AI時代にこそ音楽で人間力を!『音楽脳×勉強脳の使い方』の著者 ヴァイオリニスト廣津留すみれさんに教わる、幼少期にやっておきたい子どもの主体性を引き出す「仕組み化」とは

大分県の公立高校からハーバード大学を卒業。さらにはジュリアード音楽院も優秀な成績で卒業され、現在ヴァイオリニストとして国内外で活躍している廣津留すみれさん。『AERA DIGITAL』での連載記事の中から厳選し、書籍として編集した『音楽脳×勉強脳の使い方』が育児に役立つと話題!
書籍に書かれているおすすめポイントや、すみれさんが幼少期に行っていたことなど、音楽脳と勉強脳を育てる方法について伺いました。

ヴァイオリンの練習をしながら、ハーバード大学へ! 「勉強脳」を育てるには?

ーーすみれさんは一流のヴァイオリニストであると同時に、ハーバード大学の卒業生でもあります。ヴァイオリンの練習だけでも大変だったかと思うのですが、どのように勉強をしていたのでしょうか?

優先順位をつける習慣がついていた

私は2歳からヴァイオリンを習い始めたのですが、子どもの頃からできるだけヴァイオリンの練習時間を確保したいと思っていて。それ以外のやるべきことを効率的にこなす方法はないか、常に考える癖がついていました。

やるべきことに優先順位をつける方法は、母がそうして過ごしている姿を見ていたので、自然と身に付いた形です。例えば、やるべきことをメモして、To Doリストを作って可視化するなど。ハーバード大学を受験する前も、練習時間はできるだけ確保したい、でも勉強もしなければならない…という状況でしたが、受験勉強との両立ができるように最大限、隙間時間に勉強をするなどをして工夫しました。

学校を卒業してからも、執筆活動・テレビ出演・大学での講義などを行いながらヴァイオリンの練習もしなければならないので、効率的に仕事をこなすことができるよう、自分のスケジュールは徹底的に管理しています

保護者のみなさんも、仕事に育児に忙しい毎日を過ごしていると思いますので、時にはルーティーンを見直して、効率化できる方法が他にはないか見直してみるといいと思います。

母がしてくれたこと① ゲーム要素を取り入れて、勉強を楽しく習慣化

子どもの頃、母が私のためにしてくれたことの中で印象に残っていることは、ゲーム感覚で勉強する仕組みを整えてくれたことです。例えば、階段の1段1段に英語のクイズカードが置かれていて、それをクリアすると2階に上がれる。出された問題を解いていくと、おやつがもらえる。そういった仕組みを生活の中に取り入れていました。

ゲーム要素があると、勉強に取りかかるのも少し楽しくなりますよね。勉強を習慣化させたい場合には、そういった要素を少し取り入れてみてはどうでしょう。

母がしてくれたこと② 勉強にマイナスイメージを持たせない声かけ

母は、普通の漢字ドリルでも「これおもしろそうだね。一緒に見てみようか」と言って、何にでも興味が持てるように声をかけてくれていたことも記憶に残っています。「ママがおもしろそうって思っているなら、ちょっとやってみようかな?」と、思ってしまいますよね(笑)。

勉強に対するマイナスイメージは、できるだけ持たせないようにしてくれていたと思います。英語の勉強も、「勉強しなさい」ではなく、「英語ができるようになると、いろんな人と話ができるようになって楽しいよ」と、プラス面で促してくれて。

英検対策の長文読解は、初めは記号の遊びだと思っていたんです。例えば、4段落の文章があったら、設問が1段落に1個ついてたりしますよね。問題集を開いたら、1段落ごとに一つのクイズが付いている、という感じで。そうやって問題を解いていくと、勉強というよりは、IQクイズみたいな感覚になるんですよね。間違い探しのような感覚でもできると思います。

勉強だからといって特別視するわけではなく、全てにおいて好奇心で接する感覚です。

母がしてくれたこと③ 本番前のシミュレーション

母がしてくれたことは他にもあります。私はコンサートの本番前に、頭の中でシミュレーションをしてから舞台に上がる癖がついているのですが、今思えば子どもの頃の英検面接の練習からすでにシミュレーションを取り入れていました。

頭の中でイメージすることはとても大切なことなので、検定試験や模擬試験の対策などでも取り入れてみてください。

「音楽脳」を育てるには?

ーーすみれさんは幼い頃からヴァイオリンを弾くのが大好きだったと聞いていますが、幼い頃からヴァイオリニストになろうと思っていたのでしょうか? 練習から逃げたいと思ったことはありますか?

ジュリアード音楽院の卒業式にて ヨーヨー・マさんとの共演も!

ごほうびを使ってモチベーション設定の第一歩を

子どものモチベーションを維持するためには、ごほうびがあってもいいと思います。子どもは、親や先生からプレッシャーを感じた時点でやる気がなくなってしまいがちです。親のために音楽を学んでいるわけではないし、親がいい気分になるためにコンクールで優勝するわけじゃないですよね。だからごほうびを設定するのは全然ありだと思います。

私も何かのコンクールで1位になったときは、ずっとほしかったぬいぐるみを買ってもらった経験があります。ごほうびを用意すると、「これはがんばらないと、あのクマがゲットできないな」と自分で考えて奮起することができますよね。そういうモチベーション設定をすることは悪いことではないと思います。

まずは“好き”を伸ばす! 好きなことだから行動できる

子どもに対して「何かをしてあげる」ことを考えるのではなく、まずは「“好き”をいかに伸ばすのか」ということを考えてほしいと思います。“好きなことを続けることに意味がある”と思うんです。

そのためには、自分の中で自発的にそのモチベーションを作れるようになることが近道です。そうすれば、主体的に考え、行動することができるようになります。

私の場合は、人前でヴァイオリンを弾くのが大好きだったので、そのためにはどうしたらいいのかを考えました。「人前で上手に弾くためには練習をしなければいけない。だから練習は嫌だけど、やらないと上手には弾けないな」と理解できるようになるんですよね。

どれくらい真剣に演奏に向き合うのかにもよりますが、エチュードばかりをやりすぎると飽きてしまうと思いますので、多少はお子さんが弾きたい曲を織り交ぜながらやるといいと思います。好きな曲が上手に弾けるようになると、やっぱり達成感がありますよね。逆に、知らない練習曲を弾けるようになっても、(それはそれでうれしいですが)モチベーションとしてはちょっと弱い。たまには自由に弾きたい曲に向き合うこともありだと思います。

勉強でも音楽でも、ルーティーン化できるシステム作りが大事

どんな楽器でも、基礎練習に楽しさを見いだすのはなかなか難しいですよね。そういう場合は、勉強同様、習慣化するといいと思います。

私は教育委員会の委員も務めていますので、いろいろな学校に視察にも行きます。その中でも、小学校の先生などは基礎の習慣化がとても上手だなと感じます。学校での生活の流れが習慣化して決まりになっているので、「はい、みんなノート開いてください」「はい、次に何をやりましょう」「次は指でなぞりながら読みますよ」と、授業の流れができているんですよね。子どもたちも当たり前になっているので、何の疑問も抱かずにシステムとしてできてしまう点がすばらしい。

私も小学校のときは、次の日に持っていくものをTo Doリストのように紙に書いて、明日着ていく服と一緒に置いたりしていました。完全にルーティーン化していたので、誰かに「やりなさい」と言われなくてもやりますし、ヴァイオリンの練習も、例えば2時間と決めていたらそれは毎日やるものだと思っているのでやっていました。

習慣にすると疑問を持たずにできるようになるので、そのシステム作りをどうするかだと思います。自発的に子どもが動くようなおもしろい仕掛けを、親御さんがお子さんの性格を考慮してシステムとして作ってみる。特に小中学生の段階だと、ルーティーン化することはとても大事じゃないかと思います。

そういう個々のオリジナルのシステムを作るとき、全くアイデアが思い浮かばなければ、AIに相談してみてもいいと思います。何らかの手がかりはもらえるのではないでしょうか。

幼少期は耳を育てよう

両親が音楽が大好きだったこともあり、私は家の中や車の中など、いろいろなジャンルの音楽が流れている環境で育ちました。また、私の故郷は大分県なので東京ほどたくさんのコンサートはありませんが、「アルゲリッチ音楽祭」が毎年開催されていて、アルゲリッチさんの演奏を毎年聴く機会に恵まれていました。

子どもの頃は、アルゲリッチさんがそんなに有名な方とは知らずに、ジュリアード音楽院に行ってから、実家の近くに毎年アルゲリッチさんが来ているという話を(音楽院の)友だちに話したら、「えー!? それは本当の話?」と驚かれて、すごいことなんだと理解したのですが(笑)。

日本はコンサートホールが全国各地にありますから、音楽を学ぶにはとても恵まれた環境だと思います。お子さんに楽器を習わせたいと思っていたり、音楽に興味を持ってほしいと思っていたりするようでしたら、ぜひ習うだけでなく生の演奏を聴きにホールへ足を運んでほしいと思います。

音楽脳を育むためには、実際にピアノやヴァイオリンを弾いているところを見ておくことは、とても大切なことなんです。

ハーバード大学で鍛えられた“自分で考える力”

ーーアメリカの大学での学びや、海外生活ではどんなことを学びましたか? どんなところに日本の教育との違いを感じたのでしょうか。

ハーバード大学の卒業式にて リベラルアーツ教育で視野が広がったそう。

リベラルアーツ教育は“食わず嫌い”がなくなる

日本だと、中学校→高校→大学と、進学するごとに自分の専門分野を狭めながら決めていく教育ですよね。大体の人は、高校3年生くらいで大学で何を専攻するかを決めて、大学受験に臨みます。一方、アメリカでは大学にもよりますが、入学してから2年かけて専攻を決めていくことが多いです。

私が入学したハーバード大学では、リベラルアーツを取り入れていたので、自分が学びたい分野のほかに、全く関係のない分野の単位をいくつか取らなければならない決まりがありました。例えば、科学が苦手な人でも学ぶ必要があるし、全く聞いたこともない分野も強制的に学ばなければならなかったりします。

ただし、ハーバード大学の授業のすごいところは、自然とその分野に入っていけるような工夫がなされていて、クリエイティブな領域も刺激される内容になっていた点です。授業の中でもいろいろな角度から質問をされるので、その分野の才能だけを問われるものではありませんでした。

自分で考え発言する習慣が家庭内にも

ハーバード大学では、“自分で考える力”がかなり鍛えられたと思います。アメリカは、とにかく自分の意見を形成することにプライオリティがある国なので、小さい頃から自分の考え方を問われる経験が多いのだと思います。

ハーバード大学の友だちの家で『サンクスギビング』を過ごしたことがあります。家族がディナーを囲んで座った後は、何に感謝をしているのかを一人ずつスピーチし、それから夕食を食べ始めていました。

こういうスピーチは学校ではもちろんのこと、家庭内でも当然に行われているんです。しかも、全員にスピーチの順番が回ってくるので、人と同じような意見を持っていても、少し言い方を変えてみようと工夫をします。順番が回ってくるまで何を話そうか考える機会は、自分の意見を作る上でもすごく役に立ったと思います。

日本の学校では、「あなたはどう思いますか?」より、「◯◯を知ってますか?」「1と2、どちらが正解でしょう?」と、知識を問われることの方が多い印象です。教科によるとは思いますが。テレビのクイズ番組でも、そういう問題がとても多いですよね。

「That’s a good question!」◯×ではなくプロセス重視

アメリカで過ごしていると、口癖のようにみんなが言うのが「That’s a good question!」。質問文化の国だからなのでしょうね。わからないときや間違ったときに質問すること、挑戦することなどを後押しして、自信やモチベーションを高めるための働きかけをしてくれるんです。

例えば、授業の中で質問のポイントがずれてしまっていても、先生は必ず「いい質問だね」といって、丁寧に説明してくれます。「なんでそんなこともわからないの?」とか「今その質問をすることは的を射ていないよ」みたいなことは言わないのです。

先生たちも、無関心よりは、的を射ていなくても質問をしてくれることがうれしいのだと思います。私も大学で授業をする立場になって同じことを感じます。質問をするということは、ちゃんと授業を聞いていたことのアピールにもなりますし、そこに至るまでのプロセスを認めることができます。「◯(正解)か×(不正解)か」ではありません。

大学には学費交渉もできる!?

アメリカで特に印象的だったのは、交渉についてです。授業料や演奏活動費なども大学に交渉して奨学金を出してもらうこともできました。こういうところが「アメリカはすごいな」と感じました。

例えば、家賃やインフラの料金、医療費なども、”It doesn’t hurt to ask(ダメ元で言ってみる)”という文化が根付いていて、長期契約や料金を一括払いにすることなどで割引交渉をすることも可能なのです。

AI時代だからこそ、音楽芸術やスポーツで人間力を

ーーすみれさんは音楽を通してどのようなことを学びましたか? また、世の中が急速に変化する時代において、どのような力が必要だと思いますか?

私がロールモデルにしている方は、チェリストのヨーヨー・マさんなのですが、ヨーヨー・マさんは“パフォーミングアーツ”の大切さをよくお話しされています。例えば、科学、テクノロジーなど、どんな科目を学ぶにしても、ベースを築くのはパフォーミングアーツを通してである。イマジネーションやイノベーション、コラボレーションなど、自分以外の人と一緒に想像して何かを作り上げる能力は、全てパフォーミングアーツを通して身に付けることができる、とおっしゃっています。

音楽は0から1を作り出す作業を経て、自分なりの音を作り出していかなければなりません。合唱やオーケストラだったら、初めて会った人の音を聞きながら、協調しながらチームワークを高めなければなりません。そういうこと全てが“パフォーミングアーツ”です。音楽だけに関わらず、バレエなどの舞台芸術にも同じことが言えると思います。

音楽芸術は、脳のいろいろな箇所を同時に使います。譜読みをしながら理想の演奏を頭の中でイメージして、それを指に伝えて音を出す。これらを一度にこなすことで演奏が実現します。さらに姿勢や呼吸も意識しなければいけないのですから、かなりのマルチタスク状態。おそらくスポーツなどをする場合にも、脳は同じ状態になっていると思います。

「イマジネーションしなさい」とか、「イノベーションしなさい」とか言われて意識的にやるものではなく、自然に構築していくという点が、音楽や芸術の良さだと思うのです。

音楽で育まれる「人間力」

AI がどんどん進化していく時代に大事なことは、「人間力」だと思っています。周りの人が今どう考えてるのか、自分がこれをしたら他の人はどう思うか、など。全部AIに頼むこともできる時代ですが、まわりのことを想像して考えられるかが大事なのではないかと思います。

すぐに感情的になったりせず、「この人も大変な思いしてるのかな?」などいろいろな方向から意見を捉えることが大切です。全く関係ないように見えて、実は音楽を通してそういう人間力も学べると思っています。

「一人でも多くの人に生の音楽を届けたい」今後の活動について

今年は、これまでよりもヴァイオリンの練習量を増やし、新しいことに挑戦していきたいと考えています。まだ日本では演奏されていない曲を、みなさんに伝えたいです。

また、“一人でも多くの人に生の音楽を届けたい”という私の目標をこれからも達成していきたいと思っています。私が挑戦をすることで、みなさんにも新しい世界が開けてくれたらうれしいです。

その他にも、世界中の方との新たなコラボレーションも考えているので、レコーディングもしつつ、たくさんの方と一緒に演奏もできたらいいなと考えています。

私のコンサートでは、聴きに来てくださった方々に、演奏した曲の背景や、どうして今回のプログラムにしようと思ったのかをお話しするようにしています。そういうストーリーをお話しするコンサートスタイルをどんどん広げていきたいので、これからも地方公演を積極的に行っていきます。ぜひ、コンサートホールに生の音楽を聴きに来てください。

まだ日本では演奏されていない曲も積極的に演奏されるとのこと (©東京フィルハーモニー交響楽団)。

著書の中では、脳科学者・西 剛志さんが楽器演奏で“地頭”が鍛えられることを科学的に解説

英語や音楽のお話だけでなく、人間関係などのお悩みにも応えた著書『音楽脳×勉強脳の使い方』。本書は、幼少期に音楽をたくさん聴いた子は言語能力が高くなるという研究結果があること、楽器の演奏は脳のワーキングメモリーの容量を増やし、それが“地頭の良さ”につながっているなど、子育て世代の親御さんにとって有益な情報がたくさん詰まった1冊です。

脳科学者の西 剛志さんとの対談のチャプターも必見です。ぜひ書店で手に取り、お子さんの音楽脳と勉強脳を成長させるヒントを学んでみてはいかがでしょうか。

お母様・真理さんのインタビューはこちら

廣津留真理さん「塾なし、留学なし」で娘のすみれさんがハーバード大学卒業! コツは音真似(シャドーイング)。マルチリンガルな“英語環境の整え方”と“まず考えてほしいこと”
英語学習を始めたのは学びの選択肢を狭めないため Q:すみれさんに英語を早くから教えようと思ったきっかけはどういったことですか? ...
廣津留 すみれ 朝日新聞出版 定価:1870円(税込)

「好きなこと」と「やるべきこと」の掛け合わせでアタマが冴える!
ハーバード大学には楽器を弾ける人が驚くほど多かった――

◆「二刀流」は特別な才能を持つ人だけのものではない。
“好き”は最強の知性になる!
◆楽器を演奏することで地頭が鍛えられる?
脳科学者・西剛志氏と“音楽脳×勉強脳”を語る対談も収録!
◆勉強や習い事、英語、進路、人間関係――。アタマの使い方が少し変わる、“すみれ脳”で答える46のQ&A

お話を伺ったのは

廣津留すみれ ヴァイオリニスト

大分県出身のヴァイオリニスト、起業家、著作家。ハーバード大学を卒業後、ジュリアード音楽院を修了。音楽活動にとどまらず、教育事業の展開や、大学での教鞭をとるなど多方面で活躍しています。

この記事を書いたのは

鬼石有紀 ライター

教育学部を卒業し、幼稚園・小学校教諭免許を取得するも、教師は母の希望だったため教師にはならず。自分自身の経験から、子どもは矯正せずにありのまま育てるのが一番だと思っている。勉強は嫌いだけと、学ぶことは楽しいと大人になって気づく。趣味は腸活と音楽を聴くこと。最近は子どもの影響で城・神社、世界遺産巡りにハマっている。

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