子どもが自主的に「学びたい!」と思う学校とは?麹町中学校・工藤勇一校長と対談!【神野元基の「未来を生き抜く力の育み方」vol.3】

教育のあり方のアップデートを目指すエドテック(Education×Technology)業界において、ひときわ注目を集める企業があります。人工知能を使ったタブレット教材「キュビナ」の開発と次世代型学習塾「キュビナ・アカデミー」を運営するコンパス社(東京)です。本連載では同社の神野社長に「学校教育のあり方」と「未来を生き抜く力」について大いに語っていただきます。

 

【対談】キュビナ開発・神野元基社長×千代田区麹町中学校・工藤勇一校長

工藤 勇一

東京都千代田区立麹町中学校 校長

 

山形県公立学校教員、東京都公立学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会などを経て2014年4月より現職。学校行事の自主運営、定期考査の廃止、固定担任制の廃止、宿題の廃止、生徒に対するPDCA教育など、「教育の本質」に基づいた学校改革に次々と着手している。

 

これからの「学校教育のあり方」と「未来を生き抜く力」とは

今回は、経済産業省がすすめる『「未来の教室」実証事業』の一環として同社の「キュビナ」を用いた数学の授業と「STEAM授業」を試験導入している東京都千代田区立麹町中学校に神野社長がお邪魔し、工藤勇一校長との特別対談を行いました。

 

公立中学校で前代未聞の学校改革を次々と行い、公教育の常識を覆しているカリスマ校長が考える「日本の教育に必要なこと」とはなにか。今回と次回の計2回にわたってその内容をお届けします。

麹町中学校の授業で行っているSTEAM授業の内容はこちら。

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「学び」は社会のために使うことで初めて価値が生まれる

学校のカリキュラムはもっと自由でいい

STEAM教育の授業の様子。生徒たちはチームで協力しながらロボットをどうやったら思い通りに動かせるかを考える。

 

神野(以下、神):現在、麹町中学校では当社のAI型教材キュビナを使って数学を学習してもらい、余った時間を使って「STEAM教育」を実施させていただいています。実際にSTEAMの授業を拝見させていただきましたが、生徒たちがチームごとに熱心に話しあって作業をすすめていたのが印象的でした。

 

工藤校長(以下、工):生徒同士で試行錯誤しながらやる授業はいいですよね。

神:僕は子供たちが最先端テクノロジーを「社会問題を解決するソリューション」という位置付けで触れて、課題を解いていくという経験が、実際に社会に出た時に社会問題を自らの手で解決していく上で重要だと考えているのですが、工藤校長はSTEAMの授業の重要性についてどうお考えですか?

 

工:そこは正直、わかりません(笑)。ただ、ですね。本来、学校のカリキュラムはこれくらい自由であっていいんです。極端な話を言えば、電車好きの子供たちのために「電車」という授業があってもいいんですよ。

 

神:「電車」ですか(笑)?

学んだことを社会のために使うことではじめて価値が生まれる

工:電車オタクの子と歴史オタクの子の違いってなんでしょうかね? もしかすると大した違いはないのかもしれませんよ。歴史はカリキュラムとしてたまたま入試の科目に入っているから「価値があるもの」と思われやすいだけで。要は、「電車」にせよ「歴史」にせよ「プログラミング」にせよ、学んだことを人や社会の間で双方向で使ってはじめて価値があるのだと私は思うんです。

神:つまり、知識単体に価値はないと。

工:今度導入されるプログラミングの授業にしても、プログラミング技術を習得することが目的だと思っている人が多いんですが、プログラミングは手段に過ぎません。それを社会のために使うことによって初めて価値が生まれるわけです。これは国語、数学、英語、理科、社会、すべてに言えることですよ。「何のために?」「誰のために?」という目的と結びついていなかったら、学びというのは何の価値も生まれません。

神:僕の言葉で言うと「社会問題を解決するためのソリューション」としての学び、ですね。その点は全く同感で、生徒のみんなには「今やっていることは自動運転のコア技術なんだよ」というような形で教えることで、社会との結びつきを意識してもらうことが肝心だと思っています。

▲数学を使ってロボット(車)を動かすことで数学と社会との結び付きを学ぶ

 

工:そこまでしていただけているから大歓迎なんです。「なんとなくIT人材が足りないからプログラミング教えようか」みたいな感じでやると多分失敗します。あくまでも学びというものは相互作用的に使われないと意味がありません。

 

学校は「社会人になるための準備をしてもらう場所」

世界標準からかけ離れている日本の教育を変えるには

神:「学びを相互作用的に使う」というのは、個人が得た学びを他者や社会に対して使い、その経験を通じて学びを深める、ということですね。「相互作用的」にというのは工藤先生がよく使われる言葉ですね。

工:「相互作用的」というより、私は「双方向」という言葉を使うことが多いですかね。「相互作用的」という言葉は2003年にOECD*がこれからの社会で必要な主要能力を整理した報告書「コンピテンシーの定義と選択」(DeSeCo)の日本語訳の中に出ています。私はこれをよく引用して使っています。この報告書には必要な主要能力を3つのキー・コンピテンシー*という形で示しているんですが、その一つ目のコンピテンシーに「ツールを相互作用的に活用する」という項目があるんです。

*OECD…経済協力開発機構。国際経済全般について協議し、政策を推進することを目的とした国際機関。

*3つのキー・コンピテンシー…1)社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力 (個人と社会との相互関係)/2)多様な社会グループにおける人間関係形成能力 (自己と他者との相互関係)/3)自律的に行動する能力 (個人の自律性と主体性)

 

神:なるほど。工藤校長のような取り組みを「欧米的だ」と見る人もいるけれど、実は日本の教育の大半が世界標準からかけ離れていて、ツール、つまり学びを「相互作用的」に使うことは世界的に見たら当たり前なんですね?

 

国際人として行動できる子供を育てるための8か条

工:結局は本質を見ていますか、という話なんですね。これが今の日本の教育に足りないところで、本質論で考えると、学校はなんのためにあるのかといったら「社会人になるための準備をしてもらう場所」じゃないですか。神野社長がよくおっしゃる「未来を生き抜く力を育んでもらう場所」なんですよ。

 

麹町中ではOECDのキー・コンピテンシーを土台にして「目指す生徒像」を8つ掲げています。そのうち学力に関するものは2つです。ひとつは「様々な場面で言葉や技能をつかいこなす」。もうひとつは「信頼できる知識や情報を収集し、有効に活用する」。

▲麹町中学校の目指す生徒像

 

神:ああ、どちらも他者がいる前提の話ですね。ひとりで完結する必要はないと。

 

他者とかかわって問題解決する「学び合い」を基本スタイルに

工:そうなんです。学びは基本的に目的と他者が明確でこそ深まります。現在の多くの学校で行われている一方的かつ受動的に情報を受け取るだけのスタイルでは世の中で必要なスタイルは身につけることはできません。社会で行われるコミュニケーションのスタイルを考えてみればすぐに分かることですが、分からないことがあれば、自分の力で調たり、誰かと会話しながら聞きながら解決していくなどの能動的な行動によって行われています。これこそが学びの基本スタイルだと思うんです。江戸時代の寺子屋とか藩校なんかで行われている学びのスタイルは、「一人学び」と「学び合い」が基本だった。つまり社会に出た時の営みとなんら変わりのないスタイルだということです。今のような一斉教授型の授業ではありませんよね。

神:勉強ができる子が、わからない子を教えたり。

工:そう。そのときの先生の役割は支援者に徹することで、子どもが自主的に「学びたい!」と思ってもらえるように何か目的を与えてあげて、あとは子どもが学んでいく。分からなかったらいつでも質問ができる環境を用意すればいいんです。

神:なるほど。教育現場はもっと「そもそも論」を考えていくべきだ、ということがよくわかりました。

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(後編へ続く)

 

記事監修

神野元基|COMPASS ファウンダー

幼少期を北海道網走市で過ごし、2005年に慶應義塾大学総合政策学部に入学。在学中より起業家として活動。
テクノロジーの進歩により今後大きく変化する未来に向けて、子どもたちに「未来を生き抜く力」を身につけて欲しいと、2012年東京の八王子に学習塾COMPASSを開校。多くの子どもたちは忙しすぎるという課題に直面し、2014年より人工知能型教材「Qubena」の開発をはじめ、現在1万7千人が利用する。人工知能型教材の開発の他、本来の目的であった「未来を生き抜く力」を育てるための「未来教育」も提供している。

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