのまま社会からドロップアウトする人もでてくるでしょう。

 

人工知能時代の過渡期を生きていくことを余儀なくされているのが、まさに今の子どもたちです。だとすれば、新しい時代に備えて今からいろいろ準備をさせてあげることが大人世代の責任だと僕は思うのです。

 

でも、準備をさせるといっても今の子どもたちは目先の宿題、お受験対策、部活、習い事などで大忙しで、なかなか時間的な余裕がありません。余裕がないので自分が本当に好きなことや自分の可能性に気がついたり、試行錯誤する楽しさを知ったりするチャンスを見逃してしまう。それは本当にもったいないことだと思います。

未来教育の時間を確保するためには、従来の非効率な学習スタイルを抜本的に変える必要がある。

 

それこそが、僕が「キュビナ」をつくろうと思った理由です。

 

シンギュラリティ……技術的特異点。未来学者のレイ・カーツワイル博士が提唱。自ら改良できる人工知能が生まれるタイミングのことを指す。このタイミングを超えると、技術発展の速度が爆発的に早くなり、もはや人間ではその行く末が想像できなくなると言われている。

 

今後の連載について

では具体的にどんなことを子どもたちに教えれば良いのか?

そして学校教育は今後、どう変わっていくべきなのか?

この連載では「未来を生き抜く力の育み方」と「学校教育のあり方」という2つのテーマを順次取り上げながら、未来の教育についてみなさんと考えていければと考えています。

 

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