サステナブルな商品として評価された「服の鉛筆」

2023年7月に行われたISOT(国際文具・紙製品展)で発表された「日本文具大賞」。「服の鉛筆」は新設されたサステナブル部門で優秀賞5点の中に選ばれました。

評価された点は次のとおりでした。
・鉛筆芯に廃棄される予定だった繊維炭が入っている ・繊維炭入りの芯は4B相当 鉛筆アーティスト等に評価を受けている ・安全性に関しては成分検査による国の安全基準クリアし、特許出願済み ・CO2削減に寄与している |
「服の鉛筆」は縫製工場から生まれた




「服の鉛筆」を生み出したのは、株式会社ミヤモリという縫製を行う創業57年(2023年現在)の企業です。布を裁断し、刺繍を施し、縫って洋服にする作業が日々行われています。年間60万着の洋服を生産していますが、特に学校で学童・生徒が着る体操服を縫製することが多く、製品は全国の子ども達に供給されています。


服を作るために必要な形で布を裁断すると、生地のうちの20%は裁断くずと呼ばれる不要な布として処理されていました。それは同社だけでも年間20トンというものすごい量です。これらは今まで埋め立てられたり、燃やすことで処分されていました。処分のために埋め立てる場所へ運ぶためのトラックを動かすためにも、焼却処分をするために燃やしても二酸化炭素は発生します。
「縫製工場として二酸化炭素の発生量削減に貢献できないのか?」
社員からアイディアを募りました。
「裁断くず」を「裁断くず」と呼ばせない


「裁断くずを裁断くずと呼ばせないために、地球のために何かできないか」社内でアイディアを募りました。また社内だけではなく地元の企業とも知恵を出し合い、結果的に特殊な加熱方法を用いることにより生地から炭を作るプロジェクトが始まりました。
子どもたちとSDGsについて考えたい
次に炭の使い方を考えなければなりません。「自分たちが作った体操服を着てくれている子どもたちと一緒に地球温暖化について学びたい」という想いから、子どもたちにとって身近な存在である鉛筆を作ることにしました。そうです。服からできた炭を使った鉛筆を作り上げることにしたのです。
スローガンを掲げて
「すべての捨てるを過去にする」をスローガンに研究開発は進められました。そのプロセスは、
1.裁断くずを繊維炭にする
2.繊維炭を「繊維炭粉体」という粉末状にする
3.鉛筆の芯にこの繊維炭粉末にした「繊維炭芯」を作り上げる
4.鉛筆工場にて繊維炭芯を使用した鉛筆として組み立てる
となりました。




鉛筆芯の製造を担当したメーカーからも「作るなら本物を」と誠意を込めて作っていただいたそうです。
地元の炭化装置開発企業、鉛筆の製造会社とコラボレーションして、2年半の時をかけて共同開発の末に出来上がりました。
「服の鉛筆」を実際に使ってみる
鉛筆ならば実際に書き味を体験したいところ。お願いをして商品を試し書きさせていただきました。

繊維を炭化させてできた繊維炭が20%も含まれるという「服の鉛筆」。鉛筆の硬さ(硬度)は4B相当。ですが、自宅にあった4Bの鉛筆よりも黒く、テカリのないマットな色合いです。
書き味にも特徴があります。書いているときに紙との摩擦が大きく感じるのです。つまり軽い引っ掛かりを感じるといいますか、「鉛筆を使って紙に書いている」と改めて感じさせられるような書き味です。市販品の鉛筆の滑らかな書き味とは異なるため、一文字一文字を大切に書くような書写であったり、デッサンをじっくりと描くのにも良いかもしれません。
また、安全性に関しては国による安全基準をクリアしていて、”焼成鉛筆芯”を用いた鉛筆として特許の出願も済ませています。
二酸化炭素は削減できたのか?
元々は20トンもの断裁くずを処分するのに出てくる二酸化炭素の削減が目的となっていたプロジェクトでした。現状の二酸化炭素排出量と今後の想定量の差を出すと実に9000kg以上の二酸化炭素排出を削減することができます。1年間に1本の木が吸収する二酸化炭素の量は14kgなので、およそ650本の木が吸収する量を削減することができる計算計算です。また、ダイオキシン類の発生も抑制することがわかっています。
出前授業も実現
服の鉛筆が完成後、目標としていた「小学校での出前授業」活動も開始。SDGsを子どもたちと共にSDGsを考えています。
この「服の鉛筆」は2023年9月時点ではまだ一般販売されていませんが、今後は直販サイトにて販売を計画していきたいとも語っていました。
販売が始まった時にはこの鉛筆の書きごこちをぜひ味わってほしいです!
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文・構成/ふじいなおみ