「足の速い子はたいていモテる」みたいなキャッチコピーをどこかで見かけました。確かに子どものころを思い返すと、足の速さには当時大変な価値があった気がします。もちろん他人の評価だけでなく、大地をけって風を感じながら空間を素早く移動する喜びと躍動感そのものにも、子どもにとっては掛け替えのない価値があるはずです。
そこで今回は富山県で人気の陸上クラブ「こども陸上クラブホップ」で代表を務める川辺まことさんに、親子でできる駆けっこの練習(遊び)を聞きました。家の廊下やリビングでもできる動きばかりですので、運動不足になりがちな子どもの日々に取り入れてみてください。
目次
親しみやすさを意識した人気の子ども陸上クラブ
今回話を聞いた人は川辺まことさんです。高校生のころ走り高跳びで全国3位になり、進学した日本大学の陸上部ではケンブリッジ飛鳥選手などと汗を流した人です。
卒業してからは富山に帰郷し地元の銀行に3年勤務した後、地元の陸上競技のレベル向上に貢献したいと「こども陸上クラブホップ」を立ち上げて、現在3年目になります。その背景には小さいうちからの人間教育が選手を強くするという気付きと信念があったのだとか。
今では紹介や口コミを通じて120人程度の生徒を抱える、県内5カ所の人気教室となっています。取材ではレッスン会場の1つである富山県総合運動公園陸上競技場にお邪魔して、スクールに通う生徒の河原美咲さん(4年生)をモデルに、子どもの駆けっこの教え方を聞きました。
川辺さんいわく大まかな流れは、
- 腰回りの「体幹」を強くする
- 手足の連動(クリオネ体操)
- 腕の振りのフォーム修正(いただきますポーズ)
- スキップ
だと言います。陸上教室を立ち上げレッスン内容を考えるにあたって、川辺さんはさまざまな人の意見を取り入れながら、何よりもプログラムの親しみやすさを意識したそう。
放っておけば地味なルーティーンになる陸上の練習をそのまま子どもに押し付けると、やはり興味を失ってしまうと言います。親子で教える場合にも遊びの感覚を忘れないようにしたいですね。
ステップ1:腰回りの「体幹」を強くする
最初は腰回りの軸を強くする遊びから始めます。速く走るためには、やはり体の軸がしっかりした方がいいみたいです。
「子どもに体幹トレーニング?」と、ちょっと心配になってくるパパ・ママなど保護者もいるはず。しかしこの場合の体幹トレーニングとは、アスリートが取り入れる本格的な内容ではなく簡単な遊び程度です。
例えばバランスボールに座ったり・投げたり、バランスディスクに片足で立ったり・足を投げだして座ったり。あくまでも遊びの感覚で取り入れればいいので、バランスディスクの上に何秒立っていられるか親子で競争するなど、盛り上がりを意識したいですね。
とはいえ筆者も子どもに筋力トレーニングをさせ過ぎると、身長の伸びが止まるといった話をどこかで聞いた覚えがあります。「子どもに体幹トレーニングをさせていいのか?」としつこく川辺さんに聞くと、あくまでも姿勢の維持やバランス力の向上など感覚を鍛える程度の強度なので、年齢に関係なく心配ないとの話でした。
他にも体幹トレーニングの一環で手押し車もいいみたいです。川辺先生が命名した「クモ歩き」も楽しみながら体幹トレーニングできる遊びです。ただしスパルタンに繰り返すとつらくて飽きてしまうそうですから、「いっぱいやらせない」をポイントに親子でチャレンジしたいですね。
ステップ2:手足の連動(クリオネ体操)
次はリズムに合わせて手足を連動させる動きに取り組みます。
まずは川辺さん命名の「クリオネ体操」から始めてみましょう。「クリオネ体操」と聞くと『おかあさんといっしょ』(NHK)の『からだ✩ダンダン』が思い浮かぶかもしれませんが、あの歌に出てくるクリオネの動きとは全く別ものです。
直立した状態からジャンプして脚を左右に開き、両手を頭の上でぱちんと合わせます。
終わったら、再びジャンプして脚も腕も閉じて、気を付けの姿勢に戻ってください。
以上を1セットに同じ動きをリズミカルに8セット練習させます。クラブではリズムに乗りやすいように音楽を流しているみたいですから、庭先やリビングで楽しむ場合は音楽を流してあげると子どもも喜ぶかもしれませんね。
8回のセットが終わったら次の動きに移ります。次は気を付けの直立状態からジャンプして手足を前後に開く動きです。
手足を前後に開いたら走る姿勢で静止します。静止したらその状態から今度は再びジャンプして、前に出す手足を入れ替えます。
取材後に小学1年生のわが子にもやらせてみましたが、気を付けの状態から手足を前後に開かせると、どうしても同じ側の手と脚が前に出てしまいます。最初は大人の筆者も同じでした。
右足を出す場合は左腕が前に出る。左足が前に出たら右腕が前に出るようにする。この何気ない運動でも筆者の子どもは目をキラキラさせていました。子どもは体を動かす遊びが根っから好きなのですね。
ステップ3:腕の振りのフォーム修正(いただきますポーズ)
手足の連動を練習したら今度は腕の振りを意識した練習を取り入れます。運動会で子どもたちの走りを見ていると、腕の振りが個性的な子も多いです。やはり速く走るために腕のきれいな振り方がとても大事だと川辺さんは言います。
しかし親が「腕の振りを直して」などと言うと、かえって意識して走れなくなってしまうので、修正する際にはきちんとした手順で直してあげたいところ。
練習方法は簡単です。まずは胸の前で「いただきます」と子どもに合掌させます。肩はリラックス。両ひじが上がって脇が開かないようにしてください。肩が怒って脇が開く子は、走る時にも腕が左右に上がって脇が開いてしまうみたいです。
「いただきます」の状態で両手の親指を目の高さまで上げたら、どちらかの腕を一方だけ下げさせ逆側を目の高さで残したまま静止させます。
下げた腕は後ろに引き、引いた腕のひじを曲げたまま維持させます。フォームを意識させたら今度は後ろに引いた腕を顔の前(目の高さ)に戻し、反対の腕を逆に後ろに引きます。後ろに引いた腕もひじの曲げ方を意識させます。
何度か腕を前後させて子どもが慣れてきたら、腕の形を保ったまま交互に腕を振らせてみてください。短距離走の正しい腕の振りを覚えさせる練習になるのですね。
ステップ4:スキップ練習(スーパーマリオと水切り移動)
ではいよいよ走ってみましょう、と言いたいところですが、走る一歩手前の練習としてスキップで総仕上げします。同じスキップでも2種類のスキップを練習します。
1つは高くジャンプするスキップ。スーパーマリオが頭上のブロックを下から突き上げるように高くジャンプします。「ぷわーん」とスキップするたびにテレビゲームのように効果音を付けてあげると子どもも喜ぶかもしれませんね。上向きの高いスキップはジャンプとともに腕を空中へ突き上げます。先へ急ぐ意識より高く飛ぶ意識を持ちます。
もう1つは前に進むスキップ。水切り遊びで水面に投げた石が水の上を低く跳ねながら飛んでいくように前へ素早く進みます。スキップの前に助走をとって、何歩か走ってからスキップに入ると前への推進力がぐっと増します。
どちらも家の廊下でできる練習です。都市部で近所に体を動かす場所がない場合は家庭内でも試してみてくださいね。
以上が子どもの駆けっこを速くする親子の体を使った遊びでした。目指すは「楽しんでいるうちに、いつの間にか速くなっている状態」だと川辺さんは言います。ご自身もクラブでは「陸上を好きになってほしい」「先生が怖いと陸上の発展にも好ましくない」という思いがあるために、現在の楽しく学ぶスタイルの確立を追求しているのだとか。
とはいえ見ているとクラブでは楽しいだけではなく、聞く時の姿勢や練習後の「ありがとうございました」の挨拶など、礼儀作法にも力を入れている印象がありました。
やはり集団レッスンは社会性も身に付きます。親子で遊びながら体を動かすうちに「もっと走りたい!」と子どもが言い始めたら、陸上教室などスクールを考えてもいいかもしれませんね。
「こども陸上クラブホップ」
富山県砺波市・富山市・南砺市の陸上教室。全国大会3位の実力を持つ指導員「川辺まこと」コーチの下で楽しく元気に走り方の基礎を学べると人気。
料金:入会金3,000円(税込)(スポーツ保険料含む)、月謝4,200円(税込)、備品料1,900円(税込)(指定Tシャツ代)
公式サイト:http://kodomo-hop.club/
取材・文・写真/坂本正敬