人生を変えた担任の先生の言葉
小宮山さんはどのような子ども時代を過ごしていたのか、教えてください。
小宮山 私の母親は高卒、父親は中卒で、親族にも大卒の人がいないという環境でした。子どもの頃は男の子とばっかり遊んでいて、いたずらをしては叱られていました。ゲームも大好きで、長い時は7時間ぐらいプレーしていましたね。
松丸 それはすごい(笑)
小宮山 父親は教育にまったく興味がなかったんです。でも、母親は「学べば学ぶほど人生の選択肢が増えるんだよ」という話をくりかえししてくれる人でした。小学校1年生から4年生くらいまでずーっと私の横について勉強を見てくれていたんです。
松丸 素敵なお母さんですね。
小宮山 なのに私があまりにゲームやいたずらで遊んでばかりだったので、母は「勉強しなさい」って泣いてたんです(笑)。でも、小学5年生の時の担任の先生が、私と母の目の前で「いいんです。遊ばせておきなさい。この子は今遊んでおけば大成するから」と言ってくれたんです。やっと自分を認めてくれる先生が現れた! と嬉しかったですよ。そこから、「お母さんを泣かせずに、ちゃんと自分でがんばる」と心を入れ替えて、一所懸命勉強するようになりました。
松丸 先生の一言でガラッと変わったんですね。
小宮山 その時のことは今もハッキリ覚えています。
子どもに勉強してほしいなら、まず親が勉強すべき
小宮山 中学生の時、両親が離婚して母子家庭になりました。母は私と逆で数字に強かったので、生活のために会計の勉強を始めました。妹もいたので、私だけのためにお金をかけちゃいけないと思い、私も奨学金を得るためにがんばって勉強をしましたが、母親が勉強している姿をずっと見てきました。私も講演などでよく、「どうやって子どもに勉強をさせたらいいんですか?」と聞かれるんですが、子どもに勉強しなさいっていう前に、自分は勉強してますか? と問いたいですね(笑)。
松丸 めちゃめちゃ共感します。うちの子が勉強してくれないんですという親御さんに、では勉強ってどうしてやるんだと思いますか?と聞いてみると、答えられない人がほとんどなんですよ。将来役に立つから、と言う人もいますけど、では、具体的にどの勉強がどのように役に立つかと聞いたら、きちんと答えられる人はいないと思うんです。そもそも親御さん自身に勉強していましたか?と聞くと、親御さんも勉強が苦手だったという人が多いんですよ…。
小宮山 親自身が勉強していないと、子どもにアドバイスできないですよね。コロナが始まる前のデータですけど、日本の社会人は一日に6分しか勉強していないんです。6分という数字は、ほとんどの人がゼロで、ごくわずかな人が一日数時間勉強していたという結果で、勉強している人としていない人の差が激しい。
松丸 親御さんがまったく勉強していなかったら、子どもに対する説得力もないですよね。
小宮山 子どもって、親のことをすごくよく見ているんですよね。私、出張のない土曜日は、朝7時に地元のスタバに行くんです。うちの息子は今中3なんですけど、息子によく「何しに行くの?」と聞かれるから、「勉強とか仕事」と答えていたんですけど、1年ぐらい経ったら「スタバって勉強しやすいの?」って聞いてきて。「それは人それぞれだから、気になるんだったら行ってみれば?」と答えたらついてきて、別々のところに座りながら3時間ぐらいそれぞれ勉強をしました。それ以降、一緒にスタバに行くこともあります。
松丸 いい親子ですね!
長期的な学びは、誰にも何も言われなくても自分からやる
小宮山 勉強といっても、短期的な学びと長期的な学びがありますよね。よく学校の先生が言うのは短期的な学びです。基礎学力をつけるために必要だから、イヤでも集中して学びなさいというものですね。でも、好きを追求するような長期的な学びは、誰から何も言われなくても自分からやるんです。私はモータースポーツの国内A級のライセンスとかダイビングとかいろいろな資格を持っているんですが、それって何に使えるんですか?って聞かれることがあります。でも自分が好きだから取っているだけなんですよね。
松丸 ナゾトキも、よく言われることがあるんですよ。何の役に立つの?って。そのたびに、あなたは未来予測ができるんですか?って思っちゃう。
小宮山 それは、認知能力しか見ていないからなんですよ。学校教育しかやってこなかった人はすぐ結果を可視化したがって、「これをやったら何点取れるようになるんですか?」という発想になるんです。でも、ナゾトキは非認知能力を育てるもの。好奇心を育成するとか、想像力をどうやって膨らませるかというツールだから。
松丸 ほんと、そうなんですよ。ナゾトキは知識がつかないと言われるたびに、いやそもそも知識をつけるだけが目的じゃないんだけどなあ、と思います。
何がつながるかはわからないから、子どもには「種を蒔く」
小宮山さんは中学3年生の息子さんの母親でもありますよね。ご自身の子育てについて教えてください。
小宮山 私の子育てでいうと、すぐ役に立つ・立たないということではなくて、子どもの「好き」という気持ちを広げる環境を与えることを意識しています。私はよく「種を蒔く」って言ってるんですけど。子どものなかで何がどうつながるかなんて親にもわからないんだから、たくさんのいろいろなものに触れさせることですよ。
松丸 わかります。うちの両親はまさに、「子どもが何に興味を持つかは親にもわからない」ってことをすごくよくわかっていたみたいで、家には歴史の本とか図鑑とかとにかくたくさんのものがあったんです。そのなかで僕が興味を持ったのは足し算のカードで、意味も分からず暗記していたんです。それを見て、パズルや数独を与えてくれるようになりました。それが今につながっていますね。
小宮山 うちもVRゴーグルとかわざと息子の目に入るところに置いていたりします(笑)。何も言わないで置いてあるだけ。気が向いた時に「なんだろこれ?」って触ってくれればいいんだと思います。
松丸 子どもがいつどこに興味を持つかって本当に子ども次第ですからね。子どもが触れられるものが多いほど、チャンスは多いってことですよね。
小宮山 あと、いろいろな大人に出会う機会を作るっていうのもやりましたね。それから、息子が小学生の頃から、頭の中にはてなマークが浮かぶようなところに連れて行きました。国内は47都道府県全部に行って、海外はインド、ドバイ、ルワンダとか。小学校3、4年生の時には、「なんでこんな変わったところに連れて来られないといけないんだ」と文句を言われてたんですけど。中学生になって、「自分が外国の人と仕事をしたいと思うのは、あの時の体験があったからだよな」ってポロッと言ったんです。それを聞いて、いい方向に向かってるぞ、しめしめと思いました(笑)。
松丸 すごい。つながったんですね。
小宮山 海外に行かなくても日常のなかでもできることはあると思うんです。息子が小学校低学年のときには、学校の登下校で見つけた新しいものを毎日3つ教えて、って言ってました。違う道を通ったりとか、本当はいけないんですけど(笑)。同じ道でも、目線を上にしたり、下にしたり、振り返りながら行ったりすると、見えないものが見えてくるんですよね。
松丸 新しい物を発見するために違う道を通ったり目線を変えてみたりって、おもしろいですよね。僕も好きです。自分でも思いがけないものを見つけちゃったり、気づいたりする。そのときは何でもなくても、あとから何かにつながることがあるんですよね。
記事監修
記事監修
東京大学に入学後、謎解きサークルの代表として団体を急成長させ、イベント・放送・ゲーム・書籍・教育など、様々な分野で一大ブームを巻き起こしている”謎解き”の仕掛け人。現在は東大発の謎解きクリエイター集団RIDDLER(株)を立ち上げ、仲間とともに様々なメディアに謎解きを仕掛けている。監修書籍に、『東大ナゾトレ』シリーズ(扶桑社)、『東大松丸式ナゾトキスクール』『東大松丸式 名探偵コナンナゾトキ探偵団』(小学館)『頭をつかう新習慣! ナゾときタイム』(NHK出版)、など多数の謎解き本を手がける。
前編はこちら
取材・文/川内イオ 写真/五十嵐美弥(本誌) ヘアメイク(松丸)/大室愛 スタイリング(松丸)/飯村友梨
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