すい臓は甘いものの管理人? 代謝と消化の役割を持つ働き者【親子で人体を学ぶ】

すい臓は、内臓の中でも「代謝」と「消化」の2つの役割を持っているユニークな器官。ここではすい臓の基本的な知識、主な機能、私たちの日常生活の中での働き、すい臓の健康を守るための注意点などを見ていきましょう。

すい臓ってどんな器官? 基本の知識

すい臓は、心臓や肝臓に比べると、その機能や役割はあまり知られていないかもしれませんが、大きく分けて2つの役割を持つ、ユニークな器官です。詳しく見ていきましょう。

すい臓とは

すい臓(膵臓)は、お腹の真ん中あたり、胃の後ろにある器官です。

すい臓は2つの機能をもつユニークな器官で、1つ目は、私たちが口にした食べ物が胃から十二指腸に送られたときに、消化を助けるため十二指腸に消化液を分泌する「外分泌機能」です。もう1つが、インスリン、グルカゴンなど血糖値を調整するためのホルモンを分泌する「内分泌機能」です。

なお、すい臓は、英語では「パンクレアス(pancreas)」と言います。パンには「すべて」という意味が、クレアスには「肉の塊」という意味があります。漢字の「膵臓」に使われている「膵」という漢字は、江戸時代にオランダ語の解剖学書を翻訳した宇田川玄真が「肉」の意味を持つ「月」と、「すべて」という意味を持つ「萃」を組み合わせて独自に作った漢字。中国から伝わってきた漢字にはないもので「国字」と呼ばれます。

すい臓の場所:どこにあるの?

すい臓の場所:どこにあるの?
すい臓はどこにあるの?

すい臓は、お腹の真ん中あたり、胃の後ろに位置しています。全体が細長い形をしていて、一方が、十二指腸がカーブした部分にはまったようになっています。

形や大きさ:他の器官との比較

すい臓は長さが15〜20cmくらい、向かって左側が太く、右側が細くなっている「くさび型」をしています。左側の太い部分が十二指腸に接しており、膵管を通して、十二指腸に膵液を分泌します。

お腹の中にある肝臓や腎臓など、他の主要な器官と比べると、比較的小さな器官と言えます。

すい臓の主要な機能: 身体の中の大切な仕事

すい臓から分泌されたインスリンの働きによって、細胞は糖分を栄養とすることができる
すい臓から分泌されたインスリンの働きによって、細胞は糖分を栄養とすることができる

すい臓の大部分、体積の95%以上は消化液を分泌するための外分泌部が占めています。残りのわずかな部分がインスリンなどのホルモンを分泌する「ランゲルハンス島(膵島)」と呼ばれる部分です。

機能1:「インスリンとは?」甘いものとの関係

すい臓には外分泌と内分泌の2つの機能がありますが、よく知られているのは内分泌機能、特に血糖値を調整するホルモンであるインスリンを分泌する機能でしょう。

私たちが食事で取った炭水化物は体の中で分解されて、最終的にはブドウ糖として吸収されます。また睡眠中や食事と食事の間など、食べ物から吸収できないときは肝臓がブドウ糖を作り出して、脳や筋肉に栄養として送り出しています。ブドウ糖は常に血液の中を流れているわけです。

すい臓から分泌されたインスリンは、細胞が血液中のブドウ糖を栄養として取り込むことを助けます。インスリンの働きによって、細胞は糖分を栄養とすることができるのです。

炭水化物や甘いものを食べると、血液中のブドウ糖の量は一時的に上昇します。いわゆる血糖値が上がります。インスリンは、細胞がブドウ糖を栄養として取り込むことを助け、血糖値を下げ、血液中のブドウ糖を一定の濃度に保ちます。

すい臓に問題があり、インスリンの分泌がうまく行われないようになると、血液中のブドウ糖の調整がうまく行われなくなってしまいます。その結果、「糖尿病」と呼ばれる状態になってしまいます。

機能2:「消化酵素の生成」食物を分解する力

すい臓のもうひとつの機能が、胃と小腸を結ぶ十二指腸に消化を助ける消化液である「すい液(膵液)」を分泌することです。

すい液には、胃で消化され、分解された食べ物を小腸が効率的に吸収できるように、さらに小さく分解するための消化酵素が含まれています。例えば、糖質を分解するためのアミラーゼや小腸でタンパク質の消化を助けるトリプシン、脂質を分解するリパーゼなどです。

機能3:「グルカゴンとは?」インスリンと逆の働きをするホルモン

すい臓は、血液中の糖分(ブドウ糖)を調整するために、インスリンと逆の働きをするホルモンも分泌しています。それがグルカゴンです。

インスリンは細胞が血液中のブドウ糖を取り込むことを助け、血液中の糖分濃度を下げます。ブドウ糖をグリコーゲンに変えて、肝臓や筋肉に貯めておくことも助けます。

一方、グルカゴンは逆の働きをします。貯めておいたグリコーゲンをブドウ糖に変えることを助けて、血液中のブドウ糖を増やします。つまり血糖値を上げる働きをします。

ブドウ糖をグリコーゲンに変えたり、グリコーゲンをブドウ糖に変えるなど、ある物質を合成したり分解したりして他のものに変える働きを「代謝」と言います。すい臓は「代謝」と「消化」の2つの機能を備えています。

すい臓が働くとき:日常での影響と働き

すい臓は私たちの暮らしのなかで、どのように動いているのでしょうか。整理して見ましょう。

甘いものを食べた後:すい臓はどう動く?

甘いものを食べると、糖分がたくさん吸収され、血液中の糖分濃度が上がります。すると、すい臓は血液中の糖分濃度を下げるために、インスリンを分泌します。インスリンは細胞が糖分を取り込み、栄養とすることを助けるほか、糖分をグリコーゲンと呼ばれる物質や脂肪に替えて貯えることを促進します。

甘いものを食べると体重が増えるのは、インスリンが血液中に糖分があふれることを防ぐために、体内に取り込んでいるから、とも言えます。

空腹時のすい臓:低血糖とは?

一方、食事を十分に取れなかったり、食事を取らない時間が長く続いたりすると、血液中の糖分は少なくなります。いわゆる低血糖の状態です。低血糖は体のエネルギーが不足している状態とも言えるので、疲労や脱力感につながります。

このとき、すい臓はインスリンとは逆の働きをするホルモンであるグルカゴンを分泌します。グルカゴンは肝臓や筋肉に蓄えられたグリコーゲンを分解して、血液中の糖分を増やします。

すい臓の健康を守る:生活習慣と注意点

代謝と消化の2つの機能を持つすい臓。すい臓の健康を守るために、どのようなことに気をつければよいでしょうか。

正しい食生活:すい臓に優しい食事とは?

血糖値をあげない食事が、すい臓をいたわる食事

すい臓に優しい食事とは、すなわちすい臓にあまり負担をかけない食事です。

消化と代謝の2つの役割を持っているすい臓にとっては、まず消化しやすい食事であることがポイントです。特に脂質を取り過ぎると、消化のために膵液が多く分泌することになって、すい臓に負担がかかります。

代謝の面から考えると、食事によって血糖値を大きく上げることも避けたほうがよいでしょう。とはいえ、炭水化物(糖質)は私たちの活動を支える大切な栄養素です。むやみに制限することは、健康を損なうことにつながりかねません。

ゆっくり、時間をかけ、よく噛んで食事を取ることが血糖値の急上昇を抑えることにつながります。

予防と早期発見:すい臓の病気に注意

すい臓からインスリンの分泌が十分にできなくなると糖尿病に
すい臓からインスリンの分泌が十分にできなくなると糖尿病に

すい臓の病気には、膵炎、糖尿病、膵癌などがあります。膵炎は、すい臓が炎症を起こしたもので、アルコールや脂肪分の多い食事などが原因となっています。すい臓の内分泌機能に異常があり、インスリンの分泌が十分にできなくなると糖尿病につながります。また、すい臓癌は、すい臓にできるがんで、初期症状が現れにくいことで知られています。

すい臓の病気を予防するためには、特別なことが必要なわけではなく、規則正しい生活、バランスの取れた食事、ストレスの解消などが大切です。また定期的に健康診断、特に腹部エコー検査を受け、早期発見を心がけることが重要になります。

ストレスとすい臓の関係:体のバランスを整える

ストレスは体のさまざまな部分に悪影響を及ぼします。すい臓も例外ではありません。例えば、ストレスで膵液が過剰に分泌されると、膵液が逆流して、すい臓にダメージを与えてしまいます。またストレスはすい臓がんを引き起こす、ひとつの要因と考えられています。

ストレスを解消するための過度の飲酒が、すい臓に悪影響を及ぼすことは言うまでもありません。

すい臓は「消化」と「代謝」の役割を持つユニークな器官

すい臓は、食べた物の「消化」、糖をエネルギーに変える「代謝」の2つの働きをしている珍しい器官です。すい臓が適切に機能しなくなったら、体内に栄養が行き渡らず、エネルギー生産が滞ってしまいます。消化のいい食べ物をよく噛んで食べて、すい臓になるべく負担をかけないようにしましょう。

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