幼少期に身につけておきたいという非認知能力。前回の記事『世界で注目されている「非認知能力」ってどんなチカラ?なぜ重要なの?大豆生田啓友先生に聞いた!』で、数値ではかることのできない「見えない力」だけど、子どもの育ち方や「意欲」に大きく関係があるということがわかりました。
非認知能力を伸ばすにはどうすればいい? 前回に引き続き、乳幼児教育学が専門で、3人のお子さんのパパでもある大豆生田啓友先生に聞いてみました!
目次
大豆生田先生に聞いた、おうちでできる「非認知能力」を育てる方法
非認知能力は、なにも特別なことをして育てるわけではないんです。ご家庭で簡単にできる親子遊びの中にも、非認知能力を育ててくれるエッセンスはたくさんつまっています。
泥んこ・グチャグチャ・ベタベタ遊びに夢中になる
子どもが夢中になる遊びのひとつに、泥んこ遊びやグチャグチャ・ベタベタ遊びがあります。親としては、あまりしてほしくないと思うかもしれませんね。でも、いろんなことにポジティブな子になってほしい、お子さんの枠を広げたいと思われるのなら、このような遊びは最適だと思います。
食べ物でグチャグチャすることもあります。そんなときは「食べ物じゃなくて、これならいいよ」という代替物を出してあげるといいでしょう。何でも自由にさせればいいというわけではないのです。親がしてほしくないことに対しては、「これならどう?」と代案を提案することで、子どもの自己決定を促しましょう。
●砂場に水を組み合わせると遊びの幅が広がる
●どろに触れながら子どもは気づかないうちに科学を体験している
●どろんこが苦手な子は、ペットボトルやビニール袋に花びらを入れて作る色水遊びをするのがおすすめ
ソファーにのぼったり、おりたりする遊びもOK
非認知能力についての私の近著の中で、「ソファーにのぼったり、おりたり」する遊びの提案をしています。危ないという見方もあるかもしれませんが、家の中で親が見守る中では、そういうこともOKです。
●ソファーをのぼったり、おりたりを繰り返す中で、運動能力やバランス感覚が養われる
●階段をのぼったり、おりたりで筋力も鍛えられる
●お散歩のときに縁石など、ちょっとした段差をのぼりたがる場合、できるだけ子どもの気持ちを尊重する
●すべり台を滑るだけでなく、のぼったり、おりたりすることは、ほかの子とトラブルにならない範囲で経験させてあげる
また、公園のすべり台を逆から上がる「逆のぼり」は、推奨されない遊び方かもしれませんが、ダメというルールがあるわけでもありません。逆のぼりの方が運動になるし、上から滑ろうとする人と交渉する能力を育てるためにも逆のぼりをする子がいたほうがいいくらいです。すべり台の逆のぼりやソファにのぼるのも、遊びの中で「本当にダメだっけ?」と考えてみてほしいのです。
ある遊びがダメだとしても、ほかの遊びややり方に、子どもが自分の気持ちを切り替えることができる練習になります。「怖いから、怒られるからやらない」のではなく、納得して気持ちを切り替えられる。大事なことは自己決定する。気持ちを切り替えながら自分で決めていくことの繰り返しが大事です。
絵本の読み聞かせが非認知能力を育む
絵本を読んでもらうことは、非認知能力を育てる上でとても重要なことなんですよ。大好きな誰かから楽しいお話を読んでもらったことが、愛された実感となり、人との信頼関係を築くんです。
読み聞かせで語られる言葉と絵からイマジネーションが働いていくから、想像力が豊かになります。絵本を読んでもらった子は心や社会性が育つだけでなく、学力の基盤になっている語彙力も育っていきます。
●まずは読んであげる
●何度も繰り返し読んで楽しんでもいい
●ページの順番通りに正しく読まなくてもいい
●子どもが何かに興味を持ったら、一緒にそのことについての本を読み、話を広げる
ひとりで絵本が読めるようになった子どもにも、読み聞かせは大切です。読んでもらうことにより幸せな時間と愛された記憶が残り、誰かが話してくれる言葉を聞いてイメージできることの大切さもあります。読み聞かせは、読み書きを学ぶ小学生になっても、子どもが要らないというまで何歳までしても大丈夫。
絵本の読み聞かせは、非認知能力だけでなく認知能力をも育てるために、家庭でできるすごく大事なことだと思うのです。
大人との信頼関係が非認知能力のベース
大人に受け止められることで、自分らしさを発揮できるようになる
僕はつねづね、大学生たちにも「よく頑張ったね、先生よく見てたよ~」などと声かけをするのですが、大抵の学生たちは嬉しそうににっこり笑い、子ども扱いされたと怒ることはありません。
大人の誰かから「あなたのやってることちゃんと分かってるよ、辛かったらいつでも言ってきてね」と受け止められると、子どもでも大学生でもだんだん自分らしさが出てきて、自分の意見を言えるようになったりします。
大学のゼミの課題として、学生たちが劇を一から作り上げるのですが、これこそテーマから脚本、配役に至るまで「他者と協働」しながら問題解決していく21世紀型スキルそのものです。
大学生でも、なかなか最初はうまくいきません。なぜなら高校までそういう教育を受けていないからです。求められてきたのは、個性を出さず、とにかく試験でよりよい点数を取ることだったのですから。
小さいころからしっかり受け止められることが非認知能力のベースです。信頼関係ができると安心して自己発揮をし始めることができます。人の話を聞きながら、自分の意見を言いながら、相手と折り合う中で問題を解決していく力 が身につくのです。
非認知能力は小学校生活でも役に立つ
場が変わっても、その中でうまくやりくりしていけることが大事
非認知能力が身についている子は、小学校に入ってからも違います。幼稚園、小学校と場が変わっても、その中で人とうまくやりくりして生きていくことができる。
一方、うまくいかない状況では、それをどう乗り越えていくかも大事です。非認知能力の中には「まあいいか」と思える楽観性も含まれています。「ま、いっか」と思えない人は大人でも結構生き苦しいと思うんです。
幼児期の楽観性は本来子どもの特性で、嫌なことがあってもすぐ気持ちを切り替えることができるのです。 大人は嫌なことがあると気持ちを引きずるし根に持つし……それは楽観性がないということです。 「ま、いっか」と気持ち切り替えることができる、これが自己制御にもなる。それは世の中において、いろんな場においてもうまくやりくりしていけるという非認知能力なのです。
子どもにとって集団行動の経験は大事
子ども同士、集団の中で学べることもある
今、多くのお子さんが3歳以前に保育園などでの集団行動を経験していますよね。実は、集団の生活って非認知能力にとっても大事なんです。
人は長い間、集団の中で育ってきました。子どもは3歳まで家で母親が育児に専念する方がいいという神話のようなものはありえません。それは早く預けることを推奨するわけではないのですが、家庭がベースでも保育園がベースでも、子どもを大事にしてくれる大人の存在が大事なのは変わりません。ですから、3歳まで家庭中心に育てようが、0歳から保育園に預けようがどっちも同じで、どっちも大事なんです。
0歳のころから子どもは相手を友達と意識して、ちょっかいを出したりします。今までは3歳くらいから他の子に関わりを持つと言われてきたけどそれは違うんですよね。相手とのいざこざの中で人が折り合ったり、相手の気持ちをわかったりするのはすでに0歳からやっていることです。
だとすると保育園に入れることや集団の中で育てることはまんざら悪くないことです。子ども同士ふれ合う場が重要で、大人が下手に介入しない方がいいかもしれません。
家の中で決まった大人と2人きりという子育ては、これまでの歴史上なかったわけです。子どもも本来外に出て、いろんな人に出会うことのほうが自然。親子が離れる時間を持つのがいいかどうかは、親子で好きにされたらいいと思いますが、ちょっと離れたほうがママが元気になれるなら預ければいいし、何ら悪いことではないのですから。
親子の関係をあまり閉じずに、どんどん外に出かけて行ったり、いろいろな自然に触れたり、人と関わったり、親子でそういう機会を持てるといいですね。
これからの時代に必要な学びとは?
大学入試も変わりはじめている
今、大学入試は確実に変わってきています。AO(アドミッションオフィス)入試や推薦入試で多くの学生が入学してくるわけですから。暗記型の一般入試で入ってくる学生は、大学によっては今や半分以下のところもあります。
今後も、大学入試は少しずつ変わっていくのかなと思っています。問題解決をしない、探求しない、対話ができない子ばかりでは日本の将来が危うくなってしまいます。
一般入試に関しても、入試問題そのものが思考力を問うスタイルに変わっていくので、今後は考える力を身につける学びが必要だと思っています。
アクティブ・ラーニングと非認知能力の共通点
これからの学びは、自ら進んで学ぶ、主体的な学び「アクティブ・ラーニング」が大事だと言われています。乳幼児期から大人に至るまで、人の学びは主体的で対話的で、深い学びであるべきという考えです。
まず、1つ目は、学ぶということは、させられてすることではなく、自分が主体的に(アクティブに)関わることが大事であることです。
2つ目は対話的な学びであることです。相手との関わりの中で人と協力しながら、やり取りの中で学ぶことが大事ですよね。僕はこの対話の相手に自然などの「物や事」を入れてもいいかなと思うのです。自然との対話だって必要だと考えています。
それから3つ目、深い学びです。「こうしたらどうなる?」「うまくいかないから、こうしてみようかな?」と試行錯誤や探求が生まれることです。遊び込んでいる子は、こういう探求心があるんです。そして、うまくいかないことを乗り越えたときに「できた!」「そういうことか!」と深い学びの達成感があるのです。
つまりアクティブ・ラーニングとは、幼児期に限らず〝生涯にわたって必要な〟本当の意味での学びです。21世紀型スキル として大事な、これからの大きな教育のあり方を標榜している言葉だと言えます。
同様に非認知能力も、人の〝生涯どの時期にも重要〟な力です。そして、非認知能力とからみあって認知能力は育っていくのです。「うちの子、小学生だからもう遅い」などと思う必要はありません。いつの時期においても、人は非認知能力を育み、発揮することができるのです。
①親子のスキンシップや甘えなどを通して、心の安定基地を作る
②子どもの個性(その子らしさ)や主体性を大切にする
③子どもの頑張っている姿をほめ、小さな成功体験を大切にするなど、自己肯定力を育てる
④多様な遊び体験を通して、好奇心を持ったり、夢中になったりする経験をする
⑤外遊びを通して、多様に体を動かしたり、自然にふれたりする経験をする
⑥絵本の読み聞かせを通して、コミュニケーションや言葉への興味を大切にする
お話を伺ったのは
今回のお話のまとめ
非認知能力を育てるために子育てで大切なこと、遊びの具体例などを紹介してきました。また子どもにとって集団行動の経験が非認知能力を育てることもわかりました。
次回記事では、非認知能力に注目し、非認知能力を伸ばすカリキュラムがある小学館の幼児教室「ドラキッズ」の取り組みについてご紹介します。
【次回記事に続く】
ドラキッズ公式HP
構成/村重真紀