2020年度から全国の小学校・中学校・高校で「キャリア・パスポート」がスタートしました。これは、小学校~高校の教科や特別活動での学びを、子どもたち自身が主体で目標や振り返りをしながら記録をし、蓄積していく活動です。
今回は、キャリア・パスポートについてHugkum世代のパパママが理解しておきたい点について紹介します。
目次
キャリア・パスポートとは?
2020年4月から全国の小学校・中学校・高等学校で開始されたキャリア・パスポートですが、まだ知らない、聞いたことがないというパパママも多いと思います。ここではキャリア・パスポートとは何か、定義と目的を記載したいと思います。
●定義
“「キャリア・パスポート」とは、児童生徒が、小学校から高等学校までのキャリア教育に関わる諸活動について、特別活動の学級活動及びホームルーム活動を中心として、各教科等と往還し、自らの学習状況やキャリア形成を見通したり振り返ったりしながら、自身の変容や成長を自己評価できるよう工夫されたポートフォリオのことである。”
●目的
“小学校から高等学校を通じて、児童生徒にとっては、自らの学習状況やキャリア形成を見通りしたり、振り返ったりして、自己評価を行うとともに、主体的に学びに向かう力を育み、自己実現につなぐもの。教師にとっては、その記述をもとに対話的にかかわることによって、児童生徒の成長を促し、系統的な指導に資するもの。”
(※定義・目的とも、文科省「キャリア・パスポートの様式例と指導上の留意事項」より引用)
これらは従来の科目テストや知力テストだけでは測れない、個人の学ぶ能力の総合的な個人評価ツールである「ポートフォリオ」を小学校~高校と通して作り、学びに対して主体的に目標を立てたり、振り返ったりしながら、自分の目指す姿に近づいていくための活動するということです。
今までのキャリア教育は、職場体験や社会人講話など、学校で実施した授業(体験)がその時だけのことで終わってしまい、子どもたちの将来的な学びにどう繋がっているのかわからないことも多かったように思いますが、今後はキャリア・パスポートを使って、学びの目標と振り返りを繰り返しながら蓄積していくことで、自分なりのありたい姿を目指していく。そうすることで、先生主導の学びから徐々に子どもたち主導の学び、ひいては子ども自身が自分の将来に希望や明るい未来を描けるようになると思うのです。
適切な自己評価をするには、客観的に見られる他者が必要
でもここで気になるのは
①どうすれば子どもが「キャリア形成を自己評価できる」ようになるのか?
②子どもの主体的な取り組みをサポートするのは誰か?
の2点ではないでしょうか?
キャリアは“ある年齢に達すると自然に獲得されるものではなく、発達を促すには、外部からの組織的・体系的な働きかけが不可欠”とも言われています。そのため適切に働きかけができる他者の存在があってキャリア発達が促されるのではないかと言われています。
その点で、①は「子ども自身が適切に自分を知る支援ができる」他者が必要ではないかと思います。
例えば、プロのサッカー選手になりたいと思っている子どもがいて、その子が自分の今のスキルと、プロ選手のスキルとを比較して「自分はできない」と思っているとしたら、親は「目標が高いのは良いことだけど…比較する人違わない?」とツッコミたくなるところですが、これはまだ子ども自身が自分を適切に見られていないことの表れです。
そういうときは、その子の身近な憧れの子のプレーを目標にしたり、今の自分より少しだけスキルアップすることを目標にするなど「追いつきたい」「それならがんばれそうだ」と適切な目標を声掛けする他者が必要です。
また、②はキャリア・パスポートの目的の文末にあったように、本来「教師が対話をし、サポートをする」ことが望まれています。
ですが現実的に、時間的にもキャパシティ的にも担任の先生にそれを追わせるにはあまりにも負担が大きいため、子どもたちの取り組みを主体的にサポートする責任者がいないのが実情です。
「主体的・対話的な学び」が浸透することで、自分を知ることができる
では、今この段階で子どもたちが自分を知るには、どのような活動ができるか?それは、教育の現場では「主体的・対話的で深い学び」(アクティブラーニング)がさらに浸透していく必要があります。
アクティブラーニングは、従来のように先生が一方的に話し、子どもたちが受け身で授業を受けるのではなく、学ぶ本人たちが自分なりの意見をアウトプットし、他者の意見や考えを聞き、改めて自分自身の考えをまとめ、合意形成をしていくことです。これはまさに、大人が生きていく上でも必須のスキルではないでしょうか?
・他者と自分の意見の違いはどこから来るのか?
・自分の良さや相手の良さは何か?
・自分が今頑張るところは何か?
・他者があることで自分の視野も広がり、意見が合わないときにどう折り合いをつけるか?
といった経験ができ、学力以外の成長も大きいのです。
やや話は広がりますが、今年度から必修化されたプログラミング教育も「主体的・対話的で深い学び」のツールとして有効です。一見パソコンを使ってそういう学びができるのかと思われるかもしれませんが、プログラミング教育はコードを書くような実践的なプログラミングをすることではなく、ある課題(目標)に対して、試行錯誤をしながら、論理的に考えて解決していくプロセス(=プログラミング的思考)を伸ばす位置づけになっています。したがって必ずしもパソコンを使うことではなく、課題は一緒でも他の人と自分と解決方法が違うことを可視化させたり、どう解決するかアイデアを出し、話し合ったりする能動的な活動を目的としています。
今後はキャリア・パスポートのデジタル化と、支援者の存在が必要
教育の現場でも「個別最適化」や「先生主体から学修者主体」など、「学ぶ個人(子ども)にとってどうか?」を考える機運に少しずつ向かってように感じます。キャリア・パスポートもおそらくそのひとつでしょう。ですが、私が感じる課題は2点あり、1つは「(今のところ)紙ベースでの運用のようなので、本当に履歴を12年間残せるのか?」ということと、2つめはやはり「先生の負担が大きいのでは?」という点です。
このコロナ禍で、子どもひとり1台タブレットの導入を、予定より何年も早く進める自治体も多いと思います。できるだけ早くキャリア・パスポートがデジタル化されることと、キャリア・パスポートの意義や重要性、目的をもっと浸透させ、先生や子どもを一緒にサポートできる適切な支援者の存在が生まれることを切に願っています。
文/かつまたけいこ
大手情報サービス企業を卒業して早5年半。国家資格キャリアコンサルタントの資格を取得し、現在は大学での就活支援、ライター、情報教育支援など数足のわらじを履いて生きています。中1娘、小2息子の二児の母。
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