【私たち地方移住して子育てしてます!】高知・土佐の伝統野菜を通して地域の魅力を発信

上堂薗純高(かみどうぞの よしたか)さん(36歳)は、学生時代に起業したアパレル関連の仕事を経て、2015年に、妻のえりなさんとともに兵庫県から高知県土佐町に移住しました。移住後3年目には長男が誕生。農業生産法人「れいほく未来」を経て2018年に独立し、現在は農産物販売団体「sanchikara~土佐れいほく~」を立ち上げて、嶺北(れいほく)地域の農産物を主に都市部へ販売しています。移住したきっかけや高知の魅力について伺いました

日本の‶食〟に関わりたいと転職。高知人の人柄にとても魅力を感じて2015年に移住

一緒に商品開発をしている土佐町の「いしはらキッチン」スタッフ

学生起業をしたのは大学2年生のときです。アパレルに関連した事業で、当初は日本で活動していたのですが、その後、中国のメーカーとの取引や、日本のファッションを上海で紹介するイベントの手伝いをしたりして、中国での活動が増えていったのです。そうして中国に長く滞在しているうちに、和食が恋しくなるのも手伝って、徐々に日本の食品への興味がわいていき、日本の地方で食に関連した仕事に就きたいと思うようになったんです。

 そこで、一念発起して、それまでの仕事を辞めて帰国。全国各地へ出かけて行って、食べ物に関する情報といっしょにその土地の移住に関する情報を収集しながら8~9カ月ほどかけて実際に見て回ったのです。27歳のときでした。

 山口県や三重、和歌山、香川、愛媛など、中国・四国地方を中心に回ったのですが、そんななかでとても魅力を感じたのが高知県でした。

 なにより魅力的だったのが、高知県人の人柄です。他県と比べて圧倒的にあけっぴろげでフレンドリー。ぐんぐん仲よくなれるんですよ。

 ぼく自身も人と話すのが大好きだったので、相性が良かったのだと思います。たまたま高知を訪れたとき、嶺北地方でインターンシップの仕事があったので、1か月ほど滞在し、高知の良さをますます実感して、迷うことなく移住を決めました。

 農業生産法人で、農作物の生産と営業を3年間経験

野菜の商談会にて。

 

移住したのは20154月です。妻とともに移住して、農協の関連団体の農業生産法人「れいほく未来」へ入社して働き始めました。妻とは移住を機に結婚したのですが、学生時代からのつきあいで、交際中から海外で暮らすことも視野に将来のビジョンをふたりで描いていましたので、高知へ移住することに対しての異論はまったくありませんでした。「住む場所が国内になったのね」ぐらいの反応でした(笑)。

 「れいほく未来」で担当したのは、農作物の生産とそれを販売する営業です。最初の2年間は生産中心で、農作物の栽培をする傍らに営業をしている感じでしたが、3年目からは営業専門に活動をしました。取引先は大阪のメーカーや小売店、飲食店、個人客などです。農家の皆さんが作った作物の良さをPRして、主に都市部にお届けすることを目的に営業をしていました。

 3年間の間に仕事を通じて多くの方とつながって、地元では無理なくコミュニティを広げていけました。妻もあっという間に高知に溶け込んだんですよね。彼女はぼくより社交的なんです。だから、移住してからこれまで、苦労したり、辛かったと思ったことがないんですよね。ただ、鈍感なだけかもしれませんが(笑)。

 ぼくらが移り住んだ嶺北地方は、高知でも移住者が多く住んでいるエリアだったので、地元の方たちも移住者を受け入れることに慣れていたからかもしれません。

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独立して農産物販売団体「sanchikara~土佐れいほく~」を設立

通販している「れいほく野菜」。吉野川の清らかな水と山あいの寒暖差が育んだ新鮮・安心な野菜。昼夜20℃以上の寒暖差が、野菜の味を深くします。

 

「れいほく未来」で3年間働いたのちに独立して、現在は農産物販売団体「sanchikara~土佐れいほく~」を運営しています。会社の事業内容は、「れいほく未来」で活動していた営業活動とほぼ同じなのですが、より自由度が高く、営業以外のさまざまな活動をしています。

 会社のメンバーは、「れいほく未来」の仕事を通じて知り合ったぼくを含めた3名です。「れいほく未来」とも提携をしつつ、嶺北地方を主体に100軒ほどの農家と契約をして約200品目の農産物を販売しています。

 会社のモットーは、市場や直売所より高い値段で農家から作物を購入して、それに生産者の想いや産地情報をのせて付加価値を付けて販売すること。嶺北産野菜の良さを多くの人に知ってもらって、その価値を高めたいのです。そして、そうすることで、この地域で新たに農業をしたいと思う人が出てきてほしいと願っています。

 地元と開発した「山の辣油」が2022年「高知家のうまいもの大賞」に輝く!

地域特産の野菜・イタドリと高知特産の鰹を使った「山の辣油」。「イタドリカツオ」が「2022高知家うまいもの大賞」の「高知家賞」を受賞

そのため、最近は農業の6次産業化にも取り組んでいます。昨年7月に販売をスタートした「山の辣油」はそのひとつです。土佐町のいしはら地区の「いしはらキッチン」の方たちといっしょに試行錯誤をしながら完成させた商品で、いしはら地区で昔から親しまれ、食べられてきたイタドリを主体に、高知産の鰹やミョウガ、ニンニクなどを使った食べるラー油なんです。

ニンニク、ミョウガなど「山の辣油」に使われている野菜。右が、地元の伝統野菜・イタドリ

 いしはら地区でイタドリというのは、もとは田んぼの畔に自然に生えている植物なのですが、安心・安全のため10名の農家に栽培をお願いして、トレサビリティ―をきちんと確保。そして、無添加で仕上げています。おかげさまで2022年の「高知家のうまいもの大賞」では「高知家賞」を受賞しました。こうした成功事例を少しずつ積み重ねて、嶺北の食材の良さをさらに広めていきたいと思っています。

 また、卸業としての僕らは小売店や飲食店、メーカーさんのニーズがわかるので、それを農家の方たちに伝えて、時代が求める野菜づくりをいっしょに模索していきたいとも考えています。それが嶺北野菜のブランド化につながると思うからです。

 これまでおつきあいのある農家にお願いして試作してもらっている新品種の赤カブ「もものすけ」は、そういった思いで栽培・普及している商品です。表面の硬い皮に切り込みを入れるだけで、簡単に手で皮を剥くことができ、ジューシーでほんのりした甘みがあるサラダカブなのですが、これから力を入れて売り出していこうと思っています。

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「子どもは宝」と、ご近所みんなで息子を可愛がってくれます

私生活では、移住して3年目に長男が生まれました。妻はこれまで県の臨時職員の仕事や道の駅の販売員などをしていたのですが、出産を決意してから仕事を辞めて、いまは専業主婦として子育てをしています。

 ご近所に若い世代があまりいないこともあって、地元の方々からは妻も子どももとても可愛がってもらっています。ぼくも息子と散歩をしていると、すれ違う人たちが声掛けをしてくれて、干し柿やお菓子をいただいたりするんですよね。「子どもは宝」だという風潮がこの地域全体に根づいているのです。こうした温かい環境で育つことは息子にとってはとてもいいことだと思っています。

おおらかな地元の子の対応に感激したことも

 土佐町に移住してまず感じたのが、この地域の子どもたちの大らかさなんですよね。道で出会うと子どもたちが笑顔で挨拶をしてくれて、どの子も愛嬌があるんです。移住の準備で住む家を探して不動産屋さんから紹介された物件をひとりで回っていたときも、中学生か小学校高学年ぐらいの子だったのですが、地図を見ていた僕に「どうしたの?」と声掛けをしてくれて、目的地まで連れてってくれたんですよ。もうその心根に感動しました。

日曜の「朝市」を散歩。

ただ、僕は都会で育ったので、長男には僕の育った環境も知ってほしいんです。だからいずれ大学生になったら都会に出て、そうした環境で暮らしてもらいたいと思っています。また、日本だけじゃなく、海外にも行って、いろいろな世界を見てほしいと願っています。世界にはさまざまな人がさまざまな生活をしているという多様性を肌で感じてほしいからです。そのうえで、あとは自分で好きな人生を歩んでいってもらえたらいいなと思っています。

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移住して7年。移住希望の相談を受けることも多くなりました

移住して7年経つからでしょう。最近は、これから移住を考えている人から相談を受けることが多くなりました。そんなとき、相談をしてきた人に「これまでどんなことをしてきたか」を聞くと、「情報は集めているけれど、行動していない」人がほとんどなんですよ。

 でも、情報だけではその場所がどんなところなのかは絶対にわかりません。実際に行ってみて、その土地の風土や気候、人とふれあってこそ、自分との相性がわかるんです。

 近年は多くの自治体で‶お試し〟ができるプログラムが設置されていると思うので、そうした施策を利用するといいと思います。できれば、移住に何を求めているかを明確にしてから視察に行けるといいですね。

 もし、移住に何を求めているか明確でないとしても、実際にいろいろな場所を訪ねていくうちに、自分が移住に何を求めているかが明確になってくると思うんですよね。

 ただし、自分が求めているものすべてを叶えてくれる場所はありません。自分の求めるものの優先順位を明確にすることも大事だと思います。それがはっきりすると、移住をする場所の選択もスムーズになるんじゃないでしょうか。その土地を肌で感じること、それが移住の第一歩だと思います。

 

 高知県れいほく地域は、子育て支援も充実

高知県の嶺北地区は、四国のど真ん中に位置する吉野川源流域に広がる美しい自然に囲まれたエリアです。

エリア内にあるのは大豊町、本山町、土佐町、大川村の4町村で、上堂薗さんが住む土佐町は、その中でも役場や商業施設、学校も高校まであり、比較的開かれた町です。移住者の数は、20163月現在で186名という県内でもトップクラス。

移住に関しては、全国各地の自治体で行われているような住宅支援や就労支援策などが設置されていますが、土佐町ならではの魅力は、NPO団体「れいほく田舎暮らしネットワーク」が存在している点。この団体は地域の人々と移住者をつなぐ活動をしてして、移住後も手厚いサポートをしてもらえます。

さらに、自治体の子育て支援も充実していて、小中学校の給食の無償化、医療費は18歳未満まで無料。小学校には「学校応援団」という地域の人たちがボランティアとして学校を応援する取り組みがあって、この取り組みは2011年に文部科学大臣賞を受賞しています。また、町内には2009年に文部科学大臣賞を受賞した「土佐町図書館」があって、2011年には「読書のまち宣言」を議決。小中学校の図書館も充実していて、読書環境が整っています。

「高知家で暮らす。」 https://kochi-iju.jp

 

取材・構成/山津京子

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