お話を伺ったのは…
株式会社ハビリテ代表、徳島県徳島市にて保育園を併設した児童発達支援事業所「ゆずりは」を運営。現在は「おやこを照らす光に」という理念のもと、障がいにまつわる絶望を希望に変えるべく活動中。
保育+リハビリ+看護をトータルでできる施設を設立。きっかけは息子の預け先がなかったから
太田さんは、なぜ、保育園と児童発達支援事業所を併設した「ゆずりは」を立ち上げたのでしょうか?
私の息子(小学1年生)は先天性水頭症です。病気がわかったのは妊娠6か月のときでした。生後3か月のときに手術を受け、生後6か月で医師に小児リハビリを勧められたのですが、私が住む徳島県には小児リハビリの施設が少ないんです。やっと見つけた施設は、自宅から片道40分かかります。赤ちゃんを連れて通うには大変でしたし、そのころは息子の障がいを受け入れることがなかなかできず、私は身も心もどんどん追い詰められていきました。
また当時、私はメーカー勤務の営業職をしていて、復職に向けて保育園を探していたのですが、病気を理由に預かってくれる保育園が見つかりませんでした。そのため仕事を辞めざるを得なくなりました。
私が保育園を探していたころは、ブログに「保育園落ちた日本死ね!」と書き込まれたことなどが国会でも取り上げられるほど、保育園に入園するのが困難な時代でした。たまたま見ていたテレビで「保育園に落ちたママが自分で保育園を作る」という特集を見て、「これだ! 私も自分で理想の施設を作ろう。子どもを長時間預かってくれて、その間にリハビリもしてくれる施設を作ろう!」と思ったのが始まりです。
そして2019年4月に0~6歳を対象にした「おやこ支援室 ゆずりは」を開設。現在は、障がいのある子もない子も一緒に通えるインクルーシブの「ゆずりは保育園」、個別リハビリを行う児童発達支援事業所・重症心身障がい児さん向けの児童発達支援事業所・放課後等デイサービス「ゆずりはplus」も運営しています。
「ゆずりは保育園」は通園中に療育やリハビリを受けることができる全国的にみても貴重な施設です。どのようなスタッフの方が子どもたちをサポートしているのでしょうか?
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、保育士、看護師など35名ほどの専門のスタッフが、集団保育の中でそれぞれの子どもの特性に応じてサポートを行っています。必要に応じて、個別リハビリにも対応しています。0歳から受け入れ可能で、保育+リハビリ+看護がトータルでできる施設は全国初です。
「障がいのあるお子さんは、ケガや困りごとが多いんです」
障がいを持つ子を預かる中で、とくに注意していることはどんなことですか?
「ゆずりは」では全施設で約85名の子どもたちを預かっています。とくに発達障がいを持つ子どもたちが多いのですが、衝動性が強かったり、感情のコントロールが苦手な子もいます。
また自閉スペクトラム症の子どもは、何でも口に入れる傾向があるため、園ではケガや誤飲には十分注意しています。
以前、障がいがある子が、少し目を離した隙に、屋外にある手洗い場の排水口に砂を流し入れて詰まってしまったことがありました。他にも、壁紙をはがしてしまうなんてことも……。注意して見守ってはいるのですが、止められないことも多々ありました。
発達障がいなどがあると、そうした困りごとやトラブルは起こりやすいと感じますか?
一般的な育ちの子よりも困りごとやトラブルは多くなりがちです。たとえば注意欠如・多動症(ADHD)だと、高いところから飛び降りたりするなど、予期せぬ行動をするためケガをするリスクは高まりやすいです。
園では複数のスタッフの目がありますが、家庭では家族だけでずっと見守るのは難しいと思います。そのためケガをしたり、物を壊してしまったりすることもあるのではないでしょうか。
保護者からは「順番を待てずにお友達を押してしまうことがあるため、ケガをさせないかヒヤヒヤする」「怒るとお友達をかんでしまうことがあるけど、一瞬のことなので止めることができなくて……相手のお子さんにも申し訳なくて胸が苦しくなる」といった声も聞かれます。
また就学後、子ども同士で公園に行くようになると、親が知らないところでトラブルが起きることもあります。「ボール遊び禁止のエリアで、ボール遊びをしてしまって注意された」などの話も聞きます。また走るのが好きな多動症の子が、廊下で走って友達にぶつかってしまい相手にケガをさせてしまったという話も。親は子ども同士のトラブルが起こるたびにケガをさせてしまったお子さんやご家族に謝って……。辛い思いを抱えている方もいると思います。
子どもの怪我やトラブルを防ごうとすると、子育てにも影響は出るのでしょうか?
ケガが多かったり、衝動性が強かったり、感情のコントロールが苦手だったりすると、新しいことにチャレンジさせることを躊躇するママ・パパもいるでしょう。これまでの経験から「またケガをしたらどうしよう…」「また物を壊すかも…」と心配になってしまうこともあると思います。最初から「うちの子は、教えても無理かも…」とあきらめてしまう保護者もいるかもしれません。
子どもの可能性を伸ばすチャレンジをあきらめないで
障がいのあるお子さんが自分らしく輝き生きていくために、ママ・パパに心がけてほしいことを教えてください。
先ほどの話にもつながりますが、障がいの有無に関わらず、子どもにはできるだけ新しいことや興味があることにチャレンジさせてあげてほしいと思います。子どもたちは好奇心旺盛です。新しいことや興味があることにチャレンジすることで、頭も体も心も成長します。失敗を繰り返しながら成長していくんです。
私自身、障がいを持つ息子に対して「できないから…」とあきらめていた時期があります。でも年長さんのとき、担任の保育者さんから「ひらがなで自分の名前が書けますよ」と言われて驚きました。そして自分が無意識のうちに些細なことすらあきらめていたことに気づかされました。
放課後等デイサービス「ゆずりはplus」でも、以前、小学生の子どもを通わせている保護者の方から「自転車の練習をしたいけれど、ケガが心配だし、うまく乗れないと怒ってかんしゃくを起こすので、放デイで教えてもらえませんか?」と相談されたこともありました。
ケガをさせたくないという理由で、最初から自転車には乗らせない選択をするご家庭もある中、この保護者の方はチャレンジを後押ししています。少しでも安心できる環境で練習にチャレンジできたら、子どもは自転車に乗ることができるようになるかもしれないですよね。
最近では、発達障がいのお子さんも加入できる補償制度もあります。不安を和らげてくれる補償の存在は心強いですよね。ぜひママ・パパにはあきらめずに、子どもの可能性を信じて、伸ばしてあげてほしいと思います。
太田さんはインクルーシブに力を入れていますが、障がいの有無に関係なく、互いを尊重する社会にしていくために、私たちができることや子どもたちに伝えていけることは何だと思いますか?
「ゆずりは保育園」はインクルーシブ保育なので、一般の育ちの子どもと障がいを持つ子どもたちが一緒に活動しています。
日々、子どもたちのやりとりを見ていると、子どもたちには障がいの有無なんて関係ないことがわかります。たとえば自閉スペクトラム症はこだわりが強い特性があり、ある物事に対して詳しい子がいます。車や電車に詳しいと子どもたちは「Aくんすごいね!」「電車博士だね!」と感心しています。みんなと違う行動をする子がいれば「Bちゃんっておもしろいね~」と言って、仲よくなっています。子どもたちは、自分との違いを個性として捉えています。自然に多様性を受け入れているんです。
大人の社会でも、好奇の目で見るのではなく、こうした捉え方ができれば、私は世の中から「障がい」という言葉がなくなると思っていますし、そのような未来になってほしいと願っています。
「ゆずりは」の保育理念は、「あなたはあなたのままで、すばらしい ありのままに生きていこう」です。太田さんは「ありのままに生きるとは、のびのび育つことだと思います。施設では療育もあるので一定のルールを教えることももちろん必要ですが、障がいの有無に関わらず、子どもたちが主体性を育んでいけるよう、のびのび育ってほしい」と言います。
発達障がい児のご家族に寄り添うAIG損保「生活サポート総合補償制度」
障がいのある方やそのご家族の悩みや不安の形はさまざまです。AIG損保の「生活サポート総合補償制度」は、障がいのある方の不安を和らげ、自立をサポートするための補償制度です。障がいのあるお子さんやご家族が少しでも不安を減らしチャレンジできることは、お子さんの個性を伸ばすことにもつながるかもしれません。この補償制度が、自分らしく輝き生きていく一助になることを願っています。詳しくは下記のサイトをご覧ください。
取材・文/麻生珠恵 撮影/五十嵐美弥(小学館) 構成/HugKum編集部