『黄金のがちょう』ってどんなお話?
まずは、『黄金のがちょう』という作品が書かれた背景や、グリム童話がどのようなものなのかおさらいしておきましょう。
グリム童話の「黄金のがちょう(金色のガチョウ)」
『黄金のがちょう(原題:Die goldene Gans)』は、ドイツで1812年〜1857年までに全部で7版まで刊行された『グリム童話集』収録の物語のひとつです。
『グリム童話集』とは、ドイツのグリム兄弟が、主に口承による“昔話=メルヘン”を本にまとめたもの。この『黄金のがちょう』は、ドイツのヘッセン州とパーダーボルン市で伝えられていたお話に基づいていると言われます。日本語では、版によって『金のがちょう』と題されている場合も。
グリム童話とは
1812年にドイツではじめて出版された『グリム童話集』は、現在までに170以上の言語に翻訳されました。世界で最も多くの言語に翻訳された本シリーズは、最も多くの人々に読まれ、最も多くの挿絵が描かれた文学作品とも言われています。
日本では、学校の英語教材として扱われたことからはじまり、1886年には収録作のいくつかがローマ字訳されたこと、さらに、1887年にはジャーナリストであった菅了法(桐南居士)によって『西洋古事神仙叢話』として翻訳・出版されたことから、徐々に浸透したと考えられています。
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『黄金のがちょう』のあらすじ
ここからは、さっそく『黄金のがちょう』のあらすじを見ていきましょう。「詳しいバージョン」と「簡単なバージョン」の2種類にまとめました。
詳しいあらすじ
小人とふたりの兄の出会い
むかしむかしあるところに、3人の兄弟がいました。上の二人の兄が利口だったにもかかわらず、一番下の弟は頭が弱く、みんなから馬鹿にされていました。
ある日、一番上の兄が森へ木を切りに行くことになったので、母親はケーキとワインを持たせました。森へ行く途中、一番上の兄は小人に出会います。小人は、お腹が空いたので、ケーキとワインを分けてくれるように頼みましたが、兄は「自分の分がなくなるから」とそれを断りました。
その直後、木を切り始めた兄は、手をすべらせて腕に大怪我をしてしまいましたが、これは小人を助けなかった罰でした。
2番目の兄も、同じようにケーキとワインを持たされて森へ出ます。しかし、おなじように小人の頼みを断り、今度は足に大怪我をしてしまいました。
弟と小人の出会い
「自分が木を切りに行く」と次に申し出たのは、一番下の弟でした。「利口な兄が怪我をしたのに、おまえにできるものか」と反対した父親と母親は、灰で焼いたケーキと酸っぱいビールを持たせて、仕方なく行かせることにしました。
するとやっぱり、あの小人が弟のもとにあらわれてケーキと飲み物を分けてくれるよう頼みに現れます。
そこで心優しい弟は、灰のケーキとビールを快く分けることに。小人と一緒に食べようとすると、なんと、灰のケーキは卵の入ったケーキに、ビールはワインに変わっていました。
喜んだ小人は、お礼に良いものをあげると言って、弟に木を切るように言います。弟が木を切ってみると、その中からは、金色の羽を持つがちょうが出てきました。
金色のがちょうが現れて…
がちょうを手に入れた弟は、近くの宿に一晩泊まることにしました。宿には3人の娘がいましたが、娘たちはがちょうを一目見ると、その羽が欲しくなってしまいます。
弟の部屋に忍び込み、羽を抜こうとする一番上の娘。娘ががちょうに手をのばすと、驚くことに、手ががちょうにくっついて離れなくなってしまいました。後から二番目の娘が来ると、今度は上の娘の肩から手が離れなくなってしまいます。さらに、一番下の娘も、二番目の娘の肩に手をくっつけてしまいました。
弟は仕方なく、三人の娘をくっつけたがちょうを抱いたまま町へと向かいますが、それを離そうとした人たちまでもがくっついてしまい、やがて7人もの行列を成してしまいました。
町の城で…
町の城には、生まれてから一度も笑ったことのない姫がいました。王様はそんな姫に困っていましたが、ここに現れたのが、7人の行列を引き連れた弟です。この様子を目にすると、姫は大声を上げて笑い出します。
弟は、その姫と結婚をしたいと申し出ました。しかしながら、受け入れ難い王様は、弟にこんな難題を与えます。
「城のワインをすべて飲み干せる者を探せ」
「城のパンをすべて食べ尽くせる者を探せ」
あの森へと行くと、ワインをいくらでも飲めるほど喉の渇いた男や、パンをいくらでも食べられるほどお腹を空かせた男と出会うことができ、ひとつめの命令も、ふたつめの命令も、弟は簡単に解決することができました。
最後の命令は、「海でも陸でも走れる船を持って来い」。
ふたたび弟が森へ行くと、あの小人がいて「城のワインを飲み干したのも、城の倉庫のパンをすべて食べ尽くしたのもわたしだ」と言います。親切にしてもらえたことが、よっぽど嬉しかったのです。次も任せろと言って、小人は海も陸も走れる船を出してくれました。
晴れて弟はお姫さまと結婚し、後には王になって何不自由なく暮らしました。
あらすじを簡単にまとめると…
あるところに、3人の兄弟がいました。一番下の弟は、家族や周囲から馬鹿にされていましたが、ある小人に親切にしたところ、そのお礼に黄金のがちょうをもらうことができました。さらに、そのがちょうがきっかけで、弟がどんどんと幸せを掴んでいくお話です。
教訓
この物語からは、「人を思いやる心の大切さ」や「他人への親切はいつか自分に返ってくる」ことなど、さまざまな“教訓”を読み取ることができます。小人にした親切が、金のがちょうや、最終的にはお姫さまと結ばれることなど、その後のあらゆる幸せに繋がっていると考えられるのではないでしょうか。
『黄金のがちょう』の主な登場人物
『黄金のがちょう』の主な登場人物も押さえておきましょう。
弟(ハンス)
この物語の主人公。家族から馬鹿にされているが、心優しい。版によっては、“ハンス”と名前がついている場合も。
一番上の兄・二番目の兄
利口ではあるが、人への思いやりに欠けている。
小人
三兄弟が森で出会う、お腹を空かせている小人。
金のがちょう
弟が切った木の中にいた金の羽を持つがちょう。
宿の娘たち
弟が泊まった宿の娘。金のがちょうに触れようとして、それぞれ列を成すように身体がくっつき合ってしまう。
お姫さま
弟と出会うまで、一度も笑わなかったお姫さま。
「黄金のがちょう」を読むなら
『黄金のがちょう』はさまざまな形で出版されています。最後に、おすすめの絵本や書籍をチェックしておきましょう。
金のガチョウ(教育画劇)
シンプルで味のあるイラストが魅力的な『金のガチョウ』の絵本。大型本でイラストを存分に楽しめるだけでなく、子どもに分かりやすくまとめられた物語も「読みやすい」と好評です。
金のがちょう (はじめての世界名作えほん)
はじめての読み聞かせをする1歳ごろから、一人読みをしはじめる6歳ごろまで、幅広い年齢のお子さんが成長に合わせて読める、“はじめての世界名作えほんシリーズ”の『金のがちょう』。持ち運びがしやすく、親しみやすいイラストで、子どもたちから人気です。
グリム童話集(2) 完訳版 (偕成社文庫)
グリム兄弟が編纂した童話集を、原書のさし絵を使って完全訳で出版した一冊。『金のがちょう』の他にも、『おやゆび小僧』『白雪姫』等、数々の名作が収録されています。「絵本ではもう物足りない」という小学校中学年以上のお子さんには、オリジナル版の雰囲気が味わえる本書がおすすめです。
意外な展開が楽しい一作! はじめての読み聞かせにも◎
今回は『黄金のがちょう』の作品背景やあらすじ、おすすめ書籍を中心にご紹介してきました。小人との出会いをきっかけに繰り広げられる、意外な展開が魅力的な本作。はじめての読み聞かせ向けの絵本も出版されているので、まだ幼いお子さんが触れやすい作品でもあります。ぜひ、お子さんの読書タイムに取り入れてくださいね。
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文・構成/羽吹理美