初観音とは?
「初観音(はつかんのん)」の日には、観音様を本尊とする寺院に、多くの参拝者が訪れます。初観音とは、どのような日なのでしょうか。
一年で最初の観音様の縁日
初観音とは、一年で最初の観音様の縁日(えんにち)です。縁日とは、神仏と縁(ゆかり)を持つ日を指します。「有縁の日(うえんのひ)」や「結縁の日(けちえんのひ)」とも呼ばれ、縁日に特定の神仏に参拝すると、普段よりも多くの御利益がいただけるといわれています。
観音様の縁日は毎月18日で、初観音は1月18日です。一年で最初の縁日とあって、主に観音様を本尊とする寺院では、さまざまな特別行事が執り行われます。
観音様の縁日が18日である理由
「観音様の縁日はなぜ18日なの?」と疑問に思う人もいるでしょう。縁日は「三十日秘仏」と呼ばれる暦を基本にしています。1カ月(30日周期)の全ての日に異なる神仏を割り当てたもので、その日に参拝すると格別の御利益を得られるといわれています。
観音様の縁日が18日になった理由は明らかではありません。しかし東京都台東区の浅草寺には、観音様の示現(じげん)に関わる伝説が残っています。
寺伝によると、宮戸川(現在の隅田川)のほとりに住む檜前浜成・竹成(ひのくまのはまなり・たけなり)兄弟が漁をしている際、聖観世音菩薩(しょうかんぜおんぼさつ)の尊像を投網の中に発見します。628(推古天皇36)年3月18日の早朝であったことから、観音様の縁日を18日にしたとする説があるようです。
出典:浅草寺を知る – 浅草寺
初観音では一年のご加護を願う
1月18日の初観音は、一年の中でも多くの功徳(くどく)を授かれる日といっても過言ではありません。信徒は観音様を祭る寺院を参拝し、一年のご加護を願います。
多くの寺院では、最上の功徳日にちなんで、初観音祈願会・大般若経転読・護摩祈祷・本尊の御開帳といった特別な行事を行います。大般若経転読(だいはんにゃきょうてんどく)は、大般若経600巻を複数の僧侶で読み上げる法要です。
護摩祈祷(ごまきとう)は、本尊の前で僧侶が供物を焚き上げ、祈りをささげる儀式です。護摩木を燃やした炭火の上を参拝者が素足で歩く「護摩供火渡りの行」を行う寺院もあります。
観音様の特徴と御利益
観音様の名前はよく耳にしても、どのような仏なのかを知らない人も多いのではないでしょうか? 仏の世界での階層や御利益などを解説します。
「菩薩」に分類される
観音様には、観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)や観自在菩薩(かんじざいぼさつ)、救世菩薩(くせぼさつ・ぐせぼさつ)などの別名があります。
仏の世界は、如来を頂点に以下の階層に分かれています。
●如来(にょらい)
●菩薩(ぼさつ)
●明王(みょうおう)
●天部(てんぶ)
観音様は「菩薩」の一種で、如来になるための修行をしながら、人々を救済する役割を担っているのが特徴です。如来になるのを取り止め、菩薩に留まって一切の衆生を救うことから、「大悲闡提(だいひせんだい)の菩薩」とも呼ばれています。
相手に応じて千変万化の相となる
仏像として見かける観音様は、姿も表情もさまざまです。救済する相手に応じ、自由自在に相を変えるのが特徴で、法華経では33の姿に変身するといわれています。
「聖観音(しょうかんのん)」は、観音様の基本的な姿で、左手にハスの花のつぼみを持ち、頭上に阿弥陀如来の小さな像を乗せているのが一般的です。「十一面観音(じゅういちめんかんのん)」は、10種類の現世での利益と4種類の来世での果報をもたらすありがたい観音様で、本体の顔以外に10または11の顔を持っています。
その他、千の手と千の目で人々を救済する「千手観音(せんじゅかんのん)」や、怒りの形相で表現される「馬頭観音(ばとうかんのん)」、願いをかなえる如意宝珠(にょいほうじゅ)を持つ「如意輪観音(にょいりんかんのん)」などがあります。
初観音でにぎわう寺院を紹介
観音様を祭る全国の寺院では、初観音にちなんだ法要や行事が行われます。この機会に観音様とご縁を結び、一年のご加護を祈願しましょう。初観音でにぎわう寺院をピックアップして紹介します。
東京都「浅草寺」
東京都台東区にある「浅草寺」は、628(推古天皇36)年に示現されたと伝わる「聖観世音菩薩(しょうかんぜおんぼさつ)」です。絶対秘仏の観音様とされ、住職でさえもその姿をめったに見られません。
1月12~18日には、昼夜不断で温座秘法陀羅尼会(おんざひほうだらにえ)が執り行われます。「観音秘密供養法」という秘密の修法を168回繰り返す行事で、江戸中期より行われてきました。幔幕で覆われた本堂内陣の一室が使われるため、外部からは様子をうかがえません。
初観音の18日は、温座秘法陀羅尼会の結願法要「亡者送り」が行われ、除災招福の祈願が達成されます。
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神奈川県「長谷寺」
神奈川県鎌倉市にある「長谷寺(はせでら)」は、「長谷観音」の愛称で親しまれる寺院です。
正式名称は「海光山慈照院長谷寺(かいこうざんじしょういんはせでら)」で、開創は奈良時代の736(天平8)年と伝わっています。年間を通して色とりどりの花が咲き乱れることから、「鎌倉の西方極楽浄土」とも呼ばれています。
本尊の十一面観世音菩薩は、現世利益をもたらす慈悲深い観音様で、昔から「身代わりの菩薩様」として信仰を集めてきました。高さは9.18mで、木彫仏としては日本最大級です。1月18日の初観音には、観音堂で法要が執り行われます。
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京都府「清水寺」
京都府京都市にある「清水寺(きよみずでら)」は、今から1,250年以上前の奈良時代に開創されました。音羽山(おとわやま)の中腹に位置する広い境内には、世界文化遺産に登録される30以上の堂塔伽藍(どうとうがらん)が立ち並びます。
本尊は、42の手と11の表情を持つ「十一面千手観世音菩薩」です。秘仏のため、厨子の扉は閉ざされていますが、本尊を模した前立仏で像容を確認できます。
調査によると、本尊の像高は約173cm、光背から台座までの高さは約260cmです。一般的な千手観音像と異なり、釈迦如来像形の化仏(けぶつ・仏が別の姿で現れること)を両手でささげ持つポーズをしています。縁日は毎月17日と18日で、初観音には多くの参拝者が訪れます。
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初観音は多くの功徳が得られる日
初観音は、新年で最初の観音様の縁日で、普段よりも多くの功徳が得られる日です。観音様には、一切の人々を苦しみから救済する慈悲深い心があり、宗派の違いを超えて多くの人に愛されています。救う相手に応じて姿を変えるのも大きな特徴で、像容は寺院ごとに千差万別です。
初観音には、祈願会や特別法要・護摩祈祷などが行われます。御開帳を行う寺院も多いため、イベントのスケジュールを確認して、家族で足を運んでみてもよいでしょう。
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構成・文/HugKum編集部