駐在妻にはヒエラルキーがある?夫の海外転勤でキャリアを中断した妻たちの本音とは

「駐在妻」という言葉をご存じですか?パートナーの海外転勤に伴い、帯同する妻(女性)を意味します。駐在妻と聞くと、華やかで優雅な暮らしのイメージがまだ根強いと思いますが、実際には孤独と葛藤で苦しむ方も多いです。
今回は、駐在妻のためのコミュニティ「design me」をゼロから立ち上げ、今では世界22カ国131名が参加するコミュニティの代表を務める礒田あいさんと、キャリアコンサルタント相坂サオリが、駐在妻の現実や、女性のキャリア形成について対談させて頂きました。

「優雅な駐妻は本当にごく一部なんです」

相坂 本日は、旦那さんの海外赴任がきっかけでタイとマレーシアに5年以上暮らし、現在は、駐在妻向けコミュニティ「design me」を運営されている礒田あいさんにお話を伺います。

まず、初めに駐在妻と言うと、毎日アフタヌーンティーをしたりして華やかな生活をしているようなイメージがあるんですが、実際の海外生活はどんな感じなのでしょうか?

礒田 みなさん、意外と普通の生活をしていると思います。特に東南アジアだとナニーさんやお手伝いさんがいるイメージあると思うのですが、全然つけていない家庭も多いですね。

昔ほど、物価も安くなく、駐在員さんの若年化もあって、思った以上に普通の生活を送っている人が多い印象でした。皆さんが思い浮かべるような優雅な駐在妻は本当にごく一部なんです。家とスーパーの往復に子どもの送り迎えなど、海外でも日本と変わらない生活をされている方も多いです。

駐在妻は大きく分けて4タイプ

キャリアブランクに悩んだ自身の経験を経て、礒田さんが初めて主催した駐在妻向けキャリアワークショップ
キャリアブランクに悩んだ自身の経験を経て、礒田さんが初めて主催した駐在妻向けキャリアワークショップ

相坂 そうなんですね!みなさん意外と堅実に生活されていて、正直意外でした。ちなみに、駐在妻の方はどんなタイプの方が多いですか?

礒田 大きく分けると4つのタイプがいると思います。

①優雅でキラキラした毎日を送るタイプ

たぶん、このタイプがみなさんが「駐在妻」と聞いたら思い浮かべるタイプだと思います。アフタヌーンティをしたり、習い事も楽しんだりアクティブで社交的です。

②仲間と共に活動(ボランティア活動など)に勤しむタイプ

タイの養護支援施設兼学習センターのボランティア活動
タイの養護支援施設兼学習センターのボランティア活動

私はこのタイプで、海外生活を機にキャリア支援をスタートしました。ビザの関係で働けないけど、でも何か活動をしていたい方がこのタイプですね。以前よりこのタイプの方が増えてきているように思います。

③もくもく集中(資格勉強やスキル研鑽)タイプ

日本にいる間は仕事もあって忙しかったけど、時間ができたので海外にいる間にスキルアップして、帰国後に生かしたいと勉強している方です。仲間と共に、というより、職人気質で一人黙々と打ち込んでいる方ですね。

実際に私はコロナ禍に国家資格キャリアコンサルタントの学習をスタートして、②と③のタイプを行ったり来たりしていました。

④日本と変わらない生活をするタイプ

習い事やおでかけもほとんどされず、日々の生活を堅実に送るタイプです。意外に思われるかもしれませんが、このタイプの方は多いです。海外でも日本と同じように暮らすことは当たり前ではないので、生活の立ち上げや家族のサポートに尽力されています。

相坂 そうなんですね。私はてっきりいちばんの優雅でキラキラした毎日を送るタイプの方ばかりだと思っていました。

礒田 全然そんなことないですよ。

相坂 周りにいらっしゃる駐在妻の方は、元々日本にいるとき、どんな職業の方が多かったんですか?

礒田 みなさん、本当にバラバラ。大手企業にお勤めだった方もいますし、医者や会計士などの士業の方もいたり、学校の先生とかもいました。私の周りでは専業主婦だった方は少ないですね。

相坂 いろいろな職業の方が来ていらっしゃって、海外にいる間は、みなさん帯同ビザで来ているから、その時間を有効活用しようみたいな感じなのですか?

礒田 そうだと思います。モラトリアム的に、何かしようと考えている方は多いと思います。

駐在妻にはヒエラルキーがある?

「仲間に恵まれた」という礒田さん。送別会ではオリジナルTシャツを作って見送ってもらったそう。
「仲間に恵まれた」という礒田さん。送別会ではオリジナルTシャツを作って見送ってもらったそう。

相坂 ちなみに…、私は駐在妻にはヒエラルキーがあるという話も聞いたことがあるのですが、それに関しては実際どんな感じですか?

礒田 私もあるとは聞いたことがあります。旦那さんの会社が割と大手で現地に来ている方も多いと、そこの駐在妻だけで集まる婦人会はあると聞きます。ただ、私が渡航したのがコロナの直前なので、コロナ以降は、そういう会も減った気がしますね。

夫の会社ではそもそも来ている人が少ないので婦人会はなかったのですが、婦人会があるところだと、例えば一番若手の駐在妻は婦人会の議事録を書くというのを聞いたことがあります。

相坂 議事録なんて書くんですね!ビックリしました。でも、婦人会なんてそれこそ気遣いとか大変そうですよね。

礒田 駐在妻のビザって、駐在員である旦那さんに「帯同」するビザなので、旦那さんの付属というイメージを持たれることがあります。なので、婦人会で気づかぬうちに失礼なことを言っていたら、それこそ旦那さんにも影響が出るかもしれないという、一種の窮屈さを感じる方もいるようです。

海外の中での日本人コミュニティって、本当に狭い世界なので、何かあると村八分になってしまうんじゃないかという不安が起こりやすいです。

例えば、旦那さんの会社名を話すこと、子供の行っている幼稚園のことを話すこと、自分のことを話すこと、本当は自己開示したいだけなのに、マウントと取られるんじゃないかといつもビクビクしたり……。

実際に私の経験なのですが、元々いた会社は海外駐在でブランクが出来ても復職制度があるので、その話をただの事実として同じ駐在妻の方にお話したら、「それは、仕事を辞めてきた身からすると、聞きたくない話ですよ」と注意されたこともあります。それを言われてしまったら、もう自分のことは何も話せなくなりましたね。

それ以降、「どこどこのレストランが美味しかったよ」とか、「あそこの美容院がいいよ」とか、当たり障りのない話題を選んで、あえてプライベートなことを避けて話す時期があって、あの時期は正直しんどかったですね。

相坂 そうなんですね…。でも、確かに海外の日本人コミュニティが狭いからこそ、1回のミスで居づらくなるという緊張感がありますね。

海外生活での子どもの変化

娘のインター幼稚園の卒園式で、校長先生と担任と共に
娘のインター幼稚園の卒園式で、校長先生と担任と共に

相坂 ご自身としては、そういった面が過ごしづらいなと感じられた点だと思いますが、お子さんの海外生活はいかがでしたか?

礒田 今、8歳になる娘が一人いるんですが、娘に関しては海外での子育てになって良かったと感じています。

というのも、日本にいるときと海外に来てから、性格がかなり変わったと思います。元々日本にいるときは、人見知りで失敗を怖がる気持ちが強いとても繊細な性格だったんですが、海外に来てから少しずつ変わり、今では人前での発表も積極的に自分から手を挙げる子になりました。

相坂 そんなに変わられたんですね!何がきっかけだったのでしょうか?

卒園式は、日本よりカジュアルな雰囲気。
卒園式は、日本よりカジュアルな雰囲気。

礒田 明確にこれといったきっかけは分からないんですが、一つは、幼稚園がアメリカ系のインターナショナルスクールだったことが影響していると思います。

そこの教育は、とにかく子どもを褒めてくれたんです。先生の言った通りにできなかったとしても、褒められるんです。たとえば、いくらスペルが間違っていたとしても、まずはその書こうとした頑張りとか意欲を認めてくれる感じです。私がスペルを直させようとしたら、先生に「今は意欲を育てる時期だから言わないように」と注意されました。問題に正解することではなく、意欲を育てることの方が重要という価値観でした。それが、もう本当にカルチャーショックで、教育の概念が根本から変わりました。

日本の頃は、私自身も娘に対して「挨拶しなさい」とか出来てないことに目がいってしまい、躾に厳しくしてましたが、そこのインターナショナルスクールの教育方針に私自身も感化されて、娘にいろいろと求めて厳しくすることがバカバカしくなって。それが娘にとっても良かったかもしれないですね。

子どもに寛容な文化

磯田 あとは、特にタイというお国柄も影響していると思います。タイは文化的に、とても寛容だと感じます。たとえば、タイの高級デパートのトイレの蛇口で子どもの髪を洗っている女性を見かけたんですが、日本だと白い目で見られたり、注意されそうじゃないですか。

でもタイ人の方は、みなさんそれを見て「かわいいー」って言って微笑むんですよね。私自身もその寛容な文化に適応していったというのもあります。

相坂 そうなんですね!子どもの接し方や、その周りの目一つでも国によって全然違いますね。

第二の故郷と思うほど、大好きなタイ。赴任が終わる時、タイ衣装を着て撮影した思い出の1枚。

礒田 タイでは、本当に街中で子どもを叱らない。むしろ叱ることの方が品がないみたいな感じなんです。だから、私自身も以前より小さなことでは怒らなくなって、娘もどんどん変わっていったように思います。そういう意味で、海外での子育てを経験してみて良かったです。
礒田さんにお伺いした海外生活は、私のイメージと現実のギャップがありました。現地で暮らす日本人の方は案外普通に生活していることが分かりました。その中で、海外にいる少ない日本人のコミュニティだからこそ結びつきが強いのかと思えば、狭い故の窮屈さもあるようです。

そして、海外での子育ての話は、本当に私自身もお話を伺うだけでカルチャーショックでした。とにかく子どもを褒めることで、子どもは伸び伸び育つということがよく分かりました。

後半では、礒田さんが海外生活でどんなことで悩み、苦労したか、そして、駐在妻コミュニティ「design me」の立ち上げに至るまでの軌跡をお伺いします。

後編「「誰のために仕事を辞めたと思ってるのよ!」夫婦ケンカが絶えなかった駐在妻、海外でキャリアを築く体験」はこちら

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礒田あい|枠超えキャリアコーチ

現在はマレーシア・クアラルンプール在住。海外生活スタート時に、12年勤めた大手通信会社を退職したことでアイデンティティ・クライシスに。その経験から、住む場所や肩書きなどに依存せず自分を生きたいとコーチングやキャリアコンサルタントの学びを深め、国家資格キャリアコンサルタントを取得。海外在住女性のキャリア支援をスタートし、現在は世界22カ国130名の女性コミュニティを主宰している。夫と8歳の一人娘の三人家族。

駐在妻のためのコミュニティ「design me」はこちら>>

相坂サオリ|キャリアコンサルタント

株式会社LASSIC代表取締役CEO。主に法人向けにマーケティングPR支援事業と個人向けにキャリアデザイン事業を展開し、自身も国家資格キャリアコンサルタントの資格を取得。大手広告代理店勤務を経て、33歳で起業。自身が不妊治療と仕事の両立で悩んだ経験やキャリア迷子を経て独立した経験から、ワーママや女性のキャリア支援に尽力。会社設立から3か月後、第一子出産。現在は3歳&0歳の娘の子育てと起業に奮闘中。

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取材・文/相坂サオリ

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