スーパー塾講師・黒木蔵人の「裏の顔」が早くも明らかに!「二月の勝者−絶対合格の教室−」が描く本当の教育問題とは? 【連載第4回】

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この秋の日本テレビ系ドラマ「二月の勝者−絶対合格の教室−」。HugKumではドラマ放送期間中の毎週金曜日に、教育ジャーナリストのおおたとしまささんによる前週のストーリーの振り返りと、ドラマに出てきた中学受験情報の解説、そして次回放送内容を考察する記事を連載しています。

桜花ゼミナールのエースが転塾!?

第3話の主役は、桜花ゼミナール吉祥寺校の成績No.2である前田花恋だった。成績はいいのだが、言動になにかとトゲがある。第2話には加藤匠くんに「落ちこぼれ、ダッサ」とたたみかけ、塾に来られなくしてしまった張本人でもある。

©Nippon Television Network Corporation

その花恋が、黒木(柳楽優弥)の古巣であり中学受験最強塾の名をほしいままにしているルトワックへの転塾を企てる。黒木に敵対心を燃やすルトワックの灰谷(加藤シゲアキ)が、花恋親子を案内する。ルトワックのトップクラスで行われている授業のレベルの高さを見て、花恋の目も思わず“輝く”。

実は、花恋は学校では勉強ができすぎて浮いていた。でも塾では尊敬のまなざしを向けてもらえる。それが心地よかった。さらに高いレベルを目指して、ルトワックの門を叩いたわけである。動きを察知した黒木ではあったが、「放っておきましょう」と言い放ち、佐倉たちをまたもやギョッとさせる。

花恋の両親は2人とも医者のようだが、父親は海外赴任中ということになっている。医師として激務をこなす花恋の母(高岡早紀)ではあるが、決して娘を追い込むお受験ママではない。毎日手の込んだ弁当を、塾に行く花恋にもたせる。花恋が深夜まで勉強していると、体を気遣ってたしなめる。花恋がルトワックに移りたいと言えば、その気持ちを尊重しつつ、桜花ゼミナールへの誠意も忘れない。

『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』(おおたとしまさ・著、高瀬志帆・画、小学館・刊)より

 

早速ルトワックの体験授業を受けてみる花恋であったが、その目はみるみる“輝き”を失っていく。自分よりできる子がたくさんいる。トップクラスの子からはあからさまに見下される。講師は自分の名前を覚えてくれてもいない。初めてそんな立場を経験するのだ。

そのせいだろう。平日の日中に公園のブランコにつっぷす花恋を、佐倉(井上真央)が見つける。黒木からは「放っておきましょう」と言われていたが、たまらず声をかける。そのとき、花恋の太ももに、自傷行為の傷跡を見つける。

原作の漫画では、花恋のストレス症状は、自傷行為ではなく、抜毛癖として描かれている。無意識でブチブチと毛を抜いてしまうのだ。母親もそれに気づいており、娘の思い詰めた様子にどう介入していいのか、頭を悩ます場面がある。

そんな母親の態度を、ルトワックの灰谷は「せっかく本人はやる気なのに母親がストップをかけるパターン」「意識改革してもらう必要があります」と斬って捨てる。さらに黒木に対し「ま、(花恋が)このまま育たないようであれば、切ってしまうしかありませんが……。あなたがルトワックでやってきたようにね」「(ルトワックの塾生だった上杉海斗を)伸び悩んだ末切り捨て、退塾させたのはあなたでしたよね? 彼はいま、桜花にいるそうじゃないですか。因縁ですね」と詰め寄る。

その後、塾に到着した黒木に佐倉は、花恋の自傷行為について伝えた。すると黒木は「そろそろなのかもしれませんね」と言い残してまた塾を出て行ってしまった。

回り道をしたからこそ得られた人間的成長

ランドセルを背負ったまま吉祥寺のアーケード街をとぼとぼと歩く花恋の前に、黒木が立ちはだかる。しかしその髪はくしゃくしゃで、塾にいるときとはまるで目つきが違った。花恋は思わず「黒木先生!?」と確認する。

ベンチに腰掛け、2人で缶の甘酒をすする。顔色の悪い花恋への、黒木の気遣いだ。そして、いつもの露悪的な黒木とはまるで違うキャラの黒木が、疲れ切った花恋の心を癒やしていく。

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「いまから飛ばしてると、二月までもたないよ」
「私、自分で頑張りたくてやっていることなのに、なんで止められなきゃいけないの?」
「ほんとにそうだよね」
「え?」
「勉強ができる子は、なんでほめてもらえないんだろ」
「?」
「リレーの選手に選ばれたら、すっごく褒めてもらえるのに。合唱コンクールでピアノ弾いたら、クラスのヒーローなのに……」

黒木の言葉の一つ一つが、ずーっとぐじゅぐじゅと化膿していた花恋の傷を癒やしていく。花恋の目から涙が溢れ出す。

「花恋には、トップが似合ってる。その他大勢の中なんて花恋の居場所じゃない」
「えっ……」
「花恋は、女王になれるところでしか輝けない」
「……」
「花恋は女王様だ。少なくとも僕や桜花にとって」
「!」
「花恋の席、まだ空けて待ってるよ」

黒木は慈しみ深く微笑みかける。

『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』(おおたとしまさ・著、高瀬志帆・画、小学館・刊)より

 

花恋の自宅では、母親が待っていた。佐倉から状況を知らせてもらい、意を決して娘に自分の気持ちを打ち明ける。

「あなたのこと、どれだけ心配してるか、わかってほしいの」

母親の目に涙があふれる。それを見た花恋も、これまで抑圧し続けてきた感情を抑えきれなくなる。

「なんでママが泣くの? 私、ママを泣かせるようなことした? なんで、なんで……」

親子は抱きしめ合う。それだけで、お互いの気持ちが通じ合った。しかし謎も残る。あれだけ共感的な母親に育てられながら、なぜ花恋はあれほどまでに1番になることへの強迫観念をもっているのだろうか。また医師としての激務をこなしながらもしっかりと娘と向き合うあの母親の強さは、どこから来るものなのだろうか……。まだ描かれていない前田家の背景があるような気がする。

 

後日、桜花ゼミナールに花恋が戻ってきた。でも前とはちょっと様子が違う。「ここがわからない」という友達に勉強を教えたりする。彼女なりの回り道をして、傷つき、でもそれを糧にして、ひととして一回り成長したのだ。

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黒木はネオン街の一室で「塾」を運営していた

さてここからは原作にはない、「答え合わせ」的シーンだ。「どうやってあの子を説得したんですか?」と尋ねる佐倉に黒木は「何も説得などしていません。いちばん元気に泳げる池を教えてあげたまでです」と返す。競争を煽り子どもを追い込むルトワックのやり方よりも褒めて伸ばす桜花ゼミナールのやり方のほうが、花恋には合っていると黒木は説明する。

さらに、「だったらなぜすぐに転塾を止めなかったんですか?」と尋ねる佐倉に、「無理に止めたところで、頭が良く自尊心の強い彼女は納得しない。不安や苛立ちの原因を取りのぞくことはできなかったでしょう。やらせてみて気づくのを“待つ”か、誰かを頼るのを“待つ”か……」と答える。

「誰か」とはもちろん花恋の母親のこと。黒木は花恋の母親を「受験生の親として理想的です」と称す。ここで第1回の黒木のセンセーショナルなセリフを思い出してほしい。「合格のために、最も必要なのは、父親の経済力と母親の狂気!」。花恋の母親のどこに狂気が宿っているというのだろう。あのセンセーショナルなセリフに込める黒木の真意を推し量るうえで、最大のヒントではないだろうか。

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母親の態度を賞賛する一方で、黒木は次のように釘を刺す。「ただし、相手は6年生。たかが11〜12歳の子どもです。失敗や間違いを起こします。その子がほしいものと、必要なものは必ずしも一致しない。育つ環境をみまがえず提供していく。大人たちがその経験から慎重に、子どもたちの手を引いてやらなければならない」。

ここでさきほどの灰谷の発言を思い出してほしい。黒木が上杉海斗をルトワックから追い出したという話だ。つまりあれも、海斗がいちばん元気に泳げる池を教えてあげたのだと解釈できる。実際、桜花ゼミナールに移ってきてから、海斗の成績は急上昇している。「水が合っていた」というわけだ。

 

さらに黒木は珍しく、佐倉に感謝の意を述べる。自傷行為に気づいてくれたことで、介入のタイミングがつかめたと。前回、加藤君のときもそうだった。佐倉が加藤君の鉄道好きに気づくことで、黒木は的確な打ち手を講じることができた。

塾講師としてはまだまだ頼りないし、本来不器用な佐倉だが、こういうところのセンスは優れている。私も取材活動を通してとときどき出会う。そういう先生に。

大人社会の感覚では、どんくさいとか、間が悪いとか、さんざんな評価を受けてしまいがちなのだけど、子どもの発する小さな小さなサインに気づくことができる先生がときどきいる。彼らは先生になるべくしてなったのだと思う。佐倉もそういう一人なのだろう。そしてそのことをおそらく黒木も、桜花ゼミナール社長の白柳徳道(岸部一徳)も見抜いている。

ところで今回、この白柳が、井の頭ボウルのマスターの義理の父親であり、つまり紗良の祖父であることが明らかになった。さらに黒木の「裏の顔」まではっきりする。

 

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黒木と紗良が肩を並べて入っていったネオン街の雑居ビルの一室「STARFISH(ヒトデ)」の中は、都立高校受験を目指す中学生や、おそらく子どものころに学びの機会に恵まれずいまは夜の仕事をしている女性たちが再チャレンジを期すためのアットホームな「学びの場」だったのだ。名門女子中高一貫校に通う紗良の「バイト」とは、ここで勉強を教えることだった。

視聴者にもすでに、このドラマが単なる中学受験必勝物語ではないことがわかったことだろう。中学受験は「入口」にすぎず、背景にあるもっと大きな社会問題までを視野に入れた作品なのだ。だからこそ、中学受験生の親御さんにはぜひ最後まで見てほしい。大きな視野のなかに、自分たちが「なぜ中学受験するのか?」を位置づけることができるようになるはずだ。原作を読めば、黒木の「願い」の、より深い部分が理解できる。

 

次回(11月6日)の予告では、「うしろの半分を解く資格がない」「武田夫妻の地雷を踏みつけて爆発させるのです」「中学受験は課金ゲームかもしれませんね」など、またまた物騒なセリフの数々が聞かれた。黒木の真意やいかに。

 

ドラマの第3回を見逃したというひと、もう一度見たいひとは、ネットサービス「TVer」で、11月6日21:59まで視聴可能だ。ドラマ公式ホームページでは「第3回」のダイジェスト動画が見られる。「第4回」を予習したいひとは、「次回予告」をどうぞ。

文/おおたとしまさ

 

二月の勝者 -絶対合格の教室』第4 話は11月6日(土)夜10時より放送/日テレ系列

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