齋藤 孝先生に聞く「音読」のスゴい効果。子どもの集中力や語彙力、自己肯定力まであがる!?

小学生の宿題といえば、音読。「面倒くさ~い」と言って適当に済ませたりしている子もいるかもしれません。親としても、忙しい毎日に音読のチェックをしなければならず「毎日やる意味があるの?」なんて思ってしまうこともあったりして……。でも実は、音読は集中力や記憶力、語彙力も高まってやる気までアップ、果ては自己肯定力も高まる!? と、いいことづくめなのだとか。

ベストセラーとなった『声に出して読みたい日本語』(草思社)で日本語ブームを巻き起こした、日本語のスペシャリスト・齋藤孝先生が厳選した音読文をまとめた『1日1ページで身につく!小学生なら声に出したい音読366 』(小学館)は、毎日1分の音読で心と頭がスッキリする、音読学習本の決定版。「雪にまつわる」「リズムが楽しい」「宮沢賢治神7」など、52のさまざまなテーマで音読文を紹介していて、毎日読めば1つのテーマを1週間で音読できます。

今回は齋藤孝先生に、音読のもたらす素晴らしい効果やコツについて伺いました。

齋藤孝/1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、明治大学文学部教授。専門は教育学、コミュニケーション論、身体論。主な著書・監修書に『声に出して読みたい日本語』(草思社)、『小学生なら知っておきたい教養366』(小学館)、『「言葉にできる人」の話し方』(小学館新書)ほか多数。NHK Eテレ『日本語であそぼ』総合指導。

さまざまな効果のある「音読」は、親も一緒に楽しんでほしい

――まず、音読の魅力を教えてください。

齋藤孝先生(以下齋藤):音読をすると、言葉が自分の中にちゃんと刻み込まれて残ります。

言ってみれば、黙読はバスで行く遠足みたいなもの。バスだと周りの風景までいちいち覚えていないですよね。でも音読は足で一歩ずつ歩いていく遠足です。歩いて行くことで一つ一つ踏みしめた道の感触や周りの風景、そういったものが頭に残りますよね。私自身も、徒歩で行った小学生の遠足の風景を覚えています。

ですから、音読した文章は自分の体の中に残る、そしてそれが栄養になって自身を元気づけてくれるものなんですね。

そして、音読によって頭も非常にはっきりと働き出します。一つ一つの文字をしっかり声に出して、ある程度速い速度で読むと、目では先の方を読んでいるのに、口に出しているのはそれよりちょっと前の文章を追うことになります。つまり目と口が別々の動きをすることになります。すると前頭葉という、知性を司どる脳の重要な場所がよく働くというふうに言われています。

――それはすごい。ほかにも音読の効果はありますか?

齋藤:はい。音読をすると元気も出てきます。元気が出ないなというときに、大きな声で音読すると、その文章に励まされて、体の中からエネルギーが出てくるんですね。

これは、歌を歌うときによくわかりますよね。ちょっとすっきりしないなっていうときに、カラオケに行ってバーッと歌うと、なんだか元気になって、どんどん自分のエネルギーが引き出されてくる感じ。

国語というものを体の文化として捉えるのが、音読のよさです。ただ文字を覚えるのではなくて、自分の体を1回通して自分の技術にしていくということですね。

――親は、どのように子どもの音読に付き合ったらいいでしょうか?

齋藤:家の中で誰かが音読している、それを聞くのも楽しいですよね。親御さんはせっかくですから、お子さんが音読しているのを「そのお話、面白いね」「読み方、上手だね」などと励ましてあげると、お子さんは喜んで「また次も読もう」という気持ちになります。

反応してもらうことがモチベーション、動機づけになるんですよね。

ただ読んで終わりだと、ただの宿題止まりです。そうではなくて、「今のところ上手に読めたね、役者さんみたい」という感じになってくると、演劇的に読むのも楽しいなと思えるはずです。

――読むときのコツはありますか?

齋藤:そうですね。まず間違えずにスラスラ読めるようにするためには、5回ぐらい繰り返し読んでほしいです。

『音読366』は、ページ右上に正の字をつけているんですね。そこを1回読んだらなぞって、2、3、4、5回と読む。5回も読めば、大体スラスラと読めるようになります。

ただお子さんは、初めて見る文章をうまく読めないときがあると思うんですね。そういうときは、親御さんが最初にお手本で読んであげて、それを復唱する形にします。

例えば夏目漱石の『坊ちゃん』の冒頭ですと、子供は「親譲りのむて“つ”ぽうで」というふうに読んでしまうときがあるんですね。そのときに親御さんが、「親譲りの無鉄砲で」と読んであげて、子供が「親譲りの無鉄砲で」と真似て繰り返し、お手本~復唱という形にすることで、うまく読めるようになります。

――スラスラと読めることが大事なんですね。

齋藤:はい。そして、間違えずに読めるようになったら、読み方にも気を付けてほしいですね。棒読みでAIみたいに読むのではなく、意味のまとまりごとに読む。

演劇的に読むというやり方もあります。物語なら、登場人物になりきって読むのも感情が入るので、お子様の感情が豊かに育っていきます。

ごっこ遊びってありますよね。あれは、いかになりきるかが大事。お母さん役になりきるとか、あるいはちょっと空想上の人物になりきるということが、想像力をかきたてますし、柔軟性を育てます。

――ごっこ遊びのようになり切って、演劇的に読むのがいいんですね。

齋藤:体を使ってもいいと思います。役者になったような気分でね。

『音読366』では、声に出して読むと楽しくなるような文章を集めました。1日1個ずつ読むわけですから、楽しい方がいいですよね。

できるだけ声に出したときの“音”を楽しみながら読んでほしいです。日本語の意味だけではなく、「この音、面白いよね」という感性を育てていただきたいと思います。

言葉という文化の力で自分を育て、自信をつけてほしい

――言葉の響きですね。

齋藤:日本には、言葉には魂がこもっているという「言霊」という考え方があります。

人から嫌なことを言われると、ズーンと胸にきますよね。逆に、励ましの言葉をかけてもらうと生き生きする。言葉には、そういう力があるんだということを皆さん感じていると思います。

この本では、優れた人たちが選び抜いて磨き抜いた言葉をお子様の心に届ける、そして言葉がお子様の心に染み込んだら一生その言葉が力になって言霊になって元気に過ごせる……そういう力のある文章を集めました。

音読するのは、どんな文章でもいいわけではないですよね。借金の督促状を音読しても、いまいち盛り上がらないわけで(笑)。

そうではなく、夏目漱石や芥川龍之介、宮沢賢治という日本語の代表選手の最高のプレーを真似していく、なぞっていくということが大事なんです。

――スポーツのような。

齋藤:「真似る」ということが「学ぶ」の大元ですから。

音読することによって、その作家の一番大事な魂というものを受け取る。そしてそれを心の中に苗として植えると、育っていって、木になって木になって木になって、366本の大きな木が育って森になるという、そんなイメージです。

ですから1日1つでいいので、音読してみてください。できるのであれば、気に入ったものは何度も何度も音読して、覚えてしまうのもいいと思います。

――齋藤先生にとって印象的な音読文はありますか?

齋藤:落語の「寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末」、これは『日本語で遊ぼ』という私が総合指導をしている番組で取り入れてもらったのですが、私が小学生の時に覚えていた文章だからなんですね。

今の子たちは知らないのかしら、それはもったいないな、と思い、ぜひ流行らせようと番組でも扱ってもらいました。この本にも入れてあります。

そのほか、宮沢賢治の「雨ニモマケズ風ニモマケズ雪ニモ夏ノ暑サニモ負ケヌ丈夫ナカラダヲモチ」という文章も、小学生のときに暗唱しておりました。そのときはクラス全員、暗唱していたと思います。

暗唱していると、自分の中にもその言葉が住んでいる感じになります。ふとした瞬間に、「イツモシズカニワラッテイル」と宮沢賢治が言っていたな、というふうに、自分自身をうまく修正してくれる、調子が悪いときに戻してくれるような働きも暗唱にはあるわけですね。暗唱というのは、最高の言葉の文化です。

桜の花が散るのを見て「ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ」と、ふと口から出てしまう。この、ふとこぼれ落ちるものが「教養」ということになります。

覚えて楽しむ、そして言う、ということも子供の自信になるんですよね。自信を持って生きるということは大切だと思います。

――自分に自信のある子どもに育てたい、というのはどんな親も考えることです。

齋藤:自己肯定力を高めるためには、優れたものと出会うことが大事なんです。その優れたものが自分の中に住んでいたなら、きっと自信が持てますよね。自分の中に宮沢賢治がいると思えば、彼が味方してくれていると思えば、自分を肯定する力が育ちます。自分1人で自分を肯定するのは、なかなか難しいです。

私も小学生のときにシェイクスピアを読んでいましたが、シェイクスピアが味方をしてくれている感じがありました。

そういうものが本当の意味での自己肯定力になっていくんじゃないかなと思うんです。文化の力によって自分を育てて、そして自信を持つ

――自己肯定力が音読で高められるということですね。

齋藤:はい。例えば、親が関心を持って「このお話子どもの頃好きだったんだ、一緒に音読してみよう」なんていうのは、小学生時代ならではの親子のいい時間なんです。高校生にもなると、親子でやりましょうということはなかなか難しいかもしれない。

お子さんが一番素直な小学生のときというのは、親子で過ごす学びの黄金時間なんです。音読は家庭の光だと思って、音読中心に家庭の学びを作っていっていただければと思います。

ぜひ、『音読366』を親子で毎日読んでみてください。

『音読366』では、抽選で1万円の図書カードがもらえる音読動画投稿キャンペーンを開催中。
齋藤孝先生の音読の解説動画とお手本動画をチェックして、夏休みにご家族で音読にチャレンジしている楽しい動画をご投稿ください。

詳しくは『音読366』の特設サイトをご覧ください。
https://www.shogakukan.co.jp/pr/kyoyo366/ondoku366/

文・構成/小林麻美

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