これからの子どもたちは「好き」と「得意」がはっきりしている、凸凹な人に!【松丸亮吾さん×スタディサプリ小宮山利恵子さん教育対談】

テレビやメディアで大活躍のナゾトキブームの仕掛け人・松丸亮吾さん。東大生でもある松丸さんが、子どもたちと親御さんに「考えることは楽しい」と伝えるため、教育界でご活躍中の豪華ゲストの方々と、教育対談を繰り広げます。
第9回のゲストは、「スタディサプリ教育AI研究所」所長の小宮山利恵子さん。スタディサプリは、小学4年生の5教科学習から、大学受験生、さらには大人向けの英語講座まで、授業動画をスマホやタブレットで視聴できるサービスで、学校や塾でも導入が増えています。デジタル教育の最前線で活躍する小宮山さんと、これからの学びについて語ります。
前編となる今回のテーマは「好き・得意の重要性」です。

ナゾトキには、これからの時代に必要な力が詰まっている

小宮山さんは「すべての子どもたちに教育の機会を」という想いを胸に教育事業に携わってきました。現在はスタディサプリ教育AI研究所所長、東京学芸大学大学院准教授(教育AIプログラム)を兼任されています。教育×テクノロジーの最前線にいる小宮山さんにとって、松丸さんの「ナゾトキ」はどんな体験になりましたか?

小宮山 出張の移動中に松丸さんのナゾトキの本を3冊拝見しました。これは小学生向けですよね? でも大人もやるべきだと思います!

松丸 嬉しいです。小学校で習う難しい漢字は一切使わないで作っているんです。だから、小学生1年生から解けるけど、実は大人でもけっこう苦戦する方が多いっていう、難易度高めではあるんですよ。

小宮山 この本に「スペック(SPECC)」っていう言葉が出てくるじゃないですか。

松丸 はい。ナゾトキで鍛えられる5つの力の頭文字をとった造語です。「多角的思考力」「論理的思考力」「試行錯誤力」「会話力」「発想力」の5つなんですけど、漢字が並ぶと子どもには難しいじゃないですか。ポケモンの能力の「HP」「こうげき」「ぼうぎょ」みたいにキャッチーに言えるといいなと考えて、「スイッチ(きりかえ)」「プログラム(くみたて)」「エナジー(がんばる)「コミュニケート(つたえる)」「クリエイト(ひらめき)」と言っています。

『東大松丸式 ナゾトキスクール』(小学館刊)より、5つの力「SPECC」の解説ページ。

小宮 それって全部、これからの時代に必要な力ですよね。今、日本で起業する人って5%くらいしかいないんです。文科省はこれから5カ年計画で起業家精神を養うアントレプレナーシップ教育を重点的にやっていく計画を立てているといわれていますが、ナゾトキをやればその力も養われると思いました。

松丸 本当ですか!?

小宮山 日本の教育はこれまで、「知識の深化」に取り組んできたんですよね。ドリルを何回もやって効率よく求めるような。でも、もっと「探索」をしたほうがいいんです。一見ムダに思えるようなことや、失敗が多いようなことをやる。自分の興味関心に従って探索することで、生涯を通じて学び続ける力が培われると思います。これから「知識の探索」が重要になる時代に必要なものが、ナゾトキにあるんじゃないかと感じました。

松丸 嬉しい! やっててよかったー(笑)。

好きなこと、得意なことがはっきりしている「凸凹な人」になろう

小宮山 よく教育業界で「認知能力」「非認知能力」という言葉が出ますよね。従来の勉強で身に付く、テストで測れる「認知能力」と、協調性、忍耐力、自律心、創造性といった、テストでは測れない「非認知能力」。ナゾトキはまさに「非認知能力」を養うものですよね。

松丸 そうですね。いわゆる認知能力や知識じゃなくて、ナゾトキがなにかしら生きる力につながるはずだと思っています。例えば、小さな子がナゾトキに挑んで誰の力も借りずに答えがひらめいた瞬間、とてつもない成功体験になっていると思うんですよね。子どもからのお便りに「勉強がぜんぜんできなかったけどナゾトキで自信がついて、もうちょっと勉強をがんばってみようと思った」と書かれていた時は、続けてきて良かったと思いました。学校の成績が悪くて否定されていたけど、逆転のきっかけになったというような話で。時代的にもそっちに転換していくんじゃないかと思っています。

小宮山 いい話ですね。これまでの教育では10段階で5以上とか5段階で3以上の成績を平均的に取ることを目指してきたんですよ。だけど私は、もうそういう学力は必要ないと思っています。もちろん、基礎的な学力は必要ですけど、もっと凸凹があってもいいと思っています。

松丸 僕もデコボコです(笑)。僕は古文漢文とか歴史の年号とか、暗記しないと解けない問題がすごく苦手だったんですよ。ただ、数学がめちゃめちゃ好きだったので、数学で点を稼いでなんとか暗記系の教科の失点をカバーしていました。

あなたは何が好き?に答えられる人に

小宮山 それでいいんですよ。終身雇用制がもうほとんど終わりつつあり、今後は、案件・契約・プロジェクト単位の仕事が増えてきます。そうなったとき、自分が好きだったり得意だったりするものがわかっていて、突き抜けていないと声かけてもらえない可能性があります。あなたは何が好きなの? と聞かれた時に答えられないと話にならない。だから、平均的に全教科の点を取れる人じゃなくて、凸凹がある人がこれから求められると思います。だって、プロジェクト型になると、必要だったら得意な人を探してくればいいんですから。

松丸 めちゃめちゃわかります。僕はナゾトキの会社を自分で作りましたけど、お金関係を見るのがすごく苦手なんですよ。マネタイズとか経理とかぜんぜん興味がなくて、とにかく目の前の子どもがナゾトキの問題で喜んでくれればいいって思っちゃう。一度、自分でお金の勉強をしようかなって思った時期もあったんですが、やっぱり得意な人に任せようと考え直しました。サークルにお金関係とかマネジメント面がすごく得意な子がいたので、その子と一緒に今の会社を作ったんですよ。

小宮山 私も以前、会計士の資格を取ろうと思ったことがあって、お金もバーンと払って勉強を始めたんですよ。でも、途中で「これは私に向いていない」と感じて、やめました。向いてないことをやってストレスになるより、得意な人にチームに加わってもらえばいいんです。

「地図」が無い時代だからこそ、「好き」と「興味」が大切

松丸 向いてないことっていくらがんばっても、好きな人や得意な人には絶対勝てないんですよね。

小宮山 本当にそう。「がんばろう」って思う時点でそもそもダメなんですよね。がんばろうっていう気持ちが出てきちゃうってことは、自分にとって好きなことではないんですよ。

親世代の常識は、もはや通用しなくなっている

松丸 日本の子どもは、まさしくその「がんばること」を強いられ続けているじゃないですか。自分が興味あることというより、親がこれをやっとかないと将来困るよと言ったものを、苦行であってもやらなきゃいけない。その時間はすごくもったいないなって。

小宮山 「これをやらなきゃ」と子どもに押し付けている親の判断も、間違っているかもしれないんですよ。私は今44歳ですけど、私が子どもの頃は「地図」があったんですよ。この会社に入れば大丈夫とか、この資格を持っていれば大丈夫っていうはっきりとした地図が。それが今はないでしょう。

松丸 そうですね。10年前には存在しなかった会社が今すごく勢いがあったり、逆に100年続くと思われていた会社が落ち目だったりとか

小宮山 そういう変化の激しい時代に、自分でコンパスを持って、この方向に行くと決めなくてはいけない。そのためには、「やらなきゃいけない」勉強よりも、自分の「好き」や「興味」を強く持っていることが大切だと思います。

<中編>につづきます。

記事監修

小宮山利恵子|スタディサプリ教育AI研究所所長、東京学芸大学大学院准教授
国会議員秘書を務めた後、()ベネッセコーポレーションの会長秘書に。その後、ゲームと教育の関係に関心を持ち、グリー()に入社。オンライン教育アプリ「スタディサプリ」を立ち上げた山口文洋氏に取材で出会い、「スタディサプリ」のビジョンに共感。2015年より現職。2019年度より東京学芸大学大学院准教授を兼務。超党派国会議員連盟「教育におけるICT利活用をめざす議員連盟」有識者アドバイザー。経団連EdTech戦略検討委員会委員。著書に『新時代の学び戦略』(共著、産経新聞出版)。『レア力で生きる 「競争のない世界」を楽しむための学びの習慣』(KADOKAWA)などがある。 

記事監修

松丸亮吾|謎解きクリエイター

東京大学に入学後、謎解きサークルの代表として団体を急成長させ、イベント・放送・ゲーム・書籍・教育など、様々な分野で一大ブームを巻き起こしている謎解きの仕掛け人。現在は東大発の謎解きクリエイター集団RIDDLER()を立ち上げ、仲間とともに様々なメディアに謎解きを仕掛けている。監修書籍に、『東大ナゾトレ』シリーズ(扶桑社)、『東大松丸式ナゾトキスクール』『東大松丸式 名探偵コナンナゾトキ探偵団』(小学館)『頭をつかう新習慣ナゾときタイム』(NHK出版)、など多数の謎解き本を手がける。

 

取材・文/川内イオ 写真/五十嵐美弥(本誌) ヘアメイク(松丸)/大室愛 スタイリング(松丸)/飯村友梨

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