『マッチ売りの少女』ってどんなお話?
多くの人に知られる『マッチ売りの少女』はアンデルセンの代表作の一つで、デンマークの作家ハンス・クリスチャン・アンデルセン(Hans Christian Andersen)によって書かれた童話です。
アンデルセン童話『マッチ売りの少女』とは
この物語は、この作品は1845年に発表されました。
原題:”Den lille Pige med Svovlstikkerne”、英題表記”The Little Match Girl”
国:デンマーク
発表年:1845年
作者のアンデルセンってどんな人?
ハンス・クリスチャン・アンデルセン(Hans Christian Andersen、1805年 – 1875年)は、デンマーク語読みではアンナセンといい、フュン島のオーゼンセで貧しい靴屋の子として生まれました。
彼の代表作には、「人魚姫」「みにくいアヒルの子」「裸の王様」「親指姫」「赤い靴」「雪の女王」などがあります。
彼の作品は、当時の社会や人間の心の葛藤を描写しており、文学的な価値も高く評価されています。また、アンデルセンは詩や旅行記も執筆し、デンマーク文学の発展に貢献しました。
没後も、アンデルセンの童話は数多くの映画や舞台としてよみがえり、様々な形で再解釈されて今なお人々に愛されています。
いつごろのお話?
『マッチ売りの少女』が生まれた時代背景は、19世紀初頭のデンマークです。
当時のヨーロッパは産業革命の真っただ中で、デンマークも例外ではありませんでした。富を求めて、農村から都市への人口流入が増え、工業化が進展。しかし、工業化に伴い労働条件は悪化し、特に貧しい人々は劣悪な環境で働くことを強いられていました。
モデルは作者の母親
『マッチ売りの少女』は、一枚の木画版をきっかけに作られたと言われています。編集部から3枚の木画がアンデルセンのもとへ届き、この内のどれかを材料に童話を書いて欲しいという依頼でした。
彼は、マッチを持つ少女の木画を選び、ひどく貧乏な生活で育ったと聞かされていた母親の話を思い出し、母親をモデルにしたと言われています。
アンデルセン自身も幼少期から貧困な家庭環境で育ち、決して豊かではありませんでした。このような実体験や母親の話から彼が着想を得たのでは、と考えられています。
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あらすじ・ストーリー紹介
それでは、あらすじを見ていきましょう。
あらすじを簡単にまとめると…
大晦日の凍つく寒さの夜、身寄りのない貧しい少女が、少しでも収入を得ようとマッチを売りに歩きます。しかしマッチは売れず、寒さのあまり暖をとろうと少女は売り物のマッチを擦りました。
すると、マッチの火が付いている間だけ、亡くなった家族と過ごした思い出がよみがえります。そんな幸せな時間を楽しむために最後の一本までマッチを擦り夢を見ますが、朝になると少女は凍死していたという悲しい物語です。
詳しいあらすじ
雪の降る大晦日の夜に、身寄りを亡くした貧しい少女は、薄着で裸足という恰好で寒空の中、マッチを懸命に売ろうとします。しかし、周囲の人々はそんな彼女に気を留めるわけでもなく、無関心で通り過ぎていきます。
夜も更けてくると人もまばらになり、彼女は少しでも暖を取ろうとマッチを一本こすります。
すると火を灯すことで温かさを感じるばかりか、幸せな世界が目の前に広がります。彼女は知らないうちに夢をみているのです。夢の中では、温かい暖炉の前で家族に囲まれてご馳走を楽しんでいます。
しかし、マッチはほんの少しの時間で燃え尽きてしまいます。その度に夢から目覚めては現実に戻されるため、彼女は幸せな家族と温かい部屋、美味しい食事を夢見るためにマッチを擦り続けます。
最後の一本のマッチを擦ると、大好きだったおばあちゃんが出てきます。少女はおばあちゃんに、自分を両親のところへ連れて行って欲しいと懇願します。すると、おばあちゃんも少女を優しく抱きかかえます。
翌朝、通行人が路地裏で倒れている少女の周りに集まっていました。少女は路上で凍死しており、周囲には燃え尽きたマッチがたくさん落ちていました。それでも、少女の顔は微笑みに満ちていました。
悲しい結末にこめられた作者の意図とは
最後は寒さに耐えられず凍死してしまう少女のお話ですが、作者はどのような意図を込めてこの物語を描いたのでしょうか。
少女はなぜ死んでしまったの?
両親に先立たれ、身寄りがいなくなった少女は生計を立てることが出来ず、日ごろから栄養状態も悪かったと考えられますが、直接的死因は寒さに耐えきれず凍死と考えられています。
作者が伝えたかったこととは
貧困問題への関心喚起
19世紀初頭は他のヨーロッパ諸国同様、デンマークでも産業革命の波にさらされ、国内では貧富の差が広がっていました。この作品は貧しい者を見捨てる当時のデンマーク社会への批判とも言われています。
思いやりの大切さ
物語では、明らかに困窮している少女に対し、周囲の人々は足を止めることもなく無関心さが強調されています。物語では、孤独で助けを求めている姿に対し、思いやりを示すことの大切さを説いているとも考えられます。
夢と現実の対比
少女がマッチをすったときの幸せな幻視は、貧困の中でも憧れ続ける幸せへの欲求をあらわしています。
しかし一方で、夢からさめるたびに寒さに直面する様子を描くことで、希望だけでは問題が解決しない現実、やがて死へと向かっていく貧困層の過酷な現実を表しています。
『マッチ売りの少女』の教訓とは
『マッチ売りの少女』から得られる教訓としてどんなことが考えられるでしょうか。
幸せは主観的
周囲の人は少女の死を悲しみと哀れみをもって同情しますが、少女が幸せに天国へ旅立ったことは知りません。本当の幸せは本人にしか分からないもの、というメッセージが見てとれます。
同情と思いやり
悲しい結末を通して、他人の苦しみや困難を理解し、助けや慈悲の心を持つ大切さを訴えています。
『マッチ売りの少女』を読むなら
続いて、おすすめの『マッチ売りの少女』の本を難易度別にご紹介します。
アンデルセンの絵本 マッチ売りの女の子(小学館)
マッチうりのしょうじょ はじめてであう名作絵本(世界文化社)
文字が読めるようになったら。25ページ 漢字無し、カタカナにルビあり。
小学校低学年~。45ページ 漢字あり、ルビあり。
マッチ売りの少女 【日本語/英語版】 きいろいとり文庫
日本語と英語が収録されているので英語の勉強にも最適。小学校低学年~。40ページ 漢字あり、ルビあり。
ハッピーエンドに改変されていることも。
短いお話ですが、一度読んだら忘れることのできない悲しい物語です。アメリカでは物語の最後に、お金持ちの心優しい人に助けられる、と改変されている場合もあります。それによって、希望を持つと救われることを子どもに教えるとともに、お金持ちはそうでない者を助けるべきであることも伝えているそうです。
結末はどちらでも、物語の主旨は大きく変わりませんが、改変版のように、もしも誰かが立ち止まって手を差し伸べていたら、物語はどう変わったでしょうか。他者を思いやる気持ちの大切さについてお子さんと一緒に考えてみるのもよいのではないでしょうか。
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文/加藤敬子 構成/Hugkum 編集部