『ピーターパン』って、どんなお話?
『ピーターパン』は、永遠に年をとらない少年ピーターパンが主人公で、ロンドンに住むウェンディとの冒険物語が描かれている作品です。
原作はJ.M.バリの「ピーターパンとウェンディ」
原作は、1911年にイギリス人のジェームズ・マシュー・バリーが発表した物語で、その後、ディズニーが版権を取り1953年に映画化されます。
戯曲を子ども向けの話に変えて、映画を上映したことから、原作よりもディズニーのストーリーの方が馴染みのある児童文学となって広がります。原作と映画の内容の違いなどについては当記事の後半で深く考察していきたいと思います。
原題:Peter Pan or The Boy Who Wouldn’t Grow Up(英語表記)
国:イギリス
作者:サー・ジェームズ・マシュー・バリー(Sir James Matthew Barrie)
発表年:1911年
おすすめの年齢:小学校3,4年生ごろ~
作者のJ.M.バリってどんな人?
作者は、イギリス、スコットランド出身の小説家、劇作家、劇場プロデューサー。
代表作は、スコットランドの小さな町を舞台に、人々の日常生活やドラマを描いた短編小説集「Auld Licht Idylls (1888年)」や初めてピーターパンが登場する「The Little White Bird (1902年)」など。
『ピーターパン』のあらすじ
気になる原作のあらすじについて見ていきましょう。
※以下では、物語の核心にも触れています。ネタバレを避けたい方はご注意ください。
ピーターパンとの出会い
ある日、ウェンディの部屋に、決して大人になることのない、永遠の少年ピーターパンが現れました。
そして、自分の住むネバーランドへ来て、迷子の子どものお母さんになってくれないか、と言い出します。
困ったウェンディでしたが、ピーターパンと一緒に来ていた妖精ティンカーベルが、ウェンディの弟2人ジョンとマイケルにも魔法の粉を振りかけ、3人は夜空へと飛び出します。
ピーターパンのことが大好きな妖精ティンカーベル。ピーターパンとウェンディの2人がすっかり仲良くなったことに嫉妬していきます。
ネバーランドへ
ピーターパンは、嫉妬するティンカーベルに腹を立て絶交を言い渡し、追放します。すっかり、元気をなくしてしまうティンカーベル。
そこへ、ネバーランドの海賊、フック船長がティンカーベルに近寄ってきて、みんなのいる場所を聞き出して捕まえてしまいます。
さらわれた子どもたち
程なくして、家に戻ってきたピーターパン。ティンカーベルは「みんなが海賊に捕まってしまった」と伝えます。
ピーターパンが慌ててフック船長の海賊船に赴くと、全員、海賊船の上で木に縛られ、まさに海に突き落とされて殺されるところでした。そこへ、間一髪、ピーターパンがリリー率いるインディアン達(当時の表現)と共に子どもたちを助け、フック船長を撃退します。
さよならピーターパン
ピーターパンは、ウェンディ達をロンドンの家まで送り届けます。そして、同時に6人の孤児をウェンディの両親に「養子にしてほしい」と頼みます。両親は面食らうも、全員を受け入れ養子として育てることになります。
ウェンディは「毎年かならずネバーランドに遊びに行く」とピーターパンと約束をするも、年齢を重ねるうちにだんだんとネバーランドへ行かなくなってしまいます。
その後、ウェンディは、ジェーンという女の子を授かります。すると、今度はピーターパンがジェーンに「ネバーランドへおいで」と誘います。そして、ジェーンが結婚しマーガレットという女の子を授かった後にも、同じことが起こり、ピーターパンはずっとその先もネバーランドへ子どもたちを誘いに来るのでした。
最後は「その子が今度はピーターパンのお母さんになるのです」と永遠に続くことを示唆し、物語は終わります。
あらすじを簡単にまとめると…
永遠に子どもでいる不思議な少年ピーターパンとともに、ウェンディがネバーランドへ行くファンタジー冒険物語です。途中フック船長との戦いや子どもたちの救出劇があり、その中で友情を育み、互いに成長していく姿を学ぶお話です。
主な登場人物
『ピーターパン』では、どんなキャラクター達が物語の中で活躍するのか見ていきましょう。
ピーターパン:主人公
永遠の子ども。妖精のティンカーベルと一緒に行動することが多い。
ウェンディ・ダーリング:物語のヒロイン
ピーターパンに導かれてネバーランドに旅立つ。ピーターパンたちとの冒険を経て、大人になることを決意する。
愛犬ナナ
ダーリング家の犬。ピーターパンの影を引きちぎってしまう。
キャプテン・フック:悪名高い海賊
ピーターパンの宿敵。片手はフック型の金属になっている。
ティンカーベル:妖精
愛称ティンク。ピーターパンの親友。彼女の魔法で、ピーターパンたちはネバーランドで様々な冒険をする。ピーターパンが大好きでウェンディに嫉妬している。
ロストボーイズ
島に住む6人の迷子の子どもたち。みな孤児で親がおらず、お母さんを恋しがっている。
タイガー・リリー
インディアンの酋長(当時の表現)の娘。
人魚たち
(上記のあらすじには出てきませんが)ネバーランドのラグーンに住む美女の人魚たち。みんなピーターパンが大好きで、ウェンディを歓迎しない。
『ピーターパン』を読むなら
それでは、数ある『ピーターパン』の中から、人気の本をページ数の少ない順に、絵本から文庫、電子書籍までご案内します。お子さんの年齢、読書力によって選んでみると良いでしょう。
小学館ジュニア文庫 世界名作シリーズ ピーターパン
形式: Kindle版 単行本・Kindle版
人間関係図など分かりやすい解説図あり。「である調」で少し固い漢字の文章ですが、読みやすい翻訳です。漢字あり、全ルビあり。イラストあり。小学生中学年~。
ピーター・パン ディズニーゴールド絵本ベスト (講談社)
講談社 (編集) 18ページ 電子版 ムック本 2021/9/28 絵本・Kindle版
イラストがメインで、文章は少なめ。ディズニーのイラスト絵本です。フルカラー、漢字はほぼなく、カタカナにもルビがふってあります。小学生低学年~。
ピーター・パン (ウサギ出版)
うさぎ出版 (編集) 26ページ 2018/11/15 単行本
フルカラー絵本。ディズニーのイラストとともに楽しめます。カタカナはありますが、漢字はないため、字が読める年齢になったら、ひとり読みの練習にぴったり。
ピーターパン (岩波少年文庫)
350ページ 2000/11/17 文庫 ・Kindle版
本格児童書で漢字は少なめ。ルビは難しい漢字にのみふってあります。挿絵は海外の古典的なもののため、当時の雰囲気が味わえます。すらすら文字が読める小学生高学年~。
ピーター・パンとウェンディ (新潮文庫)
323ページ 2015/4/30 文庫 ・Kindle版
完訳版。漢字にはルビもなく、イラストもほとんどありません。厚い児童書が読めるようになったら、原作をじっくり味わってみましょう。中学生以上~。
『ピーターパン』の原作が怖いと言われる理由(ネタバレ含む)
アニメ版では誰もが憧れる、ヒーロー的な『ピーターパン』ですが、原作では悪童です。ケンジントン公園で迷ったまま、親元に帰らない子どもとなった、という一説もあります。
物語の最後はどうなる?
上流階級のウェンディの両親は、ロストボーイたち6人を養子として引き取りますが、ピーターパンだけは養子を断固断り、ネバーランドへ戻ります。
”Because I don’t want to be a man”、だって大人になりたくないもん、という一言が、ピーターパンの神髄とも言えるでしょう。社会の歯車や体制の一部になりたくない、自由でいたい、という願望の現れです。
知られていない『ピーターパン』の世界
『ピーターパン』の原作が怖いと言われる理由にはいくつかあります。
・子どもの間引き
ピーターパンはロストボーイと呼ばれる男の子たちを島に住まわせていますが、彼らが成長して大人になってしまうと「彼らを間引きした」という表現が原作にはあります。
通常「間引く」とは子どもを殺すことなので、原作のピーターパンはネバーランドを子どもだけの世界にするために「子殺し」をしていた?という解釈もあります。ただ、「殺す」という直截的な表現はないので、単に島から追い出したという意味合いかもしれません。
・フック船長の記憶
久しぶりにウェンディの家に訪ねてきたピーターパンと冒険した昔話に花を咲かせていると、「フック船長ってだれのことさ?」とピーターパンが言うのです。覚えてないの?と驚くウェンディに対しピーターパンはこういいます。
「殺してしまったやつの事なんか、忘れてしまうのさ」とピーターはこともなげに答えました。(原文ママ)
・ティンカーベルの記憶
ウェンディが「ティンカーベルが私に会うのを喜んでくれるといいんだけど」と言うと「ティンカーベルって誰の事?」と聞き返すピーターパン。「まあ、ピーターったら!」とウェンディはあきれ、詳しく説明するもピーターパンは微塵も思い出しません。さらに彼のセリフが以下。
「妖精なんて、たくさんいるんだもの。きっと、その妖精はもう死んだんだろ。」(原文ママ)
・フック船長と手下たちの真実
一説ではフック船長や手下たちは元ロストボーイで、ピーターパンに殺されそうになった子どもたちだとするスピンアウトストーリーもあります。ピーターパンへの復讐と、捕われているロストボーイズを助けるために、フック船長と手下はピーターパンを襲撃しているというのです。
原作にはそのような解説はありませんが、アメリカの作家クリスティナ・ヘンリーによって2017年に発表された小説「Lost Boy: The True Story of Captain Hook ロストボーイ:フック船長の真実」では、フック船長の生い立ちを描き、そのような内容の続編的な物語があります。
原作のピーターパンの性格は悪い?
ピーターパンは驚くほど身勝手です。
家に帰りたいと泣くウェンディ達を帰らせない、大人に成長させない、という嫌がらせをしたりします。
子ども向けの本では、そういった部分は全部省かれ、ヒーロー的存在としてピーターパンですが、原作では大人になることを拒絶しているピーターパンの利己的な心境や、子どもじみた考えを表に出すことで、話に深みを与えています。
イギリスの階級社会を、暗に揶揄している
原作のピーターパン含めたロストボーイたちは、ストリートチルドレンすなわち浮浪者に近い子どもたちを表し、社会からはじき出された下級層を象徴しているとも言われ、イギリスの階級社会を暗に揶揄しているようにも解釈できます。
ネバーランドに住み大人になることを拒否する、というのは、しいたげられた身分の彼らが「階級社会」を拒否することを意味し、みずからの人生を自由に生きる「個人主義」や「独立主義」を貫く、階級社会への挑戦とも捉えられるのではないでしょうか。
原作を読むことで、当時のイギリスの時代背景や社会的背景に考えを巡らせてみるのも面白いでしょう。
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文/加藤敬子 構成/HugKum編集部