最近は色とりどりのランドセルを背負った小学生を見ます。中には自分の住まいの学区とは異なる私立小学校に通うために、電車やバスなどに乗っている制服姿の小学生も見ますが、素朴な疑問として私立小学校に入るには、どのような手順を踏んで入学を決めるのでしょうか。
目次
私立小学校ってどんなところ
私立小学校の入学手順を考える前に、まずはそもそも私立小学校がどのような場所なのか、知る必要があるかもしれません。
私立小学校とは? 公立との違い
私立小学校を理解する上で、まずはその数の少なさを知ると、どのような存在なのかが理解しやすいかもしれません。文部科学省「学校基本調査」によると、全国にある小学校の数(令和元年度)は19,738校だと分かります。そのうち私立は237校(国立は69校)しかありません。
要するに数が少ないため、大都市圏は別として、少し規模の小さい自治体に暮らす人の場合は、受験できる学校の数が限られる(選択肢が少ない)と考えておきたいです。当然ですが、その分だけ私立小学校に進学する子どもも限られます。
私立小学校のメリット
私立小学校の数がこれだけ少ないのであれば、逆に「小学校の時点で私立に入れる必要はない」と考えるパパ・ママなどの保護者が主流派だと予想されます。
しかし一方で、全私学連合によると、少子化の世の中でも都会を中心に私立小学校の数が増え続けていると言います。親子代々、私立の小学校に入っているという家庭もあります。小さいころから子どもを私立小学校に通わせるメリットには、どんなことがあるのでしょうか?
特色のある教育を受けられる
地域の特性を生かしながらも、公立小学校は基本的には全国で等しい教育の機会を与えている一方で、私立小学校は建学の精神に基づいた、比較的独自色の強い教育を提供しています。
もちろん、どちらが上下という話ではなくて、私立小学校は公立小学校にはない教育の機会を用意していると言えます。
女子校など独自の校風の学校を選べる
公立の小学校は原則、男女共学です。しかし私立(および一部の国立)小学校の場合、男子校、女子校が存在します。例えば男子校は、
- 暁星小学校(東京都)
- 立教小学校(同)
- 精道三川台小学校(長崎県)
が存在します。女子校は、
- 盛岡白百合学園小学校(岩手県)
- 仙台白百合学園小学校(宮城県)
- 川村小学校(東京都)
- 光塩女子学院初等科(以下同)
- 白百合学園小学校
- 聖心女子学院初等科
- 東京女学館小学校
- 東洋英和女学院小学部
- 日本女子大学附属豊明小学校
- 立教女学院小学校
- 国府台女子学院小学部 (千葉県)
- 湘南白百合学園小学校 (神奈川県)
- 椙山女学園大学附属小学校(愛知県)
- 愛徳学園小学校(兵庫県)
- 小林聖心女子学院小学校(以下同)
- 神戸海星女子学院小学校
- 百合学院小学校
- 福岡雙葉小学校(福岡県)
- 長崎精道小学校(長崎県)
があります。多様性の叫ばれる時代ですが、何らかの事情で男子校、女子校を選びたい保護者にとっては、貴重な教育の機会と言えそうです。
内部進学で同系列の高校・大学に入学できる
また、大学の付属校の場合、内部進学のシステムにのって、付属中・付属高から大学へとエスカレーター式に進学できることをメリットと考える人たちもいます。
有名校や難関校は、中学・高校・大学と年齢が上がるほど競争率が高くなりがちなことから、早いうちに付属校に入学させて将来にそなえたいと考えるのですね。
またエスカレータ式で進学できるのであれば、苛烈な受験勉強に時間を割かれることなく独自のカリキュラムや課外活動に打ち込め、それこそが小・中・高の一貫教育のメリットと考える人もいるようです。
私立小学校のデメリット
一方で私立小学校には、デメリットもあります。
教育費が高い
文部科学省『平成28年度子供の学習費調査』によれば、公立の小学校の場合、教育費は6年間で平均193.2万円(学校教育費、学校給食費、学校外活動費)とされています。
一方の私立小学校の場合、教育費は6年間で平均916.8万円(学校教育費、学校給食費、学校外活動費)です。小学校は6年間と長い分だけ、教育費の総額は5倍近くの差になります。
入学するために受験の負担がある
上述した通り、世の中が少子化の傾向を強めているのに、都会を中心に私立小学校の数は増え続けています。言い換えれば「子どもを私立の小学校に入れたい」というニーズが高まっているとも考えられます。
入りたいという人が募集定員を上回れば、選抜試験が行われます。早い家では「年少」のころから、多くの家では年長から熟に通わせる必要も出てくるはずです。そうした負担が、私立小学校の入学には発生します。
通学の負担がある
公立小学校は子どもの住所によって決まります。言い換えれば、一般的に過疎地でない限り、徒歩圏内の学校に通います。しかし、私立小学校の場合は学区が関係ないので、入った学校が遠いと、電車やバスを使った通学が必要になります。
遠い通勤が大人の負担であると考えても、遠い距離の通学は子どもに負担が発生するはずです。
私立小学校の偏差値ランキング
私立小学校のデメリットとして、受験の負担を挙げました。受験の負担は特に人気校に入ろうとする場合、大きくなります。
小学校受験の場合、必ずしも人気校=偏差値が高いという話になりませんが、一般にどういった学校が「偏差値の高い」小学校と言われているのでしょうか。
最新「偏差値」TOP校
まず、繰り返しになりますが、小学校受験には大学受験などで学校選びの規準となる偏差値がありません。模試を通じて点数や「偏差値」が出る場合もありますが、その「偏差値」が合否に直結するわけではありません。
ただし、偏差値のような考え方で、私立小学校の難易度の序列をつける試みはされています。例えば上位の学校として名前が上がりやすい小学校と言えば、慶應義塾幼稚舎、雙葉小学校、慶應義塾横浜初等部、早稲田実業学校初等部などが有名です。
私立小学校の「偏差値」ランキング(関東、関西)の調べ方
志望する小学校の「偏差値」のランキングを知りたければ、各種の分析を通じて地域別に出された「偏差値」ランキングがインターネット上に幾つも公開されています、複数の結果を見て、総合的に判断するといいかもしれません。
また、塾を通じて難易度について有意義な回答が得られる可能性も高いです。
学費は? 親の年収はどのくらい必要?
先ほど、公立小学校と私立小学校の学費の違いをかんたんに紹介しました。その金額はあくまでも平均値でしたので、学校によって異なります。学費が高い学校になると、最大でどの程度に達するのでしょうか。
私立小学校にかかる6年間の学費とランキング
文部科学省『平成28年度子供の学習費調査』から、私立小学校の教育費が6年間で平均916.8万円(学校教育費、学校給食費、学校外活動費)になると紹介しました。
ただ、この金額は平均値です。DIAMOND onlineがお受験じょうほう<バレクセル>の「2016年度学費初年度ランキング」を基にまとめたデータによると、慶應義塾横浜初等部、立教小学校、慶應義塾幼稚舎、桐蔭学園小学部、学習院初等部などは、学費の総額がトップクラスと分かります。
慶應義塾横浜初等部は6年間で946万円、立教小学校は約698万円、慶應義塾幼稚舎が約751万円、桐蔭学園小学部が約644万円、学習院初等部が約739万円となっています。
この金額は単純な学費のみで、プラスして学校給食費や学校外活動費が入ってくるため、実際にはさらに大きなお金が必要になります。
払えないかも⁉ 親の年収はどれだけ必要?
公立小学校と比べて、高額な学費が必要な私立小学校にわが子を通わせようと思った時、どの程度の世帯年収があればまかなえるのでしょうか。
ヒントはHugKumの過去記事で紹介した日本政策金融公庫「平成 29 年度教育費負担の実態調査結果」などが役立つかもしれません。上述の調査では、高校と大学に通わせている保護者の平均的な世帯年収を一覧にしています。
私立小学校は、一般的な私立高校や大学と比べても、それほど学費に差がないため、私立の高校や大学に子どもを通わせている保護者が、どの程度の年収でやりくりしているかを見れば、ある程度はまかなえる世帯年収の目安が見えてくるはずです。
- 国公立高校・・・713.7万円
- 私立高校・・・854.7万円
- 国公立大学・・・869.2万円
- 私立大学・・・915.7万円
私立小学校にわが子を通わせる家庭では、将来的に附属の私立中学校や私立高校、私立大学に進学させるケースも少なくないはずです。
学費の特に高い人気校に通わせる場合は別として、一般的には私立高校や大学に子どもを通わせている保護者の世帯年収854.7万円~915.7万円が、1つの目安になるとも考えられます。
帰国子女はどうする? 私立小学校って編入できるの?
これまでの情報はすべて、私立小学校に1年生から入れる前提で、話を進めてきました。公立の小学校に通わせながら、子どもの環境や成長を見て私立小学校に編入させようと考える保護者もいるかもしれません。そもそも、私立小学校は編入も可能なのでしょうか。
私立小学校の編入と対策は?
結論から言えば、私立小学校の編入は運次第の部分が大きいようです。幼稚園のように年少→年中→年長とクラスの人数を学年ごとに増やしていく事情も小学校にはありません。毎年途中入学を受け入れているわけではないので、私立小学校の編入は何らかの事情で追加募集が必要になった時にだけ募集が出ます。
例えば、都内にある有名私立小学校のホームページを見ると、
「編入学・転入学は、欠員などの状況により募集します。現在、募集はございません」
といった文字が見て取れます。公立小学校のように手続きを踏めば誰でも編入ができるわけではないのですね。
私立小学を受験するなら
ここまで私立小学校の受験についてまとめてきました。実際に受験をするとなったら、どういった点に注意すればいいのでしょうか。
準備はいつから? 受験スケジュールについて(関東、関西)
まず準備をスタートする時期についてはHugKumの過去記事が参考になります。一般的に小学校の受験対策を始める時期は同記事によると「年中」の11月のようです。
その後の大まかな流れについては、小学校受験のための家庭教師派遣などを行う「家庭教師のミセスサリヴァン」公式ホームページに詳しいです。
- 年明けの1月から3月くらいまで→情報収集・スケジュール作成・学習計画
- 「年長」の4月から7月上旬くらいまで→学校説明会や行事に出席・模試受験・受験用衣服の準備・応用問題チャレンジ・9月10月受験の学校への出願準備
- 「年長」の8月~10月→出願・学校説明会と入試説明会に参加・面接練習・講習や模試の受験・過去問のチャンレジ・総まとめ
以上を踏まえると大まかな流れは「年中」の秋からスタートして「年長」の秋までの1年間でやり切るイメージですね。
関東の場合は東京以外の私立学校が9月・10月に試験を行うケースが多く、都内の私立小学校は11月などと少し遅れる傾向があります。逆に関西にある私立小学校の受験日は早めで8月末から選考が行われる学校もあります。
わが子が「年中」の段階で受験準備をスタートしたとしたら、当面のゴールとなる志望校の受験日を早々に確認したいですね。
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服装は? 私立小学校の受験当日に気をつけること
小学校の受験内容はペーパーテスト・口頭試問・運動・記憶力のテストなどが一般的です。例えば成城学園・学習院・青山学院・お茶の水女子大学付属小などペーパーテストを課さない学校もあるようですが、口頭試問(面接)については必ず課されると言ってよいでしょう。
そうなると受験前から髪型や服装を戦略的に準備していく必要が出てきますが、親子の服装についてはどうすればいいのでしょうか?
通っている幼稚園や保育所に制服があれば(賛否はあるようですが)制服を着ていく選択肢も子どもの場合はあります。制服がない子どもに関しては、HugKumの過去記事で紹介した服装の考え方をあらためて参考にしてください。
母親は
- 襟元に丸みのあるジャケットと控えめなフレアスカートの組み合わせのスーツ(色は濃紺)
- 靴は3cm程度の太めのヒール
- アクセサリーなどの小物に関しては付け過ぎを避ける
- バッグはスーツの色に合わせた配色
- 髪色も黒
といった服装が模範的です。父親は
- 無地の濃紺のシングルスーツ、ネクタイも同色、シャツは白
- アクセサリーは結婚指輪以外を外す
- 座った時にすねが見えない長めのソックス
- 黒の靴
といった服装です。制服がない子どもについては、男の子ならパパに類似した印象の服、女の子なら母親に類似した印象の服を選び、家族で統一感を出せるとベストです。仮に幼稚園や保育所の制服があれば自然に上述のような服装になるはず。関連記事に詳しく書いていますのでぜひ参考にしてくださいね。
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オンライン授業や説明会も? コロナ禍で私立小学校はどうなってる?
今はコロナ禍であらゆる対面活動に自粛が求められています。感染症の対策を十分に行った上での要予約による学校開催の説明会・授業見学・授業体験が開かれる一方で、要予約のWeb説明会・Web個別相談会を開催する私立小学校も少なくありません。
わが子が「年長」になってから夏前までの間に、学校説明会は次々と行われます。志望校がどのような形で説明会・見学会・体験会・相談会を開催しているのか、流れに乗り遅れないように早々に情報を集めたいですね。
小学校受験のまとめ
小学校受験に関係する、今さら聞けない素朴な疑問をまとめてみました。小学校の受験組は少数派なので、特に私立小学校の少ない地方部に暮らしている場合は、なかなか周りに相談できる相手も見つかりにくいかもしれません。
その場合は塾を探して、相談に乗ってもらうなどの対策が必要かもしれません。HugKumの過去記事によれば、遅くとも年長には塾に通わせる家庭が多いと分かります。
小学校受験を考える場合は、通わせる・通わせないは別として、地域で塾についての情報収集もスタートしたいですね。
文/坂本正敬 写真/繁延あづさ
【参考】
※ 私立小編入という選択肢 過酷な中学受験より得? – 日経Woman
※ 知っておきたい入試のこと~入試に関する基礎知識~- 東京私立中学高等学校協会