「うちの子は小さいけれど、まさか病気だとは思わなかった」「遺伝だから仕方ないと考えていた」【「成長ホルモン分泌不全性低身長症」体験談】

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9月20日は「子どもの成長啓発デー」です。キャンペーン活動は、内分泌疾患の患者さんや家族の支援団体で構成する国際組織(ICOSEP) が2013年から開始しています。
子どもの内分泌疾患に「成長ホルモン分泌不全性低身長症」という病気があります。何らかの原因により成長ホルモンの分泌が少なく、身長が伸びにくくなる病気ですが、早期発見・早期治療することで成長を促すことができます。成長ホルモン分泌不全性低身長症と診断された3人の子どものママ・パパに話をうかがいました。成長ホルモン分泌不全性低身長症に詳しい、神奈川県立こども医療センター内分泌代謝科 花川純子先生のアドバイスも紹介します。

Case1 身長が低くて、2歳になるまで歩けない【つばさ(仮名)くんのママ】

つばさくん(仮名)のケース

息子(7歳)が「成長ホルモン分泌不全性低身長症」と診断されて、成長ホルモン治療を始めたのは3歳になってすぐです。つばさは発達がゆっくりだったのですが、0歳のときは離乳食もよく食べるし元気だったので「そのうち追いつくかな?」と思っていました。でも1歳を過ぎても歩けず、「どうしてだろう?」「もしかして発達障害かな?」とかなり悩みました。

成長ホルモン分泌不全性低身長症と診断されて前に進めた

息子は保育園に通っていますが、クラスの子と比べると本当に体が小さくて、お世話好きの女の子が赤ちゃんの面倒を見るように息子に接したりしていました。

検査をして成長ホルモン分泌不全性低身長症と診断されたときは、「病気だったんだ!」とわかり、これまでモヤモヤと悩んでいた気持ちから解放されたような気分でした。夫婦ですぐに「成長ホルモン治療をしよう!」と決めました。

また成長ホルモン治療のほかに、栄養バランスのよい食事や夜9時半には寝かせて、朝7時には起こすことも心がけています。

この間の診察では、手の骨年齢を見た医師から「まだ大きくなるよ!」と言われてうれしかったです。「これからも治療をがんばろう!」と思えました。

つばさくん(仮名)の成長曲線

花川先生「身長だけでなく、子どもの心に影響を与えることも」

成長ホルモン分泌不全性低身長症は、身長が伸びにくいだけでなく、つばさくんのように苦手なことへのチャレンジを避けるようになるなど、子どもの心に影響を与えることもあります。

またママは、成長ホルモン治療のほかに栄養バランスのよい食事や早寝・早起きも心がけていますが、こうした習慣も大切です。子どもの身長の伸びしろは、手の骨年齢を診ることでわかります。女の子は中学生、男の子は高校生になると大人の骨に近づき、身長が伸びにくくなるので、早期に治療を始めたほうがよいでしょう

Case2 3歳児健診で身長が標準より低いと言われて、専門医を受診【るい(仮名)くんのパパ】

息子(5歳)は、1歳から保育園に通っていますが、クラスの中で一番身長が低いです。しかし、うちは私が身長166cm、妻が身長156cmと夫婦ともに、そんなに身長が高いほうではないので「遺伝かな」と思い、深くは考えていませんでした。息子は、活発なタイプで元気なので心配しなかったというのもありました。

るいくん(仮名/左下)のケース

しかし3歳児健診のときに標準よりも小さいと指摘されて、専門医に診てもらうように言われました。3歳のときの身長は85.5cm。成長曲線で見ると標準を下回っています。

4歳で成長ホルモン治療を開始

数か月後、大きな病院を受診して検査を行い、成長ホルモンの分泌が少ないとわかり、成長ホルモン分泌不全性低身長症と診断されました。病名を聞いたときは、サッカー選手のメッシと同じ病気だと思いました。4歳から治療を開始しました。

成長ホルモン治療を開始して1年間で身長が約10cm伸びた

診断されてから、自宅で成長ホルモンの注射を打つ治療を開始しました。「注射は痛いのかな?」と心配になり、医師に聞いたところ「少しチクッとする程度で痛くないですよ」と言われました。息子も最初の3日ぐらいは怖がって泣いていましたが、すぐに慣れてくれました。夫婦で「大きくなろうね! 頑張ろうね」と励ましながら、治療を続けています。私が住む県は、乳幼児医療費助成制度があるので、経済的な負担がなく治療が続けられるのもありがたいです。

治療をスタートしたときは身長96cmでしたが、1年間で10cmも身長が伸びました。

保育園の先生やおじいちゃん・おばあちゃん、ママ友だちなどに「大きくなったね~」と言われることが、本当にうれしいようです。

好奇心旺盛でスイミングやサッカー、自転車の練習などチャレンジしたいことがいっぱいあるので応援しながら、これからも息子の成長を見守っていきたいと思います。

花川先生「遺伝とあきらめる前に医師に相談を」

るいくんのパパのように「遺伝かな」と考えるママ・パパは多いと思います。しかし「遺伝だから仕方ない」とあきらめる前に医師に相談することが大切です。かかりつけの小児科や小児内分泌代謝の専門医に相談してみましょう。ママ・パパも、子どものころ身長のことで「嫌だな」と感じたり、苦手意識を持ったりしたことがあるのではないでしょうか。同じような経験をわが子にさせず、子どもの可能性を広げてあげてほしいと思います。

Case3 手術の後遺症で成長ホルモンが分泌しづらくなり、小3で身長が横ばい【しょうた(仮名)くんのママ】

息子(17歳)は、5歳のときに脳の下垂体に腫瘍が見つかり手術をしました。下垂体は成長ホルモンを分泌する部分です。手術は成功したのですが、医師に「後遺症として成長ホルモンが分泌しづらくなる」と説明されました。

しょうたくん(仮名/左下)のケース

手術から1年ぐらい経って、息子は発熱と嘔吐を繰り返して緊急入院しました。検査の結果、成長ホルモンの分泌が少ないために低血糖になったことがわかりました。

また息子は小さいころから身長は低いほうではなかったのですが、小学3年生ごろから身長が横ばいになりました。

運動すると疲れやすいのも気になりました。幼稚園からスイミングを習っていたのですが、泳ぐとまわりの子よりも肩で息をしていて苦しそうなんです。

実は成長ホルモンは、身長を伸ばすだけでなく、筋肉の発達を促す働きもあります。息子は成長ホルモンの分泌が少ないために、筋肉が発達しづらく、運動すると息が切れやすかったようです。

4で検査をして、成長ホルモンの分泌がゼロと言われる

小学4年生の冬に検査をして、成長ホルモンの分泌がゼロと言われ成長ホルモン分泌不全性低身長症と診断されました。成長ホルモンの分泌を促すには成長ホルモン治療が必要なのですが、息子は脳の病気の薬も服用していて「これ以上、薬を増やしたくない」と思い、治療にはなかなか踏み切れませんでした。成長ホルモン治療は、自宅で定期的に皮下注射をするため、息子に注射を打ち続けることにも抵抗があり、かなり悩みました。

そのため担当医に「先生が患者さんなら、成長ホルモン治療をしますか?」と聞いたところ「背が低いと、大人になっても吊革に手が届かない、高いところにある物が取れないということが考えられますよね。もし私が患者さんで、治療して背が伸びるならば治療したいと思う」と言われ、「私はこれまで親の立場でしか考えていなかったかも…」と思いました。息子とよく相談して、成長ホルモン治療を始めることにしました。

中学生で成長痛があり、高校3年生で身長170cm

小学4年生の終わりから自宅で定期的に成長ホルモンの皮下注射をしていますが、息子の身長はじょじょに伸びて中学生のときは成長痛もありました。高校3年生の今は、身長170cmで夫とほぼ同じです。高校ではバドミントン部に所属して楽しい学校生活を送っていました(現在は引退)。息子に聞くと「定期的に注射を打つのが面倒で、なんで僕だけ!? と思った時期もあるけれど、治療してよかった」と言っています。

花川先生「治療を悩んだときは医師に相談を」

成長ホルモン分泌不全性低身長症には、さまざまな原因がありますが、脳の下垂体の病気によって、成長ホルモンが分泌しづらくなることもあります。

成長ホルモン治療を始めるかずいぶん悩んだようですが、悩んだときはしょうたくんのママのように専門医に相談してほしいと思います。インターネットなどの情報だけを見て、自己判断しないでください

またしょうたくんは運動すると疲れやすかったようですが、成長ホルモンの分泌が少ないと、筋肉がつきにくくなり、スポーツをする子ほどこうした症状がみられることがあります。しかし成長ホルモンを注射で補うことにより筋肉がついてくると、疲れにくくなったり、苦手だった運動ができるようになっていきます。

紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

9月20日は「子どもの成長啓発デー」!

「子どもの成長啓発デー」は、内分泌疾患の患者や家族の支援団体で構成する国際組織 (ICOSEP) が2013年から開始したキャンペーン活動です。身体の発育に影響する内分泌疾患は早期発見・早期治療が大切とされています。

三者三様のご家族のケースをお届けしましたが、いずれも治療を継続して行うことできちんと身長が伸びてきていることがわかります。これを機会に、もしお子さんの身体の発育に不安な点をお持ちの方がいたら、「医師の診察を受ける」ということを選択肢に入れてみてください。

成長ホルモン分泌不全性低身長症について詳しくはこちら

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  • 監修/神奈川県立こども医療センター

    花川純子 | 内分泌代謝科医長
    専門は小児内分泌代謝、臨床遺伝。内分泌代謝科(小児科)専門医、臨床遺伝専門医、小児科専門医。一児の母。

協力/ノボ ノルディスク ファーマ株式会社

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取材・構成/麻生珠恵 イラスト/にくきゅうぷにお