世界で注目されている「非認知能力」ってどんなチカラ?なぜ重要なの?大豆生田啓友先生に聞いた!

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最近、世界で注目されている「非認知能力」。幼少期に身につけておきたい、大人になってからも役に立つ大事な力というけれど……。

非認知能力ってどんな力? 非認知能力を伸ばすにはどうすればいい? 乳幼児教育学の専門家で、3人のお子さんのパパでもある大豆生田啓友先生に聞いてみました!

「非認知能力」を身につけるには「乳幼児期」が大事です

多くの親は子どもに、小さいときからいろいろな目に見えることができるよう望み、そのほうが後々困らないだろうと考えがちです。読み書きや計算、体操などが早くからできたほうが将来役に立つとも考えています。

でも、最近の研究から見えてきたのは、必ずしもそうではなく、早くから詰め込まないほうが後々良い成果を発揮することもあるという結果です。

「認知能力(=数値ではかれる力)」とは違う「見えない力」が「非認知能力」

 非認知能力とは、文字の読み書き・計算など目に見える(認知できる)・数値ではかれる学力である認知能力とは違い、目に見えない・数値化しにくい、心や社会性や自己に関する力のことです。

今、目に見える学力よりも「意志力や自尊心、自己肯定感」こそ、幼児期には大事だということが改めて注目され始めています。これまでも「心が大事」とか、『星の王子様』にあるように「大事なことは目に見えないんだよ」ということは言われてきたけれど、「それって何?」 程度の認識だったと思います。

自尊心や自信があると、自分から外へと働きかけられる

非認知能力のひとつに、「意欲・意志力」のようなもの、つまり何かに夢中になれる力があります。それから「自尊心」。これは自己肯定感や自己感情ともいい、「自分って結構すてきだな、イケてるな」と思えることです。

ご存じのように日本人は自尊心が極めて低いと言われています。国立青少年教育振興機構が2015年に発表した調査結果では、日本人の高校生の7割以上が「自分はダメな人間だと思うことがある」と答えているほどです。

しかし、この自尊心はとても大事です。自分のことを愛せていないと意欲が出てこないのです。いくら早くから先取り学習しても、自尊心がなければ自分から外へとポジティブには働きかけられないのです。

例えば早くから英語をやったとしても、それを将来使えるかどうか? 若者の海外留学離れや内向き志向が話題ですが、海外に行かなくなっている理由もよく考えるとわかります。自尊心や自信がなかったら他者とコミュニケーションできないわけですよね。目に見えない根っこのようなものがとても大事なんです。

我慢する力とは、気分の切り替えができること

また、「やり抜く力」・「我慢する力」も非認知能力です。先ほどの意志力などとも関係してくるのですが、何かに夢中になれるから困難があっても乗り越えていける、何か1つのことに試行錯誤しながら諦めずに取り組めるのです。

しかし、幼少期からマルかバツしかない評価ばかり受けていたら、人は試行錯誤をしなくなりますよね。答えが1つではないことに夢中になって試行錯誤する人は、「あれはどうだろう? これはどうだろう?」と多様な考え方ができます。多少うまくいかないことがあっても乗り越えられるのです。

しかも、夢中になれることがないと、やり抜く力や粘り強さは出てきません。大人だってそう、何かやらされることに対してはあまり頑張れなくても、例えば好きなアーティストのチケットを手に入れるためだったら困難を乗り越えられる。それと同じなんです。

我慢する力

我慢する力とは自己制御と同じで、とても大事です。自分の気持ちをコントロールできる力のことです。厳しくしつけすることが必要かと思われがちですが、そうではありません。自分の気持ちをコントロールしていくのは、上手に自己決定をし、切り替えができていくことだと思うんです。

例えば、保育士さんは上手だなあと思うんですけど、散歩の途中で「歩きたくない」という子が出てきたとします。そういうとき、どういう声かけをしているでしょうか。

「どうする? あそこにスーパーがあるから、そこまで頑張って行こうか?」とか、「ここで一回休んでから行っちゃう?」とか、「先生と手をつないでなら頑張れるかな?」と、子どもに自己決定を促しているわけです。

こういうことの繰り返しの中で、子どもは、嫌だなと思う気持ちがあっても自分で切り替える練習をしているのです。それは決して厳しいしつけではありません。自分の気持ちを切り替えていけるような経験も大事なのです。

社会性を育む「人と関わる力」~コミュニケーション力

意欲、自尊心、自己制御、やり抜く力……いろいろな側面から語った、これまでの「自分に関する力」すべてが非認知能力に関連しています。 

それから、もう1つ挙げるとすればコミュニケーション力・思いやりのようなことです。相手とうまくやり取りしながら物事を乗り越えていくとか、人と協力して何かをこなしていくとか、人に対して思いやりを持つとかですね。

このような目に見えない力が、後々まで人が幸せに生きていくことに関係してくる……その可能性についての研究結果が今、盛んに出始めてきています。OECD(経済協力開発機構)は それを「社会情動的スキル」と称し、乳幼児期にとても大事だけど、それ以降もとても大事なことだとしています。

非認知能力を育むために、乳幼児期の子育てに必要なこと

小さい時期は、誰か大人からしっかり受け止められること、困ったときにはちゃんとしがみつける安心できる相手がいること、自分のことにちゃんと応答してくれる大人がいることが大事です。それから、夢中になって遊び込む経験、多様な遊びの経験が大事なのではと改めて考えられています。

昔の子どもは、それこそ一日中外で遊んでいました。特別ではない、ありふれた遊びを異年齢集団の中でして過ごしていたものです。

ところが、それって今の時代では難しいかもしれませんね。子育てにおける母親の負担が大きいのも事実です。また情報にあふれた社会だからです。早くからいろんな能力を鍛え上げることによって誰でも天才児になれる……そのような誤解を招く情報があふれかえっています。

乳幼児期の子育て次第で子どもの能力は決まりませんし、誰もが天才児にはなるわけではありませんから。むしろ日常の中に大事なことがあるので、家庭の中でママと子どもが向き合いきりになっているとしても、「子どものためになることができていないのでは?」と心配しなくても大丈夫です。

特別なことをしなくても、家庭の中に非認知能力を育てることはたくさんあるんです。ママたちが頑張ってやることでもなく、日常のお手伝いや遊びの中で非認知能力や認知能力が十分育ちます。だから、親はもっと自信を持ってほしいですね。

非認知能力は認知能力(学力)の土台にもなる

遊び込んだ子ほど、学びに向かう力が高い

認知能力よりも、まずベースになるのは非認知能力。非認知能力が大事にされると、知的なことへの興味・関心も育っていくわけで、非認知能力は認知能力へとつながっているのです。

非認知能力を抜きに、早くから読み書きができたり、読み書きという目に見える成果だけを追い求めると、将来的に意欲が湧かなかったりということが起きるわけです。人間力みたいなものですね。非認知能力を身につけたことの結果は後になって表れることから「あと伸びする力」とも呼ばれています。

親たちを対象にしたある調査からは、幼児期に遊び込む経験の多かった子のほうが小学校以降、「学びに向かう力」が高いとも言われています。「学びに向かう力」とは非認知的能力・社会情動的スキルのことで、好奇心・協調性・自己統制・自己主張・がんばる力などに関係する力を指します。

遊び込む経験を多くしてきた子のほうが、一斉に何かをさせられた子達よりも認知力、つまり国語力や語彙力も高いのです。語彙力はすべての学力のベースになる力ですね。目に見えない遊び込むという経験が、目に見える認知能力につながっていくとも言えるのです。

幼少時から体操教室に通っていた子よりも、外遊びでいろんな動きを経験してきた子のほうが運動能力が実は高いということだってあります。つまり、外で体を動かして夢中になって遊ぶとか、誰かに甘えたり受け入れられたり、人との豊かな関わりがあるとか、そういう心や社会性を育てることが非認知能力を育てることにもつながっているのです。

非認知能力を育てる遊び方とは?

好きなことに夢中になれることがいちばん大事

遊び方は何でもいいですが、興味・関心をベースにするといいでしょう。子どもはそれぞれタイプが違うものです。体を使って遊ぶことが好きな子や、本を読むことが好きな子もいるし、何か作ったことが書いたりすることが好きな子もいます。その子が好きなことから始めるといいでしょう。

親は「バランスよく育てなければいけない」と思うかもしれませんね。1つのことに夢中だと、そればっかりでいいのかと不安になったり……。でも、たくさんの子ども達とさまざまな保育を見てきた僕の経験から、何か1つに夢中になった子はそこから興味のほこ先が転移していくと感じられます。

外で鬼ごっこばかりしていた子が、鬼ごっこの絵本をきっかけに絵本が大好きになっていった例がありました。つまり何かに夢中になれた子は、少しずつ興味関心のジャンルが移っていくことがあるのです。もちろんバランスも大事ですが、もともと人の興味関心には凸凹があるものです。凸凹を気にするよりも、何かに夢中になれるということは、他のことにもその力を発揮できるということを認めましょう。

できれば受け身でない「主体的な」遊びを

盛んに遊び込むこと、夢中になることはとても大事です。自分の存在がちゃんと誰かに受け入れられたり甘えられたり需要的に関わられることもです。遊びは何でもいいのですが、できれば受け身ではなく、自分が主体的に向き合って、何かを生み出す遊びがいいですね。

空き箱や廃材を自由に使って何かを作っている子は、いろんなことをイメージして、いろんなものを作り出して、退屈になりません。つまり何もないところからも、いろんな想像・創造をして、試行錯誤ができるのです。

このような主体的な遊びの経験がある子は、自分から何かを生み出すポジティブな姿勢で物事に取りかかることができます。与えられた課題だけをこなす学びからは、そういうことは生まれませんよね。

一見何でもない素材のようなものから何かを生み出していく……それって考えてみれば、これからのグローバル社会に求められる新しい価値を創造する21世紀型スキルではないかと思います。

暗記型から問題解決型の教育へ

子どものやる気をそいでしまわないように

また、これからの教育は暗記型では立ち行かないと言われています。AI (人工知能)ができることはロボットに任せればいいとなると、人にできる仕事は人ならではのコミュニケーションをしながら、頭を使って考えながら何かを生み出していくことになります。

今までの学力というのは暗記したものを問われるのが主流でした。そうではなく問題解決型の、答えがないものに対して「こうしたらどうなるだろうか?」と問いを持ち、人と協力しながら、あるいは何かを調べながら探究的に問題解決していく力が重要な時代になるでしょう。

暗記型からの脱却には時間がかかるでしょうが、そのために家の中でも遊びの中でもできることはいっぱいあります。いたずらに思える子どもの探索行動も、実はこれほど探究心や科学的・知的好奇心を育てることはありません

ですから親としても、自分の枠を越えていける子どもを育てたいと思うのだったら、子どもの「やる気」を大事に、安全を確認したうえで見守るといいでしょう。

ただし、親が望むようなことの「やる気」が起こるかは謎ですけどね(笑)。「あれは危ない、これはダメ」と制限が多ければ多いほど、親が子どもに求めている「やる気」みたいなものをそいでしまっているかもしれません。

お話を伺ったのは

今回のお話のまとめ

非認知能力は、これからの時代を生きる子どもたちに必要とされる力。大人とのしっかりとした関わりや夢中になって遊び込む経験、多様な遊びの経験によって育まれることがわかりました。

次回記事では、非認知能力を伸ばす具体的な遊び方や声かけ、小学校生活や絵本の読み聞かせなど、非認知能力を育てる具体的な手だてをご紹介します。

【次回記事に続く】

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構成/村重真紀