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事前情報なく1枚の絵を見て感じることを大事に
「子どもたちの好奇心」が未来をつくる、をスローガンに、さまざまな学びを提供するオンライン習い事「SOZOW」。大人が子どもに教えてインプットするのではなくて、「好き」「やりたい」の気持ちを起点に、好奇心のままに実際に手を動かしてアウトプット。正解のない問いを探究していく、ワクワクのプログラムがそろっています。
ヘラルボニー・松田文登さん『アートで社会をよくする未来』
そんな中に、『アートで社会をよくする未来』と題したオンライン・アクティビティがありました。「アート×社会福祉」の可能性の拡張に挑戦している株式会社ヘラルボニー代表取締役副社長の松田文登さんをゲストに繰り広げるこのアクティビティ。障害のある人のアートを紹介し、そこから刺激を受けて、自分たちがどうアウトプットしていくのかを75~90分で学んでいくワークショップです(2022年3月開催)。
まずは、1枚の抽象画を子どもたちにオンライン越しに見せます。「この絵を見て、何を感じる?」と質問。すると、
「自分たちでも描けそう」
「色が中途半端に塗られているよね…」
などと率直な意見。でもよくよく見ていくと、
「町とか住宅地みたい」
「複雑な感じ」
「不思議な感じ」
と、どんどん想像力が広がっていきます。そして、
「1枚の絵は同じだけど、人によって感じ方が違う。それがアートのおもしろいところ」
と解説すると、さらに絵への興味が広がっていきます。
ヘラルボニーの契約アーティストさんの作品に釘付け!
そして、松田さんが登場。ヘラルボニーの契約アーティストさんの作品をどんどん見せてもらうと、子どもたちはその作品に目が釘付け!
「うわー、きれい!」
「めちゃくちゃカラフル」
「すごい!」
ヘラルボニーは、日本全国の就労型の福祉施設に在籍する人の絵そのものを紹介するほか、その絵をバッグや服、マスクなどにプリントして商品化したり、駅や乗り物をラッピングしたりと、アーティストの可能性を広げています。
作品を商品化することで、アーティストの収入を増やす「仕組み」づくり
就労型といっても、普段の仕事では工賃がとても安く、その工賃だけで生活するのは難しそう。でも、中にはものすごいアートの才能を持っている方々がいることに着目し、そんな方々の作品の販売や商品化で得た利益を、ご本人の収益につなげ、暮らしていける収入を目指します。
松田さんが、契約しているアーティストさんとその作品を次々紹介します。
「これらの絵を描いている人たちは、重度の知的障害がある人たちです。できないことがあるのはみんな同じで、私もできないことがいっぱいある。でも、できないことに注目するより、得意なところが重要視されていくような世界をつくっていきたい。ちょっと違ったところがあなたらしさ、素敵なところだよね、とアーティストとして迎えたいんです。違いが個性なんです」
障害を「異彩」と呼び、才能を解放してもらう
ヘラルボニーのミッションは「異彩を、放て。」
「障害のある作家たちのアートを『異彩』と定義して、社会側のイメージとか概念を変えていこう、ということをやっています」(松田)
才能を解き放ってアートの作品にし、世界にはばたくカッコイイ人になってほしい 、というのが願いなのですね。
では、参加している子どもたちに、「自分がまわりの子とちょっと違うって感じているのはどんなところ?」と聞いてみると、
「スパゲティをおはしで食べるところ」
「ベロを縦にできる」
「本を読んでいると話しかけられても無視しちゃう」
などなど、色々出てきました!日頃、大人たちにはあまり喜ばれないような個性も、この場ならどんどん自慢できそう!
そう、それこそが「異彩を放つ」ことです。
心を自由にしてアートに取り組むと…
こんなふうに、自分の個性を自覚してから、「ひらめいた柄や模様をどんどん重ねて描いてみよう!」と声をかけると、それぞれが自分らしく、カラフルな抽象画を描き始めました。
心を自由にしてからアートに取り組むと、これまで絵を描いたことがあまりない子でも、個性的で発想豊かな作品を生み出します。
事業を通して重度自閉症の兄の存在を肯定したい
ところで、松田さんはなぜヘラルボニーを立ち上げて、障害のある人のアートを紹介し始めたのでしょうか。
松田さんには、崇弥さんという双子の兄弟がいます。そして、ふたりには、4歳上の兄・翔太さんがいます。翔太さんは知的障害を伴う自閉症で、幼い頃からよく「かわいそう」と言われてきました。また、文登さんと崇弥さんは兄の関係で障害のある人とともに過ごすことに違和感がありませんが、翔太さんと出かけたときに、指を指して笑われることがありました。
なぜ、同じ目線で人は長兄を見ないのだろう。
人はだれでも個性がある。その個性を魅力にして生きていく社会になればいい、そんな思いが、文登さんと崇弥さんを突き動かします。
「知的障害のある人が『できない』ことを『できる』ようにするのではなく、「できない」という前提を認め合う。社会のために障害のある人を順応させるのではなく、その個性に注目して社会が順応していく、そんな社会を作りたいと思ったのです。
こうした活動をすることで、兄の存在そのものが肯定されるんじゃないか、という気持ちもありました」(松田文登さん)
できないことをできるようにするのではなく、「得意」を活かす
ヘラルボニーは、アーティストさんたちを「支援」するというスタンスにはありません。支援は世のに必要だけれど、「助けてあげる」のではなくて、アーティストとしての力量の高さを発見した上で、その才能をきらめかせて、社会の中で生きていく道をともに作っていく。ヘラルボニーと契約しているアーティストの中には、年収数百万円、という人もいるのだそうです。
松田さんは言います。
「できないことをできるようにするのではなくて、得意なことに着目する。障害のある人を健常者に近づけていくのではなく、好きなことにアジャストして仕事に結びつけられたらいいな、と思っています。レストランで働いてもいいし、歌ってもいい。
今後、『異彩』がもっともっと拡張されていってほしいなと思います。ヘラルボニーとしても、これからはレストラン、カフェなどを運営して、雇用を作り出していくことも考えたいな、と思っています」
子どもたちは「持続可能な社会の重要性」をしっかり理解
ここまでしっかりとワークショップをし、松田さんの話を聞いてきた子どもたちに、SOZOWは問いかけます。
「さて、みんなは、どんな社会にしたい?」
すると、子どもたちは紙にこんな言葉を書きました。
「お互いにできるところをほめ合う社会」
「たくさんの人が自分の好きなことで活躍できる世界」
「多数決で決まっても、少数派の意見も盛り込む社会」
「争いのない社会、犯罪のない社会」
普段、なじみのない「障害のある人」に対する理解。そして、「難しくてよくわからなかったアート」。その両方を肌で感じることで、子どもたちは成長し、そしてまなざしがキラキラしてきました。
その根底にある「好きなことを伸ばしていこう」は、ヘラルボニーのアーティストさんたちへのメッセージでもあり、子どもたちへの大事な語りかけです。
子どもたちが「ホンモノ」を身につける力は、「自分の個性や強みを活かして楽しくやっていこうね!」と見守る大人たちの、子どもへの向き合い方がカギになりそうですね!
松田文登(まつだ・ふみと)さん
株式会社ヘラルボニー代表取締役副社長。大手ゼネコン会社で被災地の再建に従事、その後、双子の松田崇弥と共にへラルボニー設立。崇弥が代表取締役社長。自社事業の実行計画及び営業を統括するヘラルボニーのマネジメント担当。岩手在住。日本を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」受賞。
SOZOW
正解を教えるのではなく、自ら好奇心を持ってテーマに取り組み、深掘りするアクティビティを提供。プログラミング、アート、デザイン、ビジネス、マネーなどテーマは多岐にわたる。自宅から安心して受けられるオンライン授業中心で無料体験も。
https://sozow.net/
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取材・文/三輪 泉