出産費用について徹底解説。利用できる支援制度・要件も総チェック

出産には多くの費用がかかりますが、支援制度を利用することで経済的負担を軽減できます。出産費用や制度の種類、要件などを紹介しますので、スムーズに申請できるように準備しましょう。費用不足の際の対策や、出産後の支援制度についても触れています。

出産にかかる費用の概要

医療費は保険が適用されるかどうかによって、金銭的な負担が大きく異なります。出産費用に医療保険が適用されるのか見ていきましょう。

出産費用は保険適用外。全額自己負担です

正常分娩の場合は医療保険が適用されないため、出産費用は全額自己負担になります。出産費用は病院や施設によって異なるうえ、麻酔を用いる和痛分娩(無痛分娩)を選択した場合や個室に入院した場合は、別途追加料金が必要です。

一方で、帝王切開など正常分娩以外での分娩が必要と医師が判断した場合は、麻酔・投薬・手術・入院にかかる費用に医療保険が適用されます。

ただし、個室を選択した場合のベッド代や食事代は、差額分を支払う必要があります。さらに、分娩介助料や新生児管理保育料なども自己負担となる点に注意しましょう。

参考:出産費用の実態把握に関する調査研究(令和3年度)の結果 等について|厚生労働省

高額療養費制度の対象となる場合も

「高額療養費制度」は、高額の医療費がかかったときに一定の上限額を超えた分を払い戻してくれる制度です。1カ月間の医療費の支払い額が自己負担限度額を超えた場合に、超えた分が返金されます。自己負担限度額は、年齢と所得によって定められています。

帝王切開・吸引分娩・鉗子分娩など、いわゆる異常分娩に分類される出産となったときの医療費は医療保険が適用されるため、高額療養費制度の対象です。

申請方法は事前と事後の二つの方法があります。申請の流れは加入している医療保険によって異なるため、確認が必要です。

出産時にかかる費用の内訳

初めての出産では、出産時にどれくらいの費用がかかるのか分からず、不安になる人も少なくありません。出産時にかかる費用の内訳を紹介しますので、おおよその費用を把握しておきましょう。

妊婦健診費

妊娠してから出産するまでは、健康状態を定期的に確認する「妊婦健診」を受診するための費用がかかります。

妊娠初期から23週までは4週間に1回、24~35週までは2週間に1回、36週~出産までは1週間に1回の受診が推奨されています。健診の頻度が増すほど自己負担額も増えるため、あらかじめ準備しておくと安心でしょう。

また、必要に応じて血液検査や超音波検査を受ける場合もあり、その費用は別途かかります。妊婦健診費は検査の内容や病院によって異なりますが、1回の検診で5,000円前後、検査がある場合1〜2万円ほどが一般的です。ただし、保険適用となる症状が出た場合は、検査や治療にかかる費用も保険の対象となります。

参考:妊婦健診|厚生労働省

マタニティ・ベビーグッズ代

出産にかかる費用には、マタニティグッズ代やベビーグッズ代も含まれます。妊娠中は体形が変化するため、妊婦用の衣服や下着などのマタニティ用品は必需品です。

妊娠後期になるにつれお腹も大きくなるので、骨盤ベルトや妊娠線対策用のクリームなどを用意する人もいます。出産後の産褥ショーツや母乳パッドも、一緒に用意しておくと安心です。

同様に、生まれてくる赤ちゃんのためのベビーグッズをそろえる必要もあります。具体的には、おむつ・哺乳瓶・消毒セット・ベビーバス・抱っこひも・ベッド・寝具・衣類・チャイルドシートなどです。ベビーグッズは多岐にわたるため、その分だけ費用がかさみます。

入院費用や分娩費

正常分娩の場合、分娩から退院までのさまざまな費用が自己負担となります。例えば、「入院料」「分娩料」「新生児管理保育料」「検査・薬剤料」「処置・手当料」などが含まれます。

出産費用は、地域・産院・出産方法・妊婦の年齢などによって差がありますが、2021年度の厚生労働省「出産費用の実態把握に関する調査研究」によると、2020年における全施設の出産費用平均は約46.7万円 です。

私的病院や診療所は公的病院よりも費用が高い傾向にあり、価格帯にもばらつきが大きいことが平均費用を引き上げている要因とされています。

室料差額・産科医療補償制度掛金・その他の費目を除く

参考:出産費用の実態把握に関する調査研究(令和3年度)の結果 等について|厚生労働省

出産費用の支援制度

出産費用を支援する制度を利用することで、経済的負担はある程度軽減できます。支給要件や支給額について紹介するので、実際に手続きをする際に役立てましょう。

妊婦健診の助成制度

妊婦健診は医療保険が適用されず自己負担ですが、多くの地域では健診費用の一部を助成する「妊婦健診の助成制度」を設けています。

居住する区市町村が助成制度を設けていれば、役所の窓口で妊娠の届出をすると、母子健康手帳とともに健診費用を補助するための補助券をもらえます。指定されている医療機関で健診を受けることで、補助を受けられる仕組みです。

例えば、世田谷区の場合、1回目の健診の助成上限額は1万850円、2~14回目の健診の助成上限額は1回あたり5,070円になります。助成額や助成の対象になる内容は各自治体で異なるため、居住地の自治体のホームページや窓口で確認しましょう。

出産育児一時金

「出産育児一時金」は、被保険者または被扶養者が出産したときに補助金が支給される制度です。国民保険もしくは健康保険に加入していること、妊娠85日以上(妊娠4カ月以上)で出産していることが要件です。

金額は赤ちゃん1人につき一律42万円で、多胎児を出産した場合は人数分支給されます。ただし、産科医療補償制度に加入していない医療機関での出産や、妊娠22週に満たない出産の場合の支給額は40万8,000円 です。

出産育児一時金を受け取るには、出産費用の領収書の写しなどの必要書類をそろえ、健康保険組合もしくは各市町村に申請する必要があります。

2021年12月31日までの分娩は40万4,000円

参考:子どもが生まれたとき | こんな時に健保 | 全国健康保険協会

直接支払制度の利用も可能

出産育児一時金は「直接支払制度」を利用して受け取ることもできます。出産育児一時金の額を上限とし、加入者本人に代わって医療機関が健康保険組合に出産費用を請求する仕組みです。

出産育児一時金をそのまま出産費用に充てられるため、事前に用意する出産費用を抑えられるのがメリットです。また、入院中に必要書類にサインをするだけで手続きが完了するため、後から自分で手続きをする必要がないのもメリットといえます。

参考:
出産育児一時金|知って得する!?健康保険|けんぽれん[健康保険組合連合会]
出産育児一時金の支給額・支払方法について|厚生労働省

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出産手当金

「出産手当金」は、出産で仕事を休むことになって給与の受け取りがない場合に、生活を保障するための制度です。

妊娠85日(妊娠4カ月)以上の妊娠であることや、出産のための休業で給与の支払いがないことなどが条件です。また、例外もありますが、出産日以前42日から出産日後56日までが対象として定められています。

支給開始日以前の継続した12カ月間の標準報酬月額を平均した額を30で割り、2/3をかけたものが1日の支給額です。そして、1日の支給額に支給日数をかけたものが支給総額になります。

ただし、被保険者期間が1年を満たない場合は算出方法が異なるため、確認するようにしましょう。

参考:出産で会社を休んだとき | こんな時に健保 | 全国健康保険協会

出産後の支援制度

出産後に利用できる支援制度もあります。どのような制度があるのか、要件や支給額と併せて紹介します。事前に詳細を把握し、スムーズに利用できるようにしておきましょう。

育児休業給付金

会社員が育児を目的として、法律上取得できる休業期間が「育児休業」です。さらに、育児休業中に一定の要件を満たすことで「育児休業給付金」を受け取れます。

支給要件には「1歳未満の子どもを養育するために育児休業を取得した、雇用保険の被保険者であること」「休業開始日前2年間に賃金支払基礎日数が11日以上、もしくは就業した時間数が80時間以上ある月が12カ月以上あること」などが含まれます。

支給額は休業開始から180日までは休業開始時賃金日額※1 の67%で、181日以降は50%です。ただし、それぞれ上限が定められており、180日までは30万5,319円、181日以降は22万7,850円になります※2

※1 原則、育児休業開始前6カ月間の総額を180で割った額(例外あり)
※2 2023年7月31日までの額

参考:育児休業給付について|厚生労働省

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乳幼児医療費助成制度

「マル乳」とも呼ばれている「乳幼児医療費助成制度」は、各自治体が乳幼児の通院や入院にかかる費用を助成する制度です。各自治体によって具体的な内容は異なりますが、基本的に小学校入学前の医療保険に加入している子どもが対象となります。

居住している市区町村の役所で申請し、医療証の交付を受け、医療機関での受診時に医療証を提示することで制度を利用できます。自治体によって助成金額が異なるため、役所の窓口やホームページで確認しましょう。

参考:乳幼児医療費|厚生労働省

児童手当制度

「児童手当制度」は子育てを支援するための制度で、0〜15歳(15歳の誕生日後の初めの3月31日)までの児童を養育している家庭に支給されます。

子どもが生まれたら、居住している市区町村に必要書類とともに「認定請求書」を提出することで手当を受けられます。原則として申請した翌月からの支給となるため、忘れずに早めに申請することが大切です。

ひと月あたりの支給額は、3歳未満が1万5,000円、3歳以上小学校修了前までが1万円(第3子以降は1万5,000円)、中学生は一律1万円です。所得が「所得制限限度額以上、所得上限限度額未満」の場合は、特例給付として月額一律で5,000円が支給されます。

支払いは年3回で、毎年6月・10月・2月に前月分までの手当が支給されます。

参考:児童手当|内閣府

出産費用が足りない場合は?

出産にはまとまった額のお金が必要となるため、どうしても用意できない家庭もあるでしょう。費用が足りないときの対策を紹介します。

出産費貸付制度を利用

「出産費貸付制度」は、出産育児一時金が支給されるまでの間、無利子で出産費用を貸してくれる制度です。限度額は、出産一時金として支給される額の8割相当額になります。

対象者は出産育児一時金の支給が見込まれる、出産予定日まで1カ月以内の人、もしくは妊娠85日(4カ月)以上で産院などへの一時的な支払いが必要な人です。

制度を利用するには、全国健康保険協会の各支部に「出産費貸付金貸付申込書」と必要書類をそろえて提出する必要があります。

参考:出産費貸付制度|こんな時に健保|全国健康保険協会

入院助産制度を利用

「入院助産制度」は、経済的な理由で病院または助産所に入院できない妊婦が利用できる制度です。各自治体によって要件は異なりますが、一般的に生活保護世帯で住民税非課税世帯であることなどが要件です。

福祉事務所や自治体の役所の窓口で申請でき、事前に申請することで助産施設として認可されている病院などに入院できます。出産費用も助成されますが、助成金額は自治体によって異なるため、役所の窓口やホームページで確認しましょう。

参考:入院助産(出産費用の助成) 東京都福祉保健局

出産費用を節約するには

出産後の育児でも出費がかさむことを考え、できるだけ出産費用を抑えたいと考える人は多いでしょう。そこで、出産費用を節約する方法を二つ紹介します。

病院や施設の費用を比較する

駅から近いといった立地条件や出産に関する方針などで、出産する病院を選ぶことも重要です。しかし、施設によって出産費用は異なるため、費用について比較することも大切なポイントです。

例えば、国公立病院や国公立大学病院などの公的病院よりも、私立大学病院や個人診療所など私的病院の方が費用はかかります。なお、出産は助産所でも可能で、費用は一番安いと考えられます。

受診前に複数の病院や施設の費用を比較してから病院を決めることで、出産にかかる費用を節約できます。

確定申告の医療費控除を受ける

「医療費控除」は、1年間に支払った医療費が一定の額を超えた場合に確定申告することで、所得控除を受けられる制度です。

妊娠・出産に伴う費用では、定期健診や検査費・通院時の交通費、入院中の食事などが対象になります。ただし、実家に帰省して出産する場合の帰省する交通費や、入院に必要な身の回り品の費用は含まれないなど細かい決まりがあるので、事前に確認しておきましょう。

参考:No.1124 医療費控除の対象となる出産費用の具体例|国税庁

まとめ:制度を利用して出産費用を抑えよう

正常分娩の場合は医療保険が適用されず、費用は自己負担になります。一方で、異常分娩の場合は医療保険が適用されるうえ、高額療養費制度の対象となります。

妊婦健診の助成制度・出産育児一時金・出産手当金などの制度を利用すれば経済的な負担を軽減できるため、自身が条件を満たしているか確認しましょう。出産後も、育児休業給付金・乳幼児医療費助成制度・児童手当制度などを利用できます。

出産費用が足りない場合は、出産費貸付制度や入院助産制度の利用を検討しましょう。また、確定申告で医療費控除を受けることで節約もできます。出産費用の負担を減らすためにも、設けられている制度について調べ、できる限り活用していきましょう。

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構成・文/HugKum編集部

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